新装備仕立て編 1 〜度重なる偶然と運命〜
新編スタートですΣ('◉⌓◉’)
雲間から顔を上げる神シロに、優しく微笑みかける女神東雲。
その二人の姿をじっと見つめ、「ふぅー」と息をつく、
トランザニヤのその表情は、どこか羨ましげだった。
そんな中、神シロが再び下界を見ながらポツリと声を漏らす。
「今はまだ、平和じゃな……」
天上の雲がゆるりと流れ、その言葉は混じり合い、
地上を照らす夕陽が橙に色づく。
そんな穏やかな天界の神々のことなどーー
知る由もないゴクトーたちは、
エルダードワーフである鍛冶師のポロンと、運命の再会を果たしていた。
◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇
「これでよしっと。ポロンさんの『リリゴパノア』のパーティ登録、完了だよ」
ハウゼン支部長がポロンの冒険者カードを渡す。
黒縁に白金カードが手渡されると、
そのカードをノビが背後から覗き込む。
笑ってしまうぐらいーー
ノビの身長が高く見えるのは、
きっとポロンの身長が、1メード(m)もないからだろう。
そんなノビがカードを見て目を丸くする。
「この金のハンマーのロゴは、何なの?
オラやクロニクさんにはついでないんさ!」
ポロンが顔の近いノビの柔らかい頬をビヨンと手のひらで押し返す。
「これは、わたちが『鍛冶師ギルド』の理事の証。
冒険者ギルドのカードは剣に盾のロゴがついているでちょ?
わたちのは、両方のギルドで使えるの』
そう言って彼女が誇らしげに笑う。
そんな中、ハウゼンがこちらを見て微笑みながら口を動かす。
「それで……冒険者クラン『リリゴパノア♾️』の拠点はどうするんだい?
ハルツーム侯爵様から、いただいた土地に置くのかい?」
その問いに、頭をフルに回転させながら答えた。
「そうだな……エリナたち姉妹が戻ってくるまで、
ビヨンドの村で待つとするよ。
これまでバタバタだったから、少し落ち着いて考えたいんだ……
皆が安全でいられる場所を整えておきたいしな」
「それもいいだろうね。
決まったら、必ずこのビヨンドのギルド支部に、知らせて欲しい」
「わかった。世話になったしな。ありがとう、ハウゼン支部長」
ハウゼンがニコッと小さく照れ笑いを浮かべ、頬を掻いた。
「ゴクトー軍総司令、これからも、ビヨンドの村をよろしく頼むよ」
小声でつぶやくハウゼンの声を耳に入れながら、
「……ったく、その呼び方ッ!」と小声で愚痴り、
俺は、冒険者たちの視線を背にしつつ、出口へ向かった。
振り返るアリーのメタリックブルーの瞳に、
俺たちの背中を見送るハウゼンの姿が映っていた。
ーーギィィ…
俺はギルド支部の扉を開く。
シュルッとした一陣のつむじ風がギルド支部に舞い込む。
その扉は以前なら少し重く感じただろう。
俺の肩に乗る責任が軽くなったわけではない。
だが、背中を預けられる仲間が増えたのには変わりない。
前よりも少しだけ、足取りも軽くなった気がした。
支部を出ると、墨色混じりの空に橙の太陽が山間に沈みかけていた。
まるで夕日が微笑みかけるようにーー
柔らかい光が俺たちの影を長く伸ばす。
穏やかな風がたまに頬を掠め、どこか心まで温かくした。
……これから、また、
新たな仲間との冒険が始まるんだな。
沸々とした感情を抑えつつ、
俺は後ろを振りかえらず、号令をかける。
「行こう!」
俺たちは、新たな一歩を踏み出した。
支部を出て間もなく、イブが俺の横に並び腕を掴む。
「殿!妾は、ちくと寄るところがあるんじゃが……」
彼女が甘えるように身体を寄せる。
「姫様!」
「はしたないですぞ」
「わぉ!姫様ったら大胆」
「羨ましい!」
イブの言葉に、師団長たちから揶揄う声が囁かれる。
だが、それも束の間。
メイン通りの喧噪の中に消えていく。
一方で、メンバーたちからの視線まで俺に集まり、
騒めきが起こったーー。
まあ大人数あるあるだろう。
思えば、俺、アカリ、ジュリ、パメラ、ノビ、アリーの6人から始まった、
どこか頼りなさを感じる、ポンコツパーティ。のような気がするッ!
それが、ダンジョン踏破を成し遂げ、
『ロカベルの魔法薬材と薬店』に入ったのが運命かのように、
ミーアとミリネアの【ロカベル】が加わり、いつの間にか2人が俺の眷属に。
いきなりの自身のスキルアップに、驚きつつも、
レイド(依頼)を受け、ハゴネの山まで出かけたのがきっかけで、
そこで、師匠の友人にも出会い、
七星の武器のことも少しずつわかってきた。
ーーさらに妖精龍、従魔のコガラが生まれ、
アカリと血の契約を結んだのには驚かされたな。
黒龍であるクロニクと対戦し、
俺たちに負けたアイツの加入は予想外だったが、
戦力としては、かなりデカイ。ここで既に9人。
そして、【月読】の姫ーー
ファルダットの王女イブ、『暗殺姫』と護衛師団長たちとの模擬戦を果たし、
イブと第二師団長ココがパーティに参加することになった。これで11人。
これまた運命に導かれるかのように、
S級冒険者、【七つの大罪】が俺たちに関わりを持ち始める。
そんな中、7人のうち2人がうちのパーティにいるんだから、
俺も気が抜けない。特に Lustの【美神】、
エリナ・エイマスのお色気には気をつけねば。
彼女は本部のレイドが終わり次第、参加が決まっている。これで12人。
さらに『鍛冶師ギルド』の理事、ポロンまで参加。これで13人。
そしてーーエリナの妹たち6人も傘下のパーティになる予定。
いつの間にかーー約20人にもなるクランのリーダーになってしまった。
そんな俺は「あれよあれよ」という間に、
ダンジョン攻略、ワイバーン討伐を成し遂げ、
領主に土地や名誉職まで戴いちゃうんだから、
世の中、何が起こるかわからない。
頭の中で自身のこれまでを整理しながら振り返る。
師匠と二人きりで旅をしていたらーーきっとこうはならなかった。
失踪した師匠に『そのことも』感謝しつつ、俺は大きく息をついた。
周囲の目を気にしながらも、イブの行き先が気になる俺は口を開く。
「イブ……どこに寄るんだ?」
「旅用のローブとブルゾンを仕立ててもらっとるのじゃ。
もうできておるはずじゃ。それを取りにゆく……
殿も一着仕立ててみるかぇ?」
イブが俺の腕に絡みつき、
目の奥に妖艶な輝きを秘めた笑顔を見せる。
いや、その目はヤバイだろッ!
俺は思いを沈めながらも少したじろぐ。
だが動揺を抑えつつ、そのまま口だけは動かした。
「いや……それは偶然だな。
俺らも頼んでるんだ、ローブと装備をな。
もしかしてーー『仕立て屋ジンロック』か?」
「そうじゃ、ここいらではそこしかないでのぅ……」
「……なら、『ジンロック』へ行こう」
俺の言葉にイブが嬉しそうに腕をぎゅーっ。
彼女が強く引き寄せ、俺を引っ張るように歩き出した。
腕に伝わる"ポヨン”の感触。
ーーこの感じ。
ハナから言えば、アカリから始まりーー
パメラ、ミーア、ミリネア、イブにエリナ。
さまざまな感触を覚えた俺は、 いかんと思いつつも、
なんだかこの感触にも慣れてきた。
胸の『江戸っ子鼓動』も落ち着いている。
だが、油断は禁物。顔に血を昇らせないよう努める。
行き交う人たちからの訝しげな視線ーー
名付けるならグサグサが否応なしに突き刺さる。
それもそのはず。
俺とイブの周囲を師団長たちが厳重に囲み、緊張感を滲み出している。
一方でミリネアとアカリが不服そうな表情を浮かべ、
護衛の輪の中に収まっていた。
これじゃ、どう見ても目立つよな……。
そう思って振り返ると、他のメンバーたちは、まるでお構いなし。
アリーとジュリが手を繋ぎ、何やら楽しそうに笑い合う。
中でもミーアとクロニクが仲睦まじく、何かを話している。
……あの二人、本当にいつの間に……。
ま、うまくいってるなら何よりだが。
それはまるで、長年連れ添った夫婦のようだった。
その一方ではパメラとノビの『師弟コンビ』が、
珍しく笑いながら話をしている。
ノビがたどたどしい訛り言葉で何かを説明し、
それにパメラが苦笑いしながら相槌を打っていた。
ガシャンッ!ガラガラガラ……。
師弟コンビの恒例行事テンプレが、崩れていく音が俺の脳裏に響いたーー。
脳内でひょこっと顔を出す『江戸っ子鼓動』が口を開く。
「旦那、図鑑No.010:ペイズリー姉妹の仕業ですぜ。
美しい蝶の姿を持つ二体一対の存在。
青い翅の蝶『ブルーミー』が姉、
紺の翅の蝶『ネイヴィア』が妹でやんす。
彼女らの装備は特殊な古代文字とーー
妖艶なペイズリー紋様で、妄想を『増幅』させやす。
この姉妹は見た目と違って、凄い力を発揮しやすぜ!」
その言葉にペイズリー姉妹がニコッと笑みを溢し、
ひらひらと翅をはためかせながら『妄想図鑑」へ消えていった。
その瞬間、『江戸っ子鼓動』がカチッとOFF のスイッチを押す。
我に返った俺は思わず口が滑る。
「……ってか、恐ろしい力だな……」
独り言ちる俺にイブが「何か言ったかぇ?」と、
不思議そうに首を傾げる中、
人々の好奇と驚きの視線を感じながら、俺はメイン通りを歩き続けた。
そんな中、大きなスーツとアイロンが描かれた目立つデザインーー
前方に『仕立て屋ジンロック』の看板が見えてくる。
看板の横には、新調された筋骨隆々のマネキンが敬礼しており、
よく見ると軍服の肩には「ドナイヤシリーズ」と刺繍されていた。
それに気づいたイブが「おおっ」と声を上げ、
ドアを勢いよく開け放った。
「失礼するぞ! 妾のローブはできておるかぇ?」
イブの声が店内に響く。
彼女の気迫に、
仕立て屋の主人、ジンロックが慌ててカウンターから姿を現す。
「いらっしゃいませ!
ローブは全て仕上がっております。少々お待ちくださいませ!」
その後ろから、俺たちも店内に足を踏み入れた。
小さな店内がぎゅうぎゅう詰めになる中、イブが唇を動かす。
「殿、少し狭いですが、我慢してくだされ…」と、俺を気遣う。
軽く頷く俺を他所にポロンが、繁々と店内を見て回る。
彼女がその小さな身体を生かし、
師団長たちの隙間をかい潜る姿に思わず苦笑する。
ポロンが興味津々といった様子で、商品を眺め始めた。
一方で「これ、皇子に似合いそう……」と、
ミーアが、試着用のマネキンを指差してつぶやく。
その言葉に顔を赤くするクロニクが零す。
「オイラの装備はできたのか……」
そう言って腕を組み、どこか照れた雰囲気を醸し出す。
一方で俺は、イブが受け取るローブがどんなものか気になりつつ、
仕立て屋の主人が手際よく、用意するのを眺めていた。
こういう日常的な瞬間も、まぁ悪くはないよな……。
そんな風に思えてくるのが不思議だった。
ふと見上げれば、天上のシーリングファンがカタカタと音を鳴らしながら、
心地よい風を頬に当ててくれる。
耳を澄ませば、相変わらずのーー
心地良いリズムを奏でるジャズが流れていた。
「いらっしゃいませ。全て仕上がっておりますよ」
現れたのはジンロックの妻、カナリド。
さらに奥から、娘のココリドも現れ、朗らかに出迎えてくれた。
カナリドが、イブに目を向けたあと、全員に視線を移し問いかける。
「あら?お連れの方々、もしかしてご一緒でしたか?」
「そうじゃ。妾のローブを頼んでおるのじゃが、
皆も一緒に頼んでおったとはのう」
イブが自信ありげに笑い、答えたーーその時。
店の奥にあるカーテンが勢いよくシャーッと開いた。
顔を真っ赤にしたエリナが、カーテンの向こうから飛び出してくる。
「聞き覚えのある声だと思ったら……イブ姫様!
……えっ!?どうして旦さんまで……なんで、ここにいるの?」
戸惑いながら漆黒のローブを羽織り、
オレンジ色のレザーブルゾンとミニスカート姿で俺の前に立った。
その後ろからエリナの姉妹も次々と出てきた。
驚きと戸惑いが表情に、色濃く出ていた彼女たち。
俺も一瞬言葉を失う。
メンバーたちが目を丸くする中、
真っ先に口を開く。
「『メデルザード』へ、まだ、向かってなかったんだな」
「ええ。偶然ここを見つけたの。
それでローブとブルゾンを仕立ててもらおうと思ってね。
今日の夕方にできるって言われたから、取りに来たのよ」
エリナが、どこか恥ずかしそうに答える。
「たまには、アタシらだって、オシャレぐらいするのよ」
その言葉に姉妹たちも小さく頷く。
エリナの凜とした姿を見て、思わず口が滑る。
「充分オシャレだと思うがな。……それにしても、偶然が過ぎるな」
そう言葉を並べると、エリナの顔が朱く染まった。
妹たちも同様に頬を染める。
「アタシはナガラ氏の弟子ーー
八咫鴉と呼ばれる旦さんが、漆黒を好む……
その噂を随分前から聞いていてね。
それでアタシも……漆黒のローブを選んだの。
ジャケットとスカートを作ったのはーーそんな気分だったから」
エリナの声は徐々に小さくなり、
言葉を終えた時には顔を真っ赤にして俺を見上げていた。
その視線を受け止めた俺は、苦笑しつつも素直に褒める。
「いいセンスだと思うが?」
その言葉に、エリナが視線を逸らした。
一方で師団長やメンバーたちが、口をぽかんと開いたままーー
固まる中、イブが口を挟む。
「これまた奇遇じゃのう。
妾も祖母様が観た【月読】の通りに、
漆黒のローブと装備をオーダーしたのじゃ」
そう言って得意げに胸を張り、ジンロックに向き直る。
「ご店主殿!妾の分は、できておるのかぇ?」
「はい、もちろんです。全て出来上がっておりますよ。今、お持ちしますね」
そうジンロックが答える。
すると、 彼の妻カナリドが口を開く。
「お連れの方々の分も、全て完成しておりますよ」
そう言ってジンロックとともについていく。
同様に娘のココリドも店の奥へと向かった。
待っている間、イブがエリナたちの服装を眺め始めた。
彼女の視線はどこか探るようで、
エリナたちのローブやブルゾンを隈無くチェックしている。
ふとエリナが、思い立ったかのように唇を噛んだ。
「あ、そうだ! 忘れていたわ。
まだ、妹たちをきちんと、紹介してなかったわね……旦さん」
お読みいただき、ありがとうございます。
引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )




