模擬戦編 14 〜【七つの大罪】 の二人 前編〜
七つの大罪の名が全て明かされるーー!Σ('◉⌓◉’)
天界の城から足早に戻ってくる神シロが問いかける。
「シノや、戦況はどうなっとる?」
その言葉に女神東雲が笑みを溢す。
「予想以上に、【月読】の姫はやりますわ。
あの龍皇一族の黒龍を手玉にとってましたから」
そう言って下界から顔を上げる女神東雲の目に、
息を切らしながら、こちらへ走ってくるトランザニヤが映る。
「はぁ はぁ おーーーい、東雲さーーん! どうなった?」
天界の雲さえその大きな声に怯え、動きが速くなる。
女神東雲が、天界の雲まで揺らしたその大声に、
小さく肩をすくめ、呆れたようなため息をついた。
「トランザニヤ様、あなたという人は……。
ここが天界だという自覚を持ってくださいませ。
少しは淑やかに歩けないのですか?」
だが、その黒銀の瞳には非の色はなく、どこか楽しげな光が宿っている。
神シロも、駆け寄ってくるトランザニヤをどこか愉快そうに眺めていた。
「そう急くな、黒銀の。
ちょうど今、東雲から【月読】の姫と、
龍皇一族の戦況を聞いたところじゃ。
……姫の圧勝じゃったらしい」
神シロの言葉にトランザニヤが荒い息を整えながら、
二人の前で大きく足を踏み止める。
その顔には焦燥感以上に、何か重大な――
面白い事態を確信した笑みが浮かんでいた。
「はぁ、はぁ……いや、それがさ!」
トランザニヤが大きく手を振り、
まだ雲が渦巻く空の彼方、下界の方角を指差す。
「龍皇一族の長、古代龍ガザグが暴れたらしいんだ。
神代の大神様曰く……
オレが生まれた小国トランザニヤでヒドラと戦闘したと……
近づくのもやっとだそうだ」
その言葉に、女神東雲の顔が固まる。
「古代龍がなぜ、ヒドラと?
それは……この世界を揺るがす大事件ですわね。
ゴクトー君たちにとっても、
最高の試練になりそうですわ……」
天界の神々は顔を見合わせ、神妙な面持ちで下界を眺めた。
ーーその頃、ギルド支部の鍛錬場兼闘技場では、
冷や汗を掻くゴクトーを他所に、一同の心は高鳴っていた。
◾️(女神東雲が語り部をつとめます)◾️
エリナ・エイマスが、柔らかく微笑みながらも、
どこか緊張を隠せない様子で口を開く。
「ミリネア・ロカベルと模擬戦なんて……想像すらできなかったわ」
「ワタクシも、そんな風に呼ばれていたとは存じませんでしたわ……」
ミリネアがその言葉に小さく微笑み返すーー
その実、エメラルドの瞳には冷静さと覚悟の光が宿っていた。
緊張感が周囲を包む中、エリナの言葉が静かに響く。
「アタシたちも含めて【七つの大罪】にはーー
Greed の【神の申し子】。
バネッサ・グレゴリア……」
その言葉を遮るかのように手で制しーーパメラが驚愕して目を丸くする。
そして、彼女から意外な言葉が口から漏れる。
「ちょっと待って!バネッサ・グレゴリアは、あたいの叔母……。
冒険者はもう引退したはずよん……」
場が静まり、一同の固唾を飲む音だけが鍛錬場に落ちる。
パメラの言葉にエリナが目を丸くする。
場が混沌とした重い空気に包まれる中、
石椅子に腰をかけるイブがふと唇を動かす。
「あ、そうそう思い出したぞぇ。妾が本部からの招集で呼び出された際、
確かに……エリナ・エイマス、そなたもあの場におったな」
「やっと思い出したのッ! こっちは最初から気づいてましたッ!
一言も喋らないから……まさか姫だったとは知らなかったし。
この人、言葉が通じるの?って、思ってたのッ!」
イブの言葉にエリナが不貞腐れたように言葉を投げる。
「まぁまぁ、そう怒るでない。
妾はあの時ーー八咫鴉の殿を探すのに必死で、
招集など良い迷惑じゃと、
やる気もなく、ただ話しを鵜呑みに聞いていたんじゃ。
すまんかったのぅ」
そう言ってイブがエリナにちょこんと頭を下げた。
その光景に師団長たちが憤りを見せる中、
目配せするイブが柔らかい口調で紡ぎ始める。
「妾が本部で会った七つの大罪は、
Wrath の【巨人の軍神】 ゴルド・ノートン。
10メージ(m)を超える巨体でのぅ。
大きな図体しておるのに、
見かけによらず、女の色香には弱い奴じゃった。
奴は虎人ティグルのブラトップの装備ーー
『赤いぽろん』を見て、鼻血を出しておったわ。それが笑えたのぅ」
その言葉にアリーの耳がピクリと動き、ボソリと落とす。
「虎人のティグル? 僕の従姉妹かもしれにゃい。
僕がまだちいしゃい頃、双子の虎人姉妹ーー
グルガとティグルに会ったことがありゅ……」
その言葉にエリナ・エイマスが目を丸くした。
(えーー!あの神に近い存在の、あの方の相棒、
S級冒険者のティグルが従姉妹なのーー!!)
内心で驚愕する、エリナ・エイマスの心の中を読み取れるーー
ゴクトーもこの時ばかりは驚きの色を滲ませる。
一方周囲の一同は、何が起きているのかわからずに、
ただ静かにその光景を見守るばかり。
ーーただ、ゴクトーの眷属、ミリネアとミーア、
妖精龍のコガラだけが、ゴクトーの些細な変化に気づいていた。
鍛錬場兼闘技場に流れる柔らかな風が、ふわりと彼らの頬を撫でる。
土埃がサラサラと音を立てながら、差し込む夕日に溶け込む中ーー
イブが口元を緩め、再び言葉を紡いだ。
「そうか、アリリンの従姉妹とな。
彼女はボインでスタイルも良かった。
ちょっと天然なのが笑えたが、良い子じゃったぞぇ。
ティグルがしきりにある男の真似をしておってな。
それがーー
Prideの【雷神】、ボルト・サンダースじゃ。
奴の仕草が妙に滑稽でな。
ちんこいエルダードワーフじゃったし、やたらと鼻息も荒かったぞぇ。
それと、かの離島ーー
小国トランザニヤからの依頼で、ヒドラ討伐隊のリーダーとなった、
Gluttony の【獣使いの神童】。
ハイエルフ、八支族のシンディ・ロアじゃな。恐ろしく美しい姫じゃった」
イブのその言葉に、ミーアとミリネアが顔を見合わせる。
何か言いたげなミーアを宥めるミリネアが無言で頷く中、
イブがエリナを指差し、
「あの場にそなたもおったな。
アマゾネスの一族を束ねるーー女帝、
Lustの 【美神】とも呼ばれとる、
エリナ・エイマスよ」
そう言ってイブが口元をキュッと締めた。
一方、顔を赤くするエリナが口を開く。
「ええ、あの招集を受けて本部にいた七つの大罪はその四人。
それと、滅多に姿を現さないーー
Slothの【神の使徒】 コルネオ・ククードは、
冒険者でもありながら、神にも使える司教なの。
彼は普段、自身の拠点、コリン聖教皇国の大教会から一歩も出ないわ。
そして冒険者は引退したはずーーと先ほどパメラ姫が言っていた、
彼女の叔母、 Greed の【神の申し子】ーー
バネッサ・グレゴリア。噂ではカルディア魔法国にいるらしいわ……
名は知られているけれど、アタシは会ったことがないの」
そう言って肩をすくめるエリナがミリネアに向き直る。
「そして、 Envyの【神の能力】 ーー
ミリネア・ロカベルが最後の一人。
大陸中に、その名を響かせる冒険者たちーー【七つの大罪】に連なる者よ」
丁寧な口調で紡ぎ終えたエリナが、一同に視線を向けた。
そんな二人が向かい合う光景に、周囲も自然と緊張を強いられたーー。
◇(ここからゴクトーが語り部をつとめます)◇
「話は、それぐらいでいいだろ?
どっちが強いのか楽しみだ。さぁ始めようぜっ!」
クロニクが場の空気を一変させる。
その言葉にミリネアが少し慌てた。
「皇子、少しお待ちを……」
そう言って自陣の大和式テントに入っていく。
ほんの数分だろうか、ミリネアが出てきた。
その姿に一同が目を見開く中。
「ミーア……上着を頼みます」
ミリネアの言葉にミーアが脱いだ上着をヒシと受け取る。
その目には姉の確固たる強さを信じる気概とーー
一方で、隠しきれない不安げな表情も混じっていた。
そんな中、アカリとジュリが準備を整える。
パメラの【マジック・ヒーリー】によって魔力を補充し、
いざという時に【回復魔法】を使えるよう、スタンバイしている。
その傍らでは、のほほんとアリーが、
コガラの毛並みをモフモフの尻尾でそっと撫でていた。
他方、ノビがイブとクロニクに、『どちらが勝つ?』と聞かれて、
オロオロとしているのが視界に入る。
その困り果てた様子に、思わず口元が緩んでしまった。
こちら側ーー『リリゴパノア』の陣営に集まる、
師団長たちも興味深げに、ゴクリと音を立てながら固唾を飲む。
闘技場の中央に立つ、
エリナ・エイマスとミリネア・ロカベルに集中する中、俺が零す。
「審判は……誰がやる?」
問題は審判をどうするかだった。
クロニクが肩をすくめて笑いながら軽く俺をいなす。
「兄貴がやったらいいじゃないか」
「いや、俺じゃない方がいいだろう」
俺の言葉などお構いなしに。
「ミリネア姫……エリナ嬢……審判は、兄貴で構わないだろ?」
クロニクの軽い提案に、ミリネアが微笑みながら答える。
「ご主様が、審判を引き受けてくださるなら、
ワタクシに、異論などございません」
しんと静まる闘技場に、
ミリネアの確固たる強い意志の言葉が響き渡る。
その笑顔の答えに、俺は何も言えず、その場で固まってしまった。
「何?そのご主様って?」
エリナが興味深そうにミリネアを見つめる。
「あなた、まさか……彼の下僕なの?」
「ええ、生涯……お主様にお仕えいたしますわ」
エリナが間を見開きつつも、すぐに納得したように微笑む。
「なるほどね……そういうこと。
ナガラ氏のお弟子さんだもの。きっと公平よね。それでいいわ」
俺の意見はどうあれ、二人が了承してしまえば話は進む。
クロニクが笑いながら俺を指差す。
「んじゃ兄貴、そういうことでよろしくな!ははははは!」
……なんで俺が?
審判なんて、やったこと無いですけども……。
心中複雑な俺を他所に、
ミリネアとエリナに挟まれ、腕を絡め取られ、強制的に確保された。
まるで捕まった宇宙人のようにーー俺は闘技場の中央へ。
プルンVS”むにゅにゅ〜〜ん”。
ーー【七つの大罪】、二人の戦いはもうすでに始まっていた。
……ってか、俺は詩人かッ!それどころじゃ無いだろッ!
自身にツッコミを入れつつ、 言葉には出さない俺は、
大きく息を吸い込み、一度吐く。
場の緊張感が頂に達する最中、「始め!」と掛け声をかけた。
開始早々エリナが戦斧を両手で握り、頭上で力強く振り回し始めた。
鍛え上げられた腕の力こぶは、
まるで斧が彼女の一部であるかのような錯覚を覚える。
息を呑む一同の視線が中央の二人に集まる中、
空気が唸りをあげ、戦斧の回転音が場の緊張を一層高めた。
「アタシは、ミリネア女史と一度決着をつけたかったの」
一方で、ミリネアが鞭を片手に静かに構えている。
そのエメラルド色の瞳には余裕すら漂い、
相手の出方を冷静に見極める『狩人』のようだった。
「Envyの【神の能力】……
先ずはお手並み拝見といきましょうか!」
エリナの口元が、僅かに弧を描いた。
「裂け目を知る者よ、
山の背を渡るものよ、
名を持たずとも 骨を持つ者よーー」
澄んだエリナの声が闘技場に響き渡る。
「わたしは縫い目を差し出す。
あなたは刃を差し出せ。
空の布が破れるまで、ともに走れ!」
澱みないその声には傲慢さではなくーー
まるで「等価交換」のような静けさが滲んでいた。
それは命令ではなく、彼女が契約として詠むものだろう。
「ーー縫え、裂け、また縫え。
嵐よ、姿を借りろ!【バルム・ケルン】!」
"ᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰ”
回転する戦斧が竜巻を生み出す。
ビューーーーゥッ!
その猛々しい風は場の土埃を巻き上げながら、
一気にミリネアへと襲いかかったーー。
お読みいただき、ありがとうございます。
引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )




