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『妄想図鑑』がこの異世界を塗り替える! 〜英雄トランザニヤの末裔とその仲間たち〜 #イセトラ    作者: 楓 隆寿
第4幕 真章。  〜軋む異世界の歴史〜

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揺れるズードリア大陸編 17  〜ピースが揃った瞬間〜

 






 



 ……な、何を言い出す、この爺さん……。

 『始祖の一族』が、魔王を生み出しただと?



 目の前で感涙に浸る好々爺――

 ギャランのスケールが大きすぎる言葉に、

 俺は内心のツッコミを飲み込み、引き攣りそうな顔を必死に抑えた。

 

 だが、のんびり世間話に付き合っている暇はない。

 アザックの胸元で蠢く黒い紋様は、

 今、この瞬間も確実に彼の命を蝕んでいる。


「気持ちはありがたく受け取っておくよ、爺さん。

 だが、アザック騎士団長を救うのが先決だ。

 話の続きは、すべてが終わってからにしてくれ」


 俺がビシッと親指を立ててそう告げると、

 ギャランが「ほう……」と含みのある笑みを浮かべ、

 ふっと長い息を吐き出した。


 その光景を黙って見ていたクロニクが、ほっと胸を撫で下ろす。

 

 一方、ギャランに追従していたジュリと忍びたちShadowWind の面々が、

 目に涙を浮かべながらこの光景を静かに見守っていた。

 

 注がれる朝日に照らされ、どこか温かさを感じる風に、

 桃色の髪を美しく靡かせるジュリに向かって、俺は口を開く。


 「ジュリ、急ですまんが頼みがある。

 アザックを助けるために、ミンシアの『薬師』の力が必要なんだ。

 転移魔法で、この砦に連れてきて欲しい」


 その言葉にジュリが静かに答えた。


「わかった……ヘンダーのその目、何か解決の糸口が見つかったのね」


 その言葉が告げられた刹那、ジュリが大気中の魔力(マナ)を集め出す。


 挿絵(By みてみん)



 深く息を吸い込むジュリの口からーー

 「【アストラル・ゲート】!」と詠唱が紡がれた。


 その瞬間、眩い光が空間を満たし、目の前に【白い魔法陣】が現れ、

 柔らかな輝きをまとった【門】が瞬時に浮かび上がる。

 その門はーー亜空間へと導く転移の入り口。

 

「……行ってくる。すぐに戻ってくるから」


 その言葉を残し、勢いよく飛び込むジュリとその門が、

 空間に吸い込まれるようにーー音もなく消えていった。


 挿絵(By みてみん)


 俺の妄想眼”死線”がその後ろ姿に、釘付けになったのは言うまでも無いが、

 何が起きたかもわからずーー

 ただ呆然と息を飲むShadowWind の面々は、さておき。

 

 砦内はしんとした沈黙が漂う。

 騎士たちがギャランの圧倒的な【覇気】に飲み込まれる中、

 ノビとミーア、耳を立てるアリーも安堵の息をつきーー

 こちらに歩み寄ってくる。


 

 一方で俺は自身の影に重なる僅かな気配ーー

 いや独特の【覇気】を感じ取る。


 「ジュリリンの……ビビッド・ブルーのインナー、目立っておったな」

 

 「俺の影に潜んでるんだろ? イブ、すまないが出てきてくれ」


 その言葉とともに、スッと俺の影からイブが姿を露わにする。

 

 周囲の騎士たちが目を丸くする中、彼女が唇を噛む。


「妾の魔法、【ボッシュナム・シャドウ】を見抜けるのは、

 殿ぐらいしかおらんぞッ!

 ……『暗殺者(アサシン)』ならではの、魔法じゃのに」


 「まぁまぁ、そう拗ねるなよ。

 それよりもイブ、一刻を争うから尋ねたい。

 万能薬(エリクサー)を作るには、

 アダマンタイト鋼と緋色金の鉱石が、必要なんだ……」


 その言葉を聞いた瞬間、イブの目が鋭さを増した。


 挿絵(By みてみん)


 「ふふ、殿の頼みとあらば仕方がないのぅ。持っておるから心配無用じゃ。

 ……この妾の『錬金術師』としての力も必要じゃな。

 アダマンタイト鋼と緋色金を結晶にせねば、ならんじゃろ?」


 その表情は、いつもにも増して明るかったがーー

 しかし彼女の仕草がいただけない。


 いきなり抱きついてくるなんてーー。


 思いがけない光景に、周囲の視線が痛いほど突き刺さる中、

 水戸の御老公、いや、好々爺姿のギャランが呆れたようにつぶやく。


「魔王のスキルと同じ【魅了覇気】か……見ちゃおれんな……

 ……よかろう、孫の血脈を安定させるのも主の運命。

 せいぜい、その『龍の涙』で奇跡を形にしてみせよ」


 ギャランの許可を得つつ、再び俺の影に入ったイブとともに、

 全速力でキヌギス砦の廊下を駆け抜けーー

 ガタッと激しく医務室の扉を開け放った。


 アナ准将とミテミナ少将が扉前で、驚愕の視線を送る中、

 俺は『アイテムボックス』から手に入れたばかりの小瓶を取り出した。


「……待たせたな! 『龍の涙』、アダマンタイト鋼と緋色金、確保完了だ!」


 俺の声と同時に、イブが俺の影から姿を現す。

 ベッド脇で息を潜めて控えていたーー

 アカリ、パメラ、そしてミリネアの顔にパッと光が灯った。

 一方でアナ准将とミテミナ少将が目を見開き、警戒を強める。


 「大丈夫、安心してくれ、俺の仲間のイブだ。

 さぁ、イブこれからが本番だ。

 ……間もなくジュリがミンシアを連れてくるだろう。

 先に、アダマンタイト鋼と緋色金鉱石を結晶化しておいてくれ」


 「殿、あいわかった。少し、ここのスペースを借りるぞぇ」


 イブが答えながら医務室の隅で作業を始める。

 魔導具が数点並べられる中、アザックの傍で窶れていたアンリ、

 いや、それをただじっと眺める女将さんの目には、

 うっすらと涙が滲んでいた。


 だが、今の俺には感傷に浸っている暇などないーー。

 

「……ミリネアは不死鳥の羽を出してくれ。

 それとパメラはノビに言って、広場にいる仲間たちと、

 この砦にいる皆に、飯でも作ってやってくれ」


 次々と指示を出す俺の横顔を、

 ♡が浮かぶオッドアイで見つめるアカリに、思わず耳まで熱くなる。

 

「ダー様、私は何を?」


 艶っぽい声で尋ねるアカリに、俺は指示を出す。


「……アカリは『ヤマト』の国では稀の『魔導医師』だったのだろう?

 アザックの容態を診てくれ。

 それと、すまんが、ダンジョンボスを倒した時の……。

 あの大きな赤い魔石を俺に譲って欲しい。

 見返りは、何かしら用意する」


 「……ダンジョンボスの、あの大きな赤い魔石を?

 ふふ、ダー様の頼みなら喜んで差し上げますけど……

 見返りなんていらないですわ。私を抱きしめてくれるだけで、

 十分すぎる報酬だもの」


 そう言ってアカリが妖しくも甘やかな笑みを浮かべる。


 そして、『万能巾着』ーー空間収納から直径20センチはあろうかという、

 禍々しくも美しい深紅の魔石を取り出し、俺の両手へとそっと預けた。


 ずっしりと重いその魔石からは、

 純度の高い膨大な魔力が、うねりを上げて放たれていた。


「助かる、アカリ。この恩は必ず」


 俺が礼を言うと、アカリは満足げにふわりと微笑み、

 すぐに真剣な『魔導医師』の表情へと切り替えた。


 彼女が手際よくアザックの枕元に歩み寄り、

 魔力を込めた細い指先を彼の胸元へと近づけていく。


「【不浄なる死(キュア・)を屠る再生(キリング)】!」


 詠唱が紡がれた刹那ーー

 彼女の周囲にふわりとした薄桃色の魔法陣が浮かび上がり、

 アザックの身体には桃色の光が照らし出される。


 

挿絵(By みてみん)


 

 だが、アカリが口元をキュッと締め、唇を噛む。

 

 「悔しい……この再生治癒魔法では治せない。

 これは麻痺や毒というよりも、『呪い』に近い侵食ね。

 この呪詛までは……。

 けれど、万能薬、そしてミンシアさんの『薬師』の力が揃えば……

 手遅れになる前に、食い止められると思う」


 アカリの心強い言葉に、ベッドの脇で祈るように手を組んでいたーー

 女将さんの顔に、わずかに血の気が戻る。


 医務室の隅では、イブが手際よく魔導具を展開。

 アダマンタイト鋼と緋色金の鉱石を錬金術の炎を灯し、

 高純度の結晶へと変化させ始めていた。

 チリチリと空気を震わせる硬質な魔力の光が、室内に幾重もの影を落とす。


 あとは、ジュリが、ミンシアを連れて……

 戻ってくるのを待つだけだ。


 高まる緊張感の中、俺は『龍の涙』と、

 たった今アカリから受け取った巨大な赤い魔石を強く握りしめた。

 アザックを救うためのピースは、着実に揃いつつある。


 一連の指示や無駄のない動きに、アナ准将が固唾を飲む中、

 一方でミテミナ少将が、「軍総司令ゴクトー殿、あなたは一体、何を……」と、

 表情に驚愕の色を滲ませながら、小さくつぶやいていた。



 ーーその時。

 ガタガタガタ……と医務室が激しく震え出し、

 空間が軋む音を立てて揺らぎつつ、同時に白き輝きが溢れ出す。

 その刹那ーー白い魔法陣が浮かび上がるとともに、白い門が顕現。

 

 「坊や、お待たせ!」


 艶っぽい声を出しながら、白衣を纏ったミンシアが笑みを浮かべ、

 その門を潜り抜け、姿を現した。

 追従するジュリが門を潜り抜けたーーその瞬間。

 魔法陣と白い門は、

 まるで空間の狭間に、吸い込まれるかの如く目の前から消えていった。


 

 その瞬間を見逃さなかったーー天上の神シロがポツリと零す。


 「いよいよじゃのぅ。

 ゴクトーの『妄想図鑑』に静かに眠る、あの大峡谷の長……

 ルーブルンの力が、試される時がきたようじゃ……」


 

 

 


 読んでくださり、ありがとうございます。

 引き続き楽しんでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です! ゴクトーさんの的確で素早い指示出しと、それに完璧に応える仲間たちのチームワークが爽快すぎました! アカリさんの甘いおねだりにもキュンとしつつ、ミンシアさんも無事に到着して一気に希望…
アザックさんを救うためのピースが次々と揃っていく流れが爽快でした。 コガラちゃんの涙、イブちゃんの錬金術、ミリネアさんの不死鳥の羽、アカリさんの魔石と魔導医師としての力。それぞれの仲間が持つ力や縁が…
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