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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第0幕 〜妄想図鑑と神代魔法士〜

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21/66

『真紅の蝶』〜『爆弾』との邂逅




「おい、黒銀の、あの姿見覚えないか?」


「ああ、懐かしいな。あの魔力(マナ)と美貌と大きな胸……ルシーヌ……いや、彼女に瓜二つだな」



 神シロに答え、黒銀お目の友が笑みをこぼす。

 

 神々は下界を覗き込んだ。







◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇



  




 「ん?」


 メインストリートの先に、鮮やかな点が目に入る。


 朝に通った酒場の付近だ。

 賑やかな笑い声が複数響いている。

 明らかに桃色姉妹の声だ。

 だが、あれは今朝のーー


   

 ーー触らぬ神に祟りなし。

 だろ?


 

 瞬間俺は、気配を消した。

 小さく肩を折り畳み、そろりと歩みを進める。


 だがしか──し。


 「へん……ゴ、ゴクトーじゃん! い、一緒に飲もうよ!」


 その言い方な。真っ赤じゃん!

 呂律、回ってないぞっ!


 桃色姉妹の妹の方、ジュリに見つかる。


 その場の視線が俺に集中する。


 俺を見たアカリの表情が柔らかい。

 

 逆に怖いんですけども……。


 思ったが口には出さず。


 彼女は淡々と。 

 

「ジュリ、口が悪いわよ……」


  

 いつも冷静だな。

 でも、その笑いかた……それだよッ!、怖いってッ!


 俺の思いなど知る由もなく、視線が俺を貫く。

 

 ジュリもこちらを見て笑ってる。


 まさか……

     

 『ラッキー! 今日は、チラ見せチャンス!』とか、

 

 思ってるんじゃないだろうな?

 いや、まさかな。

 でもその目、ちょっとギラついてるぞッ!

 

 一方でアカリは俺を一瞥して、わざとらしくスッと目をそらした。

 

 え、なに?

  

 『今日のは地味すぎて、見せられない』的な……?

 なんか、ちょっと眉しかめてたよな。

 上下バラバラだったとか、そういう理由か……?

  

 くっ……! 

 オシャレしてくれとは言わんが……言わんが……!


 

 対照的な姉妹に俺のよからぬ”妄想”がーーひとり歩きする。

 彼女たちの隣には、もう一人の女性が座っていたーー。

 

 顔が赤いその女性。 


 呑んでるな。 だいぶ。

 

 観察したさ。  

 

 紅いシャツを着るその女性が、愚痴をこぼした。


「あたいは悪くないんよ! 『B級』パーティーなのに頼まれたから参加してやったの。今日は、家の使いが来るから無理だって、言ったのに……そしたらもう頼まんってさ!  んな奴ら、こっちから願い下げだっつーの!」


 彼女は眉を上げ、テーブルをドンと叩く。

 

 その声はまるで遺憾に聞こえたよ。

 その女性は、フーフーと拳に息をかけながら俺をじっと見る。

 藪から棒とはこのこと。


 彼女が紫の髪をかきあげ口を開く。


「あんたも飲みな。今日はあたいが奢るからさ。あんたギルドであたいの足を踏まなかった? そうだ、あんただ。はは。これも何かの縁だわねん」


 バンバン


「ほら、ここに座りなさいな」


 勢い強いな。  叩いてるテーブル、壊れそうですけども?


 指定されたのはその女性の隣。 いた仕方なく腰を下ろす。

 

 姉妹は対面、左にはジュリ、右にはアカリが座ている。


 隣の女性、 朝、目撃した『黒薔薇』の主に間違いない。


 そう言えば、ギルド支部で足を踏んじまった彼女だ……。


 朝は思い出せなかった。


 だが、今、その全貌が明らかになる──。

           


 ってか、ドラマかッ!

 ツッコミが俺の取り柄なんだ。

 察しろ!


      

 ふ、その女性の姿を知りたいか?

 焦らすぜッ!

            

 

 俺は彼女をじっくり観察した。

 


 紫色の髪。鋭い灰色(グレー)の瞳。印象的な紅い唇。

 

 鼻筋は通り、どことなく気品すら漂っている。


 くッ! とびっきりの美人だ。

 

 そして、紅いシャツからあふれ出す胸と黒いレースーー名付けるなら『爆弾(ダイナマイト)』だ。


 上下揃いの『黒薔薇』の所有者でもあった。


 魔女のような笑みも浮かべている。ーーシャツの隙間から生き物のように『黒薔薇』がこちらを覗く。



「…っく! またか、また蜂になるのか」



 今朝の妄想を思い出し、戸惑う。


 

 そうだろ?


 俺の手は震え、俺の妄想眼”死線”は、落ち着かずに周囲を彷徨った。


 

 『破壊力が凄いんデス』……って魔法なのか? 

 ヤバイ……即死しそうな『デス』ですけども。 

 

 なんちってな。 もちろん、目はそらしたさ。 


 でも、運悪くーー瞬間、姉妹と目が合ってしまった。



 動揺に気づいたのか、と思うほどのタイミング。


 なんだか怖いんですけども?


 思いは複雑。

 

 ジュリがジロリと俺を睨み口を開いた。


「へんたい……じゃなっかった! ゴクトーさん、エールでいいよね!」


 頬を朱に染めながら問う。


 思わず耳まで熱くなったさ。


 ジュリ、なんだか上機嫌だな、と内心苦笑しつつ。


 一方でアカリに目を向ける。


 彼女がそれもジト目で俺を見るんだ。


「ジュリ、いい加減、へんたいって呼ぶのはやめなさい」


 その表情が渋くて、少し気まずかった。


 アカリがわかりやすい戸惑いを顔に張り付ける。


 その表情は、何か考え込んでいるようにも感じた。


 次の瞬間ーージュリの顔色が変わった。    


 その顔、やめろッ!

 口元で、すぐにわかるぞ。


 ジュリが内心で”何か”を企んでいるように見える。

 そんな中、突然、アカリが前のめりに身を乗りだす。


 「私は”アレ”で勝負するしかないわね……」

 

 そう小さく言って眉をしかめた。



 「っえ?」


 ってか、なんの勝負っ?

 

 俺はその言葉にちょっと”ビビ”った。


 そんな二人の心中を知る由もない。


 その場にいることで精一杯だったーー。


 この後、俺の身に起きることは、今でも忘れられない。


 話を戻そう。  


 いやな。不意な行動に焦ったし戸惑ったよ。


 『爆弾(ダイナマイト)』が突然、俺の顎を撫でたんだ。


「ねえ、桃色姉妹、このイケメンをあたいに紹介してよ」


 言ったその後、彼女の目はとろーん。 


 胡乱な目だな、と思っちまったさ。

  

 酔った勢いなのか、彼女は距離を詰めてくる。

         


 固唾を呑む。 


 当然だ。 緊張だよ。 誰だってするだろ? 

 『爆弾』が今だにこちらを見ている……気がするっ!

 


 胸の『江戸っ子鼓動』が「今か今か」と、出番を待っているかのように「ドキドキ」と小さくつぶやく。


 『爆弾(ダイナマイト)』がかすかに揺れ、生ぬるい風が俺の頬を打つ。


 次の瞬間、ジュリの目に何かが宿ったーー気がした。


 彼女が頬を最大級に膨らませ、言い放つ。


「この乳牛! 何しているの? わたしの邪魔をしないでーー!!」



 ジュリが()えた。

 ……ってか、狼でもあるまいし。

 言いすぎたな。すまん。


 ジュリは紅いシャツの女性を一瞥し、険しい表情を見せる。


 息遣いも荒い。


 まるで敵意が滲んでいるようだな、なんて思う。


 そしてジロリとした目で俺を見る。


 「調子に乗るなよ、このスケベ」って、思ってる顔してるなッ!

    

 そして、ぷいっと背をむけた。


 いやいや……ジュリさんや、俺かっ?


 そんな俺はもう一方の視線も気になる。


 いや、アカリがじっと見据えていたんだ。


 おい、アカリまで……。

 

 何、考えてる? 今、気のせいか?

 ニヤッとしたのか?

 

 何考えてる? やめてほしいんですけども?


 俺の思いなどお構いなしに、ふと、意を決したようにアカリが立ち上がった。  

 彼女は俺の正面に廻り込む。


「ん?」

   

 そして身を屈め、顔を近づける。


 次の瞬間ーー 『真紅』の下着がチラリと見える。



 俺は意識を失いかけた。

  

 息が詰まり、胸が痛む。

  

 揺れる焦点がますます、視界を歪ませる。


 カチリと脳内にスイッチの音が響く。

  

 そしてーー自分の”癖”の世界に俺は入っていった。



            

 

【妄想スイッチ:オン】

 

 ──ここから妄想です──



 それはまるで、今にも飛び立つかのようなーー

                        

         

 『真紅の蝶』。

           

   

 「私たち、パーティーを組んでダンジョンに潜るつもりなの。

 これでいいのよね……?」


           

 挑発的な視線を投げ、俺が釘付けになっているのを確認する。


    

「……くそっ……仲間だと思ってが、舐めてた!」



 どうしたものか? 蜂の姿になった俺は地団駄を踏む。


  

「良かった……私、自信があるもの。この紅い翅にはね!」


        

『真紅の蝶』が翅を広げる。



 挿絵(By みてみん)       

(*真紅の蝶のバトルコスチュームです)

   

                 

「私の名は『真紅の蝶』ことブラ・アカノ。またね」  



 ひらひら〜


 夜空に真紅の粉を煌めかせ、彼女は飛び去ったーー。

            

       

           

【妄想スイッチ:オフ】


          

 ──現実に戻りました──


 『真紅の蝶』ことブラ・アカノが『妄想図鑑』に、月夜に照らされながら、紅残滓を残し、消えるように収まっていく。



 俺は我に返り、意識を取り戻した。



 「ブラ・アカノ?……ハッ!また収納された?」


 

 思わず言葉が漏れた。

 そんな状況の中、ふと、背中に悪寒が走った。

 

 俺を見るジュリの視線に気付く。


 けれど、彼女の顔には、焦りと苛立ちが入り混じっているように感じた。


 その瞳には涙が湛えているようだった。


 

 動揺は隠せずだよ。 

 視線をあちこちに向けたさ。

 姉妹の行動に翻弄されっぱなしだよ。


 困惑しながらも俺の顔は、真っ赤のまま。



 しかしその時。

 妖艶な香りが俺の鼻をくすぐる。


「あたいもイケメンと潜りたいわん……」


 (つや)のある声が耳元で囁かれる。


 その声の主、『爆弾(ダイナマイト)』が場の空気を変えた。


 彼女が俺にめまぜをする。


 

 急展開だな、おい。


 混乱が胸中を支配する。自然と額に汗が滴る。



「HAHAHA……」



 俺のうわずった苦笑いが、瞬間で場に消えていく。

 俺を囲む三つ巴のバトル。

 そのど真ん中にいる俺はどうしたらいい?

 じわりとした『爆弾』の生温かさが俺の肩に当たる。


 正直しんどい。 


 そんな俺だが隣の動く気配が気になった。


 『爆弾』を腕で支えながら、紅いシャツの女性が唇を艶やかに滑らせる。


「あたいわね……これでもカルディア魔法学院の特別講師なのよん。『冒険者』のランクも『A級』……損は、させないわよん」



 言い終えると、彼女は笑った。


 甘く、どこか妖しい香りが俺の鼻腔を刺激する。


 顔を近づけ、いきなり俺の頬に"ぶっちゅ♡”っとキス。



「っな?!」


 直後に彼女は舌舐めずり。 


 味はしょっぱいと思いますけども?

 ……ってかそうじゃねぇ。

 汗、だくだし……って、言ってる場合かっ!


 

 まるで蛇のような瞳が俺を射抜くようだった。


 自身に突っ込みながらも、カエルのように固まってしまう俺。


 顔には熱が籠り、視界がぼやける。



 その時だった。


 紅いシャツの彼女が突然、前屈みにーーブルルン。


 大きな胸、つまり『爆弾』を揺らすと空気が震えた。



 そう名付けるに、相応しい爆発力が───俺の頬をかすめる。



 『爆弾(ダイナマイト)』にふいを突かれ、一瞬のめまい。


 なんて、柔らかいんだ……ってか、違うだろッ! 

 これは妄想ではないんだぞっ!


 「……」

 

 俺は反省、いや猛省。

 自分のお愚かさに、ワナワナと震えたよ。



 俺の戸惑いや羞恥を知ってか知らずか、アカリが目を細める。


「ゴクトーさん? その目……?」


 彼女は眉に皺を寄せる。


 その目は俺と『爆弾(ダイナマイト)』を交互に見つめ、内心穏やかではないな、と感じた。


 見りゃわかるよ。

 いつもは冷静なアカリが、あんな目をするんだから。


 俺は思いながら肩をすぼめ、大きく息をついた。


 緊張した空気が漂う中ーー紅シャツの『爆弾』が一言投げた。



「……あたいはパメラ。よろしくねん」


 言葉だけだったのが何よりだ。

 また揺れたら、今度は俺ごと吹き飛びそうで怖い。


 言い終えると『爆弾パメラ』は、そのままテーブルに突っ伏してしまった。



 酔いすぎ。

        

 寝息を立てるに『爆弾パメラ』にツッコンだ。


 そんな俺にクールダウンの時がやってきた。



「お待ち」



 酒場の店主がエールを四つ持ってくる。


 苦味のある芳醇な香りが鼻をくすぐる。



 シュワッ



 稲穂色の炭酸が、白く泡立つ。

 エールが来たばかりなのに……と、思いながらため息をついた。



 話は変わるが、"桃色姉妹”から、ここに至った経緯を聞き出す。



「一体どういうことなんだ?」



 俺の問いに、姉のアカリが少し困った様子で話し始める。



「それがね……私たち、買い物を終えてこの辺りを通ったら、ちょうどパメラさんが一人で飲んでたの。で、『あっ! 桃色姉妹!』って呼び止められて……私も宿屋の前で見かけてたから、「あ、あの時はどうも」って挨拶を交わしたの」



「それで?」


 

 妹のジュリが続けた。



「『飲もう』って声をかけられて、最初は断ったの。でも、『姉妹は冒険者たちの間では有名よねん』とか言いながら、やたら褒められて……挙句の果てに、今日は、【神様】からの贈り物が降ってきたから、奢るって言われて……」



 話すジュリの声には苛立ちが滲んでる。 


 ってか、顔もな。

      

 道連れにされたの俺、なんですけどもっ!

         


 思っても口には出さず。 

 唯一の取り柄だ。


 一息ついて口を開く。


「半ば強引に付き合わされたってわけか……なるほどな」


 俺はうなずき、視線を打っ伏しているパメラに移す。


 つまり、『爆弾』に俺の寄付が使われたわけか。

         

 朝は完全に目が逝っちまったからな。

           


 深く考えるのはやめて、ヨシとするかっ!

           

 自分にツッコミ納得させる。


 目の前のエールを一気に飲み干す。


 まあ、そんなわけでーーこの騒動もひと段落がついた。

 しかしだ。

 時間も随分と経ち、そろそろ帰ろうとパメラの背をゆすった。



 「それにしても、起きない……」


 再び揺さぶるが、彼女はピクリとも動かない。


 アカリとジュリもどこか困惑した表情を見せている。

 その時だったーー


「先生……?」


 不意に後ろから若い男の声がした。



「「「???」」」


 声の主に気づき一斉に振り返る。


 そこには青年が立っていたーー。

 俺たちはこの時まだ知らなかった。

 これが手繰り寄せられた。運命と宿命の糸だということを。








 

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