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『妄想図鑑』がこの異世界を塗り替える! 〜英雄トランザニヤの末裔とその仲間たち〜 #イセトラ    作者: 楓 隆寿
第4幕 真章。  〜軋む異世界の歴史〜

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揺れるズードリア大陸編 16  〜おじいちゃーーん! 孫娘の声が響く〜




 ズゥゥゥゥゥゥゥゥン!


 その瞬間、アリーの垂れ耳がピクリ。


「…っ! なんにゃ、この揺れ?」


 大地を揺るがす轟音と地響きがキヌギス砦を襲った。

 空き地に停泊していたーー

 妄想飛行鮫ヴォイングが突然、怯えるように体を揺らし、

 尾鰭を大地に叩き、頭を左右に振る。


「うわああああああーー!」

「揺れるううううううーー!」


 機内見学に訪れていた騎士たちが、揺れに耐えきれず悲鳴を上げる。

 その轟音の直後、キヌギス砦の空気の密度が一段と跳ね上がった。


 医務室の扉を固く守るアナ・ドレンとミテミナ・ビボウの足元から、

 床板がミシミシと悲鳴を上げる。

 それは単なる物理的な地震ではない。


 魔力(マナ)を持った者であれば、誰もが本能で理解できる――

 圧倒的な『格上の気配』が、砦の敷地内へと足を踏み入れた証だった。


「……なっ、なんだこの魔力は……!」


挿絵(By みてみん)


 ミテミナ少将が冷や汗を流しながら周囲を警戒し、

 床に手をついて姿勢を低くし、素早く身を翻した。


 アナ准将もまた、研ぎ澄まされた軍人の勘で大気の異変を察知し、

 柄を握る手に自然と力がこもった。


「少将殿、これは……何事でしょうか?」


 そう漏らす彼女は、鋭い眼光を閃かせ、

 周囲の尋常ならざる気配を探っていた。



 挿絵(By みてみん)



 一方で外の空き地では、ヴォイングの混乱がピークに達している。


 普段は悠然と空を泳ぐ妄想鮫が、

 まるで天敵を前にした小魚のように震えていた。

 そんな中、乗船していた騎士たちがパニックを起こしーー

 次々とタラップから転げ落ちてくる。


 後に続くアリーとミーア。

 だが、ポロンだけは揺れやパニックなど気にも留めず、

 まだ船内の分解を続けていた。

 その混乱の中心――森と砦の境界を跨ぐようにして、

 一人の好々爺が姿を現した。


 紫の頭巾に黄色の着物。

 その背後には、息を呑んで付き従うジュリとShadowWindの面々。

 先ほどまでの緊迫した空気は消え失せ、

 今はただ、その老人が纏うーー静かなる威圧感が、砦全体を支配する。


 好々爺ーー人化した妖精龍ギャランが、トントンと杖で地面を突きながら、

 曇りなき眼差しで目の前のキヌギス砦を見上げる。


「ほう……。この小さな砦の中に、

 我が血族の灯火と……それに甥っ子の黒龍の【覇気】。

 ……おっと、妙な術で歴史をこじ開けようとする……

 変わった小僧の異質、いや覇王の【覇気】も感じるな」


 その言葉がつぶやかれた瞬間、クロニクの顔つきが変わった。

 

「まさか……ギャラン叔父上なのか?」


 そう漏らす彼の身体がブルブルと震え出す。

 一方でクロニクの肩に乗っていたコガラが、

 「ピーーー!」と甲高い鳴き声を上げながら好々爺に向かって飛び立った。


 そして、好々爺の肩に止まり、コガラが頬を擦り寄せる。

 その光景はなんとも微笑ましいーー。

 だが突然、好々爺とコガラが、

 まるで何かの力が共鳴するかの如く、金色の光に包まれ輝き出した。


「おお、ヨシヨシ……ワシはそなたの祖父。おじいちゃんじゃ。

 この仕草、なんともカワイイ孫娘じゃな。

 まだ生まれて間もないのに、なんという賢さと健気さよ。

 お前の母によう似ておる。ところで、孫よ、

 主には、名はつけてもらえたのか?」


 好々爺の問いに、ただ涙を浮かべるだけのコガラを見かねたクロニクが、

 大地に跪きながら口を開く。


「ギャラン叔父上、お久しぶりにございます。

 黒龍ギャニスの倅、クロニクが、ここに拝謁いたします」


 その声は、周囲の大気まで震えさせる程の威厳を滲ませていた。



 挿絵(By みてみん)




「おお、兄上の所の……幼き時、一度会ったな。

 確か、名はまだ無かったはずじゃが……

 ……そうか、主を得たのか。して、うちの孫娘の名はあるのか?」


 その声はキヌギス砦を超え、ハゴネ山中まで低く轟く。

 

 周囲の騎士たちやアリーとミーアーー

 さらに追従してきたジュリと、

 ShadowWindの面々が耳を覆いたくなるような響きがあった。

 

 そんな中、好々爺の肩に乗っていた小さき妖精龍が嘴を動かす。


「コガラだよーー。おじいちゃーーん」


 その声は、大気の振動に乗って、

 閉ざされた医務室の扉の向こうまで鮮明に届いた。


 医務室のベッドの傍らーー

 ひりつく空気に包まれる中、

 黒い紋様の核へと妄想眼”死線”の焦点を合わせていた、

 ゴクトーの耳にも、その老人と話すコガラの声が僅かに届く。


「……来たか」


 ゴクトーが小さく零し口元を緩め、

「アカリ、パメラ、ミリネア、ここは頼む!」と、

 勢いよく医務室から飛び出し、駆け出して行ったーー。




 ***【その様子を眺めていた天上の神々】***



 ガバッと雲間から顔を上げたトランザニヤの顔色が曇る。


「おいシロッ! こりゃ大変だぞ……ゴクトーがギャランの怒りを買ったら、

 キヌギス砦自体が、崩壊しかねないぞッ!」


 その言葉に女神東雲があっけらかんに唇を動かす。


 「そんなことはあり得ませんわ。

 『原初の胎動』と呼ばれる、妖精龍の長ギャランほどの強者であっても、

 わたくしたちの……いいえ、うちの旦那様が見ている前で、暴れるなど、

 彼は愚かではございませんわ。

 何せ、彼の父、古代(エンシェント・)龍(ドラゴン)の龍王ガザグですら、

 旦那様の神代魔法からは、逃げ出した程ですのに……」


 その言葉に顔を真っ赤にさせる神シロが零す。


「シノや、そんな昔話……今、出さんでも……」

 

 一方で、トランザニヤは気が気でないのかーー

 揶揄うような目で見つめ合う二柱をさておき。

 二人の会話に耳を傾けながらも再び、

 身を乗り出しつつ、雲間から下界を眺めたーー。


 

  


 ◇(ここからゴクトーが語り部をつとめます)◇



 

 キヌギス砦の入り口を勢いよく走り抜けると、

 金色に輝く三体の龍の神々しい姿が目に飛び込む。


 想像していた通りの展開に、思わず口元を緩めながら、

 『アイテムボックス』から小瓶を取り出した。


 「コガラーー、ちょっときてくれーー!」


 俺の言葉に、泣きじゃくるコガラがすぐに反応。

 首を傾げつつ、七色の小さな羽を朝日に輝かせながらーー

 こちらに飛翔してきた。


 「あるじー。おじいちゃんがきてくれたーー!」


 「ああ、会えて良かったな。ちょっとごめん」


 そう言いながらコガラが零す、

 『龍の涙』を彼女の頬につけ数滴入れる。


「あるじー? なにしてるの?」


 問われるままーー

 「コガラのこの涙のおかげで、人が救えるんだ」と俺は答えた。


 その時、威厳ある低い声と鋭い視線が俺を貫く。


 「そうか……お主が我が孫娘の主か。良い目をしておる。

 『龍の涙』で救うか……ワシの知るかぎり……

 万能薬(エリクサー)の精製しかないじゃろう。

 万病に効くとされる万能薬は、

 ハイエルフの一部のものしか精製できんはず……」


 紫の頭巾を被る好々爺が、顎に手を添えながら首を傾げる。

 

 ……この爺さんがコガラの……

 スゲー威圧の【覇気】だ。


 そう思いながらも俺は、まっすぐに好々爺のその鋭い目を見つめた。

 

 「そこは心配いらないさ。世界一のハイエルフの『薬師』が仲間にいる。

 それに他の仲間たちも、素材を提供してくれそうだからな」


 俺が自信満々に親指を立ててみせると、

 好々爺の姿をしたーーギャランの眉が、僅かに跳ね上がった。


「ほう……。龍族をも巻き込んで網を張るとは……

 なかなか大口を叩く小僧じゃ。さすが我が孫娘の主……気に入ったぞ。


 小僧は知らんだろうが、ワシにはわかる……

 お主は『始祖の一族』の末裔じゃな。

 

 ……それを見込んで頼みがある……我が孫娘を嫁にしてやってくれ。


 1000年が寿命の妖精龍じゃが、その血さえ孫の体に入れば、

 『托卵』などせずとも、生きながらえる……

 この子は妖精龍の長を背負う宿命。 

 ……ワシの命の灯火が尽きる前に、願いを叶えてくれぬか?」


 ギャランが涙を溢しながら、杖の先をトントンと地面につく。

 その足元から、わずかに波打つようなプレッシャーが広がったが、

 俺の妄想眼”死線”の【シジマビジョン】には、

 その威圧の奥にある『親心』のような温もりが、ハッキリと見えていた。


 だが、耳に残った『始祖の一族』ーーその一言が、

 俺の脳裏を掠め、記憶の奥で、

 懐かしい響きだと気づき、妙に胸が騒つく。


 一瞬、動揺はしたものの。

 肩に乗るコガラが俺の顔をじっと見つめる中、口を開く。


「ん?……『始祖の一族』? 何の話だ?

 それに……嫁、だ、と? 確かにコガラは俺の家族だが、

 子供のような……存在ですけども?」


 そう言って若干惚けた瞬間、好々爺が口を開いた。

 

「眷属を従えておるのが、紛れもない証拠……。

 ワシら龍種よりさらに上、神に近いとされる『始祖の一族』……

 元来、このズードリア大陸を治めていた覇王の種族、

 今の魔王を生み出したのも、その一族じゃ。

 

 子供に見えるが……心配無用、今、孫娘に人化の魔法を授けた所じゃ。

 孫さえその気になれば、年頃の別嬪になるのも容易い。

 はーはーはーはっ!」


 その笑い声はハゴネ山中にまで木霊した。


挿絵(By みてみん)

 

 水戸の御老公かッ!


 俺は前世の記憶と重ねつつ、

 胸中の海に深く沈めるしかなかったーー。




 


 お読みいただき、ありがとうございます。

 引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )

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― 新着の感想 ―
楓さん、更新お疲れ様です! ギャラン爺さんの圧倒的な覇気にハラハラしていたら、コガラちゃんにデレデレなおじいちゃんになって笑いました( *´艸`) 『おじいちゃーーん!』の叫びも可愛すぎます! そ…
おじいちゃんのシルエットを見た時に「あれ……水戸⚪︎門に似てる?!」と思いました笑 ゴクトーさんが「水戸の御老公かッ!」とツッコミを入れるシーン、めちゃめちゃ好きです。 『イセトラ』は登場人物が全…
コガラちゃんとギャランさんの再会に、ほっこりしました♪(о´∀`о) 砦全体が揺れ、ヴォイングまで怯えるほどの存在感でギャランさんが現れる場面は迫力があり、妖精龍の長という格の高さがひしひしと伝わっ…
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