揺れるズードリア大陸編 34 〜添い寝は寝ているコガラと〜
第4幕の幕引きですΣ('◉⌓◉’)
「ちょっとぅ……っ!……馬鹿なの!?」
ジュリが半分涙目になりながらも、呆れたように俺を睨みーー
すでに怒る気力すら失っていた。
「ゴクにぃ……ジュリねぇが泣いてりゅ」
アリーが垂れ耳をピンと立て、一度俺を見てからカクッと頭を傾げる。
そしてジュリの肩にそっと手を置き、慰めるように「ポンポン」と叩いた。
「……ありがと、アリー……」
ジュリが小さく息をつきながら、顔を隠すようにうなだれた。
その光景に和みそうになるが、
事態は収束するどころか――さらに混沌へと向かっていった。
妖艶な笑みを浮かべるパメラが、
『紅玉のダイナマイト』という異名に相応しい迫力で歩み寄ってくる。
彼女の胸ーー『爆弾』が”ブルン”と揺れたその瞬間、
ジャラジャラジャラ…と金属が擦れる音が響く中、
爆風が白金貨を巻き込み、それが渦のようになって俺の眼前に迫った。
「パメラ、揺らすなッ!皆、避けろーー!」
俺の言葉にパメラが「ハッ」と胸を押さえ、我に返った。
だが時既に遅し。
一方で身を躱した俺の視線の端では、ノビがまるで放心状態のように、
その渦にぐるぐると巻き込まれていた。
「したっけぇぇぇ!」
ガッシャーン!
案の定、居間の壁に新たな窪みができたのは、さておき。
第二の危機ーー嫌な気配が俺の背筋を凍らせた。
「坊……いや、ご主さん、アタシの部屋でもいいわよ。教えてあげる。ふふふ」
足音も立てず近づくミンシアが、再び白衣のボタンを二つ外す。
すると『赤いレースのコルセット』が露わになり、目のやり場に困る。
彼女が艶っぽい眼光を光らせ、まさに肉食獣へと変貌していた。
「……ま、待ってミンシア姉様!」
慌てたミーアとクロニクが二人がかりでミンシアを押さえ込む。
「ミンシア!やめなさい!」
ミリネアが眼鏡を掛け直し、落ち着いた声を響かせた。
「わ・か・り・ま・し・た」
ミンシアが悪戯っぽい笑みを浮かべ、澄まし顔に戻り後ずさる。
……完全に混乱してるな、これ。
おっと、それどころじゃなかった。
頭を横に振りつつ、顔面に熱気が籠ったまま、
俺は周囲を見渡すが、もはや誰も止まらない勢いだった。
そんな中、イブが突然俺の影から現れ、ギュッと抱きついてくる。
「殿! 金色のインナーを身につけたのは、妾が先じゃ!」
その瞬間、喉を開くガリ師団長の高い声が響いた。
「姫様!き、金のパンティを、そこまで露わになさっては、いけません!」
「妾が殿を独占するのじゃ! ほれ、これでどうじゃ、決して譲らぬ!」
一方でイブの真剣な表情が逆に、
恥じらいを隠せていないようで愛らしく感じてしまう。
彼女の胸元の褐色肌が微かに朱みを帯び、
豪奢な刺繍入りの金色ブラトップが、俺の目の前に飛び込んでくる。
「……イブ、お前まで何を……とにかくスカートを履けッ!」
俺の言葉などまるでお構いなし。
破天荒すぎるイブの行動に師団長たちが絶句しながら、頭を抱える。
おいおい……みんな、なんか勘違いしてないか?
なんだこの空気……言い訳の一つでも考えないと。
思考の海に沈める俺を他所に、場には妙な重たい空気が流れていた。
次々と迫る視線の圧力に耐えながら、冷や汗を拭う。
喉の奥がカラカラに渇いていくのがわかる。
やっとのことでイブが俺から離れた矢先、
「閣下……我も添い寝を……」
そう言って、ココまで俺の傍にピタッと張り付く。
彼女の柔らかい胸の感触が「むにゅっ」と俺の腕に伝わり、
顔がカッと熱くなった俺は、思わず口を開く。
「えっと……一緒に添い寝するなんて……俺、一言も言ってないですけども?」
言いながらまずいと思ったが、さらに続ける。
「ほら『大和式テント』もあるし。最悪ヒッポグリフたちがいるーー
隣の空き地だって寝れるんだし……」
焦る余り、何故か言葉が滑り落ちるように口をつく。
「……女の人と一緒に寝るなんて、10歳ぐらいの頃に……寝付けなくて、
孤児院のシスターに……添い寝してもらったことぐらいしか……」
えっ……? 何言ってんだ俺!?
一瞬、自分の声が遠くに感じた。
ちょっと待て、何故その情報を自分から……?
脳内で『江戸っ子鼓動』の警鐘が鳴り響く。
「バカか、俺は!?なんでそんな過去話を暴露してんだよ……!」
咄嗟に口を押さえるが、もう手遅れだった。
俺の言葉が場に静寂をもたらす中、痛い視線が、一斉に俺に集中する。
ヤバイ……言わなきゃよかった……。
そうは思いながらも視線を横に這わせる。
ミリネアからパメラ、アカリ、ジュリ、さらにアリーまでが、
首を傾げ「ポカン」とした表情で俺を見ていた。
ーー誰も動かない。
血が一気に頭の先まで昇り、視界の端が熱気でぼやける。
焦れば焦るほど言葉は喉の奥で詰まり、
「……あ! こ、これは……そ、その……な、なんと、い、いうか……」と。
最後は完全に吃って、思わず沈黙してしまった。
ーー次の瞬間、「クスクス」と笑い声が漏れた。
「【魅了覇気】が零れているのですね……本当に罪なお方です……ご主様は」
ミリネアが優雅に小袋を俺に寄越しながら微笑む。
その声をきっかけに、他の女性たちも一斉に笑い出した。
「く、くふふ……あ、あははは……仕方ないわよね」
へそピアスが揺れる腹を押さえるパメラが笑い崩れ、
一方でアカリは、困惑しながらも口元を抑えて肩を震わせている。
「にゃはは、ゴクにぃ、おもろいにゃ!」
アリーも垂れ耳を揺らしながら楽しそうに笑った。
なんでこうなるんだよ……
ただ静かに寝たいだけだったのに……。
笑い声の輪の中で、俺はただ肩を落とし、心の中で泣くしかなかった。
そんな俺の膝の上に、すやすや眠っているコガラをそっと抱かせるミリネア。
そのコガラを優しく撫でる彼女の笑顔に少し救われた気がした。
場が和み、騒つきもようやく収まった頃ーー
俺は深く息を吸い込んで、気を取り直し、ゆっくりと吐き出した。
少し気が楽になり、改めてShadowWind の面々と向き合う。
「圭介、お前たちにもこれから動いてもらう。これを受け取ってくれ」
そう言って白金貨が1000枚入った布袋を圭介に手渡した。
彼は一瞬驚いたように目を見開いたが、
すぐに表情を引き締め、両手でしっかりと受け取った。
「……八咫鴉様、忝のうござる。感謝いたしまする」
その姿には、彼の真面目さと覚悟が滲み出ていた。
仲間の代表として深々と頭を下げるリーダー圭介に、
俺も自然と口元を緩め頷いた。
「それから篠介、羅音、クオン(九音)、紫苑……
心付けだ。ほんの気持ちだけど受け取ってくれ」
俺はミリネアから預かった小袋をそれぞれに渡す。
中には白金貨がずっしりと入っていた。
「ありがたく頂戴いたしまする」
「オ、オノにまで……感謝いたします、八咫鴉殿」
彼らの声には驚きと感謝が入り混じっていた。
だが紫苑だけは袋を手にしたまま、
妖艶な微笑を浮かべながら俺に近づいてくる。
「……ふふ、八咫鴉様、これは夜伽のお断り料ですかぇ?」
低く甘い声が耳元に届き、息が一瞬止まった。
……なんてこと……を。
口にはしないが思わず耳にまで熱が籠った。
「そ、そんなんじゃない!」
声が裏返りそうになるのを必死で抑える。
「ふふっ、冗談でございましょうに……」
紫苑が笑いながら軽やかに後ろへ引いたが、
揺れる茶髪の隙間から俺を見つめるその目には、
どこか挑発的な光が宿っていた。
紫苑の奴、本気? 冗談だったのか?
いや、考えない方がいいな……。
一連のやり取りが終わり、俺は軽く息をつき、一同に声をかける。
「今日はみんな、ここまでだな」
「お疲れ様でした」と言葉を交わしながら、
それぞれがあてがわれた部屋へ向かう中、
ミーアとミンシアも見送りに出てきた。
「ミーア姫、また後でな。ゆっくり休むんだぞ」
クロニクが頬を軽く掻きながら照れたように言う。
「クロニク皇子もゆっくり休んで……」
ミーアがはにかむような笑顔を見せ、出口の柱にそっと身体を寄せた。
その横顔には、どこか名残惜しさが漂っている。
この二人、なんだかんだお似合いだよな……。
胸の内に収める俺を他所に、その光景を師団長たちが、
羨ましそうに見つめていたが、足を止める暇もなかった。
「部屋に帰るぞぇ」
「「「「「ハッ」」」」」
イブの凛とした声が彼女らを現実に引き戻す。
そんな中、ミンシアが揶揄うように口元を窄める。
「ご主さん、おやすみchu♡」
言いながら投げキッスした。
「魔性のエルフ発動するなっ!……またそれかよ……!」
口には出し、無視しようと努めるが、頭に血が昇るのを感じる。
誤魔化すように、俺は寝ているコガラを何度も撫でた。
一方でミリネアはそんな俺を静かに見守っていたが、
すぐに視線を圭介たちへと向けた。
「ShadowWindの皆様、どうかゆっくりとお過ごしくださいませ」
その声は上品で柔らかい。
俺は部屋の扉に手をかけ、仲間たちの背中を見つめる。
「……さあ、これから先、どうなるんだか」
思いながらも、コガラとともに、重い身体をベッドに沈めたーー。
そんな静けさを取り戻しつつあるーー
『ロカベルの魔法薬材と薬店』とは対照的に、
遠く離れた天上の雲海では、いまだにピリついた空気が漂っていた。
「……それで、ビボウ・ミレナダというその貴族の令嬢は、今はどちらに?」
「いやだからシノ、昔のただの思い出じゃって! 誤解じゃ!」
神シロが必死に弁解する傍らで、
女神東雲は「ふんっ」と鼻を鳴らし、腕を組んでそっぽを向く。
だが、その耳たぶがほんのり赤いのは、
トランザニヤの目から見ても隠しきれていなかった。
そんな中、女神東雲の耳がわずかに動き、彼女が下界からのーー
いや、深淵から感じる邪悪な気配に気づき、唇を動かす。
「伝説の最終兵器。古の巨人が目覚めそうですわ」
「おい、シノや……冗談じゃろ?」
神シロが珍しく青ざめた顔で、目の前で腕を組む女神東雲を見上げる。
先ほどまでの痴話喧嘩の熱はどこへやらーー
東雲の瞳には深い憂いが宿っていた。
「わたくしが、こんな冗談を言いますか?
……下界の様子を調べていたところ、
不穏なざわめきを察知したのです。
ダンジョン神オグリの核が……何者かによって破壊されようとしていますわ」
その言葉に、それまで腕を組んで静観していたトランザニヤが、
初めて険しい表情で顔を上げた。
「……オグリの核が、だと?」
「ええ。このままでは、ズードリア大陸の深部に繋がるーー
ダンジョンの均衡が完全に崩れ去るでしょう。
緑龍の群れごときとは比べ物にならない、本当の厄災が目を覚ましますわよ」
東雲の緊迫した報告に、神シロが深くため息を吐きながら立ち上がる。
「やれやれ……下界の連中がようやく一息ついたというのに、
休まる暇もないわい。おい、黒銀のぅ。
のんびり感傷に浸っとる場合じゃなさそうじゃぞ」
神シロの言葉に、トランザニヤは黒銀の瞳を鋭く光らせ、
下界の遥か彼方へと視線を走らせた。
「……裏で糸を引いていた連中の正体、
そして真の狙いがそこにあるというわけか。 こうしちゃおれん。
ゴクトーに、新たな嵐が来ることを伝えねばならんようだ」
トランザニヤの緊迫した足音が、天上の雲を揺らす。
平穏を取り戻したかに見えたズードリアの歴史は、
今、さらなる深い闇のうねりへと飲み込まれようとしていたーー。
揺れるズードリア大陸編 完
読んでくださり、ありがとうございます。
次話から第5幕が始まります。
引き続き楽しんでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )
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