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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第0幕 〜妄想図鑑と神代魔法士〜

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銀血の序曲ーー受け入れざる急報

 




 

 太古の大戦から数百年後、突如としてズードリア大陸を襲う天変地異。

 空が裂け、地がうねり、津波が舞い、稲妻が大地を切り裂く。

 

 それは、まだ序章に過ぎなかった。


 南東の神秘の海“マレー海”沖ーー大地が隆起し、火山が噴き上がる。

 黒煙が空を覆い、龍の咆哮が如く雷のような音が響き渡り、溶岩が滝のようなひと筋の奔流に変わり流れ落ちる。

 海は赤黒く煮え、地獄のような光景が広がった。


 やがてその地に、“黒い門”が現れる。

 漆黒の石で造られたその門は、時の流れを拒むように静止していた。


 門が開いた瞬間、世界が一秒だけ息を止めた。


 そこから現れたのは、異形の“魔族たち”。

 彼らは恐怖と混乱を撒き散らし、“王国ガーランド”を築く。

 そしてーー太古の大戦が、再び幕を開けようとしていた。


 その地を支配するのは、圧倒的な力で魔族たちを屈服させたガーランド三世”。

 祖父・赤髪のガーランドの名を冠し、ズードリアの支配を企む。


 重厚な玉座に腰かけ、紅の瞳で世界を見据える。


 左肘を肘掛けに預け、(あご)には軽く拳を添える。

 ガーランド三世は片目を瞑り不敵な笑みを浮かべる。


「ふむ……」


 口元から覗く、二本の鋭い牙がーー彼の存在の異質さを際立たせている。

 赤い髪が燃えるように鮮烈に揺れ、薄青い肌に長く鋭い黒い爪が映える。

 その端正な顔立ちは見る者全てを圧倒し、【脅威】と【覇気】をまざまざと見せつけるのだった。


 

 ***【魔王と配下】***

 

 カツッ… カツッ… カツッ…


 王宮内に鋭いハイヒールの音が規則正しく響く。

 彼のもとに現れたのは、*魔族四天王の一人ーー北のドルサード。

 魔王配下の筆頭、魔族たちからも恐れられる存在。


 (みどり)の髪を揺らし、黄色の瞳に金色の虹彩が冷たくも妖艶に輝く。  


 灰青色の肌には黒く美しい二本のツノが際立つ。

 彼女のその顔はどこまでも整っていた。

 赤いドレスが豊満な胸元を惜しげもなく露わにして。

 足元に流れるスリットから覗く、灰青色の長い美脚。

 高さのあるハイヒールがその一歩一歩を強調し、貴族としての威厳と官能的な美しさが目を引く。


 挿絵(By みてみん)

(*ドルサードのイラスト)

 

 彼女は玉座の背後に身を預け、艶っぽく囁いた。


「魔王様……トランザニヤに、“もう一人”がいたのです。誰も知らぬ皇子が……」


 そう言って魔王の耳を甘噛みする。


「……それが真ならば、物語が狂い始めるな」


 魔王の口元に、不敵な笑みが浮かぶ。

 その紅い瞳と銀の虹彩(こうさい)は一瞬たりとも、油断なく世界を見据えるようである。


「……放置はできんな。トランザニヤの皇子、か」


 その言葉とともに、世界の歯車は狂い始めたーー。




 ***【神々の雑談】***



 天界より下界を覗く神たち。


「【黒銀に閃く瞳孔】、【鋭い犬歯】って、こりゃ、お前の末裔たちだぞ」


 神シロが黒銀の目の友に語る。


「ああ、そうだな」


 彼はつぶやきながら笑みを浮かべた。



 挿絵(By みてみん)

(*ズードリア大陸マップ)



 ズードリア北方の島国“トランザニヤ”。

 平和な一族のもとに生まれた双子の誕生が、運命を変えていく。


 


 この小国で静かに、しかし確実に異変が起き始めていた。

 隔離された島国の暮らしは数百年、平和そのものだった。


「爵位制度か……昔と変わらんな……」


 黒銀の目の友が懐かしむ。


「確か……特有の爵位制度が採用されてるんだろ?

 君主は『王』ではなく、『王爵(ロイ)』と呼ばれるとか?」


 神シロは手を顎に添え、下界の様子をじっと見つめていた。


「代々、長男のみが王位を継ぎ、『ロイ(王爵)』を名乗ることを許されるんだ」


「だが、弟たちは『ファン(公爵)』の称号を与えられ、義務としてそれを名乗らなければ……ならないんだ」


 黒銀の目の友が続けた。


「その下に連なる重臣や眷属の一族も、侯爵以下の爵位を分与され、それぞれが国を支えているんだ!」


 彼は力強くシロに話す。


「お前は常人には到底扱えない、特殊スキルを生まれながらに備えているからなぁ……」


「まあ、だから『始祖の一族』と呼ばれているんだがな……」


「その姿と力は、人々に畏敬を与え、時に神話とすら混同されたって聞いたぞ。 ククク」


 神シロは黒銀の友にそう言うと、口を歪めていた。だが徐々に彼の表情が曇っていく。


「おい、見てみろよ!」


「ああ」


 神シロの言葉に黒銀の目の友はギュッと目を凝らし、その様子を眺めた。



 ***




 神々が見据えたその先ーー総人口、僅か二千人程の小国。

 トランザニヤ国の首都、メルリにある白亜の宮殿。

 絢爛豪華なステンドグラスが、白亜の宮殿内に柔らかな七色を添えている。

 その最奥に位置する壮麗な『王爵の間』。そこにも煌びやかな光が降り注でいた。

 そこではトランザニヤ国の爵位を持つ、眷属たちの上奏が執り行われていた。


 どこか落ち着きのない年配のーー人ではなく、”人狼の侯爵”が進み出る。


 侯爵は玉座の間の大理石の床に膝をつき、ゴリ……と、鈍い音が響く。


 涎を垂らしながら、重々しくその年配は口を開いた。


「ええと、その、あの困ったことに……」


 人狼の侯爵は口籠りながら、なんとか続けた。


「……ヒドラが……現れました」


 その瞬間ーー緩やかな空気が張り詰めた。


 ーー重々しい急報。


 それが玉座の間に波紋を広げていく。


 最初に反応したのは、トランザニヤ家の末弟だった。


「ヒドラ……? 九つ首の龍だなんて……」


 ドミナスは紅のローブの袖をぎゅっと握りしめた。


 トランザニヤ家は、男ばかりの三兄弟。

 彼らがほぼ国を動かす柱になっていた。


 その末弟はこの国の宰相を務める。

 実質No3の権力者だ。


 一人異端な青髪の彼の仕事は、主に国内のインフラ整備、税収の管理、司法の管理などが任されていた。そのぽっちゃりとした顔に、見えない緊張が滲んでいる。


 周りの諸侯たちも眉をひそめ小言を囁く。

 玉座はどこか冷たい緊張感が漂い始めた。


 バカな……。

 ”あれは別界の怪異”と、亡き父は断言していたはずだが……。

 まさか、魔王が深淵から……


 トランザニヤ家の次兄、マグナスは思考を逡巡させる。

 彼の不精髭の下唇が渋く歪む。

 冷静さを装うが眉間には深い皺が寄っていた。


 短く切り揃えられた銀髪をガシガシ掻く彼の仕事は、主に魔物討伐、防衛、警備。トランザニヤ国家の中では唯一の大将軍。実質No2の権力を持つ。


 しかし、トランザニヤ家の長兄、”王爵”オブリオは黙っていた。

 玉座に腰をかけ、束ねた銀髪を背に鋭い眼差しで弟たちを見つめていた。

 黙視していたオブリオの拳は、わずかな輝きを放っている。


 血に宿る『始祖の力』がたかぶりを示し、揺るぎない口調で述べる。


「現れた以上、対応するしかあるまい……マグナスよ、討伐隊を編成せよ!」


「はは、ありがたき幸せ! 兄上、このマグナス、全力で果たしてみせましょうぞ! がっはははは」


 次男マグナスは胸に拳を添え、高い声を響かせる。

 弟の決意を受け止め、オブリオはさらに続けた。


「だが、決して無理はするな……死ぬようなことがあれば、トランザニヤ家の名誉が泣くのだからな」


 その言葉に、末弟ドミナスも不安げな表情を浮かべ続けた。


「マグ兄……どうかご無事で……」


 マグナスは頬を引くつかせ立ち上がる。


「心配には及ばぬぞ、チビナス。 がっはははは。 ふん、ヒドラごとき、我が犬歯で噛み殺してみせようぞ!」



挿絵(By みてみん)

(*マグナスのイラスト)


 豪語したマグナスは、続け様に部下たちに命じる。


いのちの惜しからぬ者どもよーー我に続けいッ!!」


 一瞬、部下たちは顔を強張らせた。

 だが、マグナスの【覇気】とでも言おうか。威圧にほだされすぐに剣を抜き、「おおー」と皆、気合いを込めた。



 部下たちを引き連れ、黒いマントを颯爽と翻しーー

 玉座の間を出ていく次男マグナス。その性格は剛毅。

 まるで英雄が見せるようなその背には、揺るぎない覚悟と自信が滲んでいた。


 彼が遠ざかる中、玉座の間には”しん”とした不気味な静寂が訪れていた。

 違和感を覚えたオブリオは、うすく眉をひそめる。

 そして、兄として弟の命を何よりも案じていた。


 誰よりも誇り高く、

 誰よりも優しい弟よ。

 かつて、雪山で凍えた幼き日の小さな手をーー今も忘れたことがないぞ。


 思いながらも彼はこの時、感じたことのない不安を抱えていた。

 遠ざかる弟の背中を見つめ、オブリオは静かに祈った。


 どうか……無事であれよ……。


 オブリオのその瞳には、かすかな憂いが浮かぶ。


 誰も気づかないーーその時。

 玉座の間の天井、七色に光るステンドグラスにはわずかな”ひび”が走っていた。


 彼の胸中に去来するのは、この国を覆い始めた不穏な気配ーーその陰で、“名もなき者たち”が、刻を待ちわびるように息を潜めていた。


 やがて、銀の血すら朱に染まる日が来るとは、誰も知る由もなかった。


 それはトランザニヤという神話の終焉、序曲に過ぎなかったーー。




 ***



 その頃、黒銀の目の友が小国トランザニヤに注視している最中、

 神シロはコリン教会の孤児院に目を向け、ニヤリとしていた。



「あいつ、また、シスターに怒られてやがる。どれ一丁ワシのお気に入りの図鑑でもくれてやるか……ククク」


 神シロは、黒銀の瞳を持つ少年を天界で眺めていた。

 その少年はゴクトー。


「この物語の主人公は、罰ばっかり受けてやがるな。ククク」


 神シロは、噛み殺したような笑い声を漏らしていた。




 *魔族四天王ーー四方を守る高位魔族、堕落した4柱の神々を指し、魔王を守護する。勇や魔力に優れた4人を指す。










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