20 更なる旅路へ
20 更なる旅路へ
ヴォルフを倒し、シアンを助け出した俺たちはなんとか闘技場を抜け出し、隠れ家まで戻ってきた。
「……はぁ、つかれた」
椅子に腰掛け、シアンに傷の手当をしてもらいながら俺はため息をつく。
これでマルクの仲間を一人倒したわけだが……あと六人と、その上にマルクがまだいる。
ったく、先が思いやられるぜ。
もっとも、ヴォルフはあの中でも強いほうだったから毎回ここまで体を張る羽目にはならないだろうが。
「信じ難いですね……こんな傷を負って戦い続けられる人間がいるなんて」
シアンは俺に回復魔法を掛けながら興味深そうに言う。
「昔から死なない事には自信があってな」
「それにこの私がまるで歯の立たなかったヴォルフを倒してしまうなんて……あっ、そうでした!」
思い出したかのように俺の手を強く握るシアン。
「すみません、その身を呈して助けて頂いたのにまだきちんとお礼も申し上げておらず――」
そしてシアンは頭を下げた。
「ありがとうございます。私を助けてくださって。そして、私が不在の時にアズール様をお護り頂き」
「気にすんなって。それに、まだまだ先はなげえしな」
「そうですね」
「まあでも、ちゃちゃっと片付けてやるよ」
俺は椅子の背もたれに背中を預けて両手を腕の後ろで組む。
が、同時にヴォルフに噛まれた傷に激痛が走った。
「……いてて」
カッコつけるもんじゃねえな。
「すいません、もうすぐで治療が終わるので」
「ああ、わりぃな」
シアンの治療を受け続けていると、アズールが部屋に入ってきた。
「傷の様子はどうだ、ウルム」
「まあ、ぼちぼち」
「なに、すぐに治るさ。私と違ってシアンは最上位の回復魔法が使えるからな」
そう言って噛まれていない方の肩に手を置くと、アズールは近くに置いてあるベッドに座る。
「で、これからの事なんだが……まずは君の傷が治り次第すぐにここを後にしようと思う」
そうだな。白昼堂々闘技場でヴォルフを倒しちまった以上、当然ながらこの街には長居できねえ。
「次のあてはあるのか?」
俺の問いに、アズールは頷いた。
「ああ。数日前よりカーカスが各地に散らばった同志との連絡を試みていたのだが、ついに手応えがあってな」
「と、言うと?」
「北方の山脈沿いにある鉱山都市ジルコット近辺に魔将軍のマベロがいるらしい。人類同盟に占拠されたジルコットを取り返すべく攻撃を仕掛けようとしているのだとか」
魔将軍か……
魔将軍とは魔王軍を指揮する十二の将軍。もっとも、そのうち八人はかの戦争で戦死してる。
……そのうち四人ぐらいは俺が殺った気がする。当然ながらマルクたちの手柄になったが。
とは言え、魔将軍はマルクとその仲間たちに引けを取らない実力を持ってる。仲間にできるならするに越したことはないな。
「合流できれば、我々の戦力は大幅に増えますね」
シアンの言葉に、アズールは頷く。
「そうだな。魔将軍が一人いてくれるだけでだいぶ頼もしい。それに戦術的価値の高いジルコットが奪還ができればなお良しだ」
「じゃあ、決まりだな」
するとアズールは俺を見つめ、僅かに心配そうな表情をする。
「この先も色々と君に無理を強いるかもしれない。本当に大丈夫か?」
アズールの問に、俺は苦笑する。
「当たり前だ。そもそも俺はアズールの家臣でも部下でもねえ。たまたまお互いマルクを殺したいから一緒に行動してる身だろ」
そしてアズールの頭に手を載せた。
「俺は好き勝手やってるだけだ。そんな命に責任感なんて感じなくていいぜ」
アズールはふっと笑う。
「……そうだったな」
そして俺の手を頭から下ろして握る。
「だから、仮に君の命に責任を感じずとも、私は君を失いたくない。だから……今日みたいな怖いことは……」
僅かに潤んだ目でそう言うアズール。
「約束はできねえけど、あんま心配させねえよう気をつけるよ」
「うん」
アズールは顎を小さく引き、俺に笑顔を見せた。
そしてアズールはシアンに言った。
「お前もだ、シアン。二度と私をあんなふうに心配させないでくれ」
「もちろん。これからはずっとアズール様の側にいますよ」
優しい声でそう言うシアン。
「あっ、アズール様! あたしも!」
どこからともなく現れたルージェがそう付け足す。
「うん……そうだな」
目が赤く腫れ始めたアズールは鼻を啜りながらそう言った。
「うっ……ううっ……」
大粒の涙目が一つ一つとアズールの頬をこぼれ落ちていく。
いくら王女とはいえ、アズールはまだ少女だ。
ずっと辛い思いをしながら泣くのを我慢してきたんだろうな。
治療の終わった俺は、泣き出すアズールとそれを慰めるシアンとルージェを後にして部屋を出ていった。
アズールをそっとしておこうと言う考えだったが、それ以外にも罪悪感に近いものを感じ始めていた。
なんにせよ、あいつの父親を殺したのは実質俺みたいなもんだしな。
今まで数えきれない程の人を殺してきたが、一度も悪いとは思ったことはなかった。
仕事だし当然だ。魔王アナザエルを殺したのだってそうだ。
しかし、アズールと一緒にいるにつれて、後悔に近いものを感じ始めるようになってしまった。
「甘くなったもんだな……」
俺は自分の些細な葛藤を笑い、マルクに斬られた胸の傷に触れる。
いつかはアズールに打ち明けよう。俺が誰で、何をしたのかは。
でなきゃ、俺もマルクのクソ野郎とかわんねえ。




