揺れるズードリア大陸編 15 〜万能薬は、重なる奇跡が齎す〜
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このエピソードは短めですが、どうぞΣ('◉⌓◉’)
「ザ……ミンシア聞こえるか? ミンシア!」
「あら〜坊や、何をそんなに慌てて、
ザ……アタシの声が聞きたくなったの?……ふっ、冗談よ。
その声の様子からして何かあったの?」
スピーカー越しから聞こえるミンシアの揶揄うような声。
通信魔導具から浮かび上がるーー
パネルスクリーンに、ミンシアの姿が映し出された。
彼女が揶揄うような視線で、こちらを見つめている。
こっちの気も知らないで、と思いつつも、
相変わらずの魔性っぷりに顔をしかめてしまった。
俺は通信魔導具のボリュームを上げ、口を近づける。
「ミリネアから聞いたんだが、
ザ……今、万能薬が必要なんだ。
高価なのは知っているし、もちろん代金は払う。店舗に在庫はあるかい?」
「ザ……今はないわよ。万能薬は精製するのに、世界樹の葉、
アダマンタイト鋼と緋色金の結晶、聖水もしくは龍の涙。ザ……
それにSS級以上の魔物の魔石と、不死鳥の羽がいるのよ……
とんでもなく貴重で希少なものばかりだから、
そう簡単には、素材が集まらないわ。
でも、ザ……アタシの里にある世界樹の葉ぐらいは、持っているけどね」
告げられた素材の多くは、俺でも知っている高価な物。
ふと俺はあることに気づいたーー。
SS級の魔物の魔石は、ダンジョン攻略を成し遂げた際、
ラスボス、『ゴルゴン・キング・サーペント』を倒した時の魔石が、
手元にある。
アダマンタイト鋼と緋色金の結晶は、ファルダット自由国で最も産出される。
そこの姫、イブなら持っているかもしれない。
この近辺には教会など無い、聖水の入手は不可能だろう。
代替えの龍の涙に至ってはーー
妖精龍のコガラや黒龍のクロニクがいるから、何とかなる。
だがしかし、不死鳥の羽は厳しすぎる。
何せその姿を見たこともない。
思考を逡巡させる俺の顳顬に、柔らかい声が響く。
《「ご主様、不死鳥の羽なら、数枚手元にございます。
以前にもお話した、ワタクシの従魔は、不死鳥でございますので」》
俺の思考を読み取るミリネアの念話に、また救われた。
《「……! ミリネア、本当か?」》
俺は驚きを抑え、彼女に強く頷きを返す。
不死鳥の羽という伝説級の素材が、実は身近な場所にあったという事実。
俺の妄想ですら辿り着けなかったその幸運に、
思わず口元が緩むのを禁じ得ない。
「……ミンシア、聞こえるか。ザ……素材は揃う。
……いや、揃えられる目処が立った」
通信の向こうで、ガタッと何かが落ちた音が聞こえた。
一時の間の後、姿が見えなかったミンシアからの通信が聞こえてくる。
「……へぇ。今『揃う』と言ったわね?
不死鳥の羽まで? まさか姉様の……ふふっ、本当に面白い男ね。
坊やがそこまで言うなら……ザ……
このアタシが世界で、一番の万能薬を調合してあげるわ。
ザ……とびきり急ぎなさいよ?」
「ああ。ジュリに迎えに行ってもらうよ。
ザ……彼女の転移魔法なら、すぐだからな……オバァ」
ミンシアとの通信を切ったその瞬間、
アザックに寄り添う帰巣の女将、アンリさんが涙を溢した。
アカリとパメラもどこかホッとした様子で胸を撫で下ろす中、
医務室内の空気がふっと軽くなりつつも、
アナ・ドレン准将とミテミナ・ビボウだけは、目と口を開いたままだった。
言えば彼女たちは軍人。
魔物退治で魔石を拾うことは、あるだろう。
さらに言えば、怪我の治療や悪霊退治に聖水や、
アダマンタイト鋼の武器や防具も使うだろう。
だがーー世界樹の葉や、龍の涙、
それに不死鳥の羽に至っては、俺たち冒険者の領分。
彼女たちには普段耳にしない言葉だ。
当然の反応と言ってしまえば、そうかも知れない。
砦に籠もり、呪詛の深淵を前にして為す術を失っていたーー
彼女たちからすれば、俺たちの会話は『呪文』に等しい。
俺は、呆然と立ち尽くす二人の少将、准将へと向き直る。
女将アンリさんの瞳に浮かぶ涙は絶望ではなくーー初めて射した希望の光だ。
その光を、俺は絶対に消さない。
「少将、准将。失礼を承知で言わせてもらう」
俺はベッドの傍らまで進み出ると、
黒い紋様が蠢くアザックの胸元を指し示した。
「……これから、この医務室で『調合』を始める。
二人の騎士殿には、ただこの場を守っていてほしい。
……あえて言おう。
この部屋の扉は、何があっても開けさせてはならない。
アザック騎士団長の命を救うための……
呪縛から解き放つ儀式も行うからな」
ミテミナ少将が、鋭い観察の眼差しを俺に向ける。
彼女の矜持を刺激するような物言いかもしれないが、
今は背に腹は代えられない。
俺の脳裏に、森の気配と、この砦の澱みが交差する。
歴史の軋む音が、耳の奥で大きく響いた。
「ジュリはすぐに戻る。その時、おそらく……
この砦の常識を根底から覆す『客人』も一緒に来るだろう。
……心して待っていてくれ」
俺がそう言い切った瞬間、砦の外、遠く離れた森の方角で――
まるで大地が歓喜の声を上げるような、地鳴りが響いた。
それは魔物や軍の行軍とは違う。
もっと重く、古く、慈愛に満ちた、大気の震え。
アナ准将が弾かれたように扉の方を見る。
「……今の音は、一体?」
「歴史が動き出す音だよ」
俺はニヤリと笑い、アザックの呪詛を解くため、
妄想眼”死線”の焦点を、より深く、深く――
その黒い紋様の核へと突き刺した。
そしてーー『妄想図鑑』のページを捲る。
ーーその様子を天界で見ていたトランザニヤがポツリ。
「ゴクトーのやつ、万能薬だけで呪詛が解けると思ってやがる。
まだまだ詰めが甘い……。
ん? 何ぃ? 呪詛解除にあの図鑑から……
まさか……大峡谷の長を呼び出すつもりなのか?」
その言葉は、キヌギス砦に注がれた太陽をまるで隠すように、
雲の流れを急速に早めたーー。
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