揺れるズードリア大陸編 24 〜『江戸っ子鼓動』の人材補強ーー美しき鬼の降臨〜
『江戸っ子鼓動』が、『妄想図鑑』を開くと、新たな物語が生まれるのですΣ('◉⌓◉’)
ーー翌日。
「聞いているぞ、緑龍は人化できると……」
アナの締め上げに捕らえられていた緑龍の一体――
人化させられた小柄な男が、薄暗い牢の中で尋問を受けていた。
「お前たち緑龍が、あれほどの数でハゴネに押し寄せた理由は?
誰かの指示か?」
鋭い視線を向けるアナに、男は諦めたようにため息をつく。
「……別に、隠すことでもねぇさ。もともとオレたちの住処は、
コリン聖教皇国の北の山だった。
だが――魔族四天王の一人、ゴーランの奴が、
あそこを滅茶苦茶に荒らしやがった」
「魔族四天王だと……ゴーラン?」
その名を聞いた瞬間、アナの表情がわずかに強張る。
「あの一帯を治めてたオレたちの一族は、住処を追われて散り散りさ。
行くあてもなく彷徨った末に、たどり着いたのがハゴネだったってわけだ。
――誰かの指示なんかじゃねぇ。ただ、逃げてきただけなんだよ」
男の言葉には、隠しきれない疲労と静かな怒りが滲んでいた。
その証言を静かに聞き終えたアナが、ゆっくりと踵を返す。
「……報告書をまとめる。ミテミナ中将殿、
これはただの獣害では済まされないわ」
「ええ……人々に語り継がれる太古の大戦を思い出したわ……。
今や人柱として祀られる英雄、
銀髪のトランザニヤが封印したと伝わる、
魔王ーー赤髪のガーランドと魔族四天王……。
その悪しき者たちが復活し、絡んでいるとなればーー
アナ少将、この世界に、再び混沌とした血の雨が降ることになる」
砦の通路にミテミナの不安が滲む低い声とともに、
二人の遠ざかる足音が響く中、土壁に影を落とす、
灯された松明の炎が冷たい風にゆらりと揺れる。
牢を後にする二人の背中を見送りながら、
男は独り言のように、小さくつぶやく。
「……せめて、あの山に隠した……
七星のお宝だけは、無事でいてくれよ……な」
その声は、誰の耳にも届くことなく、
薄暗い牢の中に静かに溶けていったーー。
その様子を天上から眺めていた神シロが雲間から顔を上げた。
「おお、黒銀の、お主の名が紡がれたぞ。
遥か昔、お主たち双子がおこした、
あの太古の大戦は、いまだに語り継がれておるようじゃな」
そう言いながらトランザニヤの肩をポンと叩く。
その言葉に、神シロの傍らで下界を覗き込む女神東雲も顔を上げ、
不満げに唇を動かす。
「おかしいですわね。太古の大戦でペガサスを駆り、
戦場を白銀の治癒光で満たしたーー
ククリア天上国の女王であった、わたくしの名前は、
何故、出てこないのでしょう?」
そう言って眉間に皺を寄せ、額には#を滲ませる。
一方で二柱の『夫婦漫才』を耳にしながらトランザニヤが苦笑する。
そして、下界を見下ろす彼がポツリと零す。
「ゴガラちゃんの艶っぽい人化にゴクトーの奴、
きっと目が飛び出るな……ししし」
その刹那、神シロと女神東雲が同時にツッコム。
「それゴクトーの笑い方じゃッ!」
「それゴクトー君の笑い方っ!」
三柱のクスッとした笑いが下界の雲の彼方に消えていったーー。
ーーその頃ゴクトーは、キヌギス砦での依頼を完了させ、
仲間たちとともに出立する準備を始めていた。
◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇
「旦那、おかえりになるんで?」
砦の広場で身支度を整える俺を他所に、
『妄想図鑑』からひょいと顔を出す『江戸っ子鼓動』が、
「ヴォイング、出番でやんすよ!」と、
図鑑から飛行鮫を引っ張り出し、顕現させる。
見送る騎士たちから「おおおおおお!」と歓声が上がる中、
ノビがタイミングを見計らうかの如く、パメラに向かって叫んだ。
「したっけ、先生ーー!大きくする魔法をお願いするんさ」
その言葉に、歩み寄るパメラがグレーの瞳を煌めかせながら紡ぐ。
「貴様に言われなくとも……【マキシマム・メガント】!」
杖を振る彼女の澄んだ声が響いたーーその瞬間、
パメラの『爆弾』の胸が激しく揺れ、
お約束の如く、ノビが「したっけぇぇぇぇ!」と吹き飛ぶ中、
爆風がアナ・ドレン少将のスカートを捲り上げさせる。
咄嗟にスカートを片手で押さえるが、後の祭り。
誰かのゴクリとした唾を飲む音だけが微かに響く。
アナ・ドレンのその姿に、広場は静まり返り、
ーー誰もが言葉を失っていた。
「ふっ……紺地に豪奢な金の刺繍とは……軍人と言えど、
さすが中身はおなご。まさにーー『侮れん』色香じゃな」
爆風がいまだ収まらず、『暗殺者』の慧眼を閃かせるイブの一言が、
目を丸くしていた周囲の騎士たちの頬を赤くさせたーー。
「ゴホン……ん……これはだな……貴族の女としての嗜みなのだ。
いつ、元帥閣下のお目に留まるか……わからんからな……」
咳払いをしつつ頬を赤くするアナ・ドレンが小声で漏らし、俺を見つめる。
思わず耳まで赤くなった俺は、すかさず視線を横にずらす。
だが、タイミング悪くアザックと傍に寄り添うアナの姉、
アンリの二人と目が合ってしまった。
こちらに歩み寄るーー
アザックがどこか恥ずかしそうに口元を緩める。
「あ、あの元帥閣下、実はご相談が……」
「ん? なにごとです? 辺境統括師団長殿」
「大変言いづらいのですが……少しの間、休暇をいただきたいのです」
頭を下げるアザックの言葉とともに、
「お願いします」と妻のアンリも懇願する。
「ああ、それは構わない……なら休暇の間は……
イモリー・ゲガト大尉に、この砦の責任者を任せよう」
俺のその言葉に、イモリーが一歩前に踏み出す。
「お言葉ですが元帥閣下、
まだ砦の修復も不完全ですし、倒れた騎士たちの治療もあり、
とても私一人では、手に負えません!」
そう漏らす彼女の緑の尻尾が石畳を激しく叩く。
きっと『休暇』というーー
職務から離れられる時間が羨ましいのだろう。
広場に流れる風が止まったのを皮切りに、
『江戸っ子鼓動』が、どこか愉快そうに口を開く。
「それならこの砦の人材を補強しやしょう!」
言いながら『妄想図鑑』のページを指を舐めつつ、ペラペラと捲り、
指が止まったページに向かって言葉を投げた。
「おい、ほら、恥ずかしがってないでーー
No.015:黒のバックスキンスウェード、出てきなせぇ!」
そう言って『江戸っ子鼓動』が、獣の仮面を被った妄想体を顕現させた。
その瞬間、目を丸くする騎士の一人が漏らす。
「すげースタイル! プロポーションが抜群だな」
その一言に周囲も俄かにざわつき始めた。
「あれって鹿革をジャケットにしてるのか?」
「恐ろしい顔だな……まさか……人狼か」
「いや、狼のような獣の仮面だ……素顔を隠しているのか?」
「あの大きな胸元、ゾクゾクするな。きっと素顔は美しい女性だぜ!」
ヒソヒソと囁かれる言葉を耳にすると、獰猛な獣の仮面を被るーー
顕現したばかりの彼女の琥珀の瞳が鋭い光を放つ。
場に僅かな緊張感が流れ始めたその矢先。
ざわつきを気にも留めない様子の『江戸っ子鼓動』が、飄々と紡ぎ出す。
「旦那、以前ミーアさんの……
『バックスキンスエードブラ』がチラ見えした際の妄想からーー
生まれたのがこの黒のバックスキンスウェードで、
彼女はオーガ種でやんす。肌艶は人種同様、
見た目はゴツいですが……どこか気品もありやす。
それからーー彼女は、旦那の眷属になることを、熱望しておりやすが?」
ジト目で俺を見る『江戸っ子鼓動』に、
「ここでミーアのブラの話かッ!」とツッコミつつも、
顕現した彼女の熱い視線、その琥珀の迫力に思わず息を呑む。
黒のバックスキンスウェードが俺の前に一歩踏み出す。
そして片膝をつき、見た目に似つかぬ美しい声を上げた。
「主様、この黒のバックスキンスウェードに、貴方様の血をひと雫、
賜りたく存じます。どうかその美しい白い指をこちらへ」
その言葉が紡がれた刹那ーー俺の手を取り、
指先をその尖った牙でカプリと噛んだ。
痛みはないーー指先がジンジンするだけだった。
「主様、おかげで力が漲っております。
どうか……新たな名を、この私にお与えください」
その言葉に俺の思考が誘われるかの如く、
ぐるぐると回り始めた。
だが、俺はここであることを思い出す。
……前世で見たアニメなら、オーガは鬼人になるのが定番。
サキュバスの名がズットハートだったから……
いっそトランプになぞって……。
思いながら浮かんだ名を口にする。
「『ヴォルフスペード』ってのは、どうかな?
あの……だめかな? 強そうだし、
その仮面からの……イメージですけども……」
次の瞬間、黒のバックスキンスウェードの身体が眩い光に包まれた。
ゆっくりと光が収束していくーー。
ジャケットが無惨にもはち切れて粉々になる中、
立ち上がる彼女の姿が顕になる。
彼女の肌は、青白く変化、筋肉も一回り引き締まった様な感じだ。
俺の目を見つめる彼女の琥珀の瞳が光を宿す。
その光景に周囲が息を飲み、静まる中、
黒のバックスキンスウェードが仮面を取り、長い青髪を靡かせる。
その瞬間、周囲からどよめきが起こった。
「めちゃくちゃ綺麗だが、あの額のツノはなんだぁ?」
「マッチョ女子は俺の好物だから、そんなの関係ねぇ!」
騒つく広場の喧騒を他所に、
黒のバックスキンスウェードが唇を緩め、白い牙を光らせる。
そして艶やかな唇を動かした。
「『ヴォルフスペード』ーーなんという甘美な響き。
素敵な名をくださり、感謝と感激で、この身も打ち震えんばかり……。
これから私は、ヴォルフスペードと名乗ります。
……ところで、私の素顔は、どうです?
ふふ。主様のお好みに合いましたでしょうか……? chu♡」
その投げキッスに周囲から、
羨望の眼差しが突き刺さったのは、言うまでもないーー。
読んでくださり、ありがとうございます。
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