ワイバーン討伐編 21 〜ノビの覚醒と魔獣ミンシア〜
ノビ〜〜〜!(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
「懐かしいな。彼を見ていると――ケロッグ長老を思い出す」
そう言って雲間から顔を上げたトランザニヤが、その黒銀の瞳を細める。
一方で、下界を注視していた女神東雲の表情が驚愕に染まった。
「まさか……彼は、あのスキルを?」
その言葉につられ、神シロも下界を覗き込む。
「うむ。間違いない。あれは……【星読】のスキルじゃ」
三柱は顔を見合わせ、どこか楽しげな笑みを浮かべた。
ーーその頃ゴクトーたちは朝食を終え、
イブたちとギルドでの待ち合わせの時間を決めていた。
◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇
女将さんにお礼を言い、俺たちは宿の食堂を後にした。
ギルド支部に向かう前、女子メンバーは装備を整えるため、
一旦大部屋へ戻り、準備が整い次第、部屋に来ることになっている。
「しだっけ、オラも膝のプロテクターを……」
ノビがポツリと漏らし、宿屋の自室に取りに戻った。
彼の背中を見送りながら、
肩に乗ったコガラを軽く撫で、隣のクロニクとともに俺の部屋へ向かう。
部屋に入ると、
クロニクが俺のベッドに腰を下ろし、そのまま寝転がる。
「いやぁーー。兄貴のベットは気持ちい良い」
「お前の部屋のベット変わらんだろ。
それに俺はーーお前の兄貴じゃないからなッ!」
俺の言葉に耳を傾けようともしないクロニクに呆れる中。
窓から差し込む朝の光が部屋を満たし、心地良い静寂が漂う。
食堂で腹を満たしたコガラもどこか眠そうだ。
羽を小さく畳んだまま、クロニクの隣でーー
ベットの上にちょこんと首を伏せている。
師匠が忽然と姿を消した2年前ーー
一人で旅をしていた頃とは、段違いだ。
賑やかな仲間たちとともにいるだけで、心がじんわりしてくるな。
胸中に沈めながら、しばしの間、この光景を黙って見ていた。
そんな中、コガラの羽がピクッと動く。
《「あるじーーノビたんがくるよーー」》
コガラが楽しそうに念話を飛ばしてくる。
「ああ、そうか」
俺が気の抜けた声を出すと、隣のクロニクが小さく笑った。
「兄貴、ノビだ」
「わかってるよ」
その刹那、コンコンコン と控えめなノック音が響く。
「ノビだろ、入れよ、開いてるぞ」
そう言うと、ドアがゆっくりと開き、
膝のプロテクターをしっかりと装備したノビが顔を出し、
目を丸くして尋ねてくる。
「ゴクどーさん、なんでわかったんさ?」
「コガラとクロニクが教えてくれたからな」
「気配?それとも【覇気】でわがるの?」
訛り混じりのノビが興味津々で聞いてくる。
そんなノビに、クロニクが小さく肩をすくめながら口を開く。
「まだ小さくて臆病。だが、勇敢な【覇気】をノビにも感じるぜ!」
「しだっけ、オラも一人前の冒険者になっでぎたんさ!」
ノビは胸を張り、自信満々の表情で自分の胸を叩く。
相変わらずノビの、訛りが俺の脳を刺激する。
穏やかな空気が部屋に漂い始めた丁度の頃合い。
肩の上のコガラが、愉快そうにその言葉を真似してコトバを飛ばす。
「ぎたんさーー!」
「ノビのコトバは、真似しないッ!」
俺が窘めると、
コガラが「へへぇーー」と悪びれずに笑った。
「お前なぁ……」
その無邪気さに、俺とクロニクも思わず苦笑い。
だが、空気を読まない男ーーノビが首を傾げながら真剣な目で尋ねてくる。
「クロニク皇子、その【覇気】って、どんな感じで伝わるの?」
その言葉にクロニクが眉をひそめて息をつき、それに応えた。
「ノビよぅ、皇子はやめろって、言ってるだろっ。
クロニクでいい。それで【覇気】の話だがな……」
クロニクは手の平を宙に翳し、匂いを嗅ぐような仕草を交えながら説明する。
「【覇気】は色や香りのようなものさ。
目には見えないがないが……感じるんだ。
生き物の”核”のようなもんだな。説明が難しいが……
……それぞれが違うものを持っているのさ!」
「では、お言葉に甘えで……クロニクさん、それを感じるにはどうすれば?」
その言葉を受け、クロニクは真剣な表情で静かに立ち上がり、
窓を開けて外の景色ーー遠くを見つめた。
窓から吹き込む少し冷たい風が、コガラの小さな体を撫でていく。
羽をパタパタっと軽くはためかせ、
コガラがビクッと震え、俺に念話を飛ばす。
《「……あるじ? ノビたん、ちょっと……へんなの」》
《「ん?」》
ーーその時、風が変わった。
朝日を背に、彼の内に宿るものに、
周囲の精霊が反応したかのようにーー
銀の羽が、風に乗って揺籠のように次々と部屋に舞い込んでくる。
……妄想か?
思いながら目を見開く。
ノビの周囲に漂う空気が震え、
まるで何かが目覚めたかのようだった。
その瞬間、威圧の波が押し寄せ、動くことすらままならない。
部屋全体の空気が一変し、耳に届く微かな囁き。
それは、精霊の声のように、心の奥に響いてくる。
これは……何の声だ……?
意識を集中させ、胸中に不安を抱える俺とは逆に、
ノビは自身の異変に全く気づいてない。
ほんの一瞬だが、彼が目を白く濁らせたのを見逃さなかった。
それは、瞬きをしたら見逃しそうなほんの僅かな時間。
その直後、ノビが緑色に輝く瞳を煌めかせる。
ーー気づいたのは俺だけだった。
きっと心やステータスが読める”心読”のスキルが、そうさせるのだろう。
あのいつも間の抜けた訛りのノビが、
今は異様な重みと静謐さを纏っていた。
感慨深く思慮を深める俺を他所に、
ノビは前のめりになって、真剣な表情でクロニクの声に耳を傾けていた。
一方、クロニクは変わらぬ表情で窓の外を見つめ、
この異質な瞬間を感じ取ってはーーいないようだった。
しかし、ノビの身体に纏う【覇気】は明らかに変わり、
彼の内なる力が以前より強まっているのを感じる。
窓を閉めるクロニクが背を向けたまま零す。
「感覚を磨くしかないな。あとは実戦だ。
お前も、自分で戦ってみるといいさ」
その言葉に、ノビが首を傾げながら零す。
「また、目が良くなった気がするんさ。
これならオラにも、きっとーー【覇気】が見えるはずなんさ!」
そう言って彼は真剣な表情で頷いた。
俺とクロニクが苦笑する中、コガラが首を傾げ、ふいに念話を飛ばしてくる。
《「ノビたん……あはは。なんでもない。
あるじーー! アカリおおねいしゃんたちが くるよーー!」》
そのコガラの念話には何か言いたげな感が否めない。
だが、俺の口からポツリと滑る。
「アカリたちか」
その言葉にクロニクが堰を切ったように振り返り、
ドアの方を見つめた。
一方でノビが息を呑むように姿勢を正し、軽く胸当てを整える。
「オラも【覇気】……感じるがも!」
その言葉には、なぜか説得力があるーー不思議な感覚だ。
ノビのその声に、俺はなぜだか羨ましい気持ちになった。
それはノビの【覇気】が、
この数分間で数十倍に膨れ上がっているのを感じたからだ。
ノビ、お前は一体何者なんだ……。
思いながらも俺は、繁々とノビをじっと見つめていた。
そんな中、俺の部屋に近づく足音とともにーー
コンコンコンと乾いた木のノック音が響く。
「アカリたちだろ?入れよ」
ガチャッ…
ドアが開かれると装備を整えたーー
女子メンバーのアカリ、ジュリ、パメラ、アリーが顔を揃える。
「じゃあ、行こうか」
仲間たちと部屋を出て、『宿屋帰巣』を後にしーー
『ロカベルの魔法薬材と薬店』を目指して歩き出した。
朝の空気が肌に心地良く、
どこか高揚感を覚えながら路地を歩く。
ビヨンド村の朝はまだ静かだがーー
他方、商人たちが慌ただしく、その準備に余念がない。
すれ違う獣人や亜人が振り返る中、
相も変わらず、両側のアカリとパメラに挟まれて歩く。
二人の良い香りが漂う中ーー
アカリがツインのお団子に綺麗に桃髪を結い上げていた。
彼女のチャイナ服はシンプルながらも挑発的なデザイン。
その”むにゅ”っとした柔らかい感触に、
俺の腕はガッチリとホールドされている。
一方で、真っ赤な蛇皮ジッパー式ジャケットを着込んだパメラが、
その『爆弾』の胸を誇示するようにーー
”ブルンブルン”と揺らし、旋風を巻き上げながら闊歩する。
羨ましそうな視線をこちらに向ける、通行人の髪がその旋風で逆立つ。
パメラの爆弾ーー猛威……凄まじいな。
決して口には出せない。
流石なのはアカリでーー
パメラの旋風をハラハラと揺らす扇子を使い、舞刀術で軽く往なしている。
そんな中、先を歩くノビとクロニクが気づいて振り返り、
揃って「羨ましいです」とでも言いたげな表情を浮かべていた。
一方で通行人など意にも介さず、
先頭のオーバーオールを着たアリーが、
いつも通りにジュリと手を繋いでいる。
ごく自然に、されど、どこか誇らしげだ。
まるで人目など一切気にしないーー
二人だけの世界に没入しているかのよう。
雲ひとつない晴天の中、二人の影が寄り添うように石畳に落ちていた。
「きっとミーアが見たらヤキモチ妬くな……
おっと……今は、クロニクにご執心だったな」
俺は小声でつぶやきニタリと口元を緩める。
そんな中、メイン通りを進み、商店からの呼び込みに興味を惹かれつつも、
やがて『ロカベルの魔法薬材と薬店』に到着した。
カラーン…カラーン。
アリーとジュリが先を切って店内へと足を踏み入れる。
続いて、俺たちも店内へ入った。
その瞬間、漂う薬草と魔法素材の混じった、独特な香りが鼻をくすぐる。
カウンター越しに白衣を纏ったミンシアが接客している。
彼女は、冒険者然とした男と楽しげに話をしていた。
俺たちが入ってきたことで、
その冒険者の男は慌てた様子で金貨を支払い、そそくさと店を後にした。
客の背中を見送るミンシアが、動じる様子もなく、艶やかな声を響かせる。
「あら坊や、いらっしゃ~い♪
……まぁ! その肩に乗ってる子は、従魔かしら? 可愛いわね」
そう言ってコガラの頭を優しく撫でる。
一方のコガラもまるで猫のように「ピ〜♪」と撫で声を上げた。
「コガラって言う、妖精龍なんさ!」
その言葉にミンシアの視線がノビに向く。
「それにしても。初めて見る顔が多いわねぇ……
その装備……個性的ね。フロッグマンかしら?
ふふ……あなたの【覇気】も、ちょっと気になるわ」
とミンシアが小さく微笑む。
そして、彼女の視線がクロニクを射抜いた瞬間ーー
その微笑が意味深なものに変わった。
獲物を見つけた肉食獣のように彼女の目が、一瞬鋭さを増す。
「……黒い肌の子、凄い【覇気】ね。それに……どこか気品があるわぁ!」
その言葉に頬を赤らめるクロニクがポツリと落とす。
「……この人、危険だ」
そう言ってまんざらでもない様子で目尻を下げた。
そんな中、女子メンバーの鋭い視線がミンシアに向けられる。
その圧に気づいたミンシアが慌てて唇を噛む。
「あ、ちょっと待ってて! 姉様とミーアを呼んでくるわ」
そう言ってカウンターを離れ、ミンシアが店の奥へと向かった。
その彼女の背中ーー
白衣から透ける『赤レース』に”死線”が自然と吸い寄せられる。
カチリとした音が響く脳内でーー
「おい!”死線” 肉食のミンシアに吸い込まれるなッ!」
と思わず叫ぶ俺だった。
白衣から透けて見える”死線”の【シジマビジョン】が見抜くーー
『妖艶肉食魔獣ーービースト・レッド』。
それは俺の妄想でもあり、特有の癖。
「……恐るべし、妖艶肉食魔獣ーービースト・レッド。
主……癖を膨らませすぎだ……!」
叫ぶ”死線”が、ふらつく身体を必死に『妄想図鑑』に沈めていった。
顳顬にカチリとした音が響く中、俺は我の返り、
顔には熱が籠る。
そんな俺を他所に奥からミンシアの声が届く。
「ミーア! ミリネア姉様!〝ご主人様〟がいらしたわよ~」
お読みいただき、ありがとうございます。
引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )




