ワイバーン討伐編 13 〜ラブコメ回? いや違うーー大人の味か〜
ちょっと長めですーーm(_ _)m
天上の三柱の表情が緩む中、
ゴクトーたちが帰ったジンロックの仕立て屋ではーー。
「カナリド……さっきの、どこかのお姫様も、
漆黒のローブとブルゾンを注文してたな。今、漆黒って流行りなのか?」
ジンロックが肩をすくめながらそう言うと、カナリドは苦笑いを浮かべた。
彼女は作業台に広げた布を撫でながら、
少し心配そうに問いかけた。
「ええ、そうみたいね。
でも、こんなに立て続けに注文が来るなんて…… 素材は足りるの?」
「まぁ、バグマン親方に相談すれば、何とかなるだろう。
ちょっと冒険者ギルドで確認してくるよ」
そう言ってジンロックは、薄手のコートを着込みながら答えた。
その声には、自信と職人らしい落ち着きを感じる。
「そうね。それじゃあ、私とココリドでデザインを詰めておくわ。
型紙も早めに仕上げないと」
カナリドは気合いを入れるように小さく頷いた。
一方、娘のココリドも元気に答えた。
「うん! 私も手伝う!」
父の頼もしさと母の手際の良さを間近で見ているせいか、
どこか誇らしげな表情を浮かべている。
「頼りにしてるぞ、二人とも」
ジンロックは小さく笑い、冒険者ギルドへ向かう。
店を出る直前、ちらりと振り返ると、
カナリドとココリドが早速布の山に向き合い、
真剣な眼差しで相談を始めていた。
その光景を見て、ジンロックは少しだけ足を止める。
カナリドの真剣な横顔、ココリドの小さな手が布を撫でる姿。
……こういう時、うちの家族って、本当に頼もしい。
心中に沈め、彼の頬が少しだけ緩む。
ベレー帽を整え、ジンロックは静かに店を後にした。
◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇
「お兄ちゃん! みなさん、いらっしゃいませ!」
食堂に足を踏み入れると、ノビの妹サーシャが明るい声で出迎えてくれた。
彼女の満面の笑顔と澄んだ声が、夕食時で賑わう店内に響き渡る。
食堂は冒険者や日雇い労働者、さらに亜人でごった返していた。
店内に入ると、騒めきが広がり、多くの視線がこちらに注がれる。
「っ……!……まただ」
一瞬俺の背中に緊張が走る。
先ほど感じた視線が俺の背筋を撫でた。
見回してもフードの男はいない。
だがーーその残り香のような気配だけは、妙に胸に引っかかった。
そんな俺を他所に、混雑しているのにも関わらず、
サーシャが案内してくれたので、そちらへ向かう。
肩に乗るコガラと、キョロキョロするクロニクが興味津々で、
店内を見回す。
「兄貴、あれはワイルドボアの牙か?
あっちは、雷電グリズリーの爪だよな!」
ブツブツ言いながら、特にクロニクが目を輝かせ、
落ち着きなくあっちこっちと。
ほっときながら席につくと、
コガラを目立たないよう膝に抱え、腰を下ろした。
すると、ミリネアとアカリが俺を挟むように座り、
それに気づいたパメラが小さく息をつきながら、向かいに腰を下ろす。
こちらに向けるパメラの視線が、穏やかでないのを感じつつーー
先ほど向けられた視線の主を俺は探っていた。
一方でノビがパメラの隣にちょこんと座り、
時折横目で見ながら、なんとなくソワソワした様子を見せる。
スプーンとフォークのカチャカチャと擦れる音とともにーー
食堂のあちらこちらで「うまそうだ」、「かんぱーい」と盛り上がる声が聞こえ、香ばしい匂いと芳醇なエールの香りまで漂う。
ふと、視線を戻すとミーアが立ったままで、
どこか恥ずかしそうに目を伏せる。
「ミーア、座らないのか?」
俺が問いかけると、ミーアが一瞬迷うような表情を見せたが、
次の瞬間ーー
「ほら、ミーア姫……一緒に座ろう」
「ち、ちょっと……!クロニク皇子……///」
彼女の手をクロニクが不器用に引っ張り、隣に座らせた。
不器用だけどまっすぐなクロニクのその言葉に、ミーアが頬を朱に染める。
一方ジュリとアカリが口元を押さえ、目を合わせる。
「ぷっ……なかなかやりますわね」
「ふふ、お似合いじゃない、クロニク皇子とミーア」
そう言って桃色姉妹の二人が、どこか揶揄うような視線を向けた。
クロニク、やるじゃないか……
随分積極的だな。ミーアもまんざらじゃない顔してるし。
微笑ましい光景を見ながら思う。
ふとコガラが念話を飛ばしてくる。
《「あるじー! ちいねえちゃん、かおがあかいー!」》
《「お前は……全く。余計なこと」》
俺の念話にコガラが頬を膨らませ、「ピィッ!」と鳴き、口を噤んだ。
その鳴き声はどこか拗ねてるよう。
コガラの成長に驚かされる一方で。
クロニクが目を煌めかせながら「兄貴、食堂って初めてなんだ」と言った。
その琥珀色の瞳は輝き、
ミーアの顔をチラリと見ては、嬉しそうに店内を見回す。
その瞬間、まるで花が咲き乱れる丘の上に立っているような、
甘くて清々しい香りが漂い始めたのは、きっと俺の”妄想”に違いない。
甘酸っぱい雰囲気が漂う中、アリーが恥ずかしそうに目を覆った。
他方、パメラが腕を組んでニヤリと笑い、
ノビだけは顔を真っ赤にして天井を見上げる。
ニヤニヤする仲間たち。
その場の空気も和む。
おお? 異世界ファンタジーアニメの定番だな。
こ、これは……ラブコメ回なのか?
……まぁ、そっと見守ろう。
前世の記憶が頭を過ぎる。
思わず口元も緩んでしまう。
そんな俺は、ふと隣のミリネアの表情が変わっていくのに気づいた。
彼女が外したメガネに「はぁー」と息を吹きかけ、
ハンカチで丁寧に拭う。
その姿はまるで娘を婿に取られた母親かのようにーー
どこか寂しげにも見える。
そんなミリネアの変化を気にする様子など、
微塵もなくクロニクが口を開く。
「兄貴、ここは何が食えるんだ?」
「クロニク、ここのオススメ料理は絶品だから、期待していいぞ」
俺が目を細めながら答えると、嬉しそうに頷く。
「そうなのか!期待しちゃうなぁあああ!」
「それは”違う”期待だろがああああ!」
クロニクと俺の声に一瞬、食堂内が騒つく。
一人の冒険者が隣のチョビひげドワーフに声をかけた。
「おい、あの桃色の髪……桃色姉妹だよな?」
その直後、周囲の冒険者がヒソヒソと囁き始める。
「ああ、間違いないな。従魔まで連れてるぞ」
「間違いねぇな、桃色姉妹……ん? あの背の高ぇの、紅蓮じゃねぇか?」
「うわ……本物だよ。“紅蓮の黒龍”だ。ガチで見ちゃいけねぇぞ、睨まれる!」
「あの琥珀の目、【覇気】もヤバイ。“紅蓮の黒龍”と目を合わせるな!」
「リリゴパノアか……今や有名だもんな。オーラがビンビン伝わってくるぜ」
店内の騒めきが、次第に興奮に似た空気へと変わっていく。
クロニクが「ん?」と反応しかけたがーー
今はミーアに夢中で、それどころではない様子。
「ふぅ一、クロニクが暴れ出すかと思った」と、一息ついた矢先、
「ご主様、あの連中、無礼ではありませんか?」
そう言ってミリネアが、腰に下げた鞭に手をかける。
「いやいや、ミリネア。ここではちょっとな」
軽く首を横に振り、思わず制す。
一方、そんなミリネアを特に気にする様子もなくーー
メニューを開く仲間たち。
さすがだーー慣れだな。
俺の感情は、さておき。
アリーとジュリが早速メニューを見比べて盛り上がり、
アカリとパメラが同時にメニューを俺の前に差し出す。
「すいませーん!」
お決まりのようにジュリが大きな声で呼ぶと、
厨房から茶髪の髪を靡かせる、少女マリアが現れた。
「お待たせしました!」
その笑顔は、忙しい最中でも疲れを感じさせないーー
どこか芯の強さがある。
とても十四、五には見えない、しっかりしたこの食堂の娘だ。
ノビが目を輝かせ、
「マリア、今日のおすすめは?」と尋ねる。
「今日は、旬野菜とホロホロ鶏のグリル。
それとインディアンスープカリーです!
辛味スパイスが効いていて、味に深みとコクがあるんです。
特に疲れた身体には最適ですよ!」と彼女が得意げに答えた。
「しだっけ、オラはそれにするんさ!」
ノビが即答する中、他の仲間たちも口を開く。
「ならあたいも、それにするわん。ゴクちゃんも同じので良いわねん?」と、
パメラが上目遣いでこちらを見る。
コクっと頷く俺を他所に、
「辛さは調整できるかにゃ?」とアリーが首を傾げる。
すると「もちろんです!」と即答するマリア。
クロニクをチラリと見ながら、
「じゃあ、うちと皇子も同じで」とミーアが頬を染める。
同じメニューを口にする仲間たち。
ちょっと気を利かせたつもりの俺が一言添える。
「サラダも頼む」
マリアが「かしこまりました!」と元気よく答え、厨房へ。
ふと目をやるとノビがパメラに相手にされず、しょんぼりしていた。
その様子があまりにもわかりやすく、笑いを堪える。
珍しく落ち込んでるな……ノビ、頑張れ!
あいつがここまでへこむなんて、余程のことだ。
だがノビよ、心配するな。
パメラも実のところ、ノビのこれからを期待してるはず。
彼女の表情を見ればわかるさ。
逡巡させながらこれからのことも考える。
……そうだ、カルディアだ。まずはそこへ。
師匠の消息を追い、魔法学院で何か手がかりを掴む。
妖精龍のコガラのことも知りたい。
ホボ教授に会って、古代龍ガザグの詳しい情報を得よう。
妖精龍の長ギャガンにも、いずれ会うだろうからな。
七星の武器のこともそうだ。
ミリネアが研究している機械銃を復活させる。
そして、クロニクが探すーー趙槍ギャラクシースピアの探索。
これからの課題だな。
思えば、かつての俺には、静けさしかなかった。
今はどうだーーこんなにも賑やかで、騒がしくて、温かい。
そうだ。
忘れないうちに、アカリかジュリから【ヒール】も教わっておこう。
忙しいな、全く。でもーー悪くないんだよな。
没頭していた俺は遠くを見つめたまま、
テーブルに肘をつき顎を乗せていた。
「ダー様、どうなさったのですか?"ボーーッ”とされて」
隣のアカリが首を傾げて、尋ねてくるが、「ああ、すまん」と濁す。
そんな俺にミリネアが、念話を飛ばしてくる。
《「ご主様、ひとつずつ、確実にこなしていきましょう。
ワタクシはーーどこまででも、ついていきますので」》
こちらを見て、心配そうな表情を浮かべる。
《「ああ、いや……だから……心配かけるから、思考は読むなって……」》
肩を上下させ、「はぁっ」とため息をついてしまう。
一方、アカリの表情が曇るのを察し、小声で漏らす。
「アカリかジュリに【ヒール】を教わろうと思ってるんだ」
「ダー様!喜んで、お教えしますわ!」
そう答えたアカリが目を輝かせる。
隣に目配せすると、少し照れたようにジュリが肩をすくめた。
「へんだ─は、治癒師でも使えない【再生治癒魔法】が使えるのにぃ?
何でまた、【ヒール】なんて……」
ジュリの問いに俺は改めて、あの【再生治癒魔法】について説明する。
「【癒瑠々・座羅・裏滅駆】はーー
自分には使えないんだよ。つまり、俺にはかけられないんだ。
『師匠』が言うには、この魔法は神代の神様の許しがないとーー
再生されないらしいんだ。俺には理解不能だが。
だから、仲間を助けるためにはーー
もっと基礎的な魔法も身に付けておかないと!」
その言葉にジュリが興味深そうに口を挟む。
「へぇ……神代魔法に、そんなのもあるんだ」
「そうなんだ。師匠が養父に教わったらしいけど……
それ以上は、教えてくれなかったんだ」
そう零すとアカリとジュリの表情が曇り、涙を浮かべる。
”養父”と聞いた瞬間、表情が変わったのには理由がある。
彼女たちの父である、巫代長門が師匠の養父。
当然の反応だ。
彼女たちの気持ちを俺は察していた。
その話に仲間たちも耳を欹てる。
ふとミリネアが意を決したような声音を落とす。
「ジュリ殿、もしよろしければ、
ワタクシに【ヒール】、
それと、次妹にも転移魔法を……ご教授いただけませんか?」
真剣な表情で尋ねる彼女に、仲間たちも息を呑んだ。
一方でここぞとばかりにミーアが口を開く。
「うちも……ミンシア姉様と一緒に教えて欲しい!」
珍しく積極的な発言にアリーが目を丸くする。
ふと隣に座るクロニクが口を挟んだ。
「ミーア姫には、【ヒール】は必要ないんじゃないのか……?
【エルフの涙】っていう、エルフには最高の切り札があるだろ?」
「それもそうだけど、クロニク皇子……ミンシア姉様が言ってたの。
【エルフの涙】は、別名【エリクサー】って呼ばれてて、
一年がかりじゃないと作れないって!」
「なるほど、希少な品なんだな……」
「!!!」
…何……だ…と…?
あれね…… ミリネアにもらって一気飲みしてしまいましたが……。
心中穏やかではいられない。
俺の心にふと罪悪感がよぎる。
ミリネアさんや……そんな貴重なものをわけて貰うばかりで、
俺は何も返せてないーー必ず恩返しをしなければ……。
そう沈める俺にミリネアからの念話が届く。
《「いえいえ…ご主様、恩返しだなんて、そんなーー♡」》
《「また読む。もう……ええて……」》
夫婦漫才のような念話に肩を窄めたーーその時。
「ピ~~~~~♬♪」
店内に響き渡るような、コガラが鳴き声を上げた。
周囲の冒険者や亜人が一斉に"ビクッ”とする。
どうやら、あまり聞き慣れない鳴き声らしい。
「あるじ~、いいにおい~~~♪」
コガラが俺に”コトバ”を飛ばす。
鳴き声とも相まって驚く周囲に、薄く笑みを浮かべてしまった。
騒つく中、サーシャとマリアが料理を運んでくる。
「お兄ちゃん、お待たせ」
「お待たせしました」
芳しい香りが広がり、空腹感が一気に膨れ上がる。
テーブルに並んだ料理は、柔らかそうなホロホロ鶏にポテト、
キャロット、芽キャベジ、エッグプランツのグリル。
そして、メインは旨味たっぷりのマルミ茸が入ったーー
濃厚なインディアンスープカリー。
その上には生クリームと、
微塵切りのバイラ草とチーズが振りかけられ美しく飾られていた。
「サラダをお持ちしますね」
サーシャとマリアが厨房に戻る中、
待ちきれないアリーが首をカクッとさせて料理を見つめる。
「美味そうだな。いただこう」
一同が手を合わせる中、
ミーアが真剣な顔でクロニクに祈りの仕方を教えていた。
「コガラ、何か食べる時はお祈りして、"いただきます” って言うんだぞ ッ!」
「いただきます……わかったーー」
コガラに伝え、全員で声を揃えてお祈りする。
「「「「「「「「「 「 いただきます 」 」」」」」」」」」
食事が始まると、それぞれ皿に向かい熱心にフォークやスプーンを動かし始めた。
俺は膝の上に乗せたコガラを撫でながら、
スプーンでカリーを掬ってひと口食べさせてみた。
「ピィーーッ!」
突如、コガラが目を見開いたーーその刹那。
“ゴォーーォッ༄༅”
小さな口から勢いよく炎を吹き出した!
「うわっ!熱っ!」
瞬間的に身体を退け反らせたが、俺の髪と眉が少し燃えた。
「【ディス・ペル】! もーーっ! 何をやってんのよ……」
咄嗟にジュリがパチッと指を鳴らし、冷静に火消しの魔法を放つ。
瞬時に火は消えたものの、俺の髪と眉は見事に"チリチリ”状態になった。
周囲の冒険者たちが炎を吹いたコガラに驚き、
俺のチリチリ髪を見て"目点”になっていた。
一方、仲間たちがそんな俺を見て堪えきれずーー
「ぷっ……くくっ……!」
「ゴクちゃん、それ……何だか古い匂いがしますわぁ!」
「ゲラゲラ」と笑い声が弾ける。
コガラが涙目で俺を見上げ、”コトバ”を使って語りかけてくる。
「 だいじょうぶぅ? あるじーー? 」
「コガラ、ごめんな……辛かったか。大人の味はまだ早かったな」
苦笑いしながら、コガラの頭を優しく撫でてやったーー。
お読みいただき、ありがとうございます。
引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )




