新装備仕立て編 3 〜思わぬ気づき〜
物語がまた少し動くーー!Σ('◉⌓◉’)
◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇
「さっきの美人さんたちは、もう帰っちまいましたか?」
店内の奥から戻ってきたーー店主のジンロックが残念そうに零しながら、
彼がカウンターの上に手を翳す。
すると、薄緑色したキューブ型、
大ぶりな『アイテムボックス』が現れた。
そしてーー
カウンターの引き出しから『天秤にコインが積まれたロゴ』が目立つ、
幾何学模様が彫られた黒い鍵を差し込み、
カチンッと音を立てながら横に捻る。
その瞬間、幾何学模様から金色の光が溢れ出した。
その光が収まると、ジンロックが手慣れた様子で、
仕上がったローブを次々と出してカウンターの上に並べる。
その光景に空気を読まない男ーーノビが口を出す。
「それ……オラでも入れますか?」
その問いに苦笑するジンロック。
だがノビの表情は真剣そのもの。
ゲラゲラとした笑い声が広がる中、イブが口を添えた。
「かなり大型じゃな。ご主人殿。
それは、『アイテムボックス』の商業版ーー
『バスケット』といったところかぇ?」
イブの問いにジンロックが口元を緩め、商人らしく、
にこやかに口を開いた。
「ええ、ご明察の通りでございます。
収納は『アイテムボックス』と、
なんら、変わりないのはもちろんですがーー
商業ギルドに登録して、実績を積み、ランクが上がりますと、
必然、ギルドに収める金額が増える仕組みになっております。
A級にまでなると、『拡張の鍵』と『展示の鍵』が、いただけるのです」
ジンロックの丁寧な説明に目を輝かせるイブが振り返る。
「マルル、メルルや、
そなたらの父は貿易商人じゃが、『拡張の鍵』と『展示の鍵』ーー
このような鍵は持っておったかぇ?」
その問いに姿勢を正すボイン師団長の双子。
名の通り、豊かな胸を揺らしながら姉のマルルが答えた。
「いえ、父は、航海ばかり、店舗は叔父に任せておりますので……
私もメルルも店舗には、あまり行く機会がなく……存じません」
「そうか……」
イブが残念そうに答える中、カウンターの下から声がする。
「『拡張の鍵』……違いは、複数のバスケットが、
一つの空間に繋がっていることね。
一方の 『展示の鍵』は、バスケットに入れた商品が、
共通の魔法市場に「出品」される。
もちろん商業ギルドの『監査魔導具』のチェックは受けるけど。
バスケットの中身を外から幻視できるの。
内部の商品が透けて見える仕組みには、わたちも驚いたわ。
客は直接触らずとも品定めができ、購入の意思を示すと取り出せる。
買い手が、別のバスケットから代金を入れると、
商業ギルドが手数料を計算してさっぴくの。
残りの代金が売り手のバスケットに届くーー
盗難防止も厳重、信用と実績がないと使えない、
『魔法フリマ』の鍵なのよ。わたちも持ってる!」
ーー小さなお立ち台の上で、鼻息荒く話すポロン。
さすが鍛冶師ギルドの理事だけあって、説明も上手い。
……良い話を聞いたな。
これは便利だ……ポロンも持っているってのか、助かるな。
そう思っていた矢先。
脳内にカチッとした音が響く中ーー
『妄想図鑑』から『江戸っ子鼓動』が、ひょっこり顔を出す。
そして、鼓動が指をぺろりと舐め、パラパラ図鑑のページを捲った。
「旦那さえ、その気なら、神代魔法を使うのも手でやんす。
図鑑No.01ーー赤絹・シタギの【朱染召喚陣】で、
妄想が現実化するサインさえ、彼女に出して貰えば……いくらでも……」
ぶつぶつ言いながら鼓動が横目で見る。
「おい鼓動……。それ、商業ギルドの連中が……
泡吹いて倒れるようなーー禁じ手じゃねえだろうな?」
俺の問いかけに、鼓動は「さあて」と肩をすくめる。
一方で、現実の世界ではポロンが、
「わたちもこの鍵を授かるまで、3年はかかったのよ!」と。
誇らしげに胸を張っている。
……もしシタギを呼び出し、
【朱染召喚陣】をこの『バスケット』に直結させちまったら。
商業ギルドの『監査魔導具』も、複雑な『手数料の計算』もすべてーー
飛び越えて俺たちのアイテムを「世界中どこへでも」瞬時に送り届ける、
超次元の物流網が完成しちまう。
それはもはや『フリマ』なんて可愛いもんじゃない。
世界経済のルールそのものを、俺の妄想一つで塗り替えるに等しい行為だ。
チラリとジンロックに目を向ける。
彼は長年、コツコツと実績を積み、
ギルドから『拡張の鍵』を授かったことを誇りに思って、
今の仕事をしている。
その隣で、ポロンもまた『職人の誇り』を持って理事の座にいる。
ーー便利さは喉から手が出るほど欲しい。
だが、安易に神代魔法で『完成されたシステム』をぶち壊すのが、
果たしてこの世界のためになるのか……?
「……旦那、顔が固まってやすぜ?
堅苦しいこたぁ抜きにして、ちょいと『試作』してみるだけでやんすよ」
鼓動が耳元で囁く。
その時ーー『Goddess』が残していった、
華やかなフローラルの香りが鼻をくすぐる。
そうだ。
彼女たちのような『放浪する強者』たちが、
もしこのシステムを使えたら?
滅びた国のアマゾネスたちが、
世界中どこにいても故郷の味や、
必要な装備を手に入れられるようになったらーー。
「……ポロン、ちょっと相談があるんだ。
その『展示の鍵』の仕組み……
もっと〝とんでもないこと〟に、拡張できるかもしれない」
俺がそう切り出した瞬間、店内の空気がピリリと跳ねた。
ジンロックが目を見開き、ポロンが「なんですって!?」と身を乗り出す。
妄想と現実、そして経済。
俺の『妄想図鑑』が、本当の意味で世界を回し始める予感がした。
だがーー。
自身の葛藤を抑えつつーー胸の波打つ海に沈める。
今はまだ、その時ではないと俺の直感がそう感じさせたからだ。
ーーその時、下界を眺めていた三柱がガバッと雲間から顔を上げた。
***【天上の神々】***
「おいおい、これって、世界が変わっちまうし、まずいんじゃないのか?」
黒銀の瞳を丸くするトランザニヤがそう言うと、神シロがため息をつく。
「ワシは、そう言う使い方をさせたくて、
ゴクトーに『妄想図鑑』を授けた訳じゃないんじゃが……」
モゴモゴと言葉を落とす神シロに、女神東雲の眉がつり上がる。
「あなたああああああ!
何故、こうなる事を予想できなかったのですかああああ!!」
女神東雲の怒号が天上界に響く中、地上のある地域では竜巻が起こる。
木々は倒れ、川の水まで吸い上げ、荒れ狂う始末。
ーー地上では、「また天変地異が起こったぞ!」、
「神様、どうか怒りをお沈めください」と実しやかに囁かれる。
一方でジンロックの店内にも強い風が吹き込んだ。
店内の反物や糸が宙に投げ出され、
大きな裁ち鋏が、ガシャンと音を立て、作業台から姿を消す。
そんな中、編み込んだ長い茶髪を靡かせ、
ポロンが「今の竜巻、お兄ちゃんのせいじゃないわよね?」と、
疑いの目を向けていた。
ーー丁度その頃、店内の異変に気づいたジンロックの妻カナリドが、
慌てながら娘のココリドと奥から戻ってきた。
◇(再びゴクトーが語り部をつとめます)◇
「ああ、なんてこと……」
ジンロックの妻、カナリドがポツリ。肩を落とす。
その様子に娘のココリドが母の肩を抱きしめた。
「大丈夫よ、お母さん、すぐに片付くわ」
そう言って娘のココリドがニコリと微笑む。
その言葉に、アリーの垂れ耳がピクッと動く。
「手伝うにゃ!」
なんともアリーらしい発言に仲間たちも頷く。
遠慮するジンロックたちを他所に、アカリとミリネアが指示を出す中、
一方でパメラが「【クリア・クリンネ】!」と、
清掃と浄化の補助魔法を唱える。
なんとも頼もしいサブリーダーたちだ。
一方でコガラがパタパタと飛び回り、反物を起用に棚に収める中、
俺は落ちたカラフルなミシン糸を必死に回収する。
ひと通り片付け終えると、ジンロックが口を開いた。
「ありがとうございます。助かりました」
その言葉とともに、
妻のカナリドと娘のココリドも深々と頭を下げた。
「これって、もしかしたら……いや、なんでもない。
そんな深々と頭を下げないでくれ。困った時はお互い様さ」
俺がそう答えると、ジンロックがどこかバツが悪そうに口を開く。
「実はさっき帰った美しい方たちのことで、ご相談が……。
お知り合いのようなのでお話しいたしますーー
リーダーらしき方から、前金は頂いたのですが……
それだけじゃ足りなくてですね……」
歯切れの悪い言葉を口にした。
「なんだ、そんなことなら俺が払うよ。
もちろん、ここにいる全員の分も含めてな。
元々、メンバー全員の服を仕立てるつもりだった」
「……全員、お仲間なんですかな?」
「そうだ。彼女たちもな……仲間だ」
「お仲間……か。
どの方も、ちゃんと“自分の色”を持ってらっしゃる。
仕立て甲斐がありましたよ」
俺の言葉にジンロックが納得したように頷き、
妻のカナリドに向かって声をかける。
「カナリド、計算を頼むぞ」
「ええ、あなた。でもこれだけは言わせてください。
私たちは……戦いに向かう人の服には、
『帰ってこられるように』って、祈りも込めるんです」
そう言って、妻のカナリドが笑みを溢し、
帳簿を手に取ると、穏やかな表情で計算を始めた。
一方で娘のココリドも、父親の指示を受けると、明るい声を響かせる。
「それじゃあ、仕上がったローブとブルゾン、スカート、
それとオーバーオールも持ってきますね。女性の方々はこちらへどうぞ!」
そう言ってココリドが手招きした。
女性メンバーが、仕切りのある”フィッティングスペース”へ向かう。
そんな中、ジンロックが漆黒のローブとジャケットをクロニクに手渡す。
黒のレザーパンツまで受け取るクロニクの目が丸くなった。
黒いジャケットには龍の翼のデザインが型押しされていたからだ。
「これ、すげーな。オイラの好み、注文通りだぜ!」
クロニクが、歓喜の声を上げ、
すぐに、ボロボロだったーー
ナガラ師匠が着ていたスター◯ォーズ・オビ◯ン風の服を脱ぐ。
黒のレザーパンツを履き、ジャケットを着込み、
バサッと漆黒のローブを羽織った。
高身長で筋肉質な体格に、
仕立てたジャケットがピタリと嵌まる。
黒のレザーパンツも相まって、
鏡に映るその姿は、まさにモデルのよう。
「よくお似合いですな」
ジンロックが満足げに零す。
「ああ、よく似合ってるぞ、クロニク」
俺も素直な気持ちを口にした。
クロニクが嬉しそうに鏡越しに自分を眺め、肩を軽く回す。
「こりゃぁミーア姫も、オイラに惚れるな……ククククク」
ニヤッとした表情で、ジャケットのフィット感を確かめていた。
「兄貴、ありがとよ。オイラにピッタリだな!」
ーー完璧な職人の仕事。
微笑むジンロックが羨ましいそうに見ているノビに、
「ケロッグ・フロッグさんのところのーー息子さんには、これを」と、
一枚の上着を手渡した。
手にしたノビが「したっけ。着てみるんさ」と言って、
『アイテムボックス』からイブに錬成して貰った、
ミスリル鋼の胸当てを身につけた。
その姿を鏡で一度確認。
そして、手渡されたローブジャケットを羽織る。
うまく説明できないが、ローブ兼ジャケットのようだ。
肩口まではトノサマガエルーー胸より下は漆黒のローブーー。
といった感じの奇抜なデザインなのだが。
思わず口から零れた。
「ノビ、お前、似合うな」
「……あ……りがどう……ござい……まづ」
俺の言葉にノビが頬を赤くする。
「したっけ、先生にも早ぐ、見てもらいたいんさ……にひひ」
つぶやくノビにクロニクが笑みを溢す。
しかしよく似合う。
そのジンロックのセンスと感覚に、感心しながら口を開く。
「ジンロックさんは魔術師か?
それともまさか……伝説の計測神、メジャーなのか?」
俺が問いかけたその刹那。
店内の空気が波打ったような気がしたーー
いや、違う、確かに揺れた。
地面が、怯えたようにガタガタと震え、すぐに収まる。
「地震、がなぁ?」
「だろうな。 きっと、ハゴネの山が噴火したんだろうよ」
ノビとクロニクも、店が揺れたのを感じていた。
ジンロックが何やらボソボソと唇を動かす。
「……っ…! バレたか……この【覇気】は、
人族のものではないからのぅ……仕方あるまい……」
超小声で囁かれた言葉を察する俺は、
眉を寄せ、思考を巡らせつつ尋ねた。
「ジンロックさん、あんたまさか……」
「兄貴、それはオイラも……」
クロニクも口を揃えたその瞬間ーー空気を読まない男が口を開く。
「したっけ、ゴクどーさん? コロ肉さん……!
じゃなかった、クロニクさん?」
ゴゴゴゴゴ……
その言葉にクロニクの雰囲気が一変する。
彼の身体を包むのは、紅蓮の炎のように燃え上がる【覇気】だった。
それはまるで、複数の【覇気】が共鳴しているかのように感じられた。
その時俺は、自分自身に足りていないーー
“何か”が身体の中を走り抜けたのを感じる。
いつもの無骨な威厳とは違い、
クロニクからは、輝く【煌気】が放たれていた。
その光景に師匠の顔が頭を掠める。
【煌気】か……師匠が言ってたな。
『人族以外が持つ、【覇気】には種類があって、
それが読めるようになったら一人前だ』って……。
懐かしい記憶が蘇る中、
「したっけ、オラにも二つの【覇気】が見えたんさ……」と。
ポツリと零しノビが口元を緩ませる。
ああ、こいつ……ちゃんと、冒険者になったんだな。
俺は思いながらクロニクと顔を合わせた。
場に笑い声が響く中ーー
ジンロックが、どこかほっとしたような仕草を見せた。
そしてノビを見ながらネクタイを緩め、口を開いた。
「このデザインは、ワシがしたんですよ。よくお似合いです」
「ありがどうございまづ」
ノビが嬉しそうにジンロックに答えた。
喜びに満ちた表情で俺を見て、ニッコリ笑う。
その顔に自然とこちらも笑みが溢れてしまう。
そんな中、俺はコガラを撫でながら尋ねる。
「そうだ、この子にお願いしてたものは?」
ジンロックが頷き、金色のふわふわ首巻きを差し出した。
俺の肩に乗っているコガラの首元に、
ジンロックがふわりとした手つきで優しく巻く。
大人しく巻かれながら、コガラがコトバを飛ばす。
「あるじー、コガラもきれたーー!」
「良かったな、コガラ」
「うん、うれしいんさ〜〜!」
「ははははは。コガラ、ノビの真似をすると兄貴に叱られるぞ」
クロニクが冗談混じりにコガラを諌めると、
ノビも慌てて口を挟む。
「コガラ、真似じだらダメなんさ」
二人の言葉にコガラが、どこか悪戯っぽく楽しそうに笑った。
「へへぇーー」
その様子に、俺は少し手を焼きつつも目を細める。
一方でジンロックが驚いた表情で、
俺たちの会話を見守っていた。
ふとクロニクが腕を組み、渋い表情で俺を見つめる。
「兄貴、コガラがなんで、そんなにご機嫌か、わかってるのか?」
その問いに少し戸惑い、肩をすくめながら答えた。
「ん? 服ができて、嬉しいんじゃないのか?」
その言葉にクロニクが呆れながら口を開く。
「兄貴、コガラはな、
……メスなんだぞ。オイラの姪っ子だ!」
天上で回る、
シーリングファンのカタカタとした音だけが静かに響いたーー。
さーてと、コガラに何を着せようかなぁ〜 ੧(❛□❛✿)
引き続き読んでいただけたら嬉しいです☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆




