揺れるズードリア大陸編 32 〜裏切りの闇と白き情、赤の輝き〜
イラスト多めですが、お楽しみいただけると嬉しいですΣ('◉⌓◉’)
天界では、神シロと女神東雲が、上神である神代の大神に呼び出され、
天空城に登城を余儀なくされていた頃。
留守を任されたトランザニヤは、
今にも下界に飛び降りてしまいそうな勢いで、
灰色の空の下、南東の孤島ーー魔族の動きを注視していた。
魔王が治めるガーランド島では、一人の側近がほくそ笑む。
水晶の光が完全に消え去り、暗い廊下の影に溶け込むキライマカ。
遠くの広間からは、魔王の威光に酔いしれる狂騒の声と、
同胞を喰らい合う下級魔族たちの下卑た笑い声が、途切れなく響いてくる。
「……愚かものめらが」
キライマカが冷ややかな嘲笑を浮かべ、
闇夜に紛れるように城の奥へと歩みを進める。
彼が向かう先は、祝宴の喧騒から遠く離れた、
城の最奥に位置する密室――そこに祀られているのは、
魔王軍の総力を挙げて秘匿されてきた禁忌の祭壇であった。
魔王が宿敵を討ち果たし、
勝利の美酒に酔いしれているこの瞬間こそが最大の好機。
彼は自らの手駒であるーー
ヒバラガガ率いる精鋭部隊を「ダンジョン」の最深部へと侵入させ、
ゴクトーたちがいるアドリア公国から、
すべてを奪い去るための最終計画を着々と進行させていた。
「ドルサード、せいぜいトランザニヤの一族を根絶やしにしたと、
歓喜しているがいい。
――四天王筆頭の座は、このキライマカ様が奪ってやるわ」
祭壇の中央に浮かぶ邪悪な紋様に触れた瞬間、
キライマカの右手から放たれた漆黒の魔力が、
地脈を伝うようにうねり始める。
それは、最下層ーーオグリ神の核がある、
46階層を目指すヒバラガガたちへと呼応するかのように、
不気味な脈動を刻み始めた――。
ーーその頃ゴクトーは、『ロカベルの魔法薬材と薬店』で、
今まで手にした報奨金や報酬を皆に分ける算段をとっていた。
◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇
窓が白く曇り、二つの月がうっすらとその光を部屋に灯す中、
屋台で買い揃えた食事に舌鼓を打ち、
満足した様子の仲間たちを居間に集めた俺は、
『アイテムボックス』から大きな布袋を取り出し、ラグに置いた。
その瞬間、「ズシャ、ドン!」と床が音を立てた。
布袋の中身、白金貨を1枚取り出すミリネアが、丁寧に眼鏡をかけ直す。
「これはズードリア大陸共通の『ドリア白金貨』ですわ」
艶やかな唇から紡がれたその声と、指先まで洗練された動きに、
ShadowWind の面々が固唾を飲み見守る。
……そんな名前だったのか、知らずに使ってたな。
ミリネアの紫、見えてるけども……
あ、そうだった……弁償したミーアのインナーも……。
ふと、じっと見つめているミリネアの視線に気づく。
俺の思考を見透かしているかのように、ミリネアが軽く眉を動かした。
「ご主様、ミーアのインナーは、後ほどです……」
漏れたミリネアの刺さるような声に、空気が微妙な緊張感を帯びる。
彼女のエメラルドの瞳が細まり、口元は笑っていない。
先程までの彼女の上品かつ知的な一面が崩壊する。
焦る俺を他所に、ミリネアがすぐに「ハッ」と失念していたように、
口元をキュッと真一文字に結び、
表情を引き締め、再び上品で知的な面持ちを保ちながら言葉を紡ぎ始める。
「失礼いたしました。ご主様……これは提案でございますが、
皆様に白金貨を、お一人1000枚ずつ分配するのはいかがでしょうか?
それでも相当な額になります。
これから仲間も増えるでしょうし、いざという時の備えに……
残りはご主様がお持ちになるべきかと……」
寝ているコガラの頭を撫でながら、俺は動揺しつつも、
その言葉を思案していた。
確かに、それは合理的な提案だ。
だが、答えを出す暇もなく割り込むような凛とした声が響いた。
「それが良さそうね」
つぶやくアカリが、隙を突くように続けた。
「みんなの分け前も大事ですが、
残りはダー様がしっかり持つべきだと思いますけど。どう、みんな?」
見つめられ、甘さと鋭さが同居するその声に、皆が無言で頷く中、
『妄想図鑑』から突然飛び出した『江戸っ子鼓動』が猛烈なダッシュを決め、
俺の目の前に立った。
「旦那、顕現させているヴォルフスペードや紺トラスト准尉にも、
銭は必要ですぜ!……奴らが飯も食えず、衣服さえままならないとあっちゃ、
あっしの『図鑑監修』の二つ名に、泥を塗ることになりやす。
ですから、銭は受け取っておくべきだと思いやすがっ!」
そう言って、眉を釣り上げながら『妄想図鑑』の中にスッと消えた。
その光景に見慣れた仲間たちがクスッとした笑いを漏らす中、
俺は一つ息をつき、口を開く。
「……それでいいのか?」
「いいわよ。もの凄い大金だってわかっているもの。 ヘンダー何よ、
急に大金持ちになったからって、真っ赤になって動揺しちゃって……」
ジュリのその言葉と射抜くような視線に、思わず顔を伏せそうになる。
目を逸らそうとしたその時、ノビが遠慮がちに手を振った。
「ゴクどーさん、オラはそんなに貰えないんさ……」
そう言って頬を掻きながら、肩をすくめ、蹲踞する。
カエル色の装備がやけに目立つその姿は、
相変わらずで、その動作は至極滑稽。
ポロンが「もらっておきなさいよ』と口を開いたのにも笑える。
きっとノビの癖なのだろう。見ているこっちが恥ずかしい。
そんな中、ミーアが立ち上がり淡々と零す。
「うちもそれで十分」
澄んだ声とともに、彼女の緑色の短髪がさらりと揺れた。
キッチンでお茶を入れ出すその一挙手一投足は、控えめだが無駄がない。
彼女のエメラルド色の瞳には、
どこか金銭に執着のない彼女なりの価値観が垣間見えた。
ふと、アリーが伸びをしながら無邪気に言い放つ。
「たくさんあっても、使いきれにゃい」
ラグに寝転ぶアリーのふわふわとした銀色の垂れ耳が"ピン”と立ち、
モフモフの銀尾が小刻みに揺れていた。
まるで子狼のような仕草に、俺も思わず口元が緩む。
おいおい……みんな、
冒険者なんだから、少し欲があってもいいんじゃないのか?
うちのメンバーは、本当に欲がないんだけども……。
思いつつも、意見を聞き終えた俺は口を動かす。
「そうか……じゃあ、サブリーダーたちには、余分に持ってもらおう」
そう言いながら決心を固め、俺は布袋を抱え、
ラグの上に勢いよく流し出すーー
ジャラジャラジャラと滑らかな音を立てて白金貨が煌めく。
その金白色の輝きに、ミンシアをはじめ、
師団長たちやShadowWindの面々の瞳が、一斉に輝きを帯びた。
そんな中、座ったままじっとしているのが苦痛だと言わんばかりに、
一同が前のめりになるのがわかった。
「ほう……これはまた、なんと壮観な光景でございましょうか……」
『くの一』のシオンが感嘆の声を漏らす。
その言葉にShadowWindのメンバーたちも口々に歓喜の声を上げ、
白金貨の山に目を奪われていた。
……そんな喜ばんでも……HAHAHA……。
場の盛り上がりに心中、コリン語を使いながら、苦笑しつつも、
彼らの満足そうな表情に妙な誇らしさを覚えた。
そんな中、沈黙を続けていたイブが、
頼もしげな口調でニヤリと口元を弛ませながら提案する。
「殿、ガリが持っておる『スケールの魔導具』を借りたらどうじゃ?」
「ハッ! 只今」
即座に返事をする師団長ガリが、箱型の魔導具を取り出す。
軍務に長けた彼女の動作には、任務を遂行する強い意志が感じられた。
フックがついたその縦長の魔導具の箱には、
大きな穴が空いており、計測用メーターの針が『0』を示していた。
静まる中、周囲の視線がその『スケールの魔導具』に集まる。
誰かが生唾を「ゴクリ」と飲み込む音が響く。
その音はミーアの部屋に僅かだが緊張感をもたらした。
妙な空気が場に一瞬漂うーー
すると、ミンシアが思い出したように慌てて唇を動かした。
「アタシも店舗から、別のスケールの魔導具を持ってくるわね」
言いながら軽やかな足取りで、階段を「タンタンタン」と降りていく。
さて……
白金貨の分配だけでも、ひと仕事になりそうだな。
そんな思いを抱えつつ、俺は心を落ち着けた。
「坊……いや、ご主さーーん!ちょっと待ってて今、持っていくーー!」
ミンシアが一階の店舗で声を張り、
その彼女の明るい声に緊張していた場が和む。
妖艶かつ、魔性の美貌と聡明さを併せ持つ彼女だが、
気遣いができる明るい性格は、
その場の緊張を自然と解いてくれるかのように思えた。
一度胸に大きく息を吸い込み、グシャとなった頭の中身を整理する。
どうしようか?師団長たちや、ShadowWind面々にも配るか?
あ、ミンシアにもお裾分けする?
いや、討伐報酬と報奨金だからな……そういう訳にもいかないか……。
「ふぅーー」
思わずため息交じりの息をついたーー。
その刹那、
「殿……そこに白金貨を入れると、数えずとも重さで枚数がわかるのじゃ。
入れてみるといい」と俺の表情を読み取りイブが指で差し示したのは、
まるで瓢箪のような型の『スケールの魔導具』だった。
その自信たっぷりで余裕な態度に、俺は思わず笑みを溢した。
「イブ、すまん」
『スケールの魔導具』を手に取り、イブの頭を軽く撫でる。
「殿!もっと妾を愛でても、ええんじゃぞぇ……」
頬を朱く染めるイブが、甘えるような猫なで声を出す。
その瞬間、 アカリ、ジュリ、ココ、シオンの視線が俺に刺さった。
一方で横に座るミリネアまで、俺を見ながら呆れたように肩をすくめる。
そんな状況の俺を他所に、「ゴクちゃん、あたいも撫でて〜ん♪」と、
『爆弾』を軽く腕で押さえ、
笑いをこらえるパメラの、その茶目っ気たっぷりな、
オチもつかないひと言に、全員がふっと沸いたようにーー
「ゲラゲラ」と笑い出す。
すると遠くから急ぎ足の「タンタンタン」という足音が響き、
部屋のドアが勢いよく開いた。
「間に合ったわ!」
肩で息をするミンシアが、額に汗を滲ませ、
もう一つの『スケールの魔導具』を抱えながら部屋に戻った。
その妖艶な姿は、疲れているはずなのに、凛々しさすら感じさせる。
ミンシアに、一同の視線が集まる中、彼女が白衣の前をわざと開き、
『赤のコルセット』を見せ、艶やかに唇を光らせながら動かす。
「これも使って。少しでも早く終わらせましょう」
ウィンクする献身的な彼女のどこか違う気遣いに、俺も思わず奮い立つ。
「姉様……それ余計」とミーアの小さな声が一同に笑いをもたらす。
そして、場の空気が穏やかに流れる中、
白金貨を数える作業が始まったーー。
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