揺れるズードリア大陸編 31 〜始祖の国、陥落の報せと洞窟の隠れ家〜
小国トランザニヤが陥落した日ーー。
もう一つの物語がそこにはありました。
その宿命と言うべき運命の流れをゴクトーたちは、未だ知らないΣ('◉⌓◉’)
天界の人柱トランザニヤが、怒りに打ち震えていた頃。
彼が礎となった小国トランザニヤが
おぞましい紫色の魔力に染まったーーその日。
神シロと女神東雲は別のことに気を取られたいた。
■(神シロが語り部をつとめます)■
かつて誰も足を踏み入れることを許さなかった堅固な孤島ーー
始祖の国『トランザニヤ』。その中心に位置する王都メルリは、
突如として現れた魔族の大軍勢によって、
圧倒的な暴力をもって蹂躙されていた。
首都メルリの空を覆いつくした暗雲が、血の色に染まる。
王城の広場、瓦礫の山と化した石畳の上に、そいつはとぐろを巻いていた。
漆黒の鱗は魔力を弾き、九つの醜悪な頭がそれぞれに異なる方向を睨み据え、
おぞましい粘液を垂れ流しているーー最上位龍種のヒドラ。
古の伝承すら塗り替える、理不尽の化身だった。
「ふんっ、化け物めが! おでらの邪魔立てをするなら、
その首ごと叩き割ってくれるっ!」
怒号を上げたのは、【軍神】の異名を持つ巨人、ゴルド・ノートンだ。
彼の巨躯はゆうに10mに達するが、
その手には、自身の身長と全く同じーー
超重量級の大槍『神槍ゼウス・バハムート』が握りしめられていた。
極厚の超硬金属で鍛えられたその槍身は、
微かに青白い闘気を纏い、大地を揺るがすほどの重圧を放っている。
「ゴルド、油断するなよ! あいつの毒は厄介じゃ、一息で仕留めるぞ!」
その隣では、
小柄なエルダードワーフのボルト・サンダースが大地を踏みしめた。
彼の両手には、神代の技術で作られたーー
ミスリル製の巨大なハンマー『神槌ハデス・ベヒーモス』が握られている。
ハンマーの表面には幾重もの魔法陣が走り、
バチバチと暴虐な稲妻がスパークしていた。
「おおおらぁぁぁーーっ!!!」
ゴルドが咆哮とともに跳躍した。
神槍ゼウス・バハムートが空間を引き裂き、
隕石の如き勢いでヒドラの一つの頭めがけて突き立てられる。
ーー同時に、ボルトが地面を蹴り上げ、
『神槌ハデス・ベヒーモス』を振り下ろす。
「ハデスよ、天より落ちる雷よ、この神槌に力を与えよーー
【ベヒーモスの雷】!」
詠唱の声が低く響くーー。
その刹那、轟音とともに、
天から奔流のような青雷が神槌ハデス・ベヒーモスに直撃し、雷を纏う。
そこから放たれた雷魔法がヒドラの周囲の空間を眩い光と爆風で包み込む。
ゴルドは直撃の手応えがあった。
雷撃が鱗を焼き焦がし、巨大な槍が肉を抉る――はずだった。
「……なっ!?」
ゴルドの目が見開かれる。
凄まじい衝撃を受けたはずのヒドラは、びくともしていなかった。
それどころか、無数の頭のいくつかが不気味にうねり、
まるで虫けらを払うかのようにーー
予測不能の軌道で巨人の懐へと迫ってきたのだ。
「甘いわっ!」
ボルトが雷撃を纏った神槌ハデス・ベヒーモスを横薙ぎに振り抜き、
迫る首の軌道を変えようと割って入る。
神槌ハデス・ベヒーモスが頭部に激突し、
凄まじい電撃がヒドラの神経を焼き切るはずの閃光を放った。
しかし、ヒドラの脅威はその首の数だけにとどまらなかった。
九つの頭が、それぞれに異なる属性の狂宴を始める。
ある首は絶対零度の吹雪を吐き出し、ボルトの足元を凍てつかせる。
ある首は猛毒の霧を撒き散らし、ゴルドの巨槍の闘気を急速に蝕んでいく。
「ぐっ……身体が、重い……だと……?」
巨人ゴルドの動きが、わずかに鈍った。
最強の肉体を誇る彼であっても、
最上位龍種が放つ複合的な呪詛と猛毒の前には、
その巨躯の代謝ですら追いつかない。
ヒドラの無数の瞳が、冷酷な光をたたえて二人の冒険者を映し出す。
「ボルト、下がれッ!」
ゴルドが全霊の力を振り絞り、神槍ゼウス・バハムートを横一文字に払い、
仲間を庇おうとしたーーその瞬間だった。
――ズオッ!!
