揺れるズードリア大陸編 26 〜夢のマイホーム〜
短めですがΣ('◉⌓◉’)
「あ、あの、元帥閣下、ーー我を、いえ、わたくしを、
閣下の側室に加えては……いただけませんでしょうか?」
凛とした澄んだ声が響く中、
その爆弾発言が、周囲の空気を一変させたーー。
「「「魅了覇気ッ!!!?」」」
天上の神々の叫びが届いたのか届いていないのかーー。
広場にいた全員が、文字通り石像のように固まっていた。
◆(女神東雲が語り部を務めます)◆
「……は? いま、何て……?」
ゴクトーが思わず聞き返すと、
ミテミナ中将は顔をトマトのように真っ赤に染めながらも、
軍人らしくピシッと背筋を伸ばし、真剣な眼差しでゴクトーを見据える。
「ま、真面目な提案です! 魔族四天王の復活や龍族の動向……
これからの混沌とした時代を生き抜くには、
わたくしと元帥閣下の血統をより強固に結びつけることが、
国家防衛上、最も効率的かつ合理的かと……!」
「いや、国家の防衛って話に持っていくの急すぎないっ!?
政治的婚姻のレベル超えてるからそれッ!」
思わずツッコミを入れるゴクトーを他所に、周囲が一気にざわめき出す。
「な、なんですって中将殿……!?
よりによって元帥閣下にそんな公私混同な……!」
絶句していたアナ・ドレン少将が、
姉のアンリに支えられながらプルプルと震えて声を上げる。
そのアナの顔もなぜか真っ赤で、
どこか複雑かつ悔しそうな表情を浮かべていた。
「ふっ、堅物の軍人中将と思えば、言うではないか。
……だがな、閣下の隣の座は、そう簡単には譲らんぞ?」
ココが不敵な笑みを浮かべ、
黒髪を掻き上げながら一歩踏み出し、大剣を握りしめる。
さらに、ミリネアが手元の鞭をパチンと鳴らしながら、
冷ややかな視線をミテミナに向けた。
「ご主様、側室の選定にはですね……
事務手続きだけでなく、眷属たちによる厳しい審査が必要かと存じますが?」
その言葉に人化したコガラがヒシとゴクトーの腕を掴む。
一方でイブがどこか拗ねた様子で唇を動かす。
「殿!妾のことも忘れてもらっては、困る!」
「お、おいみんな落ち着いてくれッ! 俺は別にそういうつもりで……!」
汗を流しながら弁解するゴクトーを放置して、
現場はまさかの「元帥閣下の正妻・側室レース」の様相を呈し始める。
そんな修羅場の只中、遠巻きに見ていた『江戸っ子鼓動』が、
『妄想図鑑』のページをペラペラと捲りながらニヤニヤとつぶやいた。
「いやぁ、旦那。モテる男は辛いでやんすねぇ。
こりゃあ、次ページの妄想体を出動させる暇もなさそうでやんすよ?
ししし!」
「……頼むから、このカオスな状況をどうにかしてくれ神様――!」
ゴクトーの叫び声がハゴネの山の頂点を超えていくーー。
その光景を面白がって眺める女神東雲が振り返った。
「うふふ。こういう修羅場は、
まるで下界の映画を見ているようで……面白いですわね。
好物のポップコーンを食べる手が止まりませんわ!」
そう言って雲のソファに腰掛ける女神東雲。
だが大胆にもスカートは捲れ、【ムラット・シタラ・ドナイヤ】が、
ここぞとばかりーートランザニヤの黒銀の目に留まってしまった。
「東雲さん、お尻の所……小窓付きですが……
シロの好みなんですか?……それッ!」
顔を真っ赤にするトランザニヤの発言など、お構いなしにーー
微笑を浮かべながらポリポリとポップコーンを摘みあげる女神東雲。
言葉もなく、ただ頭をかかえる神シロは、さておき。
目を逸すトランザニヤが下界から響く轟音に耳を傾けた。
キヌギス砦から音速で飛び立ったーー
飛行鮫ヴォイングの中から漂う異様なまでの覇気とその魔力量に、
驚きを隠せないトランザニヤがつぶやく。
「おい、シロ……【魅了覇気】って、
ゴクトーの膨大な魔力が関係しているのか?」
一方で下界を眺める、神シロも顎髭を撫で付けながら口を開く。
「うむ……お主よりもさらに強大な魔力量じゃな……
じゃが、今の魔王の魔力量に比べたら、大人と子供ぐらい差があるのぅ」
その言葉は天上の荒れ始める雲間に流れ、消えていったーー。
ーーキヌギス砦から飛び立つほんの少し前、ゴクトーは、
天上の神々が呆れと冷や汗を流しているとも知らずに、
現実に引き戻されつつ、カオスな修羅場をどうにか脱出、
気を取り直して事務仕事へと移行していた。
キヌギス砦での騒動が一段落した後、ゴクトーはアナの姉であり、
依頼主である帰巣の女将さん――アンリの元へと足を運んだーー。
◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇
「お疲れ様です、元帥閣下。
こちらが依頼達成の証明書です。
……ふふ、色々とお騒がせな方ですが、無事で何よりです」
どこか呆れたようなーー
しかし温かい微笑みを浮かべるアンリが書類にサイン。
俺は書類を手渡され、耳に熱を籠らせつつ、サクサクとサインを済ませた。
騎士たちが俺たちを見送る中、
いまだにミテミナ・ビボウ中将が、名残惜しそうに唇を噛んでいた矢先。
「では、参ります! ーー皆様、歯を食いしばって!」
ミリネアが操縦桿を握る中、俺たちはキヌギス砦から飛び立ったーー。
その後、俺たちはすぐに拠点であるギルド支部へと直行し、
正式な報告を済ませた。
そこで待っていたのは、
今回の最大の山場――物凄い数にのぼる緑龍の解体作業だ。
俺はギルドの窓口を通し、解体室へ向かう。
界隈でその名を轟かせる腕利きの解体師、
オーガの親方――『バグマン親方』を呼び出す。
そして俺たちはギルド支部の別棟へと移動した。
ギルドの別棟に積み上げられた膨大な緑龍の山を前にして、
バグマン親方がゴツい腕を組み、豪快に笑い声を上げる。
「おうおう、八咫鴉。聞いてた話以上の大漁じゃねぇか……!」
その背後では、彼の弟子たちが、「こりゃ脂が乗ってやがる!」、
「解体しがいがあるぜ!」と、目を輝かせながら巨大なナイフを研いでいた。
さすがは凄腕の親方、
これだけの物量も頼もしい手並みで次々とさばいていく。
「八咫鴉よ、これだけの量だ。3日ほどくれ」
そう言ってバグマン親方がニヤリと笑った。
「楽しみにゃ!」
その言葉に飛び跳ねるアリー。
いつもと変わらない彼女のとびきりの笑顔に癒される中、
俺たちはギルド支部を後にした。
緑龍の素材が持つ莫大な価値、そしてギルドからの報酬。
それらをざっと換算した結果、俺たちの手元には、
目を疑うほどの膨大な金額の白金貨が転がり込むこととなった。
――そして、解体を待つ3日間。
俺たちはミリネアたちの家でもある『ロカベルの魔法薬材と薬店』に、
身を寄せ、つかの間の休息をとっていた。
「ご主様、お疲れ様です。はい、特製の疲労回復薬ですよ」
薬店の奥の静かなリビングで、
ミリネアが優しく微笑みながら薬草茶を差し出してくれる。
その穏やかな空間で、俺はテーブルの上に地図と羊皮紙を広げ、
ニヤニヤとペンを走らせていた。
「ししし……これだけの資金があれば……」
先日、領主から恩賞として授かったあの広大な領地。
そこに、旅を共にする仲間たち全員がゆったりと暮らせる、
広々としたリビングや個別の部屋と工房、
さらには温泉付きのーー『超豪華な大邸宅』を建てる計画を、
俺は鍛冶師のポロンとともに練っていた。
ポロンが設計図を広げながら、思い出したように口を開いた。
「わたちが書いてみた設計草案はこれ。
あの気球と帆船のトウクウマハンを、
気球船に変える設計図もたちておいたわ。
あの「ガガガ」君といっちょに工事をすれば、あっという間に完成よ!」
きっと『青銅のトライアングル』のことを言っているのだろう。
確かにーー彼は「ガガガ」と機械音の発声をさせる。
トライアングルの最新工事とその技術を思い出し、俺の妄想がさらに膨らむ。
「ここに大きな暖炉を置いて……庭にはみんなでくつろげるテラスもいいな」
ペンを走らせる俺の背後から、
いつの間にかパメラが覗き込んできた。
「ゴクちゃん、私専用の魔法実験室も広く取って欲しいわん」
そう言って艶っぽく笑い飛ばす中、一方でココがさりげなく唇を動かす。
「閣下、武芸の鍛錬場も絶対に必要でございます!」と腕を組んで頷いた。
仲間たちの賑やかな声を聞きながら、ふっと息を漏らし、
俺は、拳を握りしめた。
「……ヨシ、最高のマイホームをブッ建ててやるぜ!」
新たな拠点と未来への期待を胸に、
俺たちの物語は、次のステージへと大きく動き出そうとしていた。
だが、俺はこの時、その裏で対極とも言える魔王も動き出したことを、
いまだ知らなかったーー。
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