表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妄想図鑑が世界を変える? 〜異世界トランザニヤ物語〜 #イセトラ    作者: 楓 隆寿
第3幕 動章  〜ワイバーン討伐と新たな仲間〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

188/192

ワイバーン討伐編 18 〜ゴクトーの夢と優しい朝〜



 ゆったりした朝の雰囲気をお楽しみいただければ♪( ´θ`)ノ

 











 雲間から顔を上げる神シロが白髪と白鬢を交互に撫で付ける。


「やれやれ、やっと髪も髭も元に戻ったわい」


 そう漏らしながら、雲に映し出された自分の姿を見て息をつく。


 その様子に女神東雲が笑いを堪える。

 一方で、黒銀の目を見開くトランザニヤが、下界を眺めながら零す。


「ゴクトーの奴、まさか【月読】に当てられたのか? 今世の記憶を……」


「それもそうだが、いい加減、ナガラの生家に気づかんかのぅ」


 その言葉に神々は表情をガラリと変え、下界を覗き込んだ。



 ーーその頃ゴクトーは、宿屋のベットで休息を取っていた。









 ◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇





 安心できる柔らかな感触に包まれる中。


 紺色の髪が揺れる輪郭だけが、暗闇の中でぼんやりと浮かび上がる。

 温かく心地良い。そして柔らかな声が耳元で囁く。


「アンドリュー…良い名前ね……あなたのお祖父様、

 エメリタス(上皇)のジャック様が心を込めてつけてくださったのよ…」


 その言葉に続くように、低く嗄れた声が響く。


「そうじゃ、ええ顔をしとるな、アンドリュー……まさか双子とは。

 弟にはーーそうじゃな……オブリオと名付けよう……」


「ありがとうございます、ジャック義父上様」


 二人の顔はどうしても霞んで思い出せない。

 ただ、その声だけは深く胸の奥に染み入り、

 懐かしさとともに涙が込み上げる感覚が残った。


 


 ーーそう俺は夢を見た。


 

 目が覚めたときには、その温もりは消えていた。

 代わりに、胸にズシリとした孤独感が重みを増す。


 カーテン越しに朝日が射し込む部屋で、ゆっくりと瞼を開く。


「なんだ……コガラか」


 羽を小さく折りたたんで胸の上で丸まっている。


 昨日よりさらに一回り大きくなったコガラの小さな身体が、

 満足そうに寝息を立てている。

 その様子に思わず口元が緩む。


 ……コガラは成長が早いな。

 これは俺も、うかうかしてられん。


 心中は複雑だが、

 起こさないように慎重に腕を動かす。

 だが、その気配に気づいたのかーーコガラがパチリと目を開いた。


「おはよう、あるじーー」


「ごめんな、起こしちまったか。おはよう」


「あるじーー。おなかちゅいたーー」


「よし、じゃあ準備したら宿の食堂に行くか」


「わーいっ!」 


 声を上げ”コトバ”を話し、羽をバサバサと広げ飛び回る。


 先程見た夢のことが頭を掠めるが、

 その無邪気さに、俺の心は自然と和らいでいく。


 洗面台で顔を洗い、清涼感のあるクリアムント草の歯磨き粉で歯を磨く。


 いつもの黒シャツとジーンズを身に着け、

 テンガロンハットを被ると、軽く息をつく。


「ヨシ! コガラ、行くぞ」


 肩に飛び乗ったコガラとともに部屋を出て、

 静かな廊下を抜けて食堂へ向かった。


 廊下はしんと静まっていたが、

 窓から差し込む朝日が美しい虹色を床に落とす。


 まだ人の少ない食堂からは、

 厨房にいる女将さんと女中さんたちの、

 忙しそうで、かつ慌ただしい声が聞こえてくる。


「卵の殻を剥いてちょうだい!」


「ハムとレダス、トメートも挟むんですか?」


「ええ、チーズもたっぷりね!」


 レダスとトメートーー

 前世では、レタスとトマトと呼ばれていたものだ。

 この世界ではそう呼ばれるーー記憶に残る懐かしい野菜を思い浮かべる。


 トントントンと小気味良い包丁のリズムが混じる。

 明るい声の中に、食材を扱う手際の良さをなんとなく感じる。


 そんな中、厨房を覗き込むと、女将さんが気づいて声をかけてくれた。


「少しお待ちくださいね。朝食の準備が、もう少しで整いますから」


「わかりました」


 言われるまま、空いているテーブルに腰掛ける。

 

 肩から飛び降りたコガラが、隣の椅子にちょこんと座り、

 テーブルの上に小さな手をかけて厨房を見つめる。

 まるで小さな子供のようだ。


「あるじーー!いいにおいーー」


「そうだな。懐かしい匂いがする、

 優しい人が作ってくれてるんだ。きっと美味いぞ」


 そう言いながらコガラの瞳は期待に煌めいているのがわかる。

 その様子を見て、父親になった感が溢れだし、どこかじんわりとしてくる。

 ふと振り返るコガラが口を開く。


「あるじーー。なつかしいってなぁにーー?」


「過去の思い出や、心が惹かれ、愛着があると感じることだよ。

 お前にはちょっとまだ、難しいかな。 ……まぁ良い人ってことだ」


「あるじと、おおねいちゃん、モフねぇもみんな、よいひとだねーー」


「ああ、みんな仲間だ」


「なかまって、なぁにーー?」


「一緒にいて、大切に思える人のことだ。コガラも仲間だぞ」


「ほんと? やったぁーー!」



 コガラ……どんどんコトバを覚えていくな……。

 それに知能もかなり高いし……。


 無邪気な問いかけに誠実に答えながら、胸中には静かな満足感が広がる。


 そんな俺たちを他所に女将さんが微笑みながら、朝食を運んできた。


「お待たせしました」


 熱々のホロホロ鶏の照り焼き、ソーセージのソテー、スクランブルエッグ、

 色鮮やかなサラダに加え、ボリュームたっぷりのサンドイッチが目を引く。


挿絵(By みてみん)


「スープはもう少しで出来上がります。それまでこちらをどうぞ」


 温かな声に感謝を感じつつ、俺はコガラと一緒に手を合わせた。


 「いただきます」


 見た目も美しく、食欲もそそられるサンドイッチに手をかけたーーその時。


 女将さんが湯気の立つスープを手に、

「お待たせしました」と穏やかな笑顔でやってきた。

 透き通ったコンソメの中に浮かぶマルミ茸が、

 ささやかな贅沢を感じさせる。


 マルミ茸は前世で言わば、『松茸』とそっくりで、

 芳醇な香りと、コリっとした食感が特徴だ。

 

 この世界では、高級品の一つに数えらえるらしいーーと、

 ミリネアがハゴネ旅の最中に教えてくれた。


 芳醇な香りに気を取られる俺を他所に、

 スープをテーブルに置く女将さんの目がコガラに留まる。


「まあ、可愛らしいチビちゃんね。お行儀も良さそうで感心だわ」


「ありがとうございます」


 俺がそう答えるとコガラからの念話が頭に響く。


《「ありがどうございまづ」》


《「ノビの真似しないの!」》


《「わかったにゃ!」》


 おいおい、次はアリーか?

 お前わざとだろ……。


 テーブルに手をかけるコガラがニヤッと笑い、

 興味深そうに厨房に戻る女将さんをじっと見つめていた。


《「あるじーー おかみしゃん よいひとーー?」》


 《「ああ、そうだな」》


 念話に返事をしながら、食べかけのサンドイッチを再び頬張る。

 柔らかなパンと具材の味わいが口の中に広がり、

 思わず「美味い」と漏れた。

 スープを一口啜ると、香り高いマルミ茸の旨味が心まで温めてくれる。


 スプーンで掬い、「ふぅー」と冷ましてからスープをコガラの口に入れる。


《「あるじーー おいちい」》


《「それは良かった。たくさん食べて、もっと大きくなれよ」》


 念話のやり取りが続く中、コガラの羽がピクッと動いた。


《「あ!ももおおねぇしゃんがくるよーー」》


《「そうか。 ちゃんと挨拶しないとだぞ」》


 満足そうに羽を広げるコガラがコクッと首肯する中、

 食堂の入り口から柔らかな声が響いた。


「ダー様♡ おはようございます」


「あ……お、おはよう。髪色戻ったんだな」


「ええ、魔力(マナ)が回復したせいかと……」


 スッピンとは思えないほど、美しい笑顔を見せるアカリ。


 大きめの白いシャツが寝起きらしい無防備さを漂わせ、

 透けた上の『桃色花柄』と下の『桃桃』が目に飛び込んでくる。


 慌てて目を伏せ、目の前のコガラに集中する。


「ももおおねいしゃん、おはようーー!」


「おはようコガラ。偉いわね、ちゃんとコトバで挨拶できて」


 軽くコガラを撫で、アカリが微笑みながら厨房へと向かう。


「すみません、私にも何かいただけますか?」


「かしこまりました」


 女中さんとの短い会話が聞こえてくる。

 厨房からトレーを置く、トンっとした音が聞こえたーー次の瞬間。


 アカリがサンドイッチとスープを手にこちらに来る。

 そして、「ダー様、お隣に失礼しても?」とニコッと唇を光らせる。


挿絵(By みてみん)


「ああ」と答えながらも彼女の座る仕草が、

 凛として美しくーー食堂の窓から差し込む茜の朝日と相まって、

 五光がさしているように見えた。

 まるで天から舞い降りたーー天女か女神のように感じる。

 

 もちろん心中に沈めたが。


 そんな中、軽くお祈りをしてから、

「いただきます」と、彼女がサンドイッチを一口齧った。


 髪はまだ少し湿っていて、

 (かんざし)でまとめた桃髪からシャンプーの香りも漂う。


 どこか無防備な姿が妙に愛らしく、心の中が落ち着かなくなっていく。


 だがーー。


 ここで動揺して『妄想図鑑』を開く訳にもいかない俺は、

 何も言わずにコガラの世話を続けた。


 スプーンで掬ったスープをコガラの口元に運びながら、

 目線は彼女に合わせない。

 

 それでも気にする素振りもなく、

 アカリがサンドイッチを食べながら俺とコガラを眺め、

 穏やかに微笑んでいた。


 挿絵(By みてみん)


 

 コガラがサラダ以外を全て食べ終え、

 さらりと残ったサラダを引き受けるアカリの姿に、妙に安心感が湧いた。


 そういう……何気ない優しさが本当に良いよな。


 無言の気遣いに、心中は自然と穏やかになる。

 

 満足げに「ピー♪」と小さく鳴くコガラが念話を飛ばしてくる。


《「あるじーー おなか いっぱい」》


《「そうか。食べた後は、女将さんに「ごちそうさま」って言うんだぞ」》


《「ごちそうさまって、なぁにぃ?」》


《「美味しいものを食べたら、感謝する言葉だよ」》


《「わかったーー!」》


《「おかみしゃん!ごちそうさまーー!」》


 コガラが女将さんに念話を飛ばしたーー次の瞬間。


 ガッシャーンッ!


 厨房から突然、物音が響いた。


「女将さん、どうしました?」


「大丈夫ですか? 急にヤカンの蓋、手から離すなんて……」


 厨房から女中さんたちの声がする。


 驚いて顔を上げると、女将さんが慌てた様子でこちらへやってきた。

 女将さんがじっとコガラを見つめてーー


「もしかして、このチビちゃんが……?」


「あ、はい。驚かせてしまったようで……」


「まさか直接頭に声が届くなんて……

 初めての経験だったから、びっくりしたわ。でも、とっても賢い従魔ね」


「従魔をご存じなんですか?」


「ええ、長く宿屋をやっているとね……本当に偉いわね、挨拶ができて」


 女将さんが椅子に座り、まるで幼子を抱き抱えるかのように、

 そっと頭を撫でると、コガラが気持ち良さそうに目を閉じる。


挿絵(By みてみん)

 

 しばしの間、俺はその光景に見惚れてしまった。


 今さらながら思うがーー

 この宿屋帰巣の女将さんは、どこか『師匠』の面影とかぶる。

 なぜなら、女将さんから師匠の匂いと【覇気】も感じたからだ。


 心中に沈めるそんな俺はさておき。


 コガラの満足そうな態度に笑みを浮かべ、俺にコガラを抱かせると、

 女将さんが再び厨房へと戻っていく。


 その後ろ姿をアカリも目で追っていた。


 (女将さんのさっきの笑顔ーーなんだかナガラ兄様とそっくりね)


 アカリの心中が伝わる中、

 彼女も義理の兄、ナガラの面影を感じとっていたのかもしれない。

 

 ほどなくして、女中さんがハーブティーを持ってきた。


「どうぞ、ごゆっくり」


 透き通る香りのハーブティーに口をつけると、身体の芯まで温まる。

 女将さんの気遣いと、アカリの柔らかな存在感に包まれた朝。


 

 ……こんな朝がたまにあっても……悪くないよな。


 

 心地良い静けさの中、

 ほんの少しの幸せを感じながら、俺はハーブティーを楽しんだ。



 挿絵(By みてみん)





 お読みいただき、ありがとうございます。

 引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんという……飯テロ回!(*゜Д゜)・:∴ 私もホロホロ鳥食べたい~! サンドイッチ食べたい~! ゴロゴロ(((:з)⌒(ε:))) コロコロ ……Σ(゜Д゜〃) ………鳥……食べたら共食いに? …
今回はただただ、やさしい朝が沁みました( ˊᵕˋ ) コガラもアカリも女将さんも温かく、読んでいてすごく落ち着きました( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