ワイバーン討伐編 23 〜デカ過ぎる報酬〜
ワイバーン討伐編も残すところあと一話╰(*´︶`*)╯♡
天界は丁度昼時ーー
『神饌』から米や野菜、川魚を天上に召し上げ、
女神東雲が神代魔法で調理を始めていた。
そんな中、神シロが御神酒を召し上げ、パチッと指を鳴らす。
その瞬間、白い盃が二つ、手の内に収まった。
並々と注がれる御神酒の麹の匂いが漂う中ーー
「冷酒もいいが、燗も乙じゃよ」
そう言って神シロが盃に手を翳す。
じんわりとした湯気が糸のように立ち上がり、
ふっと雲の中に馴染んでいった。
「たまにはーー酒を飲みながら下界を眺めるのもいいじゃろう」
「ああ」
首頷するトランザニヤが黒銀の目を細め、神シロとともに雲間を覗く。
ーーその頃ゴクトーたちはビヨンドのギルド支部で、
【七つの大罪】と呼ばれるS級冒険者ーー Lustの【美神】 エリナ・エイマスと偶然にも邂逅を遂げていた。
◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇
受付に立っていた、エリナ・エイマスが、別棟へと俺たちを案内する。
前を歩くエリナ・エイマスの引き締まった、見事な桃尻が目の前で揺れる。
前を歩くエリナはスタイルも良くーーかなりの美人。
さらにどこか男心をくすぐるような香りと覇気を漂わせていた。
目が釘付けになるのを抑え振り向くと、
アカリ、ジュリ、パメラ、ミリネアも何故かーー腰をくねらせ歩いていた。
その様子に呆れながら息をつく。
負けん気が強い、肉食女子たちだからな……。
動機は簡単に理解できたが、口には出さない。
別棟に入り作業場に辿り着く。
作業場ではバグマン親方と解体職員が疲れ切った顔で、
その場に座り込んでいた。
その傍らには、真剣な表情を見せるハウゼン支部長と、
豪奢で煌びやかなローブを纏う老人が話し込んでいる。
その老人にはどこか威厳が滲み、気品も漂っていた。
そんな中、敬意を滲ませるエリナ・エイマスが姿勢を正す。
「ハウゼン支部長、リリゴパノアのメンバーをお連れしました」
艶やかかつ凛々しい声が作業場に響く。
その声で振り向き、満面の笑みを浮かべるハウゼンが口を開く。
「ああ、エイマスさん、ありがとう。
ゴクトー君、大変なことになってるよ! ははははは」
一方で、疲れ切った表情のバグマン親方も、俺に向かって手を振った。
「八咫鴉か……待ってたぞっ!」
その言葉に軽く手を挙げ、挨拶。
他方、ギルド職員たちが白金貨を数えながら、大布袋に詰めていた。
初めて見る光景に困惑する中、受付嬢や職員までもが、
羨望の眼差しを俺たちに向け、額を汗で濡らし、作業を進めている。
一方、仲間たちがその様子に目を丸くする中、
ジャラジャラとした音とともに流し入れられ、白金貨の擦れる音が、
作業場に反響する。
圧倒される仲間たちが、
白金貨が詰まっていく様子を眺めながら、息を飲み立ち止まる。
緊張感、いや高揚感の方が正しいのか、
その光景に仲間たちの表情にも赤みが増していく。
「凄いんさ……」
ポカーンと口を開けながらノビがポツリと漏らす。
するとハウゼンが親しげな口調で手招きした。
「ゴクトー君、ちょっといいかい?」
呼ばれた俺は何気ない素振りを見せつつ、
傍に立つ威厳ある人物に目を向けた。
俺が近づくにつれ、
ハウゼンがどこか恐縮した面持ちで口を動かす。
「こちらのお方はーー
アドリア公国でも名高い、ここビヨンドやハゴネ地方のキヌギス砦、
その北方辺境を治める領主様でいらっしゃる貴族の……」
長いハウゼンの言葉尻を蹴飛ばすように、
威厳を滲ませる老人が目尻を下げ、口元を緩ませる。
「イイダル・コス・ハルツームだ」
気品ある低い声が作業場に響く。
名乗りをあげ、威圧のある【覇気】を纏いながら、
その老人が白の軍服姿で俺に握手を求める。
手を差し出したその瞬間ーー
豪奢な毛皮をあしらった黒色のローブを颯爽と翻す。
その上品さと堂々とした立ち振る舞いは、
ただの貴族ではないと一目でわかる。
ロマンスグレーの髪と髭を湛えたその顔は、
笑みを浮かべてはいるが、その眼光に隠しきれない鋭さを宿していた。
「ふふ、お主、良い面構えじゃな。
儂の領地の危機をよく救ってくれた。礼を言う」
突然の賛辞に、俺は驚き、少し身構えた。
ああ……この人か。
女将さんから聞いたアザック騎士団長やシモンヌ男爵の上司って。
……妙な因縁を作りたくない。ここは素っ気なく流そう…。
胸中で納得しながら、口を開く。
「ゴクトーだ。礼を言われる覚えはない……
依頼を受けてワイバーンの調査と、討伐をしただけだ」
ややぶっきらぼうなその言葉にも、
ハルツーム領主が気にした様子もなく、笑みを深める。
「キヌギス砦の件についても調べはついておるが……
まぁ、それはもう良かろう。
……これだけのワイバーンを討伐したお主らに、儂から何か褒美をやろう。
財宝でも領地でも、好きなものを言うてみなさい」
その言葉に戸惑いながらも、思考を逡巡させる。
財宝とか領地とか、そんな話になるのか……?
いや、きっと後でーー面倒なことが起きるに決まってるッ!
突然の提案に息を呑みつつ、必死に喉を開く。
「報酬を貰うし、領地なんて貰っても、価値もわからんし、
孤児院育ちの俺は学もないーー
威厳なんてもんは、これっポッチも持ち合わせてはいない。
統治なんて、できるとは思わんが?」
素っ気なく返す俺に、領主は笑いを含ませた声で応じた。
「わっははは、統治などせんでも良いわい」
まるでこちらの言葉を軽く、いなすかのように紡ぐ。
「領地が駄目なら、小さな村が点在する儂の私有地をやろう。
それなら文句はあるまい。
お主らもいずれ冒険者を続けられぬ歳になる……
老後のためと思うてーー収めておけ。手配はこちらでしておく」
「……いや、貴族の私有地なんかーー軽々しく受け取っていいものか?」
困惑する俺に、ミリネアがすかさず口を挟む。
「ご主様、領主様がこう仰るのです。
ここはお受けになった方がよろしいかと……」
その優しい声と柔らかな微笑みが、少しだけ俺の困惑をほぐしてくれた。
横で「うんうん」頷くハウゼンが、俺の肩をトンッと叩く。
「ゴクトー君、領主様がここまで言ってくださるんだ。
僕なら喜んでいただくよ。ははははは!」
「……勝手に話を進めるなよ」
俺の言葉に領主イイダル・コス・ハルツームが高らかに笑う。
「わっははは。ハウゼン、よくぞ言うてくれた」
その声とともに顔に皺を深める。
その土地……孤児院とか作るのも悪くないか?
俺みたいな子供たちのために……
使えるかもしれないよな……。
育った環境が頭を掠め、決心して腹を括り、領主に向き直る。
「わかった。好きなようにしていいんなら貰おう」
「もちろんだ。お主の好きにせい!」
ハルツーム領主が満足げに微笑みながら頷いた。
一方背後では、仲間たちが驚きと喜びの声を漏らす。
思わず振り返り、仲間たちの様子を窺う。
「土地持ちになったのん?」と、パメラが目を丸くする。
「やったにゃ!」と、アリーが飛び跳ねる。
「凄いこど……が」と、ノビが目を白黒させていた。
領地を与えられるなど、想像もしていなかったのだろう。
俺が受け入れたことで、場の空気も和らいだ。
そんな中、ハウゼンとバグマンが苦笑を浮かべ、
無言でエリナ・エイマスが柔らかな笑みを送ってくる。
その瞬間、ゾクッとした寒気が全身を貫いた。
背筋が凍えますけども……。
胸中、どこか穏やかならぬ雰囲気を感じ取る。
しかしその奥に、冷たい火のようなーー”何か”が灯っている気がした。
そんな俺を他所に威厳ある声が低く響く。
「ハウゼン支部長、後ほど部下に土地の権利証を届けさせる。
その部下にワイバーンの肉と、素材を持たせてくれ。後は頼んだぞ!」
そう告げると、ハルツーム領主は颯爽と出口へ向かった。
ふと風格ある背中が歩みを止める。
(それではまたな、八咫鴉、いやゴクトー卿よ……)
ハルツーム領主の思考が”心読”スキルで俺に伝わる。
その去り際の背中には隙がなく、
「風格」という言葉がそのまま当て嵌まっていた。
次の瞬間、まるで魔法が解けたようにーー
並ならぬ【覇気】が作業場からふっと消えた。
そんな中、気がつけばーー
解体作業員たちが気にも止めず、すっかり寝入っていた。
解体場の片隅では穏やかな寝息が響く。
あまりに場違いで、僅かに目尻を下げたーーその矢先。
「やれやれ……領主様は、言い出したら聞かんお方だからな」
零しながらバグマン親方が肩をすくめ、壁際の『魔導保冷庫』へと向かう。
「八咫鴉よ、言われた肉は、ここにあるぞ」
そう言って彼の身長の倍はある、巨大な保冷庫の扉を開けた。
冷やかな風が周囲に漂う中。
霜のつくワイバーンの肉が整然とーー否、ぎっしり詰まっていた。
親方が無駄のない手際で、その肉を次々と作業台へ積み上げていく。
やがて、作業台の上は、
山のように盛られた、ワイバーンの肉で埋め尽くされる。
「……」
仲間たちが息を呑み、その光景をただ見つめていた。
肩に爪をくい込ませるコガラも、首を縦に振り、どこか喜んでいる。
そんな中、バグマンが作業の手を止め、
「素材だがな、領主様はもちろん……
商業ギルドと、一部の商人。
それと冒険者ギルドの本部で買い取ってもらった」
そう言って目を細め、エイマスの方へと視線を向けた。
パチッと目配せするエリナ・エイマスはさておき。
バグマンの言葉を受けハウゼンが口を挟む。
「ゴクトー君、解体の手数料は引かせてもらったよ。
ははははは!」
言いながら瞳を閃かせ、楽しそうに笑った。
他方、職員たちが詰め終え、大きな布袋を数人で運んできた。
そしてバグマンがそれを一つずつ持ち上げ、
空いている作業台へズシャリ…ズシャリと乗せていく。
袋はずっしりと詰められ、彼の腕にも力が籠る。
バグマンが額の汗を拭いながらこちらに向かって、
ニヤリと白い歯をみせる。
緑の顔と相まってーー
その歯がやたら白く見えたのは、勿論口には出せない。
仲間たちが、その大きな布袋の数に圧倒される中、バグマンが口を開く。
「これが差し引いた、買取金の白金貨44,720枚。
そして……こっちが、討伐報酬の白金貨だ。40,000枚ある」
その信じ難い額面を聞きーー
仲間たちが目を丸くし驚きの声を上げる。
「「「「「えええええええっ!!!!!!!」」」」」
その声が天井にまで響き作業場に反響する。
仲間たちが顔を見合わせる中、ミリネアが冷静に唇を動かす。
「ご主様、今のレートは白金貨一枚が、金貨10枚相当ですから。
84,720枚の白金貨は、金貨にしたら847,200枚になりますね」
そう言ってニコリと口元を綻ばす。
「それがここには、あるんだよな……ってことは、
俺たちは今、ちょっとした貴族より、金持ちってことか?」
そう漏らしながらも、金額の大きさに俺は息を呑んだーー。
お読みいただき、ありがとうございます。
引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )




