17 狼と踊る その3
物心がつく頃からヴォルフは気づいていた。自分は争いが大好きだという事に。
幼い頃から喧嘩ばかりしていた。しかし、少年になるにつれて拳での戦いに飽きを感じるようになった。
強くなりすぎたのだ。いつのまにか村でヴォルフに勝てるものものはいなくなっていた。
故にヴォルフは傭兵と言う道を選んだ。命を掛けた殺し合い。それなら自分を満たしてくれるだろうと信じて。
はじめのうちはそれで良かった。いままで体験したことのない殺し合い。本気で命を狙われると言う恐怖、そして手強い相手を切り倒した時の恍惚。
いままでになくヴォルフ実感していた。自分は生きているのだと。
しかし、そんな時代も終わりを告げた。
またもや強くなりすぎてしまったのだ。
もはやヴォルフの命を脅かせるものはいなかった。
が、その時あの男がヴォルフの前に現れた。
勇者マルク。魔族の弾圧より人類を開放するべく奮闘する英雄。
が、そんな大義名分には興味なかった。より強い相手とさえ戦えればいい。だから勇者マルクの仲間になった。
勇者マルクでは相手にならない。しかし、魔王なら自分の命を脅かせるのではないか。
そんな考えを胸に、ヴォルフは勇者マルクと旅を続けた。
しかしその結果は残念なものだった。
魔王とはまともに戦えず、人類と魔族の戦争は終わってしまった。
まるで生殺しだ。
命を脅かされることなく、戦いの興奮を感じることなく生きていくのは死よりも辛い。
だが、それも仕方ないのかもしれない。
もはや自分より強い者はいないのだから。
……それがたった数秒前までのヴォルフの思考だった。
か、今はそれが全て覆されている。
「ふっ……」
心臓の奥深くまで刺さった短刀の破片を見つめながらヴォルフは頬を引きつる。
いつぶりだろうか、ここまで追い詰められたのは。
いつぶりだろうか、この心の高鳴りは。
いつぶりだろうか、生きている事を思い出せたのは。
ようやく現れてくれた。自身を殺せる人間が。
だからこそ勝つ。そして生の喜びを噛みしめる。
これが、本当の戦いだ。
「ふっふっふっ……はっはっはっはっは!!」
笑いが止まらない。嬉しくてしょうがない。
ようやく、本気を出せるのだから。
*
ヴォルフの心臓をぶっ刺した後、距離を取った俺は狂ったように笑うヴォルフを見つめてた。
致命傷食らってあんなに嬉しそうなやつ初めて見たわ。
「いいぜ、いいぜ白髪野郎!」
血を吐き出しながら叫ぶヴォルフ。
「もう遠慮はしねえ、死ぬ気で戦おうじゃねえか!」
「死ぬ気って、お前もうそれ死ぬだろ」
「なにいってんだ、まだまだこれからだぜ!」
急にヴォルフの瞳が黄色く光り、彼の体に異変が起こった。
「なっ――」
ただでさえ山のようにある筋肉は更に盛り上がり、服が破れ始める。
同時に全身に毛が生え、手足から鋭い爪が伸びる。
次第に顔も変化していき、無数の牙が生えた細長い獣のようになる。
その姿は、まるで二足歩行の狼。
「――狼に呪われし者か」
驚きを隠しきれない表情で俺は言った。
「まあな、おもしれえだろ」
耳にしたことはあるが、まさかお目にかかれるとはな。
狼に呪われし者とはその名の通り、狼に呪われた血筋に産まれた子。大抵は化物のような姿で産まれて直後に死ぬか、歳を重ねるに連れて自我を失い獣の姿のまま暴れまわるかどっちかって聞いてたが、普通に自我を保ったまま変身できるやつもいるのか。
「しかしこの姿も久しぶりだな。マルクと一緒に旅してたころは結局一度も使う機会はなかったし……」
使ってたら俺も知ってたしな。ったく、予想外にも程がある。
俺は短刀の刺さったヴォルフの胸部を見つめながら脳内で悪態をつく。
短刀の破片は物凄い勢いで再生するヴォルフの肉体によって押し出され、地面に落ちた。
体中に刺さっていた暗器も次々と押し出され、ヴォルフは傷一つついていない体に戻る。
とんでもねえ回復力だな。これじゃ毒の効力にももう期待できねえか。
「さあ、もうちょっと遊ぼうぜ。白髪野郎」
余裕に満ちたヴォルフの唸り声。
「かかってき――」
言葉を終わらせられる前に、ヴォルフは俺の目の前にいた。
――早っ。
「うらぁ!」
辛うじてヴォルフの鋭い爪を回避するものの、今度は巨大な顎が俺を狙う。
「ちっ……」
噛み付いてくるヴォルフに回し蹴りを食らわせるものの、ヴォルフは殆ど動じなかった。
「おいおい、硬ってえな」
「あたりめえだろ」
ヴォルフはそのまま俺の脚を掴み、地面に叩きつける。
「っ……」
そして横たわる俺を爪で串刺しにしようとするものの、俺は転がって避けた。
俺はすぐさま起き上がり、距離を取る。
「おいおい、さっきまでの威勢はどこいっちまったんだ?」
「心配すんな。まだ十分残ってる」
さて、いよいよ面倒になってきたな。




