揺れるズードリア大陸編 19 〜古びた手紙〜
どなたがつけてくださったのかわかりませんが、
ブックマーク、5つ星の評価に感謝です。☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
ゴクトーの様子を眺めていた天上界の神々ーー
雲間から顔を上げ、眉に皺を寄せるトランザニヤの黒銀の瞳が細まる。
「おいおい、ゴクトーの奴、とんでもない眷属を従えたぞッ!」
その言葉に女神東雲が振り返り、ニヤリとしながら唇を動かした。
「サキュバスのことですかぁ? まぁ良いではありませんか。
奥手のゴクトー君には、良い刺激になりますわ」
その刹那、トランザニヤがポツリ。
「こちらにも刺激が……ミリネアと同じ、
【ムラット・シタラ・ドナイヤ】の紫が……チラッと見えてますけども」
その言葉を気にも留めず、女神東雲が唇を艶やかに滑らせる。
「刺激ですか……嬉しいですわ。このインナー装備は、
『見せても良いもの』らしいので……
ところで、トランザニヤ様は過保護すぎるのではありませんか?
ゴクトー君も、もう良い大人の男性なのですから……
せめて夢の中ぐらいは……経験を積ませても良いかと……ふふ」
どこか悪戯っぽい声で笑う女神東雲に、夫の神シロが愚痴を零す。
「シノは、この手の話になると、
いきなり目が輝き出すから困ったもんじゃ……
黒銀の友にも、その紫を見られたのにも喜んでおるし……」
神シロがやれやれと首を振る傍らで、
下界のキヌギス砦の夜は、
一層深い静寂へと包まれていくーーはずだった。
「主よ……このルーブルンに、新たな名を授けて欲しい……」
医務室の隅、姿を隠しているとはいえ、
ルーブルンの放つ、濃厚な魔力のフェロモンと甘い吐息は、
直にゴクトーの理性をじりじりと削り取っていく。
サキュバスへと変貌を遂げた彼女は、
豊満なボディをぴったりとゴクトーに寄せーー
藍色の肌を艶めかしく紅潮させながら潤んだ瞳で見上げる。
そんな中、ゴクトーが意外にも冷静に口を開く。
「新たな名前か……目がハートの形のままだから、いっそ、
ズットハートってのは、どうだ?」
その瞬間、ルーブルンの体が眩い光に包まれた。
ーーその光が収束すると、彼女の胸がさらに迫力を増した様に、
ゴクトーは感じた。
そして新たな名を貰い、たわわに実った胸を揺らしながら、
「まぁ、嬉しい。これからはズットハートと呼んで……ね!」
と、頬を赤くするズットハートは、さておき。
万能薬と【双丘の秘儀】で、
ゴクトーは、見事にアザックの呪いを消し去った。
だが、その代償として引きずり出してしまったのは、
想像以上に厄介で、かつ魅力的な『猛毒』だったらしい。
周囲の目を盗みつつも、
この迫り来る魅惑の包囲網からどう逃れるか――。
そう頭を悩ませるゴクトーは、『めでたしめでたし』とはいかない、
甘くも危険な夜が迫っていた。
世界が音を立てて動き出し、魔王軍の脅威が着実に迫り来る中――
ゴクトーのプライベートな戦いもまた、別の意味で最高潮を迎えていた。
◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇
その激動の夜が明けた翌朝ーーキヌギス砦では。
医務室の扉から覗くと、
見違えるほど血色の良くなったアザックが、にこやかに会話をしていた。
ベッドの脇では、昨晩までの焦燥が嘘のようにーー
晴れやかな顔をした女将さんが、温かいスープを差し出している。
ふと女将さんと目が合ってしまった。
「本当に……ありがとうございます、ゴクトー卿。
あなた様のおかげで、この人は……!」
「気にしないでください、女将さん。アザック師団長が無事で何よりだ」
そう言って笑みを向けると、
ベッドの上からアザックが俺に深く頭を下げた。
「二度目の恩義……このアザックの我が命、
軍総司令殿のためならば、この身が朽ち果てようとも捧げます」
その力強い言葉に、控えていたアナ准将とミテミナ少将も頷き、
引き締まった表情で俺に敬礼を寄越す。
呪詛との死線をくぐり抜け、
統括師団長が完全復活を果たしたことで、砦の士気は最高潮に達していた。
……女将さんのあの笑顔を見れただけで、なんだか俺も幸せだ。
この依頼、受けた甲斐があったな……。
胸中にしまい込みながら、思わず口元を緩める。
「では、俺はこの辺で。女将さんをあまり泣かせないでくださいよ。
アザック辺境砦統括師団長、殿……ししし」
笑いながら俺は医務室を後にした。
だがーー。
万全の体制が整ったのは良いが、俺の背後では、
ふっと姿を現したズットハートが、耳元で甘やかな声を響かせる。
「ふふっ、主よ……昼の顔もなかなか凛々しいですわね」
その言葉が紡がれた瞬間、『妄想図鑑』からーー
『江戸っ子鼓動』が飛び出してきた。
「こらッ!ルーブルン、いや……ズットハートか……。
いつまで旦那に、まとわりついているんでやんすか?
こちとら、赤絹・シタギの姐さんやら、
青い蝶のブラ・アカノ女史からブーブー言われて……迷惑なんすよっ!
早く図鑑に戻りなせぇ!」
そう言ってズットハートの首根っこをひょいと掴んで、
『妄想図鑑』の新たなページに吸い込ませる。
そして、「旦那、お楽しみもほどほどに……」と言い残し、
ニヤけ顔のまま『江戸っ子鼓動』が『妄想図鑑』に消えていった。
あっという間の出来事に肩をすくめ、息をつく俺は、
気を取り直し、再び砦の通路を歩み出した。
二股にわかれる通路を曲がった途端、歓声が響く。
砦内では、復活したアザックの話題が広がったのだろう。
すれ違う騎士たちが恭しく俺に頭を下げる。
そんな彼らの表情にも明るさが戻っていた。
その時だーー。
「軍総司令殿、お待ちください!」
背後からの澄んだ美しい声に、思わず振り返る。
カツ…カツ…と高い金属音を響かせ、
急足で歩み寄る彼女の銀髪が吹き抜ける風に靡いた。
「ん? どうした? ミテミナ・ビボウ少将」
俺の言葉に、彼女がふっと足取りを止め、
それまでの凛々しい軍人としての佇まいから一転――
頬を朱に染めて伏目がちに零す。
「……総司令殿、突然、ご無礼を申し上げますが……あの……その……」
言いづらそうにする彼女が、自身の手を重ね合わせ、
モジモジ、くねくねと身体を左右に揺らしつつ、
銀髪の毛先を指先でくるくると弄びながら俯いてしまう。
さっきまでの凛々しい少将の面影はどこへやら、
まるで恋する乙女のような仕草だ。
焦ったくなった俺は思わず口を開く。
「言いづらそうだが、何か気になることでも?」
俺の言葉に、ミテミナが紅潮する頬のまま意を決したのか、顔を上げた。
その潤んだ瞳には、恥じらいと、それ以上にどこか強い熱も宿っている。
「実は気になっておりました……軍総司令殿の髪色が銀髪なのを……
人種では滅多に見ない髪色。
まぁ、そう言う私も銀髪なのですが、どこかご縁があるようで……」
その言葉を合図にしたかのように、通路の松明が揺らめく。
横目で見た土壁には、
俺たちの影が――まるで狂おしく踊る人のようにうねり、
どこか妖しく形を変えて映し出されていた。
……あ、そうだ。彼女のペンダントと剣の紋章……
シスター・カノンの紋章と同じだったな……
これも何かの縁だ。突いてみるか……。
ふと沸いた疑問の興味から、俺は低く落ち着いた声を落とす。
「恥ずかしながら実は、この銀髪は、魔力操作で銀色に染めているんだ。
本当の俺の髪色は黒と銀のメッシュ……
同じ髪色をしている人は、俺も師匠しか見たことが無いよ……」
その言葉にミテミナは、先ほどまでの恥じらいが嘘のように、
ハッと目を丸くしながら息を飲む。
その表情から、柔らかさが消え、代わりに――
鉛のように重い動揺と緊張の色が走った。
どうやらよっぽどだったように思える。
「そんなに驚くことか?
聞かれたついでに、こちらからも一ついいか?
少将の胸から下げているペンダント、
孤児院で俺を育ててくれた……シスターと同じ紋様なのだが……」
俺の問いに、ミテミナが息を詰まらせ、言葉を失う。
ふとミテミナが背負う大剣の柄から家紋入りの飾りを外し、
震える両手で痛いほどに強く握り締める。
まるで込み上げる感情に耐えるように歯を食いしばり、
潤んだ瞳で俺を見上げた。
そして、彼女が震える手で飾りの裏を開き、
小さく折り畳まれた、古めかしく燻んだ羊皮紙を取り出し、
「これを……」と言って差し出した。
その真剣な様子に俺は手を差し伸べ、
破れないように慎重にそれを開いていく。
どうやら手紙のようだ、少し字も滲んでいたが読めないこともない。
俺はそのコリン語で書かれた手紙を黙読し始める。
『親愛なる妹、ミテミナへ。
私が家を飛び出してから早いものでもう10年。
あなたは元気にしていますか?
私はあれからコリン聖教皇国に渡り、
教会に通う傍ら、冒険者にもなって、
ビショップというギフトと新たな能力を得ました。
伯爵家の令嬢が似合わないと思ってるでしょ? ふふふ。
実はね、幼かったあなたには、話せなかったのだけれど、
あなたとは血の繋がりはないの。
だって、私は貰い子だから……。
今、私は冒険者を引退して、孤児院で子供たちと暮らしているの。
貰い子と言えば、エルフの里マヌエルで、
あなたと同じ髪色のハーフエルフを育てているわ。
可愛い子でね。
『華』と名付けたわ。
それと、コリンで行き倒れになっていた不思議な少年も保護したの。
その子の髪色は銀色と黒のメッシュでね。
『この大陸には神がいる』って、真剣な眼差しで言ってくるの。
可愛いわよね。
優しい性格の彼は亜人の皆からも好かれているわ。
いつか、あなたのお婿さんになってくれればいいのに……。
ととと……いけない、私のことばかりだわ。
ダメな姉ね。
とにかく私は、自分の生きたいように、今を生きているの。
とても幸せよ。だから心配せずに、あなたが家督を継いでちょうだい。
また何かあったら、手紙を送るわ。
お転婆な姉、カノン・ビボウより』
その手紙を一行一行読みながら、
懐かしい文字と、シスターの面影が頭を掠め、感情が昂っていく。
ーーそれを抑えきれず、俺も自然と涙が溢れてしまった。
読んでくださり、ありがとうございます。
引き続き楽しんでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )
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