狙われたアドリア公国編 2 〜闇と焔の交響曲 〜
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ーーやがて黒い闇が俺たちを包んだ。
その蠢く黒い影は無数の蝙蝠のような魔物となり、
羽音が風を切る。さらに地を這う異形の魔物達が狂ったように吠え、
それを謳歌するようにーー
有象無象の大型魔物たちが犇き合う。
その数は目では追えないほど夥しい。
俺の緊張と嫌悪が一気に、フルスロットルーー
胃のあたりが妙に冷たくなる感覚が襲ってくる。
そんな中、視線は自然とクロニクとコガラの方へ向いた。
クロニクが吐き出す紅蓮の業火が、暗黒の空間を鮮やかに焼き裂く。
一方小さな身体ながら、妖精龍姿のままのコガラの圧倒的な気迫が、
大気そのものと同化し広がっていくーー。
バシュッ!
空中に跳び上がるコガラの羽から七色の光が放たれた。
見た目はただの美しい煌めきに過ぎない。
しかし、その光が魔物に触れる度ーー
「ヌグオォォッ!」
「ギャオーー!」
最前列のミノタウロス数体がまるで紙のように消し飛び、
石畳に叩きつけられた。
次の瞬間、斬撃のような突風に煽られ、
背後にいた複数体もその余波に切り刻まれた。
その姿は無惨ーー形容するのも悍ましい肉片と化し、
ドス黒い鮮血を迸らせていた。
クロニクの業火が空気を焼き焦がし、肌に熱を感じた。
焦げていく魔物のすえ難い異臭が鼻腔を刺す。
耳鳴りのような魔物の悲鳴が風に溶けていく。
「っ……!」
視界の先にガリ師団長の姿があった。
ガリ師団長が片膝をついたまま、肩で荒く息をしていた。
額から流れる血が顎を伝い、石畳に花が咲いたような鮮血が滴る。
それでも彼女は顔を上げ、口元を真横に結んだ。
その瞳には決意の炎と言うべきだろうか。揺れながらも芯が宿っていた。
彼女がゆっくりと立ち上がり、
僅かに揺れる膝のまま、逆手で持ったレイピアを横一閃に振り抜く。
「【メイジャス・シビル・ストリーーング】!!」
ボォォッ༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅
轟音とともに紫の業火が辺り一面に広がった。
熱波が肌を焼き、焦げ臭い空気が鼻を突き刺す。
魔物たちの阿鼻叫喚が風に溶け、響き渡る。
一方俺は【桜刀・黄金桜一文字】、
【桜刀・兼松桜金剛】の二振りを俊速で振り抜く。
魔物から迸る鮮血が返り血となり、
その柄が滑りそうになるのを必死に堪えながら、
心の奥で自分に言い聞かせる。
……絶対に勝つーー! 仲間とともに……。
そう思いながらも激戦が繰り広げられる視界の先を見てしまう。
姉マルル師団長と妹メルル師団長が、双子ならではの完璧な連携で、
蠢く闇に立ち向かっていた。
メルル師団長が瞼を軽く閉じ、精神を研ぎ澄ませて詠唱を始める。
その隣では、マルル師団長が襲いかかる魔物たちに冷徹な視線を向け、
連弩に矢を補填、ゆっくりと構えた。
「【マキシマム・ファイア・コントニオス】!」
怒号のような声とともに紫の炎を纏った無数の矢が空を裂く。
"ボォ༄༅” "ボォ༄༅” "ボォ༄༅” "ボォ༄༅” "ボォ༄༅”
"ボォ༄༅” "ボォ༄༅” "ボォ༄༅” "ボォ༄༅” "ボォ༄༅”
"ボォ༄༅” "ボォ༄༅” "ボォ༄༅” "ボォ༄༅” "ボォ༄༅”
"ボォ༄༅” "ボォ༄༅” "ボォ༄༅” "ボォ༄༅” "ボォ༄༅”
"ボォ༄༅” "ボォ༄༅” "ボォ༄༅” "ボォ༄༅” "ボォ༄༅”
"ボォ༄༅” "ボォ༄༅” "ボォ༄༅” "ボォ༄༅” "ボォ༄༅”
炎の矢は追尾するように闇の中を飛び交い、
魔物たちの体を次々と貫いていく。
甲高い悲鳴とともに蠢く闇を切り裂き、群れに大きな穴が開いた。
しかし、それでも魔物たちは波のように押し寄せてくる。
「くっ……っ!」
一方でメルルがじっとりと汗を滲ませながら、震える唇で詠唱を紡ぐ。
「深淵に眠りし古の契約よーー我が血の誓いを糧とし、
闇の帳を裂きーー現世へと顕現せよ!」
彼女の声は徐々に力を帯び、言葉の一つ一つが響き渡る。
魔力が周囲の大気を震わせ、彼女の足元には黒紫に輝く魔法陣が広がった。
「黄昏の鐘の代わりに杖が響くこの刻、命亡き者よ、
我が名の下に従え!
黒炎を纏いし叡智の君、無限の虚無より来たれーー
【ハップル・ポルタ・ダークマジシャン】!」
杖を地面にトンと叩くと、空気が一瞬で張り詰める。
魔法陣の中心から黒紫の光が迸り、
そこからゆっくりと姿を現したのは、
黒いローブに包まれ、黒炎を纏った骸姿の魔導士だった。
その存在は、周囲の闇すらも引き込んでいく。
「お呼びですか、我が主メルルよ……」
低く響く声が空気を震わせる。
骸姿の魔導士がゆっくりと空中に浮かび上がり、
その眼窩からは青白い炎が揺らめいていた。
その姿は、見る者すべてに戦慄を齎す。
メルルが息を整え、双眸に冷たい光を宿す。
「時間を稼ぐわよ……全力を出して!こんな魔物たちには絶対負けない!」
地面に杖でコツンと一度叩く彼女の力強い声が、
闇に飲まれることなく響き渡った。
骸姿の魔導士が冷静に両手を掲げる。
その動作はまるで舞台上で音楽を奏でる指揮者のようだった。
「أخمدْ هذه الظلمة بهذه السيمفونية」
低く静かな古代語の詠唱が闇に溶け込む。
言葉が響いたその瞬間、
紫の光が周囲を淡く照らし、空間が歪むように震えた。
旋律でも奏でるかのようにーー魔力が波紋を描き、
蠢く闇をリズミカルに捉えていく。
その光に縛られた魔物たちは最初こそ動きを止めず、
何事もなかったかのように蠢き回っていた。
しかし、次の瞬間ーー異変が訪れる。
彼らの身体は空中で静止し、闇の中で音もなく裂け、
鮮血だけを空間に散らして消えていった。
断末魔の叫び声すら存在しない。
ただ冷たい風に乗って漂う嫌な臭気だけが残る。
その異様な光景を目の当たりにしたキキ師団長が、
口元に薄い笑みを浮かべていた。
槍を高く構え、鋭い眼差しで次の獲物を見据える。
「さあ……いくわよ!」
キキ師団長が地を蹴り、一瞬の【縮地】でもって敵陣に切り込む。
蠢く魔物たちが反応する間もなくーー彼女がブンッと槍を振り抜いた。
「【グリフォン・デル・トラスト】!」
詠唱とともに彼女の槍が黄金色の炎に包まれた。
その輝きはまるで太陽の煌きのように眩い。
「グルグェーーー!」
炎の中から現れた幻獣グリフォンが天翔けるように羽ばたき、
翼は光の残像を描きながらその爪と嘴から鋭い閃光を放つ。
グリフォンは魔物たちに突進し、鋭い爪で闇を引き裂く。
その嘴が喰らう度に魔物は一瞬で消滅し、
燃え尽きるように闇に吸い込まれていった。
キキ師団長の槍もまた、魔物たちを突き抜く度に、黄金色の輝きを強める。
「……はぁ、やっとまともに当たった!」
彼女が肩で息をしながらも、満足げに笑っていた。
「【イサナ・°ニシ】!」
ミーアの声が擦れながらも響く。
ロカベルの古代詠唱がなおも続く中、彼女の肩は大きく上下し、震えていた。
汗が顳顬を伝い、
彼女の表情からも魔力が底を尽きかけているのが一目でわかる。
クロニクはその様子を察し、彼女を庇うように前へ踏み出す。
大きな口を開け、灼熱の火炎を吐き出した。
その業火は迫り来る魔物たちを焼き払い、空気を歪ませる。
その時だーー。
風を切る音とともに現れたのは、青い衣を纏うShadowWindの面々。
彼らもまた疲労の色を隠せないーー
だが、圭介、篠介、羅音、九音の視線には、
未だ揺るぎない決意が宿っているかのようだった。
「いくぞ……!」
静かな合図とともに、彼らは流れるような動きで円陣を組んだ。
一瞬、戦場に張り詰めた緊張感が漂う。
「「「「巫代流忍法【神楽大焔炎】!!!!」」」」
全員の声が見事なまでに揃い空気、否、大気そのものが震えた。
次の瞬間ーー大地が震え、
空気が爆発したかのような熱風が魔物たちに襲いかかる。
紅蓮の炎が渦を巻き、巨大な火柱となって天へと突き抜けた。
ゴォォォォォォ༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄ッ!!
その猛り狂う炎は、魔物たちを次々と飲み込み、
中型の魔物さえも一瞬で炭に変えた。
石畳は焼き焦げ、看板が弾け飛ぶ音が響く。
巻き起こる熱風に砂塵が舞い、視界一面が真っ白に染まった。
魔物たちの断末魔は既に掻き消され、
残るのは焦げ臭さと、燃え尽きた大地の名残だけだった。
砂塵の中から、圭介たちShadowWindの影がゆっくりと立ち上がる。
微かに揺れる青い衣が戦場の静けさの中、風に靡いていた。
その光景を天上で眺めていた女神東雲がポツリと零す。
「あの子たちも、なかなかやるわね。でも、あの古の巨人には……」
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