桃色姉妹 前編
黒鍵様登場!
天上の神シロは笑いながら、下界の地図を広げていた。
「国が増えたもんだな……」
黒銀の目の友が地図を眺めため息をつく。
「ま、静かに見守ってやるか……」
やっと表情がまともに戻った黒銀の目の友――トランザニヤのその言葉に神シロは息をつき、黒銀の目の友とともに下界を覗き込んだ。
◆(神シロが語り部をつとめます)◆
――ダークエルフが治める国『ファルダット自由国』。
姉妹が初めて降り立った異国の地。そこは常に明るい陽射しに照らされる国だった。
「暑いわね」
日中、買い物がてら散歩するアカリが漏らす。
この国は雨が降ることはあるが、豪雨になることはほとんど無い。
港町から少し外れただけで、広がるのは果てしない砂漠や荒々しい岩山。
昼と夜の温度差は激しく、夜には気温が零度まで下がることも珍しくない。
「ネー、冷えるね」
つぶやくジュリは黒いローブを着込んだ。
姉妹が生まれ育った国とはまるで異なる。港街周辺には竹林や森林はどこにも見当たらなかった。
港町にある宿を拠点とした二人。
眠る妹の横顔を見て眉をしかめ、ふと、姉アカリが独り言をつぶやく。
「勝手に国を出るって、決めたけど……本当に、大丈夫かしら?」
彼女が不安を口にする。
「……私が、しっかりしなきゃ」
アカリは妹の横で眠れずにいた。
宿屋の薄い壁の向こうで、波音とともに夜風が砂をさらさらと運んでいく。
眠れないアカリの心音が静かな部屋に響く。
アカリは不安を抱えながらも、この港町『コンビル』をしばらくの拠点にすることを決めた。そして運命はゆっくりと動き出す、まるで導かれるように――。
姉妹はギルド支部に通いながら薬草の採取、弱い魔物の討伐、比較的簡単なレイド(依頼)を受けるところから始めた。F級の冒険者に大したレイドなどないのである。
――ある薬草採取のレイドを受けた。もちろん安価なレイドで報酬は銅貨三枚。しかし、強風と大波が押し寄せる切り立った岩壁の頂上に咲く薬草は、容易く採取できるわけでもなかった。
やっとの思いで採取したアカリは薬草を見つめ、涙ながらにそれをギュッと握る。 なぜなら――旅立つ前に培った経験や魔法の類は、この異国の地の環境では通用しなかったのである。
「もっとランクを上げなきゃ……!」
顔を上げた彼女の「悔しさ」、「決意」をジュリは感じ取っていた。
一方ジュリも全力でその背中を追いかけようと日々研鑽を積む毎日。
少なからずも姉の足枷にはなるまいと、そう心に誓っていた。
たとえ厳しいレイドでも乗り越え――彼女は冒険者ランクを着実に上げていく。冒険者になってまだ日も浅いある日、魔物ゴブリンの集団と戦闘になった。
アカリが舞刀術を使い、敵の頭上に飛び上がり、桃髪を靡かせながら叫ぶ。
「ジュリ、そこで火属性の魔法を!」
「【ファイラ・メラメラ】!」
ボォ༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅!
ギャギャ!
ジュリの魔法で足元が燃えるゴブリン。燃え尽きる前にアカリがトドメを刺し、ゴブリンの片耳を切り落とす。レイドの討伐証明と換金が目当なのだが、その光景にジュリが目を逸らす。
刀での戦闘があまり得意ではないジュリは、魔法に頼り、少し魔力切れで息を切らせていた。しかし、必死に生活費を稼ごうとする姉の思いも理解していた。
ゴブリンたちは倒したが、昇格するには冒険者としての実績が足りない。
ジュリは歯を食いしばって次のランクを目指していた。
やがて冒険者を始めて一年が過ぎ、ついに二人は『C級』ランクの冒険者となった。ジュリが喜びを抑えきれず、笑みを浮かべる姿をアカリは見つめていた。
「ジュリ、心なしか笑顔が増えた気がする……でも、不安だったよね……」
独り言のようにつぶやき、安堵したのか――大きく息をつき、胸を撫で下ろした。しかし、その瞳にはうっすら涙が湛えていた。
一方のジュリも姉の表情を見て零す。
「ネーが、やっと笑うようになってくれた……」
ジュリが小さく息をついた。
海鳥の鳴き声が潮騒とともに、吹き抜ける風が姉妹の桃髪を靡かせる。
その瞬間、アカリの中で「何か」が弾けた。
姉妹は互いに顔を見合わせ、「ゲラゲラ」と吹き出す。
彼女たちは一歩ずつだが着実に成長していった――。
そんな彼女たちは、朝から夕方まで討伐や採取、時には雑用のような配達もこなし、日々忙しい毎日を送っていた。
それでも夜になると姉は【薬学】、【神代魔法】の研究に没頭し、妹は実家から持ち出した分厚い【魔導書】を手に新たな魔法を学んでいた。
ふと、笑顔を見せる何気ないアカリの一言が思わぬ火種になる。
「束縛されない自由って、いいわね」
「うん、ネーも気楽でしょ? 良かったね! 嫁入りしないで」
ジュリが姉の顔を見ながら揶揄う。
姉妹は「冒険者の自由さ」を楽しむように、日々研鑽を積んでいた。
『C級』に上がってからさらに一年と四ヶ月が経ち、姉妹はついに『B級』ランクに到達した。冒険者のランクから言えば、高ランカー。クエストレイドも日に日に増えていく。彼女たちはそれでも、レイドをこなしギルドからも信頼を得てていく。すでに、高ランクの魔物をも討伐できるようになっていた。
そんなある日、レイドの途中、姉妹は『A級ランク指定討伐魔物』ボルトパイソンと対峙した。
山小屋のような漆黒の体躯を震わせ――牛のような角を向け、ボルトパイソンが姉妹に襲いかかった。
アカリは飛び上がり、ボルトパイソンの背中を狙う。
左手で握りしめる桜刀・黄金千貫の刃を閃かせ、振りおろす。
カキィン!
甲高い金属音とともに右手で打ち払った緋色金製の扇子も弾かれる。
その皮膚は硬質で有名。彼女の口から声が漏れる。
「さすが、『A級ランク指定討伐魔物』――厄介ね」
アカリは身を翻し桜刀・黄金桜千貫を横薙ぎに払う。
「ネー!! Bランク冒険者パーティが二組でかかる魔物よ。気をつけて!」
そう言ってジュリは僅かに唇を動かし始める。
一般的なパーティ編成は斥候役、剣士、タンク役の重戦士、魔導士、治癒師がで構成させる。そのパーティのよっては構成スタイルは様々。魔導士だけのパーティもいるぐらいだ。 しかし――この時アカリとジュリは二人きり。B級ランクのパーティが二組で挑まなければ、到底この魔物は倒せないはず。
だが――。
ぷくっと頬を膨らませるジュリの身体は、紫色の光に包まれた。
彼女は意識を集中し、魔力を高め詠唱する。
その刹那、ジュリの頭上には、古代文字が浮かぶ魔法陣が浮かび上がる。
「ねじ曲がれ炎、【コークスクリュー・エボリューション】!!」
ボォォッ༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅
角から毛並みの良い尻尾まで、ボルトパイソンが炎に包まれた。
焦げた匂いとともに、ボルトパイソンが焼失していく。その瞬間、二本の角が大地に音を立てて転がった。
「ネー!ラッキーよ。この角は、かなり高く買い取ってもらえる!」
そう言ってジュリは、笑顔とともに乳白色で艶のあるニ本の角を拾い上げた。
彼女は爆裂系統の火属性魔法に特化し、A級指定の魔物を一撃で倒せるほどに成長していた。
けれどジュリの心境は複雑に揺れ動いていた。
それはジュリが唱える間、姉アカリが囮となり、ボルトパイソンを巧みに惹きつけていたからだ。
(ネー、驚いてる。でも、わたしをかばって、あんな怪我を……)
ジュリは息をつき、肩を落しながら胸を痛める。姉に負担をかけまいと、ジュリは必死に新たな魔法を覚えつつ、使いこなしていった。
数日経ったある日。ギルドから推薦され、姉妹は他の冒険者とパーティを組んだ。『A級』ランクに上がるため、彼女たちはダンジョンに挑む。
緊張した空気が流れる中、姉妹たちは魔物を次々と倒し、ダンジョンを進んでいった。しかし、その道のりは険しいものだった。
各階層ボスに手を焼くものの、結果――見事ダンジョンクリアに成功。
姉妹たちのパーティは、喜びあい抱き合った――。
ダンジョンクリアの報告のため――ギルド支部を訪れた彼女たち。
その凱旋に支部内はざわついていた。
それもそのはず。たった四人のパーティがダンジョンをクリアしたのである。
しかも女子四人で体格もさほど良くもなく、見かけはどう見ても華奢な方だ。
「マジかよ」
「信じられねぇ」
体躯の良い冒険者たちが口々に囁かれる中、姉妹たちパーティは気にも留めず、受付に向かう。彼女たちは討伐証明書を提示する。これは出口で控えるダンジョン職員から受け取ったものだ。
「このギルドの受付嬢、ぷりです。『A級』ランク、おめでとうございます。こちらをどうぞ」と、笑顔の受付嬢は、姉妹に新たな冒険者カードを差し出す。
「ジュリも私も……これで、もう大丈夫……」
金色のカードを見つめ、アカリが安堵の涙を零す。
ギルド入り口から柔らかな風に、はらりと靡くアカリの桃髪。
それはまるで、美しい桜の花びらが舞うようだった――。
姉の涙を見ながらジュリもまた、心に固めた決意を胸に秘めていた。
(ネー、辛かったね、ここまでの道のり。
でもね、ナガラ兄様は、きっとどこかで見てるよ……)
そう思う彼女にも涙が光っていた。
姉妹の表情は儚げだったがその目には、希望が満ちていた――。
アカリが涙を拭いながら桃髪を掻き上げ、振り向いた。
「ジュリ、この国を出るわよ……」
A級冒険者となった真の目的に彼女が微笑む。
それはまるで、彼女自身の内なる高揚感を表すようだった。
一方、姉の様子を見てジュリは思う。
「何か大切なことが待っている」と、姉から強く伝わってくる。それは強い絆で結ばれてる姉妹だからこそわかる。彼女たちの内に秘めた「古の血」に他ならなかった。
ジュリがギュッと杖を握り、小さく零す。
「……絶対見つけてやるんだから……覚悟してね、ナガラ兄様」
彼女は目を細め、頬を膨らませる。その表情には強い意志が感じられた。
アカリも軽く頷き、彼女たちは一歩前に踏み出した。
目的の兄ナガラを探す旅へ、『ファルダット自由国』を出て、他の国へ冒険に出る姉妹だった――。
姉妹は旅を続け、各地でレイドをこなしながら少しずつ北へと進む。
峡谷に跳ね返される眩しい黄金の光、冷たい風が吹き抜ける。
旅を続ける姉妹は亜人国家、『フィルテリア』に数日滞在した後、国境を越えていく――。
旅の途中のある晩。姉妹はウサギを数羽捕まえ、野営の準備を始めた。
チチチ
崖の巣の上では『B級指定魔物』――黒鍵鳥の雛の鳴き声がする。
パチッ
薄墨色の夕暮れ、冷たさを増す風が焚き火の炎を揺らし、二人の影を長く伸ばす。ジュリは焚き火をじっと見つめていた。
「……ネー、なかなか掴めないね……兄様の足跡」
ジュリが肩をすくめ、ため息をついた。
妹の表情にアカリが「不安よね」と答える。だが、ジュリの言葉を払拭するかのように唇を動かした。
「ジュリ、あなたはせっかちね。……心配いらないわ、必ずナガラ兄様の話はどこかで聞けるはずだから……」
微かに口角を上げる彼女がジュリに微笑む。
(ここまでは、なんとか来た。でも、獣人の長老……オブニビヤさんのあの言葉が気にかかる)
そう思いながらもその表情には、どこか不安が混じっていた。
胸の痛みとともに、刺すような風がアカリの頬を撫でた。
そして、夜は更けていった――。
お読みいただき、ありがとうございます。
このエピソードは仲良くしていただいております、
『黒鍵』様をモデルにしたーー『黒鍵鳥に、
特別友情出演していただきました。
Xアカウント @BlackkeyU
私が愛読する╰(*´︶`*)╯♡
『転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~』
作者:黒鍵様
https://ncode.syosetu.com/n6279jv/
【小説家になろうサイト】でしか読めません。
こちらも読んでいただけたら嬉しいです☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆




