新生リリゴパノア編 6 〜わたちはポロン!〜
新生リリゴパノア編はこれにて Σ('◉⌓◉’)
天界から下界を覗く三柱。
ふと雲間から顔を上げる女神東雲が息をつく。
「あなたが言った通りーーやっと古の末裔が揃いましたわね」
そう言って、嬉しそうに艶やかな唇を光らせる。
一方で黒銀の目を細め、トランザニヤが口を開く。
「エルダードワーフの彼女の持つギフトは、『鍛冶師』だったがな。
彼女は幼い頃より、
【黄金桜流】の門を叩き……これまで、血の滲むような努力を積み重ね、
今では、七星の武器を鍛えることのできるーー
希少な『刀匠鍛冶師』にまで上り詰めた逸材だ。
きっとゴクトーたちの助けになるだろう」
その言葉に神シロと女神東雲も顔を見合わせ、口元を緩めた。
ーーその頃、ゴクトーはギルド支部で、
思わぬ人物と遭遇していた。
◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇
「あ、ポロンにゃ!」
突然、手を挙げたアリーの声に振り向く。
「わたちを忘れてるのっ!このポロン様をっ!」
可愛らしい声がギルドの受付前に投げられた。
長い茶髪を編み込んだドワーフの女の子が、
髪先を揺らしながら近づいてくる。
その声はまるで幼子のように高い声だが、
目の前の受付嬢、イドヒ・ドイタ嬢の態度が変わった。
その表情はどこか驚いているようにも見える。
目を丸くするイドヒ・ドイタ嬢が唇を動かす。
「ポロン・サンダース様、この方たちと、お知り合いなのですか?」
その言葉を無視するようにーー
頬を膨らませ、こちらに歩いてくるその表情は、
どこか不貞腐れているようだ。
「知ってるも何も、
あっちのお兄ちゃんとわたちは、約束ちたんだもん!」
ポロンと呼ばれた少女が、俺の目の前まで来ると、
小さな小指を力一杯突きつけてきた。
その指先には、微かにだが鉄と油、
そして『高純度の魔力』が混じった独特の香りが染み付いている。
「……久しぶりだな、ポロン。こんなところで何をしてるんだ?」
俺が声をかけると、彼女は「ふんっ」と鼻を鳴らし、
背負っていた大きな革のケースをドサリと受付カウンターに置いた。
見た目の幼さに反して、そのケースが立てた重低音は、
彼女の筋力が尋常ではないことを物語っている。
「何をちてるんだ、じゃないわよ!
支部から預かってた武器の調整が終わったから届けに来たの。
ギルドに来ても『ゴクトーさんは遠征中です』なーんて言われて……
わたち、ずっと待ってたんだからね!」
「ずっとか。それは悪かったな」
「わかればよろちい! ほら、イドヒさん。
この人たちは、わたちの『大事な』身内だから。
変な態度取ったらダメなんだからね」
ポロンが胸を張ってイドヒ嬢に言い放つ。
受付嬢のイドヒ・ドイタ嬢が、
目を白黒させながら俺とポロンを交互に見つめていた。
「い、いえ、変な態度なんて滅相もない……。
ただ、あの『黄金桜流』の正統伝承者にして、
古の武器の打ち手であるポロン様が、
まさかゴクトーさんたちと、これほど親しい間柄だったとは……」
イドヒ・ドイタ嬢の言葉に、
背後でアリーが「にゃはは!」と笑いながらポロンに飛びついた。
「ポロン、また凄くなったのかにゃ?
そのケース、すっごい魔力が漏れてりゅ!」
「あーっ、急に抱きつかないでってば!
……まあ、今回の仕上がりは特別よ。
ハウゼン支部長から直々に頼まれちゃったのーー
だから『特別』に打ち直ちてあげたのよ」
そう言って、ポロンが不敵かつーー
それでいてどこか誇らしげな笑みを浮かべた。
その瞳の奥には、血の滲むような研鑽を積んだ者だけが持つ、
鋭い『職人の光』が宿っていた。
漏れ出す魔力に少し怯えながらも、
イドヒ・ドイタ嬢が恐る恐る大きな革のケースを開く。
「これは……見たこともない小刀ですね」
見つめるイドヒ・ドイタ嬢の瞳の中にキラキラと煌めく刃が映る。
その光景に仲間たちが息を呑む中、
ポロンがジロリとイドヒ・ドイタ嬢を睨みつける。
「でも、不思議。この小刀は、並の冒険者じゃ扱えないのよ……
綺麗でしょ? それは【星刀・煌刃】と言って、
【月刀・常闇】、【陽刀・灯火】と並ぶ、三代大妖刀の一つよ。
この小刀たちは自ら主人を選ぶと言われてるわ。
謎が多い古の時代の産物。
ちかち疲れたわ。ボロボロだったこの刃を鍛え直すのに……
わたちがいくら使ったと思ってるの?
ただでさえ高価で貴重な、
アダマンタイト鋼と緋色金をふんだんに使ったの!」
そう言ってプンスカと額に#を浮かせた。
その言葉にイブがふっと軽く口元を緩める。
次の瞬間、彼女がポロンを上から下まで、品定めでもするかのようにーー
じっくりと眺めながら口を開く。
「なんじゃ、アダマンタイト鋼と緋色金なら、
妾の国ではーー
最も多く、採掘されている鉱石じゃが、そんな高価なのかぇ?」
そう言ってイブが肩をすくめた。
その言葉に受付前の冒険者たちが騒つく。
獣人の受付嬢が口をぽかんと開く中、冒険者たちに囁かれる。
「おい、アダマンタイト鋼と緋色金が、一番取れる国っつったら、
ファルダット自由国だろ? あの人、まさか……」
「ああ、間違いないーーあの気品ある威厳と風格……覇気も凄まじい。
噂で聞く謎多き、S級冒険者のーー『暗殺姫』だ」
ギルド支部の騒つきが波紋のように広がる。
場の空気もどこか重苦しい雰囲気が漂う最中。
「な、な……っ! なんじゃ、とは何よっ!!」
案の定、ポロンが沸騰したヤカンのようにーー
顔を真っ赤にして食いついた。
「いい? 確かにファルダットは産地かもちれないけど、
それを『純度百パーセント』で精錬ちて、
さらに不純物をいっさい混ぜずに、打ちあわちぇるのが……
どんだけ大変なことか……!
あんた、さては成金のお嬢ちゃまね!? 素材の価値もわかんないで――」
ポロンがそこまで言いかけて、ピタリと動きを止めた。
イブが放つ、無自覚ながらも底知れない【覇気】
そして周囲から漏れ聞こえる『暗殺姫』という物騒な二つ名。
「……ん? 暗殺姫? 待ちなさいよ。ファルダットの……『暗殺姫』って……」
ポロンの大きな瞳が、驚愕で見開かれる。
一方で、イブがどこ吹く風といった様子で、
腰に下げた自分の獲物を指先で弄んだ。
「成金とは心外じゃの。妾はただ、事実を述べたまで。
……しかし、その小刀。
未熟な打ち手なら素材の喧嘩に負けて壊れるはずの組み合わせを、
見事に調和させておる。
ほう、確かに『逸材』とやらの言葉に偽りはないようじゃな」
「……っ、当たり前よ! わたちを誰だと思ってるの!」
イブの王女らしいーー鑑定眼による称賛を受け、
ポロンが悔しそうにしながらも、どこか誇らしげに鼻を鳴らした。
だが、周囲はそれどころではない。
「おい、やっぱり本物だぞ……!
あのゴクトーとかいう真っ黒な奴、あんな化け物じみた女と、
伝説の刀匠を両脇に侍らせてるのか?」
「どんなパーティだよ、あいつら……」
引きつったイドヒ・ドイタ嬢の手の中で、
ケースに収まった【星刀・煌刃】が、主を待つかのように、
キィィィンと高い共鳴音を響かせた。
その刹那、俺の脳内に霞にでも包まれるかのようなーー
ぼやっとした、『古代文字』が浮かび上がる。
【汝ーーこの小刀を手にすることなかれ、
この小刀の持ち主は……
古の希少種ーーフロッグマン。その末裔に継承されたし】
まるでステータス画面を見るかのように、
その文字が脳内で翻訳される。
何だ? これ?
フロッグマンって言ったらノビだ……ろ?
わけはわからずだが、口にするのは憚られる。
俺は肩をすくめながら、周囲の視線を遮るように一歩前に出る。
「おい、お前ら。目立ちすぎるのは勘弁してくれって、
いつも言ってるだろ……」
その言葉にミリネアとコガラが「ククククク」と、
笑いを噛み殺して俺を見ていた。
アリーも思わず口元を隠し、垂れ耳で目を覆う。
そして彼女が、肩を振るわせながら腹を抱える。
「にゃんかウケりゅ!」
その声が、ギルド支部の空気をやわらかく包み込む。
俺は今までの人生で一番大きな、ため息をついた。
一方で奥に居たハウゼンがこちらに歩み寄り、口を開く。
「ポロンさん、お久しぶりです。仕上げてくれたんですね」
そう言って革のケースを覗き込む。
ハウゼンのゴクリとした喉音が小さく鳴った。
目を見開くハウゼンが言の葉を落とす。
「イドヒ・ドイタ嬢ーー副ギルド長から白金貨500枚、貰ってきてください。
これは、それほどの価値はある……!」
その言葉に「は、はい〜」と慌てて席を立ち、
奥に向かうイドヒ・ドイタ嬢。
一方で、ポロンがどこか満足げに口を開いた。
「わたちの技術と、その価値がわかるのは、ハウゼンちゃんちかいないわね」
そう言ってポロンがニヤッと笑みを浮かべた。
周囲の冒険者たちが目を丸くする中、
イドヒ・ドイタ嬢が大きな袋を抱えながら戻ってくる。
「支部長……これ、お、重すぎます……」と、
カウンターの上に布袋をズシャリと乗せたーーその瞬間。
イドヒ・ドイタ嬢のネクタイとシャツのボタンが、ばちんっと弾け飛び、
彼女の豹柄のインナーが顕になった。
「スゲー!」
「ヒュヒュウ!」
周囲の冒険者たちが血走ったまなこを向ける中、
バクッと飛び跳ねる『江戸っ子鼓動』を抑えつつ、目を見開く。
そんな俺とポロンいや、仲間たちもあまりのことに言葉すら失った。
苦悶した表情を見せるイドヒ・ドイタ嬢の、
絶叫する声がギルド内に響く。
オロオロと慌てながらイドヒ・ドイタ嬢が、ブレザーで前を隠す。
一方で彼女のその姿に頭をかかえるハウゼン。
一気にギルド内は喧騒に包まれた。
しかしこの話は、尾鰭がつき、のちに伝説となりーー
彼女が『豹胸のイドヒ』と呼ばれ、
ゴクトーたちの担当受付嬢になり、
副ギルド長まで上り詰めるのは、さておき。
気を取り直したのか、
パタンパタンと革のケースを閉めるハウゼンが口を開く。
「修復依頼をこなしてくれてありがとう、ポロン女史、
色々と手間をかけさせたね……
これは領主様からの依頼で、報酬は預かっていたんだ」
「いいのよ。それより、わたちの冒険者ランクをS級、さらに、
『鍛冶師ギルドの理事』にちてくれたことの方が、大変だったでしょ?」
ポロンのその言葉に仲間たちが驚き、目を丸くする。
「えっ……えええええええええっ!? S級ぅぅぅ!? 理事ぃぃぃ!?」
ノビの叫び声がギルドの天井を突き抜けんばかりに響き渡った。
無理もない。
これまで「生意気で可愛いドワーフの女の子」だと思っていた相手が、
イブや俺たちと並ぶ冒険者の頂点ーー
冒険者ギルドが認める「国家戦力級」の一人だったのだから。
さらに鍛冶師ギルドの理事となれば、貴族クラスの力を持つ。
「なによ、うるさいわね。わたちは別に戦うわけじゃないわよ。
……ただ、わたちの打った武器がいくつかの国を救っちゃったり、
伝説の魔物を倒ちちゃったりしたから、
ギルドが勝手に称号を押ち付けてきただけなんだから」
ポロンが白金貨の詰まった重い袋を、
まるで飴玉の袋でも持つかのように軽々と片手で掴み上げ、
俺をジロリと見た。
「……で、お兄ちゃん。
あんた、さっきからその小刀を妙な目で見てるわね。
何か感じた?」
「……。いや、ただの小刀にしては、妙な威圧感があると思ってな」
俺はあえて古代文字のことは伏せた。
【フロッグマンの末裔に継承されたし】――。
視線の先では、ノビが相変わらず暢気な顔で、
イドヒ嬢が運んできたお茶菓子を眺めている。
こいつがあの禍々しくも神々しい文字の『正統なる主』だというのか。
心中で葛藤する俺を他所に、
ハウゼンが静かに、だが重みのある声で告げる。
「ゴクトー軍総司令。その武器は、
今の君たちの手に負える代物ではない。
だが、これから向かう場所には……それが必要になるかもしれない。
ポロンさんが命を削って打ち直したのは、他でもない。
扱う主を信じているからだ」
「……わかってる」
場の空気がピンと張り詰める中、ポロンがいきなり口を挟む。
「ん? 軍総司令って? あ、あ、それより、お兄ちゃんーー
わたちをパーティに入れてくれるんでちょ?
わたちの工房、『黄金桜流・刀匠鍛冶師の工房ポロン』は、
妹のナユカに任せたの……
だって、兄貴のボルト・サンダースは、
あの離れた孤島トランザニヤから帰ってこないち……」
その言葉に、またしてもノビが大声を上げた。
「えっ……ええええっ!? 七つの大罪のボルト・サンダース!?」
ポロン、イブ、そして背後で笑う仲間たち。
揃うべくして揃った『古の末裔』。
運命の歯車が、今、
凄まじい火花を散らしながら高速で回転を始めたーー。
「わたちの出番少ない……」と、
つぶやくポロン。
新生リリゴパノア編 完
お読みいただき、ありがとうございます。
次話から新編が始まります。
引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )




