狙われたアドリア公国編 4 〜反撃の狼煙 〜
激しい戦闘を繰り返すゴクトーたちーー(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾!頑張れ!
「グルゥゥゥゥゥ」
大地をも揺らす低い唸り声が響き、
灰炎の中から姿を現す巨躯へと俺は向き直った。
もう何度、この巨腕に吹き飛ばされたことだろうーー。
倒れる仲間たちを庇うかの如く、
そこには、サイクロプスにひとりで立ち向かうコガラの姿があった。
彼女は小さな体から信じられないほどの勇気を振り絞り、
鋭い威嚇の咆哮を上げる。
火炎がその口から迸り、サイクロプスの隻眼を焼くように照らす。
「……コガラッ!」
俺の胸に熱いものが込み上げた。
仲間たちはまだ戦える。
いや、絶対に倒れることはないーーそう信じた。
「まだまだ!」
立ち上がるジュリが傷ついた足を引きずりながら叫ぶ。
その顔は痛みよりも意地で歪んでいた。
一方、ジュリを支え、アリーが魔導銃を握り直す。
「ボロボロにゃけど……退かにゃい!」
その獣耳がピクリと立ち、闘志を全身で示していた。
仲間たちの勇姿に俺の心も奮い立つ中、
アカリが額の血を拭い、笑いながらも睨みを効かせる。
「……ダー様、逃げるなんて選択肢、ないですわよね?」
その言葉が砂塵とともに消えると、
ミリネアが額の傷も気にせず、優雅な微笑みを浮かべる。
「ふふ、ご主様の勝利を見届けるのが眷属の役目ですから」
そう言って新しい眼鏡をかけながら、【アッティラの鞭】を握りしめた。
その姿にアリーがポツリ。
「ミリネアしゃん、【ムラット】の紫が見えってるにゃ……」
痛みを押し殺したような表情を見せるが、その目は笑っていた。
その時、クロニクの巨大な影が空を裂き、
ミーアの弓が炎のような緊張感を纏って軋む。
皆の想いが、俺の背に伝わるような気がした。
「……そうだよな。まだ終わっちゃいない」
俺も【桜刀】を握りしめ、サイクロプスを睨みつける。
「反撃開始だ……!」
俺の声が戦場に響く。
全員がその言葉に呼応するように気を引き締めた。
「コガラ、よくやってくれた。一度戻ってこい」
「あるじーー!」
涙ぐむコガラがすぐに反応する。
鋭い爪に僅かな力を込め、空を切るようにして俺の肩に留まった。
その小さな体は震え、一粒の金色に輝く涙を零していた。
「ごめんな、よく頑張ったな」
俺はその虹色の翼をそっと撫でながら息をつく。
「【エリア・エクストラ・ヒール】!」
「【エクストラ・ヒール】!!」
肩で息をしていたジュリとアカリが、
息を合わせるように【治癒魔法】を発動する。
薄緑の柔らかな光が戦場に広がり、全員を包み込んだ。
その温かさはただ傷を癒すだけではない。
仲間たちの心まで穏やかにするような癒しだった。
しかしーー。
「……まだ、曲がったままか」
あらぬ方向に曲がったジュリの足、腫れ上がり湾曲するノビの右腕、
それらは治らなかった。
俺は魔力を振り絞って、
今できる精一杯の【再生治癒魔法】を唱えた。
「【癒瑠々・座羅・裏滅駆】!」
その瞬間ーー。
サイクロプスの隻眼を焼くような金色の眩い光が仲間たちを包み込む。
曲がったジュリの足、腫れ上がり湾曲するノビの右腕が、
元に戻ったのを確認した直後ーーガリッ!
膝に力が入らなくなり、砂混じりの地面を抉るようにその場で片膝をつく。
テンガロンハットが滑り落ち、銀の髪があらわになる。
皆の視線が集中する中、俺は息を整えながら仲間たちに頷く。
「うぅ……」
ノビに担がれていたパメラが目を開け、意識を取り戻す。
「はッ?!……降ろせ!!」
顔を朱に染めるパメラを、ノビは無言のまま優しく地面に降ろした。
その表情には、普段の軽さはなく。
「ゴクちゃん、みんなも無事で良かったわん」
そう言ってパメラが震えながらも笑みを浮かべ、
『アイテムボックス』から魔力回復薬を5本取り出すと、
安堵の表情を浮かべる俺たちを無視して、一気にそれを飲み干した。
「ヒック……ヒッ」
飲み終えた彼女が虚な瞳を揺らし、
噦りしながら真っ赤な顔で膝を落とした。
次の瞬間、 「【イーチォ・フォルマ・マジック……ヒック……ヒーリー】!!」
静まり返った戦場に、
虚なパメラの意地と噦のあいまった詠唱が空気を振るわせながら響く。
大きく広がった真紅の魔法陣から、
温かい光とともに【範囲魔力回復魔法】が発動され、仲間たちを包む。
その光は戦場の空気すら浄化するかのようだった。
そんな中、ノビが珍しく覚悟を決めたような眼差しでパメラに微笑む。
「……ヒック……き、貴様……気持ちが悪いぞ!」
立ち上がり蹌踉めきつつ、頬を朱に染めるパメラが叱責する。
だが、ノビは意志を曲げるつもりは無さそうだ。
「先生……オラの身体に【メガント】をかけでください」
「貴様、そんなことしたら……貴様の身体に相当な負担がかかるんだぞ!」
「お願いじまづ」
「どうなっても知らんぞ!この馬鹿ガエルが……【メガント】!」
パメラが叫ぶ。
「【ギガント・ボディー】!!」
ノビの声もほぼ同時に響いた。
次の瞬間、ノビの身体が倍以上に膨れ上がり、装備すらそのまま膨張する。
戦場の空気がピリつき、誰かの「おおぉ……」という声が漏れたが、
ノビは一切気にせず巨躯を睨みつけた。
ズシン…ドン…グシャ!
だが、サイクロプスの破壊はとどまることを知らず、
大斧を振り上げ、下ろし、横なぎに払うを繰り返す。
村の屋根は吹き飛び、崩れながら瓦礫と成す。
悲鳴を上げる住人の声がそこかしこで響いていた。
一方でコルセットが破れーー
金色のインナーをあらわにするイブが前に出て、冷静に巨軀を見据える。
「妾も油断しておった。あんな化け物には負けぬぞぇ!」
振り返る彼女が二本のダガー【陽刀・灯火】を握りしめ、短く誓った。
イブに頷きつつ、闘志を燃やすかのような瞳のメルルが瞼を閉じ、
詠唱を紡ぎ始めた。
戦場の空気が一瞬で張り詰める。
「深淵に眠りし古の契約よーー
我が血の誓いを糧としーー闇の帳を裂き現世へと顕現せよ!」
その声は徐々に力を帯び、空気に響き渡る。
メルルの足元には黒紫の輝く魔法陣が広がり、魔力が大地を震わせた。
「黄昏の鐘の代わりに杖が響くこの刻ーー命亡き者よ、我が名の下に従え!
黒炎を纏いし叡智の君、無限の虚無より来たれ!
【ハップル・ポルタ・ダークマジシャン】!」
杖が地面にトンと音を立てる。
その瞬間、魔法陣の中心から黒紫の光が迸り、
骸姿の魔導士が青白い炎を揺らめかせながらゆっくりと浮かび上がった。
「お呼びですか、我が主メルルよ……」
「あのデカブツの動きを止めたいの。手伝って!」
メルルの声に「承知」と低く返す声が空気を震わせる。
一方、蹌踉めきながらもココがこちらに歩み寄り、
力強く【身体強化魔法】を唱えた。
「【エンチャント・フィジカルボディー】!」
まるで合図したかのようにーーミリネアとイブも紡ぐ。
「「【エンチャント・フィジカルボディー】!!」」
3人とも装備はズタズタだが、彼女たちの筋肉が引き締まったように感じた。
俺も【桜刀】を構えながら神代魔法ーー
「【滅咫・満・邏・存】!!」
ーー【身体強化魔法】を発動し、
緑の光が仲間たちを包み込む中、俺も力が漲るのを感じた。
「……これは……我が身に、抱擁を感じさせる何かが……
まるで閣下のお身体に、優しく抱かれているかのような感覚がございます」
そう言って血塗れのココが大剣を逆手に握り、振り返った。
その姿に俺の妄想眼”死線”が色を見間違うほど動揺する。
その刹那、ミリネアがポツリと零す。
「ココ殿、お似合いです……『Caravan・Climb』のオレンジ……」
その声は戦場の轟音に掻き消された。
太陽を覆い尽くしていた黒い鱗の影がゆっくりと遠ざかるーー
クロニクの飛翔する姿を背に、俺は一歩前に踏み出した。
日差しが肌を焼くように降り注ぎ、
荒れた戦場の空気に微かな草の香りが混じる。
背後には仲間たちの【覇気】ーー。
瞼を閉じ、俺は大きく息をつく。
胸の奥に灯る覚悟が燃え上がる。
それぞれが己の使命を胸に抱き、気迫を漲らせているのがわかる。
アカリの鋭い視線、ジュリの緊張を押し殺した笑み、
ノビの静かな決意、パメラの氷のような冷静さーー
全員が同じ魂、いや、抗う炎を共有していた。
振り返ると、彼らの目には躊躇いなど微塵もなかった。
そこにあるのは只ひとつーー反撃の意思だ。
「行くぞ!」
俺はここぞとばかりに声を張り上げた。
仲間たちも無言で頷き、足音も静かに歩みを進める。
その一歩一歩には確かな覚悟が宿っていた。
向かう視線の先、俺たちなど意に介さず、不敵な唸り声が戦場に響く。
「グルゥゥゥ……」
サイクロプスが口元を歪め、
足元の大地がその巨躯に応じるかの如く震えていた。
周囲の瓦礫が跳ねるほどの重い一歩をサイクロプスが踏み出す。
赤黒い隻眼の瞳に宿る破壊の意志が、俺たちを睨みつける。
だが、恐怖など感じなかった。
仲間たちを傷つけた此奴に、同じ痛みをーー。
むしろ、怒りが胸を満たす。
俺は静かに【桜刀】を握り直しながら口を開く。
「……やってやるぜ!」
仲間たちの士気を背に受けたまま、
俺はサイクロプスの懐に飛び込んだ。
「巫代流抜刀術【銀山崩し】!」
【桜刀・兼松桜金剛】の刃が黒曜に煌めきながら、
その巨躯の脇腹を穿つ。
だが、吹き出す緑の鮮血は僅かばかりで、一筋の緑線を描いただけ。
咄嗟にもう一刀ーー【桜刀・黄金桜一文字】を逆手に構え、
「【雨燦々】!」と叫びながら連撃の突きを放つ。
だが、致命傷になるどころか、
針で岩を突くほどの小さな傷しか与えられなかった。
「くっそ、硬すぎる」
身を翻し、後ずさる俺は、こぼさずにはいられなかった。
「あのデカイ奴の動きを止めて!」
メルルの命令が空気を裂くと同時に、
浮遊する骸姿の魔導士は無言で頷く。
青白い炎を宿す骸姿の魔導士の眼窩が激しく燃え上がった。
周囲の空気がピリピリと震える。
「اسكتأحرق بالبّار!」
その低く響く古代語の詠唱とともに、
天を貫くほどの紫の柱が爆発的に吹き上がり、
ゴォォォォォォッ༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅!
大地を震わせながらサイクロプスを包み込んだ。
「ギャゥ……」
サイクロプスの唸り声が途切れた。
燃え盛る炎の中、
赤黒く輝く隻眼がゆっくりと揺れ、その巨躯が微動だにしなくなる。
頭を僅かに傾げる仕草は、きっと動きを封じられた違和感だろう。
奴の状態異常が見て取れたその瞬間、
呼吸の音さえも聴こえない異様な静寂が訪れた。
その時、紅蓮の炎を纏った翼を広げ、
黒龍クロニクが猛然とサイクロプスへ一直線に突撃した。
その直後ーー大地がその衝撃で震える。
「今だ!!」
声を張る俺に、呼応するかのようにクロニクが間髪を入れず、咆哮を上げた。
「ゴギャラァ!!」
天を割るような咆哮とともにクロニクの鋭い爪が空を切り裂いた。
ーーズシャッ!
その鋭利な黒い爪がサイクロプスの肩から背へと深々と喰い込み、
一筋の朱い線を描く。
鮮血が緑の奔流となり、禍々しい異臭が周囲を満たした。
一方、クロニクの背に跨る血塗れのミーアが弓を引き絞る。
そのエメラルド色の瞳は冷たく、そして鋭く、
確実に目標を射抜く『狩人』の眼差しだった。
「うちの狙いは外れない。隻眼を必ず狙い撃つ!」
彼女の周囲には魔力が集まり、古代魔法【ロカベル】が発動された。
「【イサナ・°ニシ】!」
二本の矢が疾風の如く放たれ、
矢は音を置き去りにする勢いで空間さえも切り裂いた。
ドスッドスッ!
放たれた矢が、サイクロプスの隻眼に深々と2本突き刺さる。
その瞬間、巨躯が大きくのけぞり、震えだした。
視界を完全に奪われたサイクロプスが、もがくように腕を振り上げたが、
その動きは鈍かった。
その隻眼から緑の血が流れ出し、大地に黒い染みを残していく。
俺は再び、前に踏み出し、桜刀を二振り掲げた。
「ヨシ! ここからは俺たちの時間だ!」
その声は天上界にも届き、下界を見つめるトランザニヤがふと漏らす。
「ゴクトー、図鑑だ。『妄想図鑑』を使うんだ!」
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