新装備仕立て編 8 〜テンガロンハットの謎解きに、俺の思考がぐるぐる回る〜
意外な展開Σ('◉⌓◉’)
下界を覗き込んでいたトランザニヤが急にガバッと顔を上げ、
黒銀の瞳を見開いた。
「まさか……あのジンロックの爺様、人種ではないのか?」
その驚きの声に、神シロが白い顎鬚を撫でながら零す。
「あれは……人種にうまく化けた狼人間じゃな。
きっとお主が作った国の眷属の一人ーー
あの離島、トランザニヤから移住したものじゃろう」
そう言いながらニヤリと口元を緩める。
まるで見透かしたような神眼に自身もまんざらでもない様子。
その言葉と仕草に、妻の女神東雲も言葉を添える。
「そうでしょうとも……わたくしも肌で感じますよ。
あの娘ーーココリドちゃんの魔力は常軌を逸していますわ……。
でないと、この【ドナイヤ・シリーズ】の魔力付与は納得できませんから」
そう言いながら女神東雲は満足げに、
神シロが開いたネットショップの画面をプンッと閉じた。
ーーその頃、ゴクトーはメンバーたちが装備を揃え、お披露目する中、
計算を終えたジンロックに装備の金額、
その総額が告げられるのを余裕の表情で待っていた。
◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇
「ずっと気になっておったんですが……
そのテンガロンハット、少し見せていただけませんか?」
ジンロックが真剣な表情で、静かに口を開いた。
その意外な申し出に、俺は一瞬戸惑ったがーー
特に断る理由もないので軽く返事をする。
「ああ、構わないが……」
俺は被っていたテンガロンハットをジンロックに手渡した。
彼は慎重な手つきでハットを受け取り、
双眸を細め、鋭い眼光を宿し、隅々まで観察し始めた。
その様子はまるで、手にした物が単なる帽子ではなくーー
とんでもない価値を持つ宝物であるかのようだった。
一同の視線が、ジンロックに注がれる中、
妻のカナリドと娘のココリドも黙って、見守る。
静まり返る店内に、どこか緊張した空気が漂い始めた。
ジンロックの指が、ハットの表面をなぞり、
生地の質感を確かめる様子に、俺は思わず固唾を呑んだ。
一方でノビの固唾を呑む音もーーゲコリと響く。
それが、緊張感を台無しにする。
さすが空気を読まない男だ。
そう思っていた俺にジンロックが鋭い目を向けた。
「さっき……このテンガロンハットが、笑ったように見えたんです。
驚きましたな……触った感じもーー
我々が使う素材とは、まるで違う物を使用している……これは……」
ジンロックがテンガロンハットをひっくり返し、内側まで確認する。
「笑った……?」
俺は思わず問い返したが、ジンロックの語尾がさらに真剣さを増す。
「まだ幼き頃ーーかの小国トランザニヤから私ら親子は、
この地に移住しました……実はトランザニヤの北の森、暗い洞窟のなかで、
不気味に笑った仮面を見た時の感覚と……似ているのですよ、
このハットの気配は……」
「は? トランザニヤ?」
クロニクが目を丸くしながら驚きの声を上げた。
彼が顎に手を添えて何かを考え込む。
一同もジンロックが持つテンガロンハットから目を離さず、
『トランザニヤ』と言う言葉に、ただ息を呑んでいた。
一方で、渋い表情を滲ませるジンロックが口を開く。
「もしかすると……これは『始祖の一族』の末裔ーー
トランザニヤ家の者が作った【変異生命体】かもしれません……
私も実物を見たことは、ありませんがね……」
ジンロックの言葉に、俺は眉をひそめる。
「【変異生命体】? それに『始祖の一族』……
よく耳にはするな。詳しい話は知らんがーー
トランザニヤ家が『始祖の一族』の末裔なのか?」
俺の問いに、ジンロックが頷きつつ、少し困ったような表情を浮かべた。
「そうですな……ただ、詳しいことは私もよく知らんのです。
これは父から聞いた話で……。
トランザニヤ家というのは、なんでもーー
【神】のような力を持っているらしいとのこと……」
重くなる空気に包まれるようなーージンロックの言葉をミリネアが遮る。
「ワタクシもトランザニヤの歴史は調べておりましたが、そこまでとは……」
そう言ってミリネアが肩を落とした。
天井のシーリングファンがカタカタとプロパラを回す。
重くのしかかる空気を読まずーーこの男が口を開く。
「神なら、したっけ、会ったら、拝み倒すんさ!」
「ややっこくなるから……貴様は、でしゃばるなああああ!」
パメラの“怒号”が炸裂発射。ノビの「ケロッと」号も慌てて発車。
恒例行事にジンロック親子が目を丸くする中、
一瞬だが緊張が削がれる。
俺はジンロックに促す。
「すまん、もっと詳しく教えてくれ」
彼は「かしこまりました」と。
テンガロンハットをカウンターに置いてゆっくりと紡ぎ始めた。
「その神に等しい力とはーー
【古代魔法】と【錬金魔術】を自在に操るというもの。
それに加えて、彼らはさらに、代々受け継がれてきたーー
『始祖の一族』固有の能力を持って……」
ジンロックの声が低くなり、言葉に詰まる。
話す内容が内容だけに、場の空気に何かの重圧が増していくのを感じた。
「その能力の中でも、特に特異なのは……
相手の【血】を奪い、姿や能力までも、
真似ることができるという点ですな。
その逆も然りーー自分の【血】を与えて、従わせることができるんです。
それどころか……死者をも甦らせることさえできるとかーー
恐ろしい話ですが、もっと驚くべきことがありますぞ」
ジンロックが、チラリとテンガロンハットを一瞥して続けた。
「トランザニヤ家の人々は、『物』に命を与えることもできる。
これが【変異生命体】と呼ばれる存在です。
自由に動き回れる『物』であり、魔力を持ち、【古代魔法】を操る。
さらに、己の意思を持ち、話すこともできるーー
まるで魔物と人の『合いの子』のような存在と、言えましょうな。
そしてトランザニヤ家の人々は、自らが作り上げた【変異生命体】や、
従えた者たちを『眷属』と呼ぶそうでしてーー」
ジンロックの言葉は、どこか呪術めいていて、背筋が寒くなる。
「眷属、ね……」
俺がつぶやくとミリネア、ミーア、妖精竜のコガラまでーー
テンガロンハットを見つめる。
きっと彼女たちは、自分が俺の眷属なのを、
どこか誇りにしている風がある。
彼女らの表情の変わり方は、あからさまに嫌な感じはしない。
それどころか、まるで同胞を見るかにような目つきだ。
ジンロックに言われてみれば、このテンガロンハットは確かにーー
ただの物とは、思えない存在感を放っている。
それが意志を持ち、生命を宿していると言われても、
いまいち実感は湧かない。
だが俺は以前、
宿屋帰巣の階段で頭上から耳にしたーー低い嗄れた声を思い出していた。
そんな中、ジンロックが再びテンガロンハットを掲げ、下から覗く。
「このテンガロンハットは……随分とーー」
ジンロックが、慎重な手つきで帽子をひっくり返し、
恭しいとも言える態度で、「"大人しい”ようですがね」とつぶやく。
その瞬間、静かに聞き耳を立てていたジュリが、唾を呑み込んだ。
「【変異生命体】……何それ……?……でも、だからかぁ。
河原で見つけて、拾い上げた時、濡れてなかったのね……
変だと思ってたの……これで納得したわ」
ジュリが疑問の答えを言葉に乗せ、納得したように頷いた。
一方、その隣ではアリーが「僕が見つけたにゃ……」と、小さく零す。
するとジュリが再び口を開く。
「……そういえば、あの時、この帽子を拾った瞬間ーー
妙に、泣きそうになったっけ。意味や理由もわからないのに……」
そう言いながらテンガロンハットを見つめるジュリの目には、
どこか慈愛の色が滲んでいた。
警戒、恐怖というより、好奇心のほうが、勝っているようにも見える。
一方で俺は、テンガロンハットを見つめながら思わず零す。
「このテンガロンの正体が……【古代魔法】を操る……
【変異生命体】……話したり、動き回ったりもするのか……」
自分でも驚く程、声に疑念が混じっていた。
俺はテンガロンを手に取り、改めてじっくりと観察してみる。
「そう言われても、まだ信じられない。
動いてるところを……見たことがないからか……」
手に馴染む感触は、いつも通りだし、表面も普通の生地にしか見えない。
それでも、この帽子がただの『物』ではないと言われた以上、
どうにも落ち着かない。
「……そう言えば、このテンガロンハットは、
このビヨンド村の魔導具屋で……見つけたものなんだが……
そんな稀有な『物』が何故、こんな田舎村に?」
俺の問いに、ジンロックが軽く顎を撫でながら答えた。
「きっと、トランザニヤ家の者がこの大陸に置き去りにしたーー
『物』でしょうな。
かつてトランザニヤ家ーー
『始祖の一族』は、この大陸に住んでいた人々でもありますから。
彼らが国々を巡り……
この村に辿り着いた際に、遺したものなのかもしれません」
「そうか……納得できる説明だな」
「……ただ、長い時を経て、自分を創った主の意思を忘れ、
暴れ出した変異生命体の逸話もあるそうです。
忘れてはならんのはーーこれは『物』ではなく、『成りかけの命』なのです」
「成りかけの命……」
俺の声と共にジンロックが頷き、テンガロンを見つめながら続けた。
「そしてきっと、このテンガロンハットは、あなた様に見初められたのです。
ここまで、これが大人しくしているのは、
己であなた様の【眷属】となることをーー
自覚しているからでは、ないでしょうか?」
ジンロックの声は穏やかだったが、
その内容は俺にとって、重すぎる。
「自覚……ね……」
思わず、手の中のテンガロンを見つめ直す。
これが意志を持っている……?
一瞬、心の奥で“言葉にならない、反応”を受け取った気がした。
頭の中で、疑問が次々と湧き上がる。
……【変異生命体】? 魔物と『人』との合いの子だと?
次から次へと、俺の知らないことだらけだ……
なんで“俺”なんだろ?
こいつが何を見て、何を思って、俺を選んだっていうんだ?
テンガロンをじっと見つめながら、思考を逡巡させる。
【変異生命体】って、飯は何を食うんだ?
俺の髪を食ったりしないよな……?
もし話しかけられたら、なんて答えりゃいいんだ?
突然動き出したらどうすればいい?
急に飛んだり跳ねたりするかもしれないしーー
いきなり【古代魔法】を使うなんてことも……
いや、それはさすがにヤバ過ぎる……。
考えれば考えるほど、不安は募る一方だ。
そんな中、 クロニクがテンガロンを見つめ、ぼんやりとつぶやく。
「【変異生命体】……【血】を与え従えた者や、
蘇らせた死者を【眷属】にする……『始祖の一族』の末裔、
トランザニヤ家の人々か……龍王のガザグの爺さんの話によく出てくるぜ」
そう言って肩を窄めた。
その言葉は静かに耳を傾けるーー
ジンロックの妻、カナリドと娘のココリドの表情を見事に変えた。
一方のジンロックは、クロニクの金の双角を見ているが故に、
その表情は変わらなかった。
だが俺の心中は、再び葛藤の渦を巻く。
待てよ……【変異生命体】ってことは、
念話で話すこともできるんだろうか?
ミリネアやコガラみたいに……?
ん? 待て……『成りかけの命』だけど【変異生命体】ってことは、
従魔みたいなものなんだろうか?
次の瞬間、頭の中にあることが閃光のように走った。
……ってことは……!
名付けて、登録しないとマズいんじゃないのか!?
焦りが、一気に押し寄せてきた。
……名を与える。
それは、従えることじゃない。
この【変異生命体】の『命』を背負うってことなんだーー。
俺はテンガロンの名前を真剣に考え始めたーーその時。
《「名はあるぞ。ジャック・ブラックという名がな」》
俺の顳顬に響いた嗄れた声。
息も止まり、胸の『江戸っ子鼓動』が昂りを顕にする中、
俺は聞き間違いではないかとーーその声の主を探した。
だが、ミリネア、ミーア、コガラまでが表情を変えていた。
このテンガロンハットは、明らかに自身の意思を持つーー間違いない。
一同もまだ事態を完全には、理解できてはいなかった。
そんな俺の横で、ジンロックが低い声でボソリ。
「かつて『太古の大戦』で使われたーー
『七星の武器』の製法や、【古代魔法】……。
現在使われている『魔導具』なんかも……
『始祖の一族』から教わって作られた物だとーー
若い頃に父から聞きましたよ」
そう零すジンロックの瞳に、
遠い記憶を思い出したような影が差したーー。
お読みいただき、ありがとうございます。
引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )




