新装備仕立て編 9 〜「あるじーー ”おなかしいた”ーー!」〜
新装備仕立て編 完Σ('◉⌓◉’)
◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇
「……昔、この村で聞いた噂話では、
『始祖の一族』の末裔であるトランザニヤ人以外にもーー
【神】に近い存在と呼ばれる種族が、ほかにもいたらしいのです」
「そうなのか?」
ジンロックに返すもののーー俺は、驚きで目と口を開けたままだった。
知らないことだらけだ……浅学非才って言うんだっけか。
その意味すら、全然わかってないな……。
ふと七色の翼がバサッと俺の目を遮る。
次の瞬間、コガラが悪戯っぽく目を細めた。
「あるじ、わかってないんさ!」
きっと俺の思考を読み取ったに違いない。
コガラのノビ訛りに、思わず口元が綻ぶのが否めない。
だが、どうしたものか……
このままでは、コガラのコトバがノビ化してしまう。
そんな俺の戸惑いを他所に、
ミリネアが興味津々といった様子で会話に割り込んできた。
「……ご店主殿は、『七星の武器』のことを……ご存じなのですか?」
彼女のその目は好奇心に輝いている。
一方でメンバーと師団長たちも黙って耳を傾けていた。
場がしんと静まる中、ジンロックが丁寧な口調でミリネアに答える。
「『七星の武器』、ですか……詳しいことはわかりませんな。
ただ、ハゴネに住む友人から、そんな話を聞いたことがあります。
その友人が言うには、彼も七星の武器に大きく関わっているとか。
まあ、友人と申しましても、
たまに、お客様の要望でーー『ヤマト』の着物を作って欲しいと言われ、
彼から古着を譲ってもらう仲でして……
まぁ、商人としても古い付き合いですがね……」
ジンロックの言葉にピンと来た。
思い当たる節があるーー。
俺は、身を乗り出して尋ねてみた。
「もしかして……その友人って、ホビットのプレシャス翁のことか?」
ジンロックが目を見開き、驚きの表情に変わった。
「え! 何故、その名前をご存じで?」
「ワイバーン討伐のときに、だいぶ世話になったんだ」
そう答える俺は、去ってからまだ日も浅い、
ハゴネの記憶が頭をよぎったーーその矢先。
アリーが垂れ耳をピクッと動かす。
「お魚が旨かったにゃ!」
手をあげた彼女がニコッと白い歯を見せた。
その刹那、金色のふわふわ首巻きが俺の視界の端で揺れる。
「うまかったにゃ!」
笑顔を見せるコガラが、待ってましたと言わんばかりに、
アリーのコトバを追従する。
ほんと、どうしたら良いのだろうか……?
このままでは、コガラのコトバがアリー化してしまう。
胸中ではリフレインが続いていた。
そんな俺の脳内に頼りになる上品かつ、澄んだ声が響いた。
《「ご主様、コガラは知能も高く、脳の発達途上においてーー
『コトバの学習』、インプット・アウトプットを、
繰り返し、しているためだと思われます。
ですから今は好きなだけ、やらせてあげるのが良いかと……」》
《「さすがミリネア、博識だ」》
念話を返す俺と目が合うとミリネアが頷き、
コガラの頭を「ヨシヨシ」と撫でた。
気持ちよさそうに目を閉じるコガラに場が和む中、
目をパチパチと瞬かせるジンロックが口元を緩める。
「そうでしたか……あの方は、面倒見が良い御仁ですからな。
暫く会っておりませんがね……」
そう言いながらジンロックが息をつく。
どこか寂しげで残念そうな顔を見ながら、
どうにかできないものかと思考を逡巡させる。
次の瞬間、ピカンと脳内で電球が光った。
きっと『江戸っ子鼓動』の機転だろう。
良いアイデアが浮かんだ俺は、ジンロックに『通信魔導具』を指差した。
「実は、俺たちはいつでも翁と話ができるんだ。この魔導具を使ってな!」
通信魔導具の周波数を、
翁との会話用周波数に合わせ、スピーカーを“オン”にする。
一同が興味深々といった表情で見守る中、
初めて使う通信魔導具にやや緊張してしまう。
雑音がザーと流れるが、気にせず口元に寄せた。
「こちらゴクトーだ。翁、聞こえますか?」
暫くの沈黙の後、スピーカーから懐かしい声が響いた。
「ゴクトーさん……聞こえますよ。ほっほ。ザ……通信ありがとうございます。
ザ……ワイバーンは無事討伐できましたかな? 」
「無事討伐できたさ。
数は相当いたが、メンバーとコガラがな、やってくれたよ」
「それは僥倖なことで。ほっほ」
「今な、翁の友人に会ってるんだ。その人に代わるよ」
「友人……ですか? ザ……」
俺は通信魔導具をジンロックに渡した。
ジンロックが恐る恐るスピーカーに向かい話し始める。
すると、翁の声がさらに一段、柔らかくなった。
「おお、ジンロック殿……お久しぶりですな。ほっほ」
二人は、旧交を温めるように暫く話を弾ませた。
ーーやがて、ジンロックが少し疲れた様子で、
通信魔導具を俺に返してきた。
「だいぶ疲れてるみたいだが……大丈夫か?
