揺れるズードリア大陸編 30 〜ジンロックを後にして〜
動き出す闇ーーそれすらも知らずに、
のんびりしているゴクトーたちーーΣ('◉⌓◉’)
「ダー様……この新装備、フロントホックタイプにしていただきましたの。
【トビデルゾ・メガ・ドナイヤ】は、気に入っていただけました?
なんならここで、今、このホックを外しても……」
そう言ってブラトップに手をかけるアカリが、オッドアイでゴクトーと、
コガラを交互に射抜くように見つめる。
その瞳の奥では、先ほどコガラに向けられた銀鱗の鎧のような光が、
あからさまな冷気を帯びて閃いていた。
その言葉にゴクリと唾を飲み込むゴクトーだったが、
一方でその視線に耐えかねるコガラが、俯きながらフードを被り、
漆黒のローブを羽織ったーーその時、背後で微笑むココリドが早口で告げた。
「コガラ様、よく似合ってますわ、その黒のショートパンツ。
それにこのローブには銀鱗やツノ、さらに尻尾を見えないようにする、
魔法付与を施してありますわ。
『どこから見ても人種に見えるように』との、
ゴクトー様のご注文でしたので、クロニク様同様に仕立てました。
本当に素晴らしい仕上がりになったと、自負しております。てへぺろ」
と、ココリドがちろっと舌を出しながら目を輝かせる。
一方で アカリがコガラではなく、ココリドに詰め寄る。
「このコルセットには、何が付与されているのかしら?」
彼女が指差すのは、コガラのブラトップの、
ちょうど谷間の部分に隠されていた、小さな白い文字だ。
「え? あ、それは『愛の奔流』の魔力を練り上げるための、
補助的な術式ですわ。この黒いコルセットには、
古代魔法のスペルを縫い付け、
装着者の色気を胸部全体に効率的に循環させるための……」
「――つまり、その部分の露出を強調するための魔術的口実ってことですね?」
「え? い、いえ、そのような下心は――!」
アカリの追及に、ココリドが真っ青になって狼狽える。
その様子を見て、ミリネアが小さくため息をついた。
「……まあ、ココリド殿の技術に、悪意はないとは思いますが……
しかし、アカリ殿が言いたいのもわかります。
いくら機能美とはいえ、あまりにも……露骨すぎる」
ミリネアが自分の胸元を抑えながら、少し複雑な表情でコガラの姿を見る。
その視線は、コガラとゴクトー、
そして嫉妬に燃えるアカリの間を揺れ動いていた。
「コガラ、あなた、
自分がどれほどの魔力を振りまいているか、自覚しているのですか?
街中を歩けば、野良猫どころか野良ドラゴンまでーー
あなたに群がってしまいかねないのよ!
そんな状態で、ダー様の前に……
いえ、この店の外に出ることすら許しません!」
そう言いながらアカリがあられもない姿のまま、
コガラの手を引き、隅にある大きな姿見の前まで連れて行く。
ゴクトーに、少しでもスタイルを良く見せようとするアカリが、
爪先立ちしながらーー鏡に映るコガラを見てつぶやく。
「ほら、見なさいコガラ! あなたの魔力と美貌が、
店内の魔導具や裁縫道具にまで……影響を与えているではありませんか!」
鏡の中のコガラは確かに、肌も白く、先ほど以上に輝きを放ち、
その姿に店中のランプがいつもより明るく輝き、
棚の上の糸車や針がカチカチと音を立てて動き出す。
「ええっ!? 私の魔力が、こんなところにも……!」
自分の意図せぬ影響に、コガラが目を丸くして驚いた。
彼女自身も、このコルセットがもたらす魔力の増幅と、
それによる周囲への魅了効果の強大さを、改めて思い知ったようだった。
「あらやだ、本当ですわ! こんな現象、この店で初めて見ました!」
ココリドも驚きを隠せない様子だ。
しかし、彼女の目はどこか嬉しそうに輝いていた。
「コガラ様、これはもう伝説級の『魔力増幅』ですわ!
私の予想を遥かに超えています!
このままではコガラ様、歩く災害どころか、
歩く魅力の泉になってしまいますわ!」
その言葉に、アカリの表情がさらに険しくなる。
「――つまり、この衣装は、危険すぎるということです。
ダー様、私は反対です。
こんな危険なものをコガラに着させるなんて、間違っていますわ!」
アカリがオッドアイを強く見開いて、ゴクトーに決断を迫る。
その目には、純粋な嫉妬と、
主であるゴクトーを守ろうとする強い意志が混在していた。
彼女にとってコガラは、新たな魅惑的な脅威であり、
同時に守るべき仲間、いや、『家族』でもあるのだ。
その複雑な感情の爆発を、心を読み取れるゴクトーには痛いほど感じ取れた。
ゴクトーが視線をアカリ、コガラ、そしてミリネア、ココリドへと巡らせた。
店内の緊張感は最高潮に達している。この状況をどう収めるか。
7セットも買い揃えた手前、引き下がるわけにはいかない。
しかし、アカリの言うことも一理ある。
ゴクトーが深く息を吸い込み、静かに口を開いた――。
「そう言えば……ミーアのクローゼットの中身、弁償しなきゃだ。
ココリドさん、当然、ミーアのサイズは、わかってると思うから、
サイズに合った魔力付与された【ドナイヤシリーズ】を色違いで、
あるだけ、全部購入させて欲しいんだが……」
その言葉に場にいた全員がずっこけてしまったのは、さておき。
こうしてコガラとアカリのインナー騒動は幕を引き、
結局、アカリとミリネアにも、ご機嫌取りでーー
【ドナイヤシリーズ】を数点買わされる羽目になったゴクトーだった。
その光景を天上界から眺めていたトランザニヤが、
「ゴクトーの奴、何をやっているんだか」と零す。
その言葉に神シロが、
「的外れな思考は、お主にそっくりじゃな黒銀の!」と頭を抱えた。
一方で、女神東雲は大きなスクリーンパネルを眺めながら、
何やら魔導端末にカシャカシャ打ち込む。
「……えーと……IDは、『東雲ちゃんは、800歳を超えても未だ現役』で、
パスワードは……『MISEPAN−800』っと! ふふ。ログインできたわ」
そう言ってたった今、アカリが購入した、
赤橙の【トビデルゾ・メガ・ドナイヤ】ならぬーー
【トビダス・メガ・ドナイヤ】の紫の上下セットを、
ポチッと買い物かごに入れていたーー。
天上の女神が、ネットショッピングに興じながら、
にこやかにほくそ笑んでいる姿など、想像もできないゴクトーは、
ジンロックの店を後にした。
◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇
「ココリドさん……ありがとう」
俺が頭を下げると、それを見たアカリとコガラ、
ミリネアも続けて感謝の意を込め、恭しく頭を下げた。
「私もちゃっかり買ってもらっちゃった。ダー様ありがとうございます」
アカリが柔らかい微笑みを浮かべる中、
風が彼女の桃色の髪を優しく揺らす。
一方で、周囲の視線がアカリとミリネアに集まる中、
俺の背後に隠れるように歩いていたコガラが、一歩踏み出し、
少し緊張した面持ちで言葉を口にする。
「あるじ、ありがとう」
笑顔を見せるコガラに思わず口元を緩める俺は、
ビヨンド村のメイン通りを歩いていた。
横に寄り添うミリネアがふと口元を歪め、頬を朱く染めた。
石畳から反射する夕陽の橙が、彼女の緑の髪を絹糸のように煌めかせる。
「ご主様のお好みが、金色とわかって嬉しいですわ」
そう漏らすミリネアが上機嫌で、ニコニコと笑顔を振り撒きながら歩く。
屋台の獣人やら商人たちの視線を集めるミリネアは、さておき。
そんな中、亜人たち労働者が屋台の香ばしい匂いに釣られ、
賑わう露天に俺が足を止めた刹那ーー
コガラが、路地の影に潜む影の気配に気づいた。
「モフねぇ!」
コガラのその声に、アリーが路地から顔を出し、
鼻をクンクンと動かしながら銀色の垂れ耳をピクリとさせ、口を開く。
「緑龍のお肉が遅いから心配した……ゴクにぃたちを迎えに来たんにゃ」
「すまんアリー、気を遣わせたな」
そう言って俺はアリーの頭を撫でた。
一方で彼女が嬉しそうに目を細め、
首を横に振り、モフモフの銀尾を揺らした。
その仕草がなんとも愛らしい。
まるで忠犬のようなアリーにアカリやミリネアが微笑む。
人化したコガラとアリーが肩を並べて歩く姿は、
俺の心をほっとさせ、温かくした。
そんな中、ミリネアがアリーの横にぴたりと寄り添い、
首を傾げながら唇を動かす。
「アリー殿、腰の魔導銃が青く煌めいておりますが、
これは常時、光り輝くものなのですか?」
「ミリネアしゃん、僕のギフトは知ってりゅの?」
アリーが確かめるように甘えた声で、ミリネアの顔を見上げる。
「ええ、ミーアから聞きましたよ。
アリー殿は『猟師』でしたよね……
もう『羅刹狩人』に上がっているのでは?」
ミリネアが口元を緩め、柔らかい笑顔を見せながらアリーに答える。
「わかりゃにゃい……僕は婆ちゃんにこの魔導銃を貰ってからーー
『猟師』には、にゃれたんにゃけど……小さい頃は弓を使ってたんにゃよ」
アリーが軽く微笑み、どこか懐かしむように、手元の短い魔導銃を撫でる。
その指先には、幼き頃の記憶が刻まれているようだった。
「その魔導銃は、お婆様から譲り受けたものなのですね。
ワタクシも初めて見ましたし……
使っている方もアリー殿しか、見たことがありませんわ」
ミリネアが少し目を見開いたが、上品かつ優雅な笑顔で受け留めた。
「そうにゃんだね。ミリネアしゃん……僕は『狩人』になった時に、
ショート・コルト2丁とスナイパー・ウィンチェスターの1丁を、
オブニビヤ婆ちゃんに貰ったにゃ。
従姉妹のティグルはショート・ベレッタを2丁貰ってたにゃぁ……」
「ふむ……興味深いですね」
急に表情が変わったミリネアが、一度目を閉じ、
思考を巡らせるよう優雅に腕を組み頷く。
「婆ちゃんは魔導銃コレクターで、他にもたくさん持ってるにゃよ。
ルガー・ブラックフォークっていう……
とんでもにゃい魔導銃も持ってりゅよ」
「へぇ……もしかしたら、アリー。その魔導銃、七星の武器なんじゃないか?」
俺が口を挟むと、アリーが目を細め、耳をピクリと動かしながら首を傾げた。
「ゴクにぃ、それはわからにゃいけど……
婆ちゃんが『若い時かりゃ、百年以上かけて探したんにゃ』って、
言ってたにょは良く覚えてりゅんだけど……」
いつも元気な彼女には珍しく、少し困惑したような顔を見せた。
「そうか……ミリネア、アリーの魔導銃も調べてみる価値があるな」
アリーの垂れた耳を軽く撫でた俺は「ポン」とアリーの肩を軽く叩く。
「そうですね。ご主様……アリー殿、ワタクシ、ワクワクが止まりません」
ミリネアが目を輝かせながら、眼鏡をかけ直しスキップする。
「やばい大きさじゃ、おいの好みじゃ!」と、
すれ違うゾウの獣人がニヤけたのも道理。
ミリネアの『SBB級』の胸が上下に揺れーー
見るもの全ての視線を奪っていった。
そのチグハグなスキップは、知的な彼女らしからぬ天然さーー
いや、見せつける気満々の紫のレースがバッチリ垣間見えていた。
「おいッ!ミリネア、見ている奴がムラっとしたらどうするッ!」
俺の言葉に「ふふふ、ご主様、見せても良い装備ですからーー」と、
弾んだ声を漏らすミリネアに思わず息をついた。
そうこうしている内に、夕日を背にした俺たちは、
仲睦まじく、『ロカベルの魔法薬剤と薬店』へと帰路についた。
魔族の手がもうすぐそこまで近づいているとも知らずにーー。
読んでくださり、ありがとうございます。
ブックマークと高評価に感謝です╰(*´︶`*)╯♡
引き続き楽しんでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )




