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『妄想図鑑』がこの異世界を塗り替える! 〜英雄トランザニヤの末裔とその仲間たち〜 #イセトラ    作者: 楓 隆寿
第4幕 真章。  〜軋む異世界の歴史〜

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揺れるズードリア大陸編 23 〜盛り上がる砦と静かな別れ〜



 緑龍の群れと親玉ボンジを討ち果たしたゴクトーたちΣ('◉⌓◉’)


 


 

 



 天上界ではーー

 胸を押さえつつ起き上がる神シロに、振り返る女神東雲が息をつき、

 鋭い視線を向けたまま、唇を噛む。


 「あなた、隠し子のこと……どう説明されるおつもり?」


 その声は怒号とまではいかないが、怒り心頭と言わんばかり。


 「すまん、シノや。……お前と連れ添う前、まだ若かりし頃のこと……。

 まさか恋人じゃったビボウ・ミレナダが子を産み、

 『ビボウ・ミシロ』と名乗っておるとは、ワシも知らなんだ」


 神シロが言い訳しながら女神東雲を拝み倒す。

 それは土下座にも近い姿だった。


 その様子にトランザニヤが黒銀の瞳を瞬かせ、目を丸くする中、

 女神東雲が「ふっ」と口元を緩め、パチっと指を弾く。


 その瞬間、『フォトグラフ』が浮かび上がり、

 美しい女性が古城の広場に佇む姿が映し出された。


挿絵(By みてみん)


 「……この人ですわよね……?

 絶世の美女と謳われたビボウ・ミレナダ……。

 そうでしたか……

 では、わたくしの方が、彼女より、あなたの好みだったのです……よね?」


 その言葉に凄い勢いで首肯を繰り返す神シロは、さておき。

 我関せずのまま、下界を眺めるトランザニヤがポツリ。


 「ゴクトーの奴、

 『妄想図鑑』を上手く使いこなすようになってきたな」


 その言葉は、橙に染まるハゴネの空に消えていったーー。



 


 ーーその頃ゴクトーたちは、勝利の喜びも束の間、

 キヌギス砦を襲った緑龍の後始末に奔走していた。




  


 ◆(トランザニヤが語り部をつとめます)◆





 「では、参りますわねーー!【イーチ・ォ・ミニマム】!」


 紫髪を靡かせたパメラが、倒れ伏す緑龍の骸に向かって杖を振り詠唱する。

 その刹那、彼女の身体から紫色の薔薇のような魔力(マナ)が溢れ出し、

 『爆弾(ダイナマイト)』のたわわな胸が激しく揺れ、大気を震わせる。


挿絵(By みてみん)


 次の瞬間、薔薇の香りが漂う中、

 紅山吹色の魔法陣が地面いっぱいに広がった。

 その直後、あれほど巨大だった緑龍の亡骸が、みるみるうちに縮んでいく。


「うわ、すご……龍が子猫のサイズになった……」


 爆風で兜を飛ばされた騎士の一人が声を上げる中、

 パメラは「ふぅ」と息をつきながら額の汗を拭った。


「威力より範囲を優先した術式、

 これだけの数を一度に駆使する魔法は……少し骨が折れるわん」


「【ヒガツク・バラ・ドナイヤ】の魔力(マナ)上昇付与のおかげで、

 その威力も格段に上がっているな。

 パメラ、助かったよ……

 じゃあ皆、片っ端から『アイテムボックス』に、放り込んでくれ!」


 ゴクトーの号令のもと、『リリゴパノア♾️』のメンバー総出で、

 小さくなった緑龍の骸を回収していく。  


 空間魔導具ーー『アイテムボックス』、

 『万能巾着』に次々と吸い込まれていく緑色の塊を眺めながら、

 誰からともなく「壮観だな……」というつぶやきが漏れた。


 その光景を、砦の門前で目の当たりにした二つの人影があった。


「……これは、これは。噂に違わぬ光景だ」


 白髪を丁寧に整えた壮年の男が、夕日を背に感嘆の声を漏らす。  

 この地一帯を治める領主、イイダル・コス・ハルツーム侯爵その人であった。  

 その傍らには恰幅の良い、豪奢なローブ姿の甥ーー

 シモンヌ・コス・ハルツーム伯爵が控えている。


挿絵(By みてみん)



「叔父上。アザック殿の見舞いに参ったはずが、

 まさかこのような場面に立ち会えるとは」


「うむ。……あの中央におるのは、冒険者にしておくには、惜しい男ーー

 軍の大将に据えたばかりのゴクトー男爵。

 あやつがまた、この領地を救ってくれたようだな。はっはっはっ!

 ……儂はつくづく果報者のようだ、シモンヌよ」


 侯爵の視線の先で、刀を鞘に納めるゴクトーの姿があった。  

 その堂々たる立ち姿、そして緑龍の親玉すら討ち果たしたという戦果に、

 侯爵の目は静かな驚嘆の色を宿していく。


 その二人の姿を目にしたミテミナ少将が号令をかけた。


「皆、整列!」


 ざざっと土埃が舞いーー騎士たちが頭を下げ、

 ミテミナ少将を筆頭に侯爵に騎士の礼を執る中、


「アナ准将、ミテミナ少将ーー此度の防衛、真に見事であった」


 侯爵のその言葉に、急ぎ駆けつけたアナ准将が姿勢を正し、応える。


「恐れ入ります侯爵閣下。此度の緑龍討伐、

 その大半は総司令殿の采配と、お仲間の力によるものかと」


「ふむ……」


 顎髭を撫でながら、侯爵がしばし黙考する。  

 そして、周囲に響き渡るほどの声で高らかに告げた。


「よかろう!この場で正式に沙汰を下す!  

 ゴクトー殿、其方にコス・ハルツーム家の名を授け、子爵に叙し、

 併せて、我が領地一帯の軍における元帥の位を授ける!」


「……はぁ?」


 素っ頓狂な声を上げたのはゴクトー本人であった。  

 周囲がどよめく中、侯爵がニヤリと笑う。


「戦の功に見合った地位だ。異論は認めん」


「い、いや、待ってください、俺はただの……」


「めでたい! めでたいですわ、ダー様ぁっ!」


 誰よりも早く歓声を上げたのはアカリであった。  

 その傍では、アリーもぴょんと飛び跳ねて拍手を送る。


 挿絵(By みてみん)



 一方で困惑するゴクトーの肩に、隣に立つミリネアがそっと手を置く。


「ご主様……ここは素直にお受けするのが吉かと」


「ミリネア、お前まで……」


 こうして半ば強引に、祝杯の準備が進められていくのであったーー。


 


 中央広場に急ごしらえの宴席が設けられる中、

 仮設厨房の方から香ばしい匂いと、威勢のいい声が響き渡る。


「よぉーし、こいつは滅多にお目にかかれねぇ食材なんさ!」


 包丁片手に目を輝かせるノビが、緑龍の亡骸――

 その一体を前に、腕まくりをしていた。


「ノビ、まさかそれ……ぶつ切りにするんじゃないだろうな?」


「ゴクどーさん、したっけ?」


「師匠から教わった捌き方を教えるよ。

 料理人のお前に教えるのは、ちょっと気が引けるが……

 これが冒険者流のやり方だ。よーく見ておいてくれ」


 ゴクトーが【桜刀・兼松桜金剛】に手をかけ、その刃を黒曜に閃かせる。

 ザクッザクッと横たわる緑龍の背鰭を切り取り、鱗を器用に剥いでいく。

 鱗が剥がれた龍の頚椎辺りに、桜刀をぐいと押し込み、

 コツコツと小さな音を響かせながら、

 背骨に沿って【桜刀・兼松桜金剛】を横一閃に這わせていく。


 鮮血が迸り、数滴の赤い血が顔に飛び散るのもお構いなしに、

 ゴクトーが美しい『冒険者流三枚おろし』をノビに披露する。

 そして、腕や羽、足と尻尾に至るまで見事に解体していく。


 挿絵(By みてみん)


 そんな中、息を呑むだけだったノビが感動も露わに口を開く。


 「龍肉は滋養強壮の最高峰、その素材は高値で売れるんさ。

 鱗は加工すりゃ防具になるし、骨は魔導具の素材!

 捨てるとこなんざ、髭の先っぽほどもないんさ!」


 豪快に解体していくゴクトーの手際に、

 集まった砦の料理人たちも感嘆の声を漏らす。  

 その日の宴の主菜が『緑龍のステーキ』になったことは、言うまでもない。


 アリーが緑龍のステーキを悦びつつ、

 夢中で齧りついていた宴もたけなわとなったその頃、

 砦の奥からゆっくりと歩み出る人影があった。


「アザック殿!もう起き上がって大丈夫なのですか!?」


 駆け寄るミテミナに、アザックが苦笑いを浮かべる。


「情けない話だが、おかげで、ようやくこの通りだ。  

 まったく……寝込んでいる間に、砦がとんでもないことになっていたな」


 その視線の先で、

 上機嫌に杯を掲げるゴクトーの姿を見つけ、アザックが目を細めた。


「総司令……いや、今や元帥殿か。妻と義妹も世話になった……凄いお方だ」


 その言葉に、傍に寄り添うアザックの妻アンリとアナ准将の表情も和む。


「義兄上、復職おめでとうございます」


「ああ。だが、私が寝ている間に……

 お前の方が随分と出世したようじゃないか」


 揶揄うようなアザックの言葉に、アナが肩をすくめる。  

 その時、ゴクトーがふらりと近づき、杯を掲げた。


「アナ准将、ミテミナーーいや、もう堅苦しいのはナシだ。  

 今回の防衛戦、あんたたちの采配がなけりゃ砦は落ちてた。  

 俺の一存で決めさせてもらう。


 ミテミナ、あんたは中将に。アナ准将、あんたも少将への昇格を推薦する」


「……ッ! よろしいのですか、元帥閣下!」


 ミテミナが驚きの声を上げる中、

 ゴクトーが苦笑いを浮かべつつ口を開く。


「元帥閣下はやめろって……あと、イモリー」


 名を呼ばれたイモリーが、驚いたように顔を上げる。

 周囲の騎士たちが固唾を飲んで見守る中、ゴクトーが告げる。


「あの龍笛がなけりゃ、俺たちはもっと苦戦してた。  

 少尉からーー大尉に二階級特進だ。これからもよろしく頼む」


 「わ、私なんかがそんな……」


 挿絵(By みてみん)


 戸惑いつつも、頬を紅潮させるイモリーの肩を、アナがポンと叩く。


「素直に受け取っておきなさい。あなたの働きは本物だった」


 その言葉に歓声が湧き上がり、砦の隅々まで響き渡っていったーー。




 

 

 ◾️(ここから女神東雲が語り部をつとめます)◾️



 

 一方その頃、宴の喧騒から少し離れた砦の外れ、

 ハゴネの山を望む岩場に、好々爺の姿をしたギャランと、

 その傍らに寄り添うコガラの姿があった。


「ピヨ?」


 小首を傾げるコガラに、ギャランが穏やかな笑みを浮かべる。


「コガラや……よう頑張った。もう、ワシの役目は終わりじゃ」


 その手が、コガラの額にそっと触れる。  

 次の瞬間、淡く七色に輝く紋様が、コガラの額に浮かび上がった。

 ーー妖精龍の長のみに受け継がれる証。


「これで、お前が次の妖精龍の長じゃ。

 ワシの魔力も、秘めた力も……  全て、お前に託す」


「ピ、ピヨッ……!?」


 困惑するコガラの体が、突如として淡い光に包まれる。  

 光が収まったその瞬間、

 竜の角を戴き、鱗に覆われた銀色の尾を優雅に揺らす彼女は、

 人とも獣ともつかぬ神秘を帯びていた。

 黄色いマフラーが豊かな胸元を優しく包み、

 『銀鱗鎧』が陽光に煌めく。



 挿絵(By みてみん)

 

 夕陽の光が城塞の塔を黄金に染め上げる中、

 一本の古木に寄りかかる、銀髪の美女の姿にコガラは変貌していた。

 コガラの瞳が好々爺を見つめたその刹那、風が長い銀髪を優しく梳き、

 まるで物語の一頁が動き出したようだった。



「わ……わたし……」



 自らの手を見つめ、震える声を漏らすコガラの前で、  

 ギャランが満足げに頷く。


「ようやく人の姿になれたか……別嬪さんじゃ」


「じいちゃん……?」


「なに、案ずるな。ワシはただ、次の世代に道を譲るだけじゃ」


 そう言い残し、ギャランの姿が風にほどけるように、淡く消えていく。

 ーー伸ばしたコガラの手が空を切る。  



 「じいちゃんーーじいちゃんっ!」


 

 あとに残されたのは、涙を零すコガラとハゴネの山々を渡る、

 静かな風の音だけであったーー。



  挿絵(By みてみん)


 





 

 読んでくださり、ありがとうございます。

 引き続き楽しんでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )

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― 新着の感想 ―
今前半の砦の盛り上がりと、後半の静かな別れの落差に引き込まれました(iДi) 緑龍の後始末で、パメラさんが巨大な龍の亡骸を子猫サイズに縮める場面は便利さと迫力があって面白かったです。そこからゴクトー…
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