もっとゆっくり話をしてもよかったんだぞ」
ジンロックが、苦笑しながら唇を噛む。
「通信魔導具は、かなりの魔力を消費しますので……
私にはこれくらいが限界でしてな」
「そうなのか? 俺は全然苦にならなかったけどな……」
俺の何気ない一言にジンロックの目つきが鋭さを増し、
目力を込めたその瞬間、赤い瞳孔を光らせて俺をジロリ。
なんだ……? 血が騒ぐ。どこか懐かしい感じがするのは気のせいか?
あの目はどこかで見た気がするーー。
しかし、ジンロックがこんな目で俺を見るなんて、
なんか気に障ることでも言ったか?
突然、睨まれる羽目になった俺の心中は複雑で、言葉にも詰まる始末。
少し気分を害した俺は、通信魔導具をつけ直す。
そんな俺を察するかのようにミリネアの念話が顳顬に響く。
《「ご主様、普通の人種には、貴族でもない限り、
通信魔導具を使っての会話は、魔力の消費が著しいのです。
それでも、ここのご店主ーー
ジンロック殿はかなり長く通話されていた方かと……」》
《「そうなのか、使ったことがあるのか?」》
俺が念話を返すと、無言で頷くミリネアの声が再び響く。
《「あの魔力の量は、人種ではないのでは?
それにあの赤い瞳孔……
まさか、噂で聞く狼人間なのではと、
疑わずにはいられません。
ですが……ご主様の魔力の量も、桁違いすぎて……」》
念話を寄越すミリネアが言葉に詰まりつつ、苦笑を浮かべる。
申し訳なさに苛まれ、思わず自分の腕に目を落とす。
この『通信魔導具』ですら、まだ知らない事が隠れている。
『始祖の一族』の“深み”を垣間見せるーー
これもひとつの道具にすぎない。
まだまだ知らないことだらけだーー。
そう胸中で言葉を並べ、それを踏み台にしながら吐露する。
「これからだ!」
「オイラたちは、”ここから”なんだよ、兄貴!ははははは」
さりげなく俺の思考を読み取るーークロニクが零しながら笑った。
そうだ。
ここから、知っていけばいいんだ。
俺はそう思わずにはいられなかったーー。
***【天上の神々】***
下界から顔を上げる神シロがポツリと零す。
「ゴクトーのやつ、とうとう血の定めに、気づきおったな」
その言葉が雲間に消えていく中、
妻の女神東雲は顔を上げながら笑みを溢し、
一方、トランザニヤだけが複雑な面持ちを顕に、
無言で下界の一点を見つめていた。
ーーその頃ゴクトーは、仕立て屋ジンロックにて、しばしの談笑を終え、
清算する運びへと場の空気が流れていた。
◇(再びゴクトーが語り部をつとめます)◇
「これは頼まれていた、別注品です」
ジンロックが商人らしい柔和な顔つきに戻り、俺の前に立つ。
『バスケット』から、布油紙袋を四つ取り出し、
それをジンロックが笑みを浮かべ、俺に差し出す。
「ああ、恩に着るよ。無理を言って済まないな。それともうひとつ頼む……」
俺はジンロックに軽く耳打ちし、彼が「ほぅ?」と驚いたような顔で頷く。
それを確認して、貰った布油紙袋を『アイテムボックス』に収めた。
その間、一同は漆黒のローブを羽織りながら、
何やら不思議そうな顔をして、俺を見ている。
一方で、ココリドは店の奥で、
ジンロックの妻、カナリドと金額について話し合っていた。
ココリドの横顔は、真剣そのもの。
『裁縫師』としてのきめ細やかさと、商人としての豪胆さを感じさせる。
やがて、計算が終わり、
ジンロック一家は、揃って俺の前に立った。
「こんなに大量の注文をしてくださって……
本当にありがとうございます。これはいただいていた前金、
白金貨10枚を引いた残りの額でございます」
カナリドが丁寧に頭を下げながら、
殴り書きした計算が色濃く黒く滲む、羊皮紙の伝票を俺に見せる。
その仕草は質素だが品があり、
この店の品質とこだわり、さらに誇りすら滲ませる。
そんな中、広げた羊皮紙の金額を見るーーノビが、驚きの声を上げた。
「し、白金貨970枚? したっけ、金貨にしだら、9700枚にもなるんさ!」
本当に空気を読まない。たかが白金貨970枚に大袈裟だ。
俺たちの資金は潤沢。
ワイバーンの買取金の白金貨が44,720枚。
そして、討伐報酬の白金貨も40,000枚。
ーー合計白金貨84,720枚ある。
これは後ほど、7人で山分けするとしてーー。
一人当たり白金貨が約12,000枚だ。
そのほかにもダンジョンクリアの際の報酬ーー白金貨が3000枚。
俺個人が持つ白金貨が287枚ほど。
今の俺たちに、白金貨970枚など、たかが知れてる。
俺は白金貨が入った大袋を『アイテムボックス』から、
「よっこらしょ」と担ぎ上げ、カウンターの上に出した。
ジャラジャラと袋から流し出す白金貨を、
ミリネアとアカリ、パメラが手際よく数える。
さすがサブリーダー、頼りになる。
白金貨が積み上げられ、9個目の山が出来つつある中、
俺はアカリに耳打ちした。
頷く彼女が10個目の山を作り上げる。
そして俺は軽く頭を下げながら口を開く。
「代金だ。いろいろ世話になった、メンバーも喜んでるよ」
「っえ? 多すぎます!」
「いや、それは取っておいてくれ。追加で別注文もしたし、
無理を言ったからな。それに、貴重な話も聞けたしな」
俺が笑って軽く手を振ると、カナリドが恐縮しつつ頷いた。
そんな中、揉み手をするジンロックが上機嫌に白い口髭を動かす。
「……それにしても珍しい『物』。
いや違いますな。珍しい『命』を拝見させていただきました。
昔、あなた様と似たような目をした国王を、
あの島国ーートランザニヤで見た覚えがあります。
まだ幼い頃でしたが、どこかあなた様に似ているような……。
ところで……あなた様のお名前をお伺いしても?」
「俺はゴクトーだ。また来るよ」
「やはり勘違いですか……」
名乗った俺に、ジンロックが一言漏らす。
「間違っては、おらんぞ!」
頭上から嗄れた声がわずかに聞こえた気がした。
ジンロックも呆気に取られていたがーー
すぐに満足そうに微笑み、
妻のカナリドは聞こえていない様子で、丁寧に何度も頭を下げていた。
「ゴクトー様、ありがとうございました。
またのご来店をお待ちしております」
娘のココリドに見送られ、店を後にする。
空が深い藍色に染まり、
星々が静かに瞬き始める頃、街の風景は徐々にその輪郭を失っていった。
メイン通りには、
ひとつ、またひとつと街灯が灯り、温かな光が周囲を包み込む。
柔らかな光が舗装された石畳を優しく照らし出し、
俺たちの影を長く引きずる。
通り沿いに軒を連ねる屋台からは、
香ばしい匂いが漂ってくる。
獣人や魚人たちは、ベンチに腰掛け、
エールを片手に陽気に談笑している。
ーーそれは、ビヨンド村の活気ある息遣いを感じさせた。
その時だーー。
俺の肩からコガラが羽ばたき、無邪気な顔で、
俺の顔を覗き込んでコトバを飛ばす。
「あるじーー! ”おなかしいた”ーー! ピー♪(ちゅづく)」
新装備仕立て編 完
お読みいただき、ありがとうございます。
次話より新編突入です。
引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )




