ワイバーン討伐編 17 〜兆しを見せるノビの覚醒とロカベル姉妹の絆〜
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雲間から下界を覗く、トランザニヤが黒銀の眦を下げる。
「月読のばぁさんーーか、懐かしいな。イブは確かにその末裔だな」
そう言って神シロの肩をパンッと一つ叩く。
「あたた……黒銀のーーお主の馬鹿力で、ワシの肩を壊さんでくれるか?」
叩かれた肩を軽く回す神シロ。その表情は苦痛に悶絶するかのようだ。
そんな中、女神東雲が神シロの肩にそっと手を置く。
「【アルティメット・キュア】」と静かに詠唱すると、
その肩の治癒だけではなくーー花びらが舞い散るような光の粒子に包まれ、
頭髪はおろか、白鬢まで桃色に変わった。
その様子に、トランザニヤが目を丸くしながらツッコム。
「やりすぎだろッ!」
女神東雲がぺろっと舌を出しながら、
「桜の季節ですから。ほほほほほほ」と尖らせるおちょぼ口を手で隠す。
一方の神シロが雲に映し出されたーー
自分の姿にまんざらでもない様子だった。
その姿にトランザニヤが口を開く。
「おいおい、これじゃ『神シロ』じゃなくて、
『神サクラ』じゃねえかッ!」
その言葉に苦笑しながら、神々は再び下界に注視した。
ーーその頃ゴクトーたちは、
月読の姫に、良いように言いくるめられた直後だった。
◆(天上の人柱、トランザニヤが語り部をつとめます)◆
アカリが柔らかな笑顔で、言の葉を落とす。
「ダー様、おやすみなさいませ。
クロニク皇子もどうぞごゆっくりお休みくださいませ。
ノビも、おやすみなさい」
すぐにパメラが厳しい口調でノビに言い放つ。
「貴様は、明日のイメトレでもして寝ろっ!」
だがその表情には、どこか温かさが滲んでいた。
一方でジュリがパメラを軽く諭すように笑いながら、
可愛らしい声で締めくくった。
「パメラさん……ノビはタンク役だから、クロニク皇子も、
へんダーも……おやすみなさい」
イブの大部屋を後にし、女子メンバーが隣の部屋へと入っていく。
その後ろ姿を見送りながら、ノビが軽い足取りで先に階段を降りる。
ゴクトーは肩にコガラを乗せたまま、クロニクとともに後を追った。
「しだっけ寝ます。おやづみなさい」
ノビが訛り混じりのあっさりとした挨拶を残し、自分の部屋へ消えていく。
けれど、ゴクトーは見逃さなかった。
ノビの瞳孔が一瞬緑色に濁ったことを。
その時、何かーーノビ自身ではない“意識”が、
目の奥にいたような気がしたゴクトーが、
「……気のせい、か?」
と独り言ちる。
一方ここはノビの部屋。
しだっけ、明日は模擬戦なんさ……
先生にいいどこ見せるんさ。
内心思いながら、ノビがシャワーへ向かう。
「あれ、なんが……毛穴まで綺麗に見えるんさ……目が良くなった?」
鏡を見てつぶやき、目を見開く。
パキ……パキ!
次の瞬間、鏡にひびが入った。
「ぁわわッ!しだっけ、触っでもいねえのに……何で……?
……こりゃ、弁償なんさ……づいでない……」
割れた鏡に息をつき、ノビが肩を落とした。
◇(ここからゴクトーが語り部をつとめます)◇
ーークロニクが宿泊するノビの隣の部屋の前。
パキ……パキ!
「ん?」
何かが割れたような音が隣から、微かに聞こえる。
「ノビの奴、グラスでも踏んだのか……?
『しだっけ、何でグラスが床に?ええええええ!!!』なんて、
言いながらきっと驚いてるよな……。
頭を逡巡させながらノビの姿を思い浮かべ、ニタリと口元を緩める。
「兄貴、どうした急に笑って、気持ち悪ぃな……」
「気持ち悪いって、何だよッ!」
ちょっと張り気味の声で、部屋の鍵をヒョイとクロニクに投げた。
「兄貴、明日な」
「……ああ」
クロニクがニヤッと笑い、ドアを閉めた。
ーーこの短いやりとりだけで、俺は十分だった。
言葉こそ短いが、そこに込められた信頼が心地良い。
クロニクがドアを閉める音が静かに響いた後、
俺も自分の部屋へと向かった。
『アイテムボックス』から鍵を取り出し、扉を開ける。
部屋に入ると、肩に乗るコガラをベッドの上にそっと下ろした。
慣れない環境に疲れていたのか、
コガラが眠そうに目を細めながら、コトバを飛ばす。
「おやちゅみ、あるじーー」
言い終え、体を丸めるとーー
『秒』で小さな寝息を立て始めた。
「可愛いなぁ……」
俺は思わず口元を緩めながら、
疲れた身体を引きずるようにバスルームへ向かった。
静かに3点式ユニットバスのドアを開け、緩めのシャワーを浴びる。
旅の汚れが流れ落ちる感覚に、少しだけ肩の力が抜けた。
「ふぅ。たまに一人も悪くない」
静けさの中ーー零しながら息をつく。
ふと目に入ったのは、綺麗に畳まれた俺の寝巻き。
どうやら、女将さんの心遣いのようだ。
そういえば……慌てていたから、
脱ぎっぱなしだったな……。
その優しい気遣いに内心感謝しながら、寝巻きを身に纏った。
部屋の『明灯の魔導具』のスイッチをOFFにし、
窓枠に落ちる桜の花びらが、月明かりに照らされるのをしばし眺める。
どこかほっとしながら、ふわっとした掛け布団に包まれベッドに横になった。
「明日からは忙しくなるな……」
目を閉じると、今日一日の出来事が思い返される。
ワイバーンの肉、楽しみだぜ……
お揃いの服もできるし、
ファルダットの姫たちとの模擬戦か……。
考えは尽きない。
けれど、その全てが少し楽しみに変わっていく感覚があった。
眠りに落ちる寸前、
胸の中に浮かんだのは、どこか懐かしい穏やかな気持ちだった。
コガラの寝息は、小さな風が草を撫でるように優しく響いていた。
俺はその音に包まれながら、深く、穏やかな眠りへと落ちていった。
◾️(ここから女神東雲が語り部をつとめます)◾️
ミリネアとミーアが旅支度の話をしながら、
『ロカベルの魔法薬材と薬店』の裏口を開けて入る。
玄関で靴を揃え、居住スペースのリビングへ。
「ミンシア、ただいま帰りました」
「ただいま。ミンシア姉様」
二人が声を揃えて挨拶をすると、
ソファに座るミンシアが首を傾げた。
「ミリネア姉様……まさか、ミーアとハゴネに行ってきたの?」
ミンシアが鋭い目を向けながらも、やや呆れたような口調で尋ねた。
「ええ、ワタクシもご主様にお願いして、パーティに入れてもらったの。
素材調達も兼ねてね」
ミリネアが誇らしげに微笑むと、
軽く髪を整えながらソファに腰を下ろした。
「その〝ご主様〟って、まさか……あの坊やのこと?」
ミンシアが驚きながら身を乗り出し、姉の顔をじっと見つめた。
「ミンシア……ご主様を、そのように呼ぶのは失礼ですよ!」
(この子は、本当に……【神】のようなお方に向かって……)
ミリネアが思いながら慌てて口を挟む。
「だって、ミリネア姉様が〝ご主様〟なんて呼ぶなんて、おかしいじゃない!」
ミンシアが反発するように肩をすくめる。
「ワタクシが、一生賭け、お仕えすると心に決めたからです」
ミリネアが微笑みながら、ソファに深く腰を沈めた。
その表情には、迷いのない確固たる決意が滲んでいた。
「えっ!……父様がそんなこと、許すわけないわ」
ミンシアが目を丸くしながら大きく息をつく。
「大丈夫です。父様もあの方を見れば、きっと納得するはずです」
ミリネアがゆったりと背を伸ばしながら自信を持って答えた。
(……姉様はいつだって、誰よりも決断が早い)
ミンシアは内心でそんなことを思いながら、
どこか置いていかれるような寂しさを覚えていた。
いつかこうなるとわかっていたのに、
いざ目の前にすると、心の奥がチクリと痛んだ。
「ミンシア姉様……うちもリーダーについていく」
ミーアがソファの端にちょこんと座りながら静かに言った。
「ええ、ミーアはそうしなさい。ベルマはワタシが見ておくわ」
ミンシアがミーアの肩に軽く手を置く。
その言葉にミーアが胸を張りながら嬉しそうに答える。
「ミンシア姉様、それは大丈夫。
パメラさんに大きくしたりーー小さくしたりする魔法を教わったの。
だからベルマも連れていけるの」
「そうなのね……シグマが寂しがるけど、
それなら仕方ないわ。
でも、ミリネア姉様は、ロカベルの次の族長になる人なのよ」
ミンシアが少し寂しそうな表情を浮かべながら、ミリネアに詰め寄る。
「あなたがなれば?
ワタクシにも負けないくらいのーー
ギフトも能力も、持っているでしょう?」
ミリネアが微笑みながらミンシアに視線を向けた。
一方、ミンシアが少し困ったように落とす。
「ワタシには、この店があるから……」
その言葉を受け、ミリネアがさらりと宣言。
「そう……ならワタクシ、この家を売ります」
その刹那、ミンシアの表情が驚愕で固まった。
重苦しい空気と静寂の中、リビングルームの灯りも突然明滅する。
しばしの間がリビングに広がる中。
鼻息も荒くーーミンシアがその沈黙を破る。
「そ、そんな……!せっかくダンジョンができて、
やっと軌道に乗ってきたところなのに!」
妹のむくれる姿を見て、ミリネアが淡々と零す。
「なら、この店と族長を掛け持ちなさい」
そう言って何事もないかのように笑みを浮かべた。
そんな中、ミンシアが頭を抱えながら訴える。
「『マヌエル』の……ロカベルの里は、いくらシグマでも十日はかかるのよ!
そんな掛け持ちなんて……できるわけが……」
目を逸らしたミンシアが俯きながらギュッと唇を噛んだ。
その言葉と姉の態度を見兼ね、黙っていたミーアが口を挟む。
「ミンシア姉様!それならジュリさんに、転移の魔法を教わればいいよ!」
勢いよく立ち上がり、希望を込めた声を響かせた。
小さな妹の言葉が、不思議と部屋の空気を軽くした。
「ジュリさんって……あの桃色の髪をした方?」
尋ねながらミンシアが眉をひそめ、首を傾げた。
「既にジュリ殿に、お願いしてあります」
そう言ってミリネアが静かに頷くと、
ミンシアが小さく息をついた。
その態度を見て、ミリネアが決然と言い切る。
「ミンシア!あなたはジュリ殿にしっかりと転移の魔法を教わりなさい。
ワタクシとミーアは、ご主様とカルディアへ参ります」
「ミリネア姉様、口調まで変わってる……」
呆れたように声を漏らすミンシア。
「ワタクシは対外的には、元々こんな口調です。
身内には、話し方を変えていただけです」
「そ・う・で・す・か……」
毅然とした態度で話すミリネアに困惑しながらも、
不貞腐れたように返事をするミンシア。
「そう? うちは、変わってないと思うけど……」
ミーアが小さく笑い、小声で漏らす。
そんな中、ミリネアが念押しのひと言を添える。
「ルシーヌの魔法をミーアが覚え次第、ワタクシとミーアは向かいます」
「ルシーヌって誰? どういうことなの?」
ミンシアが首を傾げ、ミリネアの顔を覗き込む。
「ワタクシの同僚の…… カルディア魔法国の姫様で、学院では特別講師よ」
「えぇ─っ!…… 何でそんな方が冒険者にーー」
目を丸くして驚くミンシア。
一方でミリネアが眼鏡を掛け直し、姿勢を正す。
「ミンシア、事情は人それぞれよ。明日、ご主様がここに来てくださいます。
あなたにもパメラ姫様を紹介いたしますから、粗相の無いように」
「わ・か・り・ま・し・た……」
「ミーア……ミンシア、
研究資材の整理を、手伝ってくれないかしら?」
「はーーい。 ミンシア姉様も手伝って、くれるでしょ!」
「はいはい…… わ・か・り・ま・し・た……」
ミリネアと一緒に二階に上がる妹たち。
姉の部屋に入るなり、ため息をつくミンシアだが、
軽口を叩きながらも手は動かす。
一方でミーアはミリネアの指示に従い、従順に荷物を纏める。
そんな中、ミンシアがふと思い出したように振り返る。
「あ! そう言えばミーア……キヌギス砦の騎士団長、
アザックさんが尋ねてきたわよ!」
「ぇっ! ここに来たんだ。ミンシア姉様…… 団長さんは、何か言ってた?」
「また来るって……でも、彼の雰囲気……あ、なんでもないわ 」
「そう……」
思わぬミンシアの知らせに、
ミーアの表情が明るく見えたが、
どこか翳りも見せるーーそれも一瞬で消えていく。
片付けを終え、部屋に戻っていく妹たちに、
「久しぶりに、3人で一階のお風呂に入りましょう」と、ミリネアが促す。
姦しくも仲睦まじい、ロカベル姉妹。
彼女たちはそれぞれの想いを胸に、静かに眠りについたーー。
お読みいただき、ありがとうございます。
引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )




