砂漠の封印の鍵争奪戦4
クラスメイトの奴らが騒ぎになってるのはここからでも解った。
問題は砂漠の鍵を持ってるかどうかだ。
もし持っていたらまずい事になる。
ここから持ち去られたら魔王城に辿り着けなくなり、その時点で俺の魔王討伐は終わりだ。
ここで奴らからなんとしても鍵を奪い取らないと!
俺は岩山の上に登り奴らを監視する。
まいったな。
洪水に飲み込まれてあれだけ騒いでいたはずなのに、まるで何事も無かったかのようにピンピンしてるじゃないか!
溺れた奴が口から水や魚を噴き上げてるマンガみたいな状況は全く無かった。
正直あいつ等にはあまり絡みたくない。
戦闘向きじゃない京子があれだけ強くなってたんだから、他の奴はどこまで強くなってるか想像もつかないわ。
京子は俺がクラスメイトに近づくと殺されると言っていたが、近づいてでも鍵を持っているか確かめないとダメだな。
俺に出来るんだろうか?
魔法に弱い俺が弱体魔法を掛けられたらそこで詰む。
弱体魔法の中でも一番危険な魔法と言えば即死魔法。
魔力の低い商人である俺が即死魔法を食らったら間違いなく即死魔法に抵抗出来ずに即死だ。
幸い俺の記憶の中では即死魔法を扱えるジョブの奴らは居なかった。
やるしかねーな!
何とかなるさ!
俺は震える足に気合を入れて、満面の笑みで奴らと接触してみる事にした。
*
俺が近づくと笑い声が上がる。
「あははは、棚岡生きてたのかよ!」「マジか?」「しかもアウ王女と一緒ってどういう事?」「棚岡は死んだって神官が言ってたのに」「アウ王女まで一緒ってどういう事よ?」「アウ王女は使えない男を旦那にしたのを責められて逃げたんだろ?」「いや、アウ王女は棚岡に殺されたと聞いたぞ」「アウ王女が生きてる事を耳にしたら、ジャンヌ王女が怒るだろうな」「キモいから棚岡は無視!」「きゃはは! 