桃色姉妹 中編
アカリたちがフィルテリアを出た丁度その頃、天界から下界を覗く黒銀の目の友が口を開く。
「彼女たち、A級に昇格して、ファルダットを出て、フィルテリアまでよく来れたな。さすがシロの末裔だ」
そう言って下界を眺める神シロの肩を叩く。
「もう大丈夫じゃろう、あれを見てみろ!」
神シロの目には姉妹の眼差しは、明るく輝いて見えた。
◆(神シロが語り部をつとめます)◆
――ズードリア大陸のやや南西の国『カルディア魔法国』。
箒が飛び交う空が澄み渡る「バカルデュ」という大きな街で、姉妹は兄の手がかりを探していた。
そこで初めて、兄の愛弟子――『ゴクトー』という人物の噂を聞いた姉妹。
「その弟子の事……詳しく教えて欲しいですわ……」
「そう色っぽく言われてもな……」
色仕掛けで艶しく情報を引き出そうとするアカリ。
一方で、正反対にわめき散らすジュリ。
「ちょっとーーっ!ホントに知らないのっ!」
「うるせえな!わめくな、知らねってばよッ!」
しかし、それ以上の情報は得られなかった。
姉妹は肩を落とす。その瞬間、ジュリは姉の表情が変わったのを見逃さなかった。
「兄様が優しく教えてくれた、剣術姿が目に浮かぶの……あの笑顔を……もう一度この目で見たい!」
想いが募り、爆発するアカリは内なる抑揚を見せた。
ジュリがアカリの手をそっと掴み、にっこりと姉に向かって。
「ネー、行こう!」
こうして姉妹は、新たな冒険の旅へ出発した――。
国境を越えるたびにギルドへ立ち寄り、レイドをこなしつつ新しく覚えたスキルも試していく。
そんなある日のこと。
ふと、ジュリがつぶやく。
「新緑の木々、まるで大地の匂いね」
彼女が悪戯っぽい表情を姉に向けた。
エルフが治める『マヌエル』の森林地帯を何とか抜け、北上を続ける姉妹。
だが――。
あれ以来『ナガラ』と『ゴクトー』の噂は、一切聞けはしなかった。
旅を続ける姉妹が辿り着いたのは、エルダードワーフが治める『ゴマ』という国。ズードリア大陸では北東に位置する国だ。
いくつもの鍛冶屋から怒鳴る声が聞こえ、喧噪が後を経たない。立ち込める金属が溶けるけるような蒸気が漂う。この大きな街、『ケル区街』の拠点に、兄探しの活動を始めることにした。
――喧噪と煙が立ち込める冒険者ギルドケル区街支部。
姉妹たちは受付で素っ気なく話す。
「これは見事。 Aランク指定魔物、ウルボルトの討伐、ご苦労様でした」
「解体をお願いします。肉はいただきますわ。残りは買い取りで」
蝶ネクタイをする小さなエルダードワーフのギルド職員は、アカリの言葉に頷く。
その時、一人の冒険者が隣の男の耳元で囁く。
「おい。あの二人って『A級』の。それも依頼達成率ナンバーワンの……」
それがきっかけで、ギルド内がざわつき始める。
「美人の姉妹だっぺ……異国の冒険者だべな?」
「どんな依頼もこなすっていう凄腕の?」
「ああ、間違いねぇ……桃色姉妹だ」
「おお、あれが……色っぺぇねえちゃんだちだな、おい!」
「お前ら、知らねえのか……?ありゃ桃色姉妹だ……
下手なこと言うもんじゃなえぞ、お前、明日にはお釈迦になってるぞ……」
「ひぃーーー! そ、そ、そりゃ逃げるしかないっぺ!」
彼女たちは知らないうちに、二つ名で呼ばれるように。
ギルド支部の往復を続ける姉妹は、いつしか噂の的になっていた。
――数日後。
『ケル区街』のギルド支部の酒場で耳にしたのは――。
「アドリア公国に新しいダンジョンが出現したらしいぞ」
「ああ、それな。そのダンジョンってのは、B級以上の冒険者奨励らしいな」
「そのダンジョンってなもし、何階層まであるんか……? まだわかって無いらしいんやろ?」
「ダンジョンってぇのは…すんごい、お宝が眠っとるんやろね?……七星の武器とか……」
「命を落とす冒険者も、いるって聞くぜ?」
「ダンジョンと言えば…… 『メデルザード王国』と『カイド』の国境に――
あのダンジョンもあるよなぁ……?」
「ああ...あのダンジョンか……『SS級』に認定されたあのナガラのパーティが攻略した……最難関と言われてる、ダンジョンだろう……?」
久しぶりに聞いた『ナガラ』の名前に姉妹は目を輝かせた。
この瞬間、ジュリが両手を掲げアカリを見つめた。
「行くしかないっしょ!ネー!」
ジュリの表情は明るかった。
――その夜。
アカリの夢に響いた、声なき声。
「七星が揃う時、肉が裂ける。選ばれし姫よ、刃を向けるは……血をわけた者かもしれぬ……」
思わず唇に手をやり、肩が震える。
「何だったの……今の夢……」
そうつぶやくと頬を引き締めた。だが、その横でジュリはそれを知らぬまま、安らかに寝息を立てていた――。
ーーーーーーー作中補足ーーーーーーーーー
黒鍵鳥
冒険者ギルドが指定する『A級指定魔物』。
成長した黒鍵鳥は、およそ人間の身長の3倍はあり、大きな翼が特徴で大きな黄色い嘴を持つ。
(*ズードリア大陸マップ)
『フィルテリア』――亜人が治める合議制国家。
東のオドリュー海沿いに位置する。王政ではなく、長老五人の【合議制】によって、治められている。
その長老とは――最長老の猿人サバス、龍人ミデル、鳥人バックス、 魚人ネルミア、そして虎人オブニビアの五人が、国家を取り纏めていた。
『マヌエル』――エルフが治める森。
主に、『狩猟・農園・薬』で、エルフの民たちは、生活の基盤を築いている。
国として大陸中が認め、『メデルザード王国』、『ゴマ』、『フィルテリア』――三つの国に囲まれている、森林山岳地帯の総称。
『ゴマ』――エルダードワーフが治める国。
『建築・鍛治・酒造り』の伝統を誇りにしている。
『メデルザード』『マヌエル』という二国に囲まれ、その国境付近で新たな鉱脈が見つかると、しばしば、小競り合いが起こるという。
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