揺れるズードリア大陸編 22 〜イモリー・ゲガトの『龍笛』〜
素敵な感想やリアクションに感謝です。
短めですが、どうぞΣ('◉⌓◉’)
「ここは私にお任せください。
一族の秘宝であるーーこの【コンフュース・ドラゴン】の音色で、
群がる緑龍たちを混乱と共闘の渦に落としてご覧にいれます」
「ピロロロ〜♪ トーラーロォー♪ォルロー♪ タァーローラー♪ アーー♪ 」
キヌギス砦の中央広場に、異様な音色が響き渡る。
上空では、押し寄せていたはずの緑龍たちが狂ったように暴れ回り、
生々しい肉片を散らしながら凄まじい共食いを始めていた。
その混沌を巻き起こしている元凶こそ、
中央で不敵な笑みを浮かべながら、
『龍笛』を奏でるーー
イモリー・ゲガトその人であった。
「全隊、何をぼうっとしている! 今が好機!」
茶髪を靡かせるアナ・ドレン准将が険しい表情で騎士たちに指示を飛ばし、
鋭い指先で敵を指し示しながら、即座の迎撃態勢を命じる。
砦を守る騎士たちが動揺と緊張に包まれる中、
空を覆う緑龍の群れは、イモリーの奏でる不気味な旋律に操られるように、
さらなる混乱の渦へと落ちていくのだった。
ーーその音色は、下界を眺めるトランザニヤの記憶の断片を呼び覚ます。
「あれは、妻のルシーヌがロカベルの長に頼まれて作った、
【コンフュース・ドラゴン】ーーそう彼女が名付けた『龍笛』……
なぜ、あれが彼女一族の手に……」
ポツリとつぶやくその言葉に、口元の泡を袖で拭う神シロが漏らす。
「あれは、ロカベルの先代が、テイムした彼女の祖母にせがまれて、
譲ったもんじゃな……まぁ、あの美貌とスタイルなら頷ける話じゃ」
その言葉に目を糸のように細める女神東雲が、
これでもかと言わんばかりに眉をつり上げた。
「あなた! わたくしのスタイル以上の女性は、おりませんのよ!
何なら今ここで、証明して見せますッ!」
いきなりドレスを脱ぎ去る女神東雲に慌てる神シロの傍で、
「おいッ! そういうのは、オレがいない所でやってくれッ!」と。
声を荒げながらトランザニヤが目を逸らし頬を赤く染めた。
困り果てた神シロが赤いドレスを拾い上げる一方で、
女神東雲の怒りは収まりきれていない様子。
その瞬間、天上の雲が急に激しく流れ始めた。
そんな中、下界を眺めながら女神東雲が息を整える。
「わかりました……では、これからこの姿で下界に飛び降りて、
緑龍の群れを魅了してご覧にいれますわ!」
そう言って怒りを露わに、下界の雲海へダイブしようとする女神東雲。
「危ない! まて東雲、さすがに丸腰のそれは――」
慌てた神シロが、止めに入ろうと華麗に一歩を踏み出す。
だがーー。
何もない平坦な雲の上で、見事に足の小指を強打した。
「ぐふっ……!」
間抜けな断末魔を残し、神シロがバタンと盛大に前のめりへ沈む。
「あなたも、いよいよ足腰まで耄碌したのね」
振り返った女神東雲が、これ以上ないほどの冷ややかな目を向けたーー。
ーーそんな天上の神々のことなど微塵も知る由もなく、
ゴクトーは、緑龍の親玉、『独眼のボンジ』に閃く一刀を振り下ろしていた。
◆(トランザニヤが語り部をつとめます)◆
ズアッ!
ーー空気を引き裂く黒と銀の闘気を漲らせるゴクトー。
ミリネアの鮮やかな連携と、
ミテミナが砦の兵たちを率いて下す的確な指示が、
緑龍の包囲網を完全に寸断していく。
さらに、中央広場から響き渡るリザードマンの混血、
イモリーが奏でる『龍笛』の魔音が、
戦場を決定的な混乱へと叩き込んでいた。
「ピロロロ〜♪ ォルロー♪」
その妖艶かつ狂気的な音色に操られ、
統率を失った緑龍たちが我を忘れて共食いを始める。
空は血肉と絶叫が飛び交う修羅場へと変貌し、
先頭を駆けていたはずのボンジは、手下たちの牙に引き裂かれ、
巨体に無数の傷を負って大きく体勢を崩した。
「ガァアアッ……!? なんだこの不気味な音は……っ!」
圧倒的な混乱と焦燥に目を剥くボンジの眼前へ、
神速の【縮地】でゴクトーが肉薄する。
容赦なく叩き込まれる一撃が、その硬い鱗を砕き、逃げ場を完全に封じた。
「お前の相手は……俺たちだ!」
ゴクトーの怒涛の連撃がボンジを捉え、動きが止まったその瞬間――。
帆船からボンジの懐に飛び込むココが、大剣を振り下ろす。
「【メデューサ・ショット】!」
詠唱とともに、紫炎を纏わせた斬撃を飛ばす。
放たれた斬撃が弧を描き、
音さえ切り裂くような速さで、ボンジの緑翼を斜めに切り裂く。
それと同時にイブがゴクトーの影から飛び出し、黒き刃の鎌首をもたげる。
ブシュッ!
影の斬撃が、ボンジの脇腹を容赦なく引き裂いた。
咄嗟に二人を中空で受け止めるゴクトー。
その体幹たるや、見るものの目を奪うほど見事だった。
バランスを崩したボンジをゴクトーが見逃すはずもなく、
「今だ、アカリ! ジュリ!」
ゴクトーの叫びに呼応し、【桜刀・黄金桜千貫】を構えたアカリと、
【常闇・月刀】を閃かせるジュリが左右から同時に踏み込む。
交差する銀閃が、ボンジの喉元と後ろ足の腱を正確に断ち切った。
「グァアアアアアッ……!?」
絶叫とともに巨躯が大きく傾ぐ。
その隙を逃さず、橙空魔帆の片割れーー帆船からミーアが弓を引き絞る。
「終わりです」
静かな声とともに放たれた一矢が、
ボンジのかつて自ら潰したはずの隻眼の傷跡、
その中心を正確に射抜いた。
ズシャアアアアアンッ!
その好機を見逃すわけもないーー。
戦場の空気を一瞬で凍りつかせるほどの、強烈な漆黒の波動が吹き荒れた。
「――オイラの全財産を奪ったツケ、その命で払ってもらうぜッ!」
咆哮とともに黒翼を大きく広げたクロニクが、
漆黒の龍の姿で天を駆け上がる。
「何を、この小僧がーー!」
叫ぶボンジも緑翼を羽ばたかせ、
旋風を巻き起こしながら、尖った爪の一撃を鋭く繰り出す。
黒き翼を斜に傾け、ボンジの爪を紙一重で躱すや否や、
突風を孕んだクロニクの怒号にも似た咆哮が炸裂する。
その怒りと恨みのすべてを乗せたーー
渾身の『紅蓮の炎』が、抗うボンジの巨体を容赦なく包み、燃え上がらせた。
アカリを背に、ジュリを嘴に咥え、二人の落下を防ぐコガラに、
リリゴパノアの歓声が灰色の空に響き渡る中、
地鳴りとともに、緑龍の親玉ボンジの巨体が、キヌギス砦の前に崩れ落ちた。
あれほど戦場を埋め尽くしていた緑龍の群れも、
親玉を失った途端、統率を失い、
イモリーの『龍笛』の音色に導かれるまま、
共食いの果てーー肉片と化していく。
「……勝った、のか?」
誰かがポツリと漏らした言葉が、
戦場にじわじわと波紋のように広がる。
次の瞬間、砦を守っていた騎士たちから、
地鳴りのような歓声が沸き起こった。
「うおおおおおおっ!」
「キヌギス砦、守り抜いたぞーーッ!」
剣を天に掲げる者、抱き合って泣く者、
その光景を横目に、ゴクトーは荒い息を整えながら桜刀を鞘へと納める。
「……ふう。妄想図鑑がなかったら、正直危なかったな」
ポツリとつぶやいた言葉に、
図鑑から顔を出した『江戸っ子鼓動』が、呆れたように応じる。
「何を言ってるんすか、旦那。
橙空魔帆をあそこまで使いこなせたのはーー
お仲間さんの理解と、
……旦那の「すけべぇ」な妄想が、あったこそでやんすよ。
ま、多少はあっしの助言のおかげ、ということにしておきやしょう」
「お前が言うと、なんか腹立つな……」
ぼやくゴクトーの肩に、ふわりとコガラが舞い降りる。
「ピィッ!」と誇らしげに鳴くその姿に、ゴクトーの顔に笑みが溢れた。
その時だーー。
広場に降り立ったアリーが、垂れ耳を立て、
辺り一面を見渡しながら何かを見つけた。
「逃げりゅな!」
その言葉に騎士たちの視線が集まる。
飛び立とうとしていた小型の緑龍を一体捕え、
アリーがニコニコしながら首に縄をかけ、ゴクトーたちに歩み寄る。
だが、その縄をイブに預け、「お肉がいっぱいにゃ!」と、
倒れ伏せているーー緑龍を一体一体、力任せに集めていく。
彼女の食いしん坊魂に火がついたのだろう。
その様子に、先程まで怯えていた来賓たちが広場の隅で囁き始める。
「希少な肉だよな。売れば白金貨がどれだけになるか……」
「ああ、滅多に口にはできん、上等な肉だ」
ゴクリと唾を飲み込む来賓たちを他所に、
一方、砦の中央では『龍笛』を懐にしまったイモリーが、
息を切らしたまま崩れ落ちるように座り込んでいた。
「イモリー副官! 大丈夫か!?」
駆け寄るミテミナに、イモリーが額の汗を拭いながら苦笑する。
「ご心配なく……少将殿。
この笛、演奏者の魔力をごっそり持っていくもので……
一族の秘宝と言えば聞こえはいいですが、代償の大きい代物なのです」
「それでも、あなたのおかげで、多くの兵の命が救われた。感謝する」
深々と頭を下げるミテミナに、
イモリーがどこか照れくさそうに視線を逸らした。
その隣で、アナ・ドレン准将が険しい表情のまま剣を収める。
「浮かれるのはまだ早い。
緑龍の群れがこれほどの規模で押し寄せたこと自体が異常だ。
――何者かが、後ろで糸を引いている。
総司令殿のお仲間が捕えた……
緑龍から、詳しく聞き出すこととしよう。
子供のように見えるが、小柄なだけだ……あいつの口を必ず割らせて見せる」
その言葉に、ゴクトーの表情もふっと引き締まった。
ーーそんな中、下界の勝鬨が、天上にまで微かに届く。
その音を耳にしたトランザニヤが、ようやく詰めていた息をついた。
「……勝ったか」
「当然ですわ。ゴクトー君たちを誰だと思っておりますの?」
いつの間にか赤いドレスを着直した女神東雲が、
腕を組んで澄まし顔で言い放つ。
その足元では、うずくまる神シロがいまだに、
「なぜ……雲に角など……」と、さっきの小指の痛みに悶絶していた。
「おい、シロ、いつまでやってるんだ……」
「放っておいてください。この後、問い詰めますから」
神シロの肩に手を置き、ニヤリと笑う女神東雲から、
トランザニヤはそっと視線を逸らし、再び下界へと目を向ける。
――緑龍の群れを裏で操っていた何か。
その気配は、まだズードリアの闇に潜んだままだった。
「……この程度で終わるとは、思えんな」
つぶやくトランザニヤの黒銀の瞳が、静かに眇められる中、
激闘は次なる嵐を孕んだまま、鮮烈な幕引きを迎えたーー。
読んでくださり、ありがとうございます。
引き続き楽しんでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )
余談ですが……
「 トーラーロー♪ ォルロー♪ タァーーローラー♪ アーー♪」は、
雅楽『越天楽』という曲で、龍笛の音階をアレンジしました。
初詣の際、神社でよく流れているBGMですΣ('◉⌓◉’)
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