空間を切り裂く音すら置き去りに、
ヒドラの主頭が目にも留まらぬ速度で突進してきた。
回避する間隙すらない。
ーーゴルドが構えた神槍ゼウス・バハムートの穂先を、
ヒドラの強靭な顎がガシリと噛み砕いた。
金属が紙くずのように粉砕され、
その圧倒的な質量と噛み砕く力が、そのままゴルドの巨腕へと伝わった。
「ガハッ……!」
巨人の腕の骨が砕ける音が、周囲の爆音の中に響き渡る。
だが、攻撃はそれだけで終わらない。
別の首から放たれた黒色の溶解液が、
ボルトの防御魔法をあざ笑うかのようにーー
神槌ハデス・ベヒーモスの柄を溶かし、彼の鎧ごと胸元を深くえぐり取った。
「おのれ……ワシが、ここで……」
ボルトの口から鮮血が溢れ出す。
雷神と謳われたエルダードワーフの身体から、
みるみるうちに光が失われていく。
神槍ゼウス・バハムートをカラン…と手放したゴルドもまた、
バランスを崩してその巨大な膝をガクリと地面についた。
大地が割れ、血の海と化した王城の広場。
二人の歴戦の猛者が織りなした渾身の連携は、九つの頭を持つ絶望の前に、
あまりにも無惨に打ち砕かれてしまった。
ヒドラが勝利の咆哮をあげる。その轟音の中ーー
巨人ゴルド・ノートンとエルダードワーフのボルト・サンダースは、
力尽きるようにして崩れ落ちていった――。
その様子を天界から眺めていた女神東雲は、
瞳から滴る一雫とともに、切なる願いを込めた言葉を漏らす。
「創造神様……かつて我が末妹西風が愛したハイエルフの長。
『八支族』を束ねるロアの娘ーーシンディーを、どうかお守りくださいませ」
その言葉に微妙な表情を浮かべる神シロだったが、
彼も眉根を寄せながら雲海に膝をつき、下界をじっと見据えていた。
◆(ここから女神東雲が語り部をつとめます)◆
メルリの城壁は紙細工のように砕け散り、石畳は血と業火に濡れていた。
王国を防衛するため最前線へと赴いたはずの巨神ーー
【軍神】ゴルド・ノートンと、【雷神】ボルト・サンダースの二代巨頭。
彼らの轟音と稲妻が響き渡ったのもつかの間、
地鳴りのような咆哮とともに現れた最上位龍種ーー
ヒドラの圧倒的なブレスと毒牙の前に、
二人の巨頭はついに力尽き、崩れ落ちた。
「……嘘だろ、バカな……七星の武器の攻撃をいとも容易く……
冗談だと言ってくれよ……!」
首都メルリの陥落を目の当たりにし、命からがら戦線を離脱した男がいた。
大剣を背負った男爵にしてA級冒険者、カリオス・グレン。
普段のチャラけた軽口は影を潜め、その顔面は恐怖と焦燥で青ざめている。
彼は震える足を引きずりながら、
討伐隊が待機する安全圏の森へと転がり込んできた。
首都の崩壊、そして最強と謳われたーー
【七つの大罪】と呼ばれる冒険者の戦死。
その絶望的な現実を、カリオスは震える声で、
討伐隊長のシンディー・ロアに告げたのだった。
「っ……あぁ、ロア隊長……
隊長と肩を並べる【七つの大罪】のお二人が戦死されました……」
カリオスの言葉に冒険者たちがざわめきだす。
「 あのWrathの【巨人の軍神】ゴルド・ノートンが?」
「 Prideの【雷神】と謳われたボルト・サンダースも?」
「こりゃぁ……いくら隊長がGluttonyーー
【獣使いの神童】と呼ばれていても、勝ち目なんかないだろ?」
囁かれる言葉が幾重にもなり反響する。
深い森の奥、かつて『始祖』が秘匿した古い隠し洞窟。
その湿った闇の中に、微かな魔法陣の光が揺れていた。
そこには古代より伝わる古い転移魔法の門が残されていたが、
今はただ、血と土にまみれたトランザニヤの異形な敗残兵たちとーー
集められた冒険者たちの息遣いだけが満ちている。
魔族の追撃をかろうじて振り切り、
この洞窟へとたどり着いた【七つの大罪】の一人ーー
ハイエルフのシンディー・ロア。
しかし、その高貴な美貌を彩る翡翠色の髪は煤け、
白磁の肌には痛々しい傷痕が刻まれていた。
「カリオス……まだ、敗北は決まっておらん。
貴様の大剣を借りるぞ……!」
朦朧とするシンディーがカリオスの大剣を握りしめる。
だが、足元もおぼつかず、自身の大弓さえ折れていたのである。
「……隊長、ここは態勢を立て直すよりも、メデルザードに帰還しましょう」
そう零しつつ、シンディーを支えるように寄り添うカリオスの肩もまた、
深手による血で赤く染まっていた。
限界を迎えて崩れ落ちそうになるシンディーたちの前に、
這うようにして近づく影があった。
それは、全身くまなく太い糸で縫い合わされた、
まるでフランケンシュタインのような異形の男ーー
トランザニヤ家の執事だった。
「そ、そなたは執事のイワン……!」
息も絶え絶え、もう身体の半分が崩れかけている死ぬ寸前の男を見据えて、
シンディーがつぶやく。
だが、彼のその両腕だけは、まるで鉄の枷のように固く、
何かを抱きしめるようにして守り抜かれていた。
「ハァ……ハァ……ご無事で……ございましたな……。
王都は……もはや……持ちません……」
執事イワンがゴフリと黒い血を吐き出しながら、胸元を大きく震わせた。
そして、腕の中に抱かれていた小さな命を、震える両手でそっと差し出す。
そこにいたのは、まだあどけない、わずか2歳の青髪の男の子だった。
外界の地獄など知らぬその子は、
不安そうに大きな瞳をパチパチとさせている。
「……このエドモント坊ちゃんを……
トランザニヤの……血脈を……どうか……!」
「――っ!?」
シンディー・ロアが息を呑んだ。
彼女の脳裏に、ふと一つの記憶がよみがえる。
彼女自身、ただのハイエルフ『八支族』のロアの末裔であるだけではない。
その血の奥底には、かつて太古の大戦を揺るがした『女神東雲』の末妹ーー
あの気高くも数奇な運命を辿った西風が愛した男、ロアの血脈が流れている。
そしてそれは、異国の地で魔族退治に奔走する『風代華』と自分とが、
決して断ち切ることのできないーー
「腹違いの姉妹」であるという真実を意味していた。
血の宿命が、今、この崩壊の淵でシンディーの背中を押す。
「……預かりましょう。この命に代えても、私が守り抜くわ」
シンディーは震えを止め、
気高い決意を込めてその青髪の幼児をそっと抱き締めた。
直後、執事の腕がカクンと力なく地に落ち、
古い転移魔法の門が青白い光を帯びて唸りを上げた。
背後に迫る魔族の足音。
しかし、【七つの大罪】の生き残りーー
そして血族の絆を背負った者の強い意志が、
この暗い洞窟の底から、静かに燃え上がろうとしていたーー。
読んでくださり、ありがとうございます。
引き続き楽しんでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )
このエピソードをより一層楽しんでいただくにはーー
ep133【閑話】『七つの大罪編』1 〜呼ばれる最強の冒険者たち〜
https://ncode.syosetu.com/n7297ko/133
こちらの3エピソードも読んでもらえたら嬉しいです☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆




