模擬戦編 9 〜中堅対副将〜
アリーVSココ Σ('◉⌓◉’)
下界を眺め、黒銀の瞳を細めるトランザニヤがポツリ。
「オブニビアの孫か……」
その言葉に神シロも顔を上げ零す。
「華の相棒ーー虎獣人のティグルもオブニビアの孫じゃよな」
二人の言葉に女神東雲も顔を上げ唇を噛む。
「華とティグルーーあの二人は……今どこに?」
その言葉が天上の雲に溶ける中、三柱は再び下界を眺めた。
ーーその頃、ゴクトーたちはビヨンド村の冒険者ギルドの別棟、
鍛錬場の一角、闘技場で、イブたちとの模擬戦を繰り広げていた。
◆(女神東雲が語り部をつとめます)◆
「次の対戦を始めます!中堅の勝者アリーと戦う副将、前へ!」
エリナ・エイマスの声が響く中。
「なるほど……あれが、獣人の戦い方か……」
零す第二護衛師団長ーーココの眼が細くなる。
イブがココの肩に手を置く。
「ココよ、無茶をするでないぞ」
「承知しております。副将、ココハナ・カムヨーー 参る!」
鋭い目つきのココが颯爽と踏み出す。
場の緊張感が増す中、ゴクトーがアリーに声をかける。
「無理するなよ、アリー」
「アリーさん、応援じでまづ!」
ノビも必死にエールを送る。
見守るミーアがノビの訛りにクスッと笑う。
一方、パメラが慌てた様子で唇を動かす。
「アリーちゃん、ちょっと待って、【マジック・ヒーリー】!」
赤い杖をサッと振り、
真紅の魔法陣を展開ーー魔力回復の魔法をアリーに施す。
赤い光に包まれたアリーの持つ魔導銃が、青い火花を散らす。
「ありがとう、パメラにゃん!いってくりゅ!」
満面の笑みで感謝を伝え、アリーが闘技場の中央へ。
大きく息を吸い込むアリーに対し、ルビー色に瞳を閃かせるココ。
両者の【覇気】と【魔力】が火花を散らす中、
闘技場の空気もバチバチと音を立てた。
「始め!」
エリナの掛け声が響くと同時に、ココが背負った巨大な大剣を抜く。
その姿は鋼鉄の塊が動き出したかのよう。
異様な存在感と鬼気迫る【覇気】を漂わせる。
ジリジリと間合いを詰めるココに、
アリーが絶妙な距離を取り、隙を窺う。
(ココの大剣……あれは剣士独特の間合い。
爪先でも踏み込めば、一刀両断される……
一方でアリーは俊敏性を生かして、間合いを詰め、
一気に決めるつもりなのね……ふふ、この対決面白いわ)
二人を凝視する審判のエリナの目が鋭さを増す。
静まる闘技場に誰もが息を呑む中、
紫色のオーラがココの身体から漏れ始める。
アリーもその圧に気づき、垂れ耳を「ピン」と立て、
魔導銃に魔力を込める。
ココが僅かに間を詰めたーーその瞬間、闘技場の床をガッと踏み締める。
「【紫電の衝撃】!」
詠唱とともに大剣が横一閃ーー
突風を巻き起こし、紫雷の斬撃が大気を裂く。
"ᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰ”
"バリバリバリバリーー”
向かってくる斬撃に飛び避けるアリーがトリガーを引く。
「にゃっ!」
“バァァァンッ!”
魔導銃から放たれた魔導弾が紫雷の斬撃とぶつかり合い、
激しい閃光が闘技場を包む。
「中々にやる……けどこれで終わりでは、ありませぬぞ……」
目に鋭さを湛え、ココが大剣を斜に構え、
「【エンチャント・フィジカル・ミラージュ】!」
と低い声で詠唱する。
その刹那、彼女の身体が紫色の炎を纏い、
まるで鏡の中の世界が現実に滲み出たかのようにーー
四体の分身がココから滑り出てくる。
ーー異様な光景が展開される中、イブがふと零す。
「ココのやつ……無理をしおって」
ゴクトーたちの陣営からも驚きの声が上がる。
「ふ、増えだ……!?何?ごれ!」
そう言って腰を抜かすノビに、眉をひそめるパメラが鋭く窘める。
「貴様は黙って見ていろ!【身体強化魔法】の最上級の、【分身魔法】だ」
その言葉にゴクトーたちも息を呑む。
アリーが必死に目を凝らして分身を追うーー。
魔導銃から青い弾丸が弾かれる。
“バァァァンッ!” “バァァァンッ!”
二つの銃声が響く中、そのうちの一人に命中し、
弾けるように霧散する。
だが、残り四人のココがスピードを緩めず、一気に間合いを詰め、
大剣を振り翳す。
大気を切り裂く音が鍛錬場に響くと同時にーー
「にゃっ!」
「にゃっ!」
「にゃっ!」
「にゃっ!」
間一髪躱し、アリーが俊敏な動きで跳ね回る。
一方ココが冷静に戦況を見極め、紡ぐ。
「【絶対重圧圏】!」
詠唱とともにアリーの身体が黒い光に包まれる。
同時に足元の地面が歪み、アリーの身体が徐々に沈み始めた。
「にゃ!……にゃんで地面に沈むにゃ……!?」
必死に踠くアリーだがーー徐々に動きが鈍くなり、
「魔力が吸い取られりゅ!」
必死に魔導銃のトリガーを引く。
「お願い、もう一発だけ撃たせてにゃ……!」
引けども魔導銃が反応を示さない。
指一本動かすのも容易ではない重圧の中、
アリーは震える手で魔導銃の銃尻を地面に叩きつけ、
その反動で無理やり銃口をココへと向け直した。
"カチッ…カチッ…”
「もう……撃てないにゃいか……」
アリーの目に焦りの色が滲む。
ココがその様子を見て僅かに微笑む。
姉ガリとの修練の日々が彼女の脳裏を一瞬過ぎった。
その動きには迷いがない。
肩で息をしながら、アリーの喉元にココが大剣を突きつける。
「動きは封じた……はぁ、はぁ……これで終わりだ」
闘技場に静寂が訪れーー分身ココが光となって消え去った。
「……降参しなさい」
ココの低く震える声が響く。
動けないアリーが小さく息をつき、持っていた魔導銃を下ろす。
「魔力切れにゃ。もう動けにゃいし……降参にゃ。ココにゃん……凄いにゃ!」
そう言って笑顔を浮かべる彼女に、ココが僅かに眉を動かし、剣を下ろす。
ふらつきながら大剣を背に収めると、静かに紡いだ。
「【深淵からの救済】」
闇属性の黒い光がアリーを包み、ゆっくりと彼女の身体が浮かび上がる。
アリーが震える手を差し出す。
「次は負けにゃいよ」
(この娘……ただの愛嬌者ではないな。次は我がやられるかもしれぬ……)
ココも握り返し、口元に微かな笑みを浮かべた。
「望むところ」
「勝者、副将ココハナ・カムヨ!」
静寂の中、エリナの声が響き渡ったーー。
(剣士なのに【多重魔法】まで使うなんて……
この師団長、冒険者なら間違いなく『S級』クラス!)
一方で審判を務めたエリナが、
冷静にココの実力を見定めていた。
二人がそれぞれの陣営に戻っていく中、闘技場は拍手の嵐に包まれる。
全力で手を叩くゴクトーと仲間たち。
ゴクトーがアリーの頭を撫でながら声をかける。
「アリー、相性が悪かったな」
しかし悔しがる様子も見せずにアリーが胸を張った。
「ゴクにぃ、僕……次は負けにゃい!」
そんな彼女を心配して、パメラがそっと近づいてきた。
「アリーちゃん、顔色が悪いわね。じっとして…【マジック・ヒーリー】!」
真紅の魔法陣から魔力が光となりアリーを包み込む。
嬉しそうに獣耳を立て、アリーが笑顔になる。
「パメラにゃん、ありがとにゃ!」
一方、〝♡〟の目のミーアが抱きつきたい衝動を抑え、
もどかしそうにアリーを見つめる。
和やかな空気が流れる中、状況を鑑みて、
エリナが提案した。
「副将戦に入る前に、ここで一旦休憩を取りませんか?」
「良いじゃろう。ココも体力と魔力をかなり消耗しておる。
少し休ませたいぞぇ」
イブが即座に答え、ゴクトーもそれに同意する。
肩で息するココの顔色と雰囲気を読み、ゴクトーがパメラに声をかけた。
「パメラ、ココさんの回復を頼めるか?」
「敵に塩を送るなんて、ゴクちゃんらしいわねん」
パメラは笑いながらココに近づき、彼女の前で柔らかく紡ぐ。
「【マジック・ヒーリー】!」
真紅の魔法陣に包まれるココの顔が、徐々に生気を取り戻していく。
だが、詠唱とともにパメラの『爆弾』がブルンと揺れ闘技場に爆風が起きる。
土煙が舞い上がりーー
「きゃ!」
「何!」
師団長たちがスカートを必死に押さえる。
だが、ココの顔色の悪さは一向に癒えていなかった。
「ココさんの脇腹……ひどいな。
アリーの魔導弾が掠めたんだな……ジュリ……脇腹が……」
ゴクトーが言いかけたーーその時。
「わかってるわ!人の心配ばっかりして……バカ!
ココさん、じっとしてて!【エクストラ・ヒール】!」
ジュリが感情を込めて紡ぐ。
ココの身体に緑の光が注がれ、その顔に少しずつ血の気が戻っていく。
「ありがとう……」とココが零す。
「すまぬな、ジュリリン」
爆風がまだ猛威を振るう中、イブがジュリに感謝を述べる。
一方で、ジュリが振り返りゴクトーに笑顔を見せる。
「……二人とも爆風で、見えちゃってますが?」
目の前で舞い上がるスカートから目を逸らすゴクトーはさておき。
そんな中、コガラが羽をパタつかせ、コトバを飛ばす。
「あるじーー!おなか ちゅいたーー」
「お前……朝飯食ったばかりじゃないか?」
「おなかがちゅいたのーー!!」
ゴクトーがコガラを撫でながら、苦笑して周囲を見渡す。
「みんな、昼飯にしないか?」
ゴクトーが零すとミリネアが口を開く。
「もうとっくに、昼を過ぎてますが……」
その言葉に、鍛錬場の『時を刻む魔導具』を見てゴクトーが驚く。
白熱した模擬戦で時間が過ぎたのをすっかり忘れていたらしい。
「ご主様、声をかけて参ります」
「ああ。ミリネア、ついでにエリナとイブたちにも声をかけてきてくれ」
ミリネアが優雅な動きでエリナと話し込むアカリに声をかけると、
そのままイブたちの陣営にも足を運んだ。
「さすが我が妹だ、ココ!」
第一師団長で姉のガリが笑いながら迎える。
顔色の良くなったココを抱きしめるガリ。
その様子を見てイブが口元を緩める。
「ガリがいなければ、お前が第一師団長になっておったじゃろうな!」
「滅相もございません!」
ココがイブに深々と頭を下げた。
その横で、ガリが「図太い」とも取れる表情でイブを睨んでいたが、
イブは気にも留めていない様子。
一方で感謝を述べるココに対し、名を尋ねられるパメラが優雅に一礼した。
「パメラ・ルシーヌ・カルディアと申します。これぐらい些細なことですわ」
その言葉にイブが目を丸くする。
(カルディア……王族の血筋。この魔力の量、納得じゃな……)
視線をパメラに向けイブが口を開く。
「これは失礼しました。
妾はヒラム・イブ・ファルダットと申します。どうぞよしなに」
二人は礼儀正しく言葉を交わし、パメラがゴクトーの元へ。
「パメラ、ありがとう」
「お礼なんていいのよ、ゴクちゃん」
パメラがウィンクしながら、
ゴクトーの頭を抱え込むようにして豊満な胸元へ引き寄せる。
「ゴクちゃんに抱きつくと、
なんだか魔力がじわ〜っと回復していくみたい……不思議だわん♡」
甘い声とともに、先ほどまで魔法の酷使で、
少しボリュームを落としていたはずの彼女の『爆弾』が、
言葉通りみるみると弾力を取り戻しーー
一回り大きくなったような圧迫感をゴクトーの顔に与える。
……気のせいじゃない。
パメラの家系は魔力と胸のサイズが連動してるって聞いてたけど、
まさか俺に抱きついただけでここまで露骨に膨らむなんて……。
押し付けられたダイナマイト級の柔らかな感触と、
目の前で「育っていく」異様な光景にーー
ゴクトーは言葉を失い、顔を耳の根元まで真っ赤に染めるしかなかった。
その光景を見つめるノビが、「羨ましい」という表情を浮かべる中ーー
呼びかけに応じ、全員がゆっくりとゴクトーの陣営に集まってきた。
「やれやれ」
見ていたクロニクが大きなため息をつく。
「おなかすいた〜あるじ、はやく、ちゅぢゅき!」
お読みいただき、ありがとうございます。
引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )




