ワイバーン討伐編 15 〜静かなる圧〜
天上の神々がズードリア大陸の地図を見守る中。
ゴクトーはいきなり声をかけられーー陣に囲まれていた。
◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇
「睨むな。妾はヒラム・イブ・ファルダット。
この者たちは妾の護衛じゃ。敵意は無い」
「ファルダットだと? 」
クロニクが警戒しつつもハルバードを振り下ろし、構えを解いた。
その動きは、相手への礼儀を示すかのよう。
ファルダットの姫様……コリンの隣の国だな……。
俺はどこか不思議な落ち着きの中で、状況を見据えていた。
だがーー。
「アンタ、あのファルダット自由国の、姫なのか?」
クロニクの言葉に護衛の一人が大剣を閃かせ、
紅い目を光らせながら声を張り上げる。
「無礼だぞ! このお方は、ファルダット自由国、
第一継承権をお持ちの、おそれ多いお方なのだぞ!」
その声は凛としながらも、まるで鋭い刃のよう。
周囲を切り裂く威圧感もある。
その一声とともに他の護衛たちも咄嗟に身構えた。
それぞれが独特の装束を纏った護衛が俺たちを見据える。
彼女たちの長い耳が揺れた瞬間、緊張感がさらに高まった。
「無礼者!」
「ぁわぁっ!」
ノビが護衛の威圧ーー強烈な【覇気】に驚き、
パメラの胸『爆弾』にしがみつく。
「貴様ああああああ!!!どこを掴んでおるのだああああああ!!!」
その瞬間ーー”ブルンブルン”
もの凄い爆風が俺の頬を掠めた。
目の前にいるヒラムの派手な衣装が靡く中、
バシッ!
パメラの容赦ないビンタがノビの頬を赤く染める。
こんな状況でも、二人の『恒例のやり取り』は変わらなかった。
「あちゃ〜」
思わず声が漏れる。
だがノビはいつも通り「ケロッ」とした表情だ。
その様子を見ていたファルダットの姫が目を丸くしたーー次の瞬間。
彼女が声を上げて笑い出す。
「ぁはははは! 面白いのぅ……そなたたち、妾の想像とは遥かに違う。
もっとツワモノの集まりかと思うたぞ」
その笑い声に、護衛たちが困惑したような表情を見せる。
しかし、姫の笑顔につられるように、控えめながらも微笑む者もいた。
この護衛……全員女性か……
まぁ確かに、ある意味ノビは、ツワモノですけども。
内心思うが、よく彼女たちを見ると、
それぞれが異なる武器を携えている。
護衛全員から姫を守るための強い意志と【覇気】を感じる。
月が二つ並ぶ夜空に白い雲が一つ。
星々の瞬きが遮られ、ビヨンド村の通りが僅かに暗くなった。
風もどこか穏やかならぬ冷たさを運んでくる最中ーー
アカリが冷静な口調で尋ねる。
「姫様、それで私たちに何かご用でしょうか?」
その鋭い眼差しには、影のリーダーとしての貫禄が宿っていた。
少し間をおいてから、ヒラム・イブ・ファルダットの声が低く響く。
「頼みがある。ここではゆっくり話もできぬ。
妾に少し、時間をいただきたい」
姫の言葉には敵意の欠片もない。
俺はそう感じたが、様子を見ていたアカリが、
窺うような視線を送ってくる。
「ダー様、いかがされますか?」
「……待て、誰か来たようだ」
俺はアカリに目で合図を送り、すぐに【桜刀・黄金桜一文字】を構えた。
「……!」
次の瞬間、スッと闇夜に紛れ、邪悪な【覇気】とともにその姿は消えていった。
俺はほっと息をつく。
「…今、確かに、あの異形の魔族の気配がしたんだ……」
漏らしながら強く握った、【黄金桜一文字】の柄をゆっくりと離す。
魔導銃を構えたアリーと杖を握るジュリも、
それぞれの判断で武器を収め始めた。
肩のコガラも鳴き声一つ上げずに、静かだったからだ。
クロニクも『ハルバード』を肩に担ぎ直し、
戦闘の意思を完全に引っ込めている。
「わかった。俺たちはーーすぐそこの常宿に向かうが、そこでいいか?」
俺の問いにファルダットの姫が後ろに振り向く。
「お前たちは、妾の後ろについて参れ」
「「「「「ハッ!」」」」」
護衛が一斉に返事をし、整然とした動きで姫の後ろにつく。
その姿を見て、俺たちも各自武器を収め歩き始めた。
そんな中、店舗の前を輝く照明を受けて歩く、
大剣を背負う女性剣士の姿が顕になった。
美しい顔立ちでスタイルも抜群。
彼女だけは肌も白く、闊歩するたびに長い脚をしっかりと見せており、
その堂々とした立ち振る舞いが印象的だ。
姫はもちろんだが……この護衛たちも……
ダークエルフだったのか……。
俺は一つの事実に改めて気づいた。
一人を除き、護衛たちは焦茶の肌、特徴的な長い耳、
その異国的な美しさと威厳がある。
ただならぬ彼女らの【覇気】に、改めて背筋を伸ばす。
焦げ茶色の肌に映える煌びやかな装飾を身に纏い、
ファルダットの姫が堂々とした足取りで宿の入り口に立つ。
彼女は小柄ながら、
その可憐な顔立ちと強い眼差しに、不思議な気品を宿している。
長い耳に揺れる耳飾りは、繊細な細工が施されているのが一目でわかった。
まさに王族の”証”だろう。
黒いレザーコルセットにヒジャーブを巻いた口元と首。
揺れる大きな胸元と、引き締まった細い腰。
歩くたびに煌めく金のへそピアスが目を引き、まるで踊り子のように見える。
金ピカの腕輪には丁寧な細工が施され、
足首にはジャラジャラと音を立てる魔導具が輝いていた。
その華やかな出で立ちには、一見すると戦いの気配は感じられないが、
逆にそれが彼女の堂々たる存在感を際立たせている。
その周囲には、軍服を着た護衛ーー
5人のエルフの女性が控えている。
珍しいスカートタイプの……軍服か……。
思わず目を凝らしてしまった。
それは焦げ茶色の肌を活かすように、
デザインされた独特なもので、美しい脚が露わになっている。
護衛の女性たちはそれぞれ異なる武器を携え、
彼女たちの得意分野が一目でわかる装備だった。
目と鼻の先にある『宿屋帰巣』の玄関をくぐる。
姫の後ろには長い杖を持つ女性、
そして特殊な連弩を持った美人が二人で立つ。
揺れる胸はボインで、その動きや表情までほぼ同じ。
統率の取れた動きが、彼女たちの鍛え抜かれた実力を示していた。
そして最後尾に控えるのは、ひと際目を引く白い髪を持つ槍の使い手。
背が高くスラリとした体型で、
彼女もまた焦げ茶色の脚を見せつけるようなーー
白い軍服姿が印象的だった。
受付にいた女将さんが、
ファルダットの姫と護衛に気づくと驚きの表情を浮かべた。
「お帰りなさいませ……そちらの方々は?」
女将さんの訝しむ様子に、ジュリがアカリに目配せをする。
いつもの無言のやり取りで、アカリが軽やかに前に出た。
「一人部屋は空いてますか?」
「はい、空いてますが……後ろの方々はお知り合いですか?
高貴な方々とお見受けしますが……姫様とは、ご一緒ではないのでしょうか?」
「姫じゃと?」
ファルダットの姫が腰に手を当て、堂々とした声で割って入った。
「姫? ほぅ……そなたも姫か。
まぁ良い……妾が泊まれる一番大きな部屋は、空いておるか?」
「はい、二階のVIPルームが空いております。
その……お付きの方々が軍服ですし、
町の掟というわけではございませんが、少々……」
「異国の流儀に口出しとは、随分と口うるさいのぅ。
だが遠慮のない物言い、気に入ったぞ。ガリ! 代金を」
護衛の一人、大盾を背負うふくよかな女性ーー
美人というよりも安心感を与える、優しい顔つきをしている。
腰に挿した細剣が銀色に輝く。
ガリと呼ばれた彼女が、『アイテムボックス』から小袋を取り出し、
そこから『ヤマト』の大判金貨を女将さんに差し出した。
その動きは慣れたもので、同時に周囲の注目を集めた。
”ふくよかなガリ”……いや、それ以上に”気配がまったく読めなかった”。
ただ者ではないな。
思いながらも揺れる「ふくよか」から目が離せない。
その瞬間、クロニクの念話が顳顬に響く。
《「兄貴……胸ならミリネア女史の方が、さらに「ふくよか」だぜ?」》
《「はいはい、もうおおおおお!」》
クロニクの表情は明らかでーー
完璧に俺を揶揄う気配が伝わってくる。
一息つき、俺は肩をすくめながらクロニクの念話を遮った。
そんな中、ヤマトの大判金貨を繁々と見つめるーー
女将さんが口を開く。
「失礼かと思いますが申し上げます。この金貨はどちらの?」
女将さんの言葉に一瞬、口を出すか迷ったかのようなアカリだったが。
困惑する女将さんの表情を見て、アカリが淡々と説明する。
「……それは……『ヤマト』の大判です……
一枚で金貨十枚ほどの価値があります。
この国で言う白金貨と同じ価値なのですが……」
その言葉に女将さんは目を見開き、
ファルダットの姫とふくよかなガリをじっと見る。
「なんじゃ、足らんのかぇ」
「いえいえ滅相もございません。ご案内いたします」
女将さんが案内しようと鍵を持つ。
ファルダットの姫はニヤリと笑みを浮かべ、振り返って言った。
「うむ。そなたら……妾の部屋に来てもらえぬか?」
「……ああ」
そうファルダットの姫に返事をすると、
女将さんが一人部屋の鍵を渡してくれた。
すぐに小袋を取り出し、中から金貨を2枚、女将さんに差し出した。
「女将さん、とりあえずこれを……」
「また、多くいただいてしまって……ありがとうございます。
空いている一人部屋は、パン屋の倅の隣の部屋になります」
少し緊張した様子で微笑む女将さんの言葉にノビが反応した。
「オラの隣の部屋なんさ……クロニク皇子」
その一言が場の空気を一変させた。
「ほぅーーそなたも皇子かぇ……変わった【覇気】を持つのぅ」
ファルダットの姫がクロニクを鋭い視線で見据えた。
その視線はただの興味ではなく、
何かを見抜こうとするような奥深さを感じさせた。
(この【覇気】……人間ではあるまい……やはりか……)
姫の瞳に一瞬よぎった疑念。
その奥には計り知れない思考が渦巻いているのだろう。
心読スキルを持つ俺にも、彼女の思考は僅かしか読み取れなかったが、
彼女の鋭い洞察力に舌を巻く。
それでも彼女が口元に柔らかな笑みを浮かべ、
クロニクに視線を向けたままクスッと笑った。
その仕草は、挑発とも取れる余裕すら感じさせるもの。
一方、ノビの何気ない皇子発言に女将さんが、
少し怯んだ様子だったが、俺が頭を下げて礼を述べると、
すぐに気を取り直した。
「わかりました。ありがとうございます」
丁寧に一礼する女将さんを見て、
ファルダットの姫は顎を引きながら女将に行け、と促すように零す。
「妾らの部屋にあないせよ」
女将さんに案内され、姫の部屋へと向かう。
俺たちは互いに目を合わせ頷き、
ファルダットの姫と護衛たちの後についた。
その背中からは、どこか異国風のスパイシーな香りが漂っていた。
部屋がどこにあるのかと思いながら階段を上ると、
その部屋は偶然にも、女子メンバーが泊まっていた大部屋の隣だった。
「それでは……ごゆっくりお過ごしくださいませ」
部屋の扉を開けると、女将さんは護衛の大盾を持つガリに鍵を渡し、
一礼してから受付へと戻っていった。
「入るが良い」
ファルダットの姫が俺たちに手招きする。
「ああ」
護衛たちの後ろに続き、大部屋へと入った。
扉が静かに閉まる音が部屋全体に響く。
重苦しい空気に包まれる中、緊張感を他所にクロニクが部屋を見回す。
その部屋は驚くほど豪華だった。
大きなシャンデリアが天井から吊るされ、
壁には異国の模様が彫り込まれている。
床には分厚いカーペットが敷かれ、
中央には丸いテーブルを囲むように、ソファが置かれていた。
窓からは村の街灯が柔らかく差し込み、独特の温かみを与えている。
「座るが良いぞ」
その声は落ち着いているが、どこか威厳を感じさせる。
姫の指示で俺たちはソファに座るよう促された。
コガラを肩に乗せたまま、姫の対面に座る。
左側にはアカリとジュリ、パメラが座り、
右側にはクロニクとノビ、アリーが位置を取る。
緊張した空気に息が詰まる。
ーー誰も動かない。
微かな衣擦れの音すら、妙に大きく響いたように感じる。
仲間の視線は、姫と護衛に向けられている。
護衛の5人は姫の背後に立ち、
まるで壁のように無言で控えていた。
その姿には隙がなく、
一瞬たりとも姫をーー危険に晒さないという強い意思を感じさせた。
そんな中、肩から下ろしたコガラを膝の上に置き、小さな頭を撫でる。
コガラは膝の上で大人しくしていたが、
心なしか緊張しているようにも見えた。
さて……どう話を切り出すか……。
内心考えながらも、冷静を装ってファルダットの姫の動きを注視する中。
俺が真っ先に切り出した。
「頼みとは何だ?」
姫の視線は鋭いが、どこか含みを持った優雅な笑みを浮かべ、
俺の問いに静かに答える。
「妾を、そなたらのパーティに入れてくれぬか?」
その言葉に場が凍りついたーー。
お読みいただき、ありがとうございます。
引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )




