ワイバーン討伐編 14 〜癒しの時間と月下の来訪者〜
あのS級冒険者が登場♪( ´θ`)ノ
黒銀の瞳を輝かせ、顔を上げたトランザニヤの声が天界に響く。
「ゴクトーの奴、新たに治癒魔法を覚えようと、必死だな」
その言葉に神シロが「ほほぅ」と下界を覗き込んだ。
そんな二人に女神東雲が小声で囁く。
「あなた、トランザニヤ様もですけど……
全属性魔法をいかに使えてもーーそう簡単に、
覚えられるものではないのですよ。
治癒を司る神して、わたくしが先ほど、ギフトを与えておいたのをご存知?」
そう言って悪戯っぽい笑みを見せる女神東雲だった。
ーーその頃、ゴクトーたちはノビの妹、サーシャのいる食堂で食事を満喫。
ハーブティーを楽しみながら談笑していた。
◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇
「【ヒール】!」
呪文を唱えると、
一瞬何かが解き放たれたような柔らかさと静けさを感じた。
次の瞬間、淡い緑色ーー癒しの光が俺の身体を包み込む。
心地良い温かさが広がり、気がつけばチリチリだった髪や焦げた眉が、
まるで何事もなかったかのように、元通りになる。
一方で仲間たちが口をパカンと開け、固まっていた。
あれっ? 魔力が消費するはずなのに……?
ん? 気だるさのかけらも感じないぞ……。
少しの違和感を胸に、ハーブティーを一口啜った。
独特の苦みが舌に広がるが、それも心地良く感じる。
「ダー様、こんな短時間で【ヒール】を……!」
感嘆の声を上げたアカリが目を丸くしながら言った。
(ダー様って、本当に凄い……こんな人が私の隣にいるなんて)
”心読”スキルに手を焼きながらも、胸中動揺するのは否めない。
「えぇっ! ゴクどーさん、もう使えるの?」
ノビも驚きの声を上げる。
(この人、どんだけすごいんさ……オラなんか、まだ何もできねぇのに……)
彼の口調と心中は相変わらずだが、その目には尊敬と憧れが滲んでいた。
そんな中、パメラが俺を指差して言い放つ。
「貴様も見習え!」
(ゴクちゃんって、どこまで凄いのかしら……いや、ホントに〝お宝〟…)
その声はきつめだが、口元には笑みが浮かぶ。
〝お宝〟の意味が正直わからないのだが。
彼女の心境を読める俺は思わず唾を飲み込んだ。
「ねぇ、ゴクちゃん?」
パメラの言葉には、どこか茶化すようなニュアンスが混じっているが、
実際には俺への信頼と怪しげな期待が感じられる。
一方でクロニクが大して驚きもせず、腕を組んで一言。
「ま、兄貴なら当たり前か」
(やっぱり兄貴、ぜってぇ人種じゃないな……いや、そうであってたまるか!)
その瞳には、冷静な確信が宿っていた。
心中を察しながら頬を掻く俺を他所に、ミリネアが目尻を下げながら零す。
「ご主様なら当然です」
その瞳は崇拝に近いーー感情で輝いている。
(やっぱり、ご主様は【神】なのでは……?そうとしか思えない)
ミリネアの心中が透けてみえ、やれやれと思いながら息をつく。
ふとミーアが悔しそうに眉をひそめながらポツリ。
「うちも早く覚えたい」
その表情には自分の未熟さが滲んでいた。
(まだまだ修行が足りないわ……うちはもっと揉まれなきゃ!
でも……揉まれるなら皇子がいいな……)
ミーアの心中に違う意味では?と思いながら耳まで熱が籠る。
仲間たちの心中を察しながら、再びハーブティーを口に含む。
食堂内はピークを過ぎ、客もまばらになっていた。
ハーブティーはノビの妹、サーシャが気を使って出してくれたもの。
仲間たちの表情が変わりつつある中、ジュリが優しく諭すように落とす。
「へんダー、今の【創造】と、【文字の綴り】を忘れないでね」
その声には期待と興味が含まれていた。
(なんでもできちゃうのね……へんダーって……本当に変態なの!?)
ジュリの内心に思わず「変態って……ってなんだよ。失礼な」と、
心中で突っ込む。もちろん口には出さない。
そう思っていた矢先、モフモフの尻尾が目の前で揺れた。
「ゴクにぃにゃら、使えりゅよ……」
アリーが小さく零し、
その垂れ耳がピクッと動いた。
(ゴクにぃ……まさか始祖の……? きっとそうにゃ!)
アリーまで心中疑っているのには正直驚いた。
彼女は普段そんな考えは持たない。
仲間が驚きと納得の表情を浮かべながら、俺をぼんやりと見つめている。
ハーブティーを啜る仲間の姿は、どこかコミカルで、
頬を朱く染めたり、目を見張ったり、艶っぽかったりでーー
様々な表情見せ、愉快だった。
一方、肩をすくめる覚えの悪いミーアに、
【補助魔法】をパメラが額に汗を滲ませながら、
悪戦苦闘を繰り返し、必死に教えていた。
「さぁミーアちゃん、もう一度」
「……はーいぃ……」
そのやり取りを見ながらコガラが”コトバ”を飛ばす。
「あるじーー! コガラもおぼえりゅ!」
「コガラ、おぼえるだよ。……モフねぇの言葉は覚えにゃいの!」
コガラに反射的に答えた俺の言葉が、気づけばアリーの喋りそのままだった。
「”ハッ”……やってしまった」
言った瞬間、俺の頬は熱くなり、
ゲラゲラと笑い声が広がる。
次の瞬間、パメラが息を切らして腹を抱えた。
「ぷっ、ゴクちゃん、それマジで言ったのん?」
「ちっ! そんなに笑うことかよ……」
そう答えると、クロニクでさえ珍しく口元を綻ばせている。
「兄貴、さすがにそれは笑うわ」
その言葉に悔しさを抑えながら、コガラを撫でる。
……アリーの喋りを知らず知らず真似たのは、
俺の中に呪詛をかけられた彼女の姿がーー
染み付いているからかも……しれないな。
ふとそんな思いが頭を掠める。
だが一方でコガラにも念を押す。
「モフねぇの言葉、覚えなくていいぞ、コガラ。お前はそのままでいい!」
「わかってるーー!」
コガラが少し拗ねているようにも見える。
子供の成長は早い。
仲間たちもコガラの態度に腹をかかえる。
この時間、気つけば心が満たされ、癒されていくのを感じる。
皆が戦友の仲間としてではなくーー
『親友』のような感覚が押し寄せて、胸がじんと熱くなった。
そんな中、あれだけ忙しかった店内が、嘘のように静かになっていく。
「おーい、勘定だ」
「こっちもなぁー、ご馳走さん」
食堂の客が満足感を顕に、千鳥足で食堂を後にする。
夕食時のピークを過ぎても、
冒険者のパーティと思われる一組が、エールを飲みながらーー
「たかがヒールぐらいで、はしゃぐなよ」
「治癒魔法の初歩じゃんか」
段々声を大きくしながら、話をしているのが聞こえてくる。
アカリとジュリがそれを耳にすると、
その冒険者たちに眉をしかめキッと睨む。
一方ですごい形相のミリネアが席を立ちーー
また鞭を引っ張り出さないかと、内心ヒヤヒヤ。
「宿に帰るぞ」
俺の言葉に仲間たちが頷く。
スッと立ち上がったクロニクが、
話を続ける冒険者たちに鋭い眼光と【覇気】をぶつけた。
突然ーーガタッとした音が聞こえつつ、
「ぅぅ…わぁっ!」 バッタァン!
冒険者の一人が椅子ごと仰け反り、倒れ込んだ。
「おい! 飲み過ぎだぞ!」
「痛てて…… ち、違うんだ、あ、あいつが……ヒィーー!」
クロニクがもう一度そいつを睨み、何食わぬ顔で出口へと向かった。
見ていた女子メンバーも立ち上がり、
倒れた冒険者を一瞥し、クスクスと笑いながら『お花を摘み』にいく。
だが、ノビが思いたったように厨房へ入っていく。
「オラ……カルディアに戻るんさ……
野営するかもしれないから、食材と道具を……」
「わかった。塩と胡椒… ソースにホロホロ鶏の卵と小麦粉だな…
それに、パスタとトメートの缶詰…… 後は何がいる?」
「うちのパンと香草を少しとラード… 深さのあるフライパンど鍋も……
ああ!ステン製のボウルとバットも……
調理用ナイフと、あとこれどこれも…
ああ。これで大丈夫なんさ!ありがとう!」
ノビが訛りでムッキムッキのマスターと話をしてる声が聞こえる。
…ノビや……明日ワイバーンの肉が、たんまり手に入るんだぞ。
そんな心配せんでも良いのでは……?
俺の思いなどお構いなしで。
「兄貴、カリーって美味ぇな。
こんな美味いもん初めて食った。また食いたいぜ!」
耳を澄ます俺にクロニクが満足げに、話しかけてきた。
その目には、味に感動した様子が有り有りと浮かんでいる。
「そうか。良かったな」
俺は短く往なし、ニッコリと笑うサーシャが待つ出口で会計を済ませる。
「美味かったよ。ご馳走様。……材料やら道具の分もあるから、これでいいよ」
そう言いながら俺が差し出したのは金貨の袋だ。
その重さからして、中には相当な額が入っているのがわかるだろう。
「何のことですか?」
サーシャが不思議そうに首を傾げる。
彼女から渡された伝票を見ると、支払額は金貨2枚。
俺はそのまま黙って金貨の袋を手渡した。
「こ…こんなに……!」
サーシャが驚きの声を上げる。
「いつも多くいただいてるのに……ありがとうございます」
そう言って恐縮しながら深々と頭を下げる。
その姿には感謝の気持ちが溢れていた。
そこへ『お花摘み』から戻ってきた女子メンバーが、
「ご馳走様」と口々に言いながら、
軽くサーシャに頭を下げて食堂を後にする。
サーシャが何度も頭を下げながら見送ってくれた。
「しだっけ、サーシャ!まだな!」
ノビが笑いながら手を振ると、
「……お兄ちゃん、いつ帰って来るの?」
そうつぶやく、どこか寂しげなサーシャだった。
兄妹か……いいもんだよな。
俺はふとノビとサーシャを見ながら、
孤児院にいた頃を思い出していた。
一緒だったケントとミク。
歳は違えど、本当の兄妹みたいだったあの二人。
それにハーフエルフの華。
彼女とは結婚する約束までしたっけな。
ケントとミク、そして華の笑顔が記憶の隅から鮮やかに甦ってくる。
アイツら、元気にしてるかな……。
遠い記憶を思い出しながら、ぼんやりとした足取りで路地を歩く。
どこか暖かいような、切ないような気持ちが胸に広がっていった。
昔の俺が、こんな風に仲間と笑い合える日を想像できただろうかーー。
月明かりが静かに路地を照らし、
銀色の光が草葉や石の上に優しく降り注いでいる。
夜空は深い藍色に染まり、星々がまるで夜の宝石のように瞬いていた。
穏やかな風が流れる中、路地が分かれる場所に差しかかると、
ミリネアとミーアが歩みを止めて俺に向き直った。
「ご主様、ワタクシとミーアは家に戻って旅の支度をいたします」
「わかった。明日、店に迎えに行く」
「ありがとうございます、ご主様……」
ミリネアが深く頭を下げ、ミーアを連れて帰っていく。
その背を見送るクロニクが、顔を真っ赤にして手を振っている。
「気をつけろよ! ミーア姫!」
何度も振り返るミーアの姿に、クロニクが恥ずかしげもなく叫んでいた。
こうして、俺たちはロカベル姉妹と別れ、『宿屋帰巣』へ向かうことにした。
アリーとジュリが先頭を歩き、その後ろにアカリとパメラ。
俺はというと、”むにゅ”と”ブルン”に挟まれながら、
肩にはコガラを乗せて歩いていた。
後ろからは、ノビとクロニクがミーアの話を楽しげにしている。
『まちわビル』の角を曲がろうとしたーーその時。
「ピィーーッ!! あるじーー!」
警告の鳴き声とともに、コガラが突然叫んだ。
一方でジュリも振り返りながら叫ぶ。
「気をつけて!」
緊張感が走る中、アリーが耳をピンと立て、
「にゃん人か……いるにゃ!」と、
短い魔導銃を『アイテムボックス』から取り出した。
眉をしかめるジュリが金の長杖を握り、アリーも銃を構える。
二人が空気を張り詰めさせ、緊張感が漂う中。
《「兄貴、この人数なら、オイラ一人で充分だ」》
クロニクが緋色に光らせるハルバードを手にし、念話を飛ばしてきた。
その構えは自信に満ち溢れている。
他の仲間もそれぞれ武器を構える。
アカリが【桜刀・黄金桜千貫】と白檀の扇子を。
パメラは紅の短杖を手にしていた。
ノビが甲羅の胸当てを外して臆病に、肩を振るわせ構える。
俺も念のため、
【桜刀・黄金桜一文字】と【兼松桜金剛】の柄に手をかけたーー
だが敵意のない【覇気】を感じていたのは確かだ。
その時ーー風が震え、宵闇に甲高い声が響き渡る。
「待たれよ! 妾に敵意は無い!」
その威厳ある【覇気】に瞬間、俺たちは動きを止めた。
朧に光る月が一瞬、閃き反射する。
暗がりから姿を現したのは、煌びやかな装束を身に纏った若い女性だった。
暗くてはっきり見えないが、長い耳が特徴的。
その後ろに見える五人も武器を携え、静かに立っていた。
その五人もまた、冒険者とは違うどこか特有の【覇気】を放っている。
周囲にはフードを被った数人がこちらの様子を伺う。
クロニクが【覇気】を剥き出しにしながら、
「何もんだ? ”ゾロゾロ”と……」とハルバードの切先を向け、一歩前に出た。
「お前たちも構えるでない。妾が話すゆえ、下がっておれ!」
「「「「「ハッ!!!!!」」」」」
五人は若い女性の指示に従い、順に後ろへ下がる。
すると同時に、フードを被った数人も姿勢を正す。
ずっと見張られてたのは多分こいつらだ。
思いながらその動きを見逃さぬよう目を凝らす。
「そなたらが噂のリリゴパノアであろう?」
「だったら何ーーっ!」
間髪入れず、その問いに答えジュリが答え、
杖を構えたまま、鋭い視線を向ける。
緊張感が一気に高まる。
「そう睨むな。妾はヒラム・イブ・ファルダットじゃ」
その言葉には強い【覇気】が含まれ、どこか威厳もあり、
宵闇の風を震えさせたーー。
お読みいただき、ありがとうございます。
引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )




