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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第0幕 序章。 〜妄想図鑑と神代魔法士〜

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ゴクトーの長ーい、一日【前編】──魔導具屋と帽子と俺のローブ

 “桃色姉妹”とパーティーを組むことになったゴクトー。一夜明けたところから──彼の「ちょっと長い一日」が始まる!


 


「おい!やつらが動き出したぞ!」


 シロが黒銀の目の友を揺すった。


「ふぁーあ、よく寝たな。何事だ?」


 黒銀の目の友が目を擦った。


「とうとう、黒い門が開いた……」


 神シロは眉を寄せながら、黒銀の目の友の肩を掴んだ。


 神々は下界を覗きこむ。









 ◇(主人公、ゴクトーが語り部をつとめます)◇ 





 

 深い眠りに落ちていた。


 眠い目をこする。


 そしてーー毛布の一部も起き上がる。


 そこな。若いんだ。わかるだろ?


 思わず口元が緩む。



「ふぁーーぁ」


 ガリガリと頭を掻き、欠伸をしながら起き上がる。


 寝過ぎたか……。 いや、昨日が響いてるな。


 ふと、"ニタリ”。ーー夢にまで『赤絹・シタギ』が出てきた。


 

 彼女が夢の中で俺に囁いた。


「あっしは、いつもここに」


 その言葉とともに彼女は霧のように消えていった。


 いらん情報だったな。 



「やべ、準備!」


 目を覚ました時には、陽はすでに天頂を越え、昼下がりの光が窓から差し込んでいた。


 身体がどことなく怠い。


「ヨシ!……魔導具屋と薬屋だな」


「あ、それと食料だ。忘れるとこだった」



 口に出して自分を鼓舞。


 身支度を整え、出かけようと部屋の扉を開けた。


 その瞬間ーー「まあ……」


 タイミング良くいや、悪くと言うべきか。


 女将さんと鉢合わせてしまった。



 【監視魔法】か?


 やるな……って、違うだろっ! ツッコムよ。


 もちろん、口には出さないけどな。


 女将さんがさりげない一言を放つ。


「あのお嬢さんたちなら、もうとっくに出かけたわよ。それにしても……ふんっ!」


 鼻息荒く、まるで軽く非難するかのような態度で言われる。



 また、”ふん”か。  

 毎度の。 まるで猪みたいだな。


 顔には出さず頭を下げた。


「そうですか……ありがとうございます」


 短く答え宿を出た。


 せっかくのアドバイスーーだが、進みたくないアドバンス。


 俺は気持ちに正直な男だ。 


 ”お節介情報”をもらった手前、まずギルド支部へ向かう。  


 路地を抜けて歩き出す。

 昨日、"桃色姉妹”とともに通った道だ。



 柔らかかったな。

 初めての感覚だった。いや、今は考えるな!

 ”むにゅっ”。

 ……か、って、違うだろッ!俺っ!


 自分にツッコミばかりいれてしまう。


 そんなことはさておきーー道順の記憶だけが曖昧だった。


 確か、ここを左だったか?

 いや、右か?


 頭の中で地図を組み立てながら歩く。


 しらねぇだろうな? 俺はある”スキル”に特化してんだ。


 思い出すよ師匠の言葉。


『さすがだな。ゴクトー。だが、気をつけろ。一人の時は、その力をむやみに解放するなよ』


 それは師匠も”認めた”ほどだ。


 ーーその時、風が変わった。


 忍び寄る謎の気配が漂う。


 それは人でも魔物でもない感じるーー【覇気】。


 まさか……噂で聞く魔族か……。


 緊張した空気が俺にまとわりつく。  

 頂きを越えた太陽の蜃気楼が地面に反射して、路地はみるみるうちに曖昧にぼやけてくる。


 なんだ? これ、道が歪んでる?


 そう思った瞬間、路地の角に黒い影が揺らいだ。


「そっちか…!」


 俺の身体がブルブル震え出す。


 何かの物音。すぐに反応し身構えた。


 恐怖心を抑えつつ、路地を曲がった。


 その瞬間ーー「にゃーお」


 ゴチン☆彡


「いってぇ───!」


 猫の気配につられ行き止まりに衝突。

 俺の持つ”スキル”ーー『方向音痴』発動した!


 てか、それ自慢げに言う? 


 案の定、道に迷う。  まいった。


 だが、どこか怪しい【覇気】がまだ俺についてくる。


「けけけ」


 空耳かと思ったが違う。

 確かに噛み殺したような笑い声が聞こえた。 

 その笑い声は人の、いや、人が出す声とは全く異なる音程だった。


 背筋に嫌な汗が滲む。

 瞬時に後ろも振り返る。


 しかし、何もないし。 誰もいない。


 ゴォ~ン ゴォ~ン


 教会の鐘の音が響くと同時に、怪しい【覇気】もスッと消えた。

 それが意識を現実に引き戻した。


 まさか……?本当に魔族?


 首を傾げ、疑心しながら歩いた。

 この時はまだわからなかった。

 密かに忍び寄っていた黒い恐怖にーー。


 

 ***


 

 スキル発動中の俺は仕方なく、すれ違う人々に道を尋ねながら進む。

 ようやくたどり着いたギルド支部。


 ほっと息をつく。


 ここまでで、ひと苦労だ……。 

 さて、次はどう動くかな。


 

 扉の開く音が軋む。


 賑やかって、感じだ。

 喧噪と独特の活気が漂っている。 


 周囲を見回す。

 しかし、肝心の"桃色姉妹”の姿は見当たらない。


 どこ行ったんだ? 


 

 昨日の態度の悪い受付嬢に話を聞いてみる。

 俺の顔を見ると「脳筋」と、でも言いたげな顔の受付嬢は、あっさり言い放つ。


「〝桃色姉妹〟……? ええ、今日は見てないわね」


 そっけない返答に思わず苦笑したさ。


 相変わらず態度悪いな。  顔は綺麗なんだけどな。


 仕方ねぇ、他のこと聞いてみるか……。


「この村で、魔導具や薬が買える店を、教えてもらえないですか?」


 一応、丁寧に尋ねる。


 受付嬢の目がジロリと俺を睨む。

 彼女は、眉をひそめがらも地図に場所を書き込んでくれた。

 しかしーー


「ったく、依頼受注でもないのに……」


 ぶつぶつ。 顔を見るとかなり不機嫌そうだった。

 無愛想でも仕事は、きっちりしている。


 ……まあ、助かりますけども。

 意外とそこまで性格は悪くなさそうだ。


 「ゴクトーさん、次の依頼受注は必ず私から受けてくださいね。私はリン・ホム」

「ああ、リンさん次は必ず!」と、言って足早にギルド支部を後にし、彼女が書いてくれた地図を手に、村のメインストリートに出た。


 石畳の道は所々苔むして、歩く度たまにこける。


 ビヨンド村の中心地を歩く。朝歩いた道の先。

 生活感があふれる中、飼い慣らされてる従魔が目を引いた。


 二本足で立つーー豚の魔獣が額に汗をながす。 


 一般的には食用なのだが、その魔獣は井戸から水を汲み上げていた。


 オーク(豚の人型魔獣)って、従魔にもなるのか? 


 ふと、頭をよぎる。


 ふーん。まず魔導具屋から行くか、と横目で見ながら歩みを進めた。


 村の端に向かって歩く。疎らとなっていく人通り。 


 俺の黒い影が長く伸びたり、短く縮んだりといつもとはどこか違う。

 

 臆病風に吹かれてなるものか。


 街並みを背に意気揚々と背筋を伸ばして歩く。


 地図を頼りにしつつ、目的地ーー魔導具屋に辿り着いた。


 魔導具店の前には、眼窩に青白い炎を宿すドクロの等身大模型がカタカタと動いていた。 その動きはコミカルで人目を引く。


 紫の屋根には針が逆回転の『遡る時の魔導具』。


 これも珍しい。初めて見た。


「何の匂いだ、これ?」


 嗅いだことのない、”お香”の苦々しい香りと、一筋に伸びる煙が漂う。



挿絵(By みてみん)

(*魔導具屋のイラスト)



「ここの魔導具がどんなものか、少し楽しみだな」


 独り言ち口元が綻んだ。


 見るからに怪しいけども? 

 

 それがまた俺の厨二心をくすぐる。


 人の気配がしないぞ? 

 

 素直な感想だ。


「まぁ、受付嬢の紹介だし、楽しそうだ」


 店を眺めながらつぶやく。


 扉に手をかける。


 ⸻ギィィギィィ…


 軋む音とともに慎重に店の中に入った。

 音まで怪しいのには笑えた。


 結構な品揃えって、感じだ。

 

 店の中には、不思議な光を放つアイテム、古びた本が所()しと並んでいる。


 びっくりしたのは、本が自らの意思を持つように、浮遊していたんだ。

 まるで遊んでるかのようにだ。


 一気にテンションは上がり、店内を舐めるように眺める。


 それは棚に並ぶ商品を眺めていた時だった。


 ふと、『黒いテンガロンハット』が目にとまる。


 まるで俺に微笑みかけるような、白い歯がニカッ……って笑った気がしたんだ。

 

 被ってみると意外としっくりきて、自分でも驚いた。 


 なんとなく生きてるように感じる。 


 ほんとだぞ!

 

 これは買いだな。  

 気に入り何度も被り直す。


 銀髪を隠したい俺にはぴったり。

 なぜなら人種にはあまりいない髪色だからだ。

 俺は普段魔法で、髪色を茶色に変えている。

 その魔法も師匠に教わったものだ。


 店のカウンターで欠伸をしてる、店主に声をかけたさ。


 いくらだっ?……てな。


 髭面店主が、呆れたような顔で値段を言った。



「っえ?」


 銅貨たったの一枚。  

 宿屋に素泊まり、一泊するのに銀貨5枚。

 銅貨10枚で銀貨1枚と同等の価値。

 

 何かあるのか? と、思わず疑いたくなる値段だ。

 

 店主はニヤニヤしてる。 


 気持ち悪いぞ。

 

 思ったが、気に入ったもんは、すぐ買うのが俺の流儀だ。


 即購入決定。


 予想よりもはるかに安く、口元を緩めた途端、「ししし」と声が漏れた。


 目的のものとは違ったが、ま、良い買い物ができた気がする。


 だが真の”目的”も忘れない。 

 

 「上質な耐性ローブが欲しい」と髭面店主に伝える。


 すると店主はカウンターの下から、黒いローブを取り出す。


「お客さん、ラッキーだな!さっき、紅い魔道士が持ち込んだばかりの品だ」


 確かにな。 ラッキーだよ。


 ……ってか、それ、俺のローブだッ!


 ツッコミを入れて気を晴らす。 

 口には出さないがな。


 今朝の出来事が頭に浮かぶ。


 店主は「金貨3枚だ!買わないなら、いいぞ!」と、言いながら、俺を横目でチラリと見る。


 「はぁ」と、思わずため息をつく。 


 しかし高い。

 このローブ、俺がカルディア魔法国の魔導具屋で買った時の値段の倍だ。


 ま、仕方ねぇか。 


 心とは裏腹に、ニコッとしながら金貨3枚で買い戻した。


 魔導具屋を出てふと立ち止まり、大きく息をまた一つ。


 ま、手元に戻ってきただけマシだな。


「はっはははは」と、師匠の笑いを真似て自分を誤魔化す。 


 察しろ〜。


 ーーだがこの時、俺はまだ知らなかった。


 このあと、もっと長い午後が待っていることを。




 



 続く。









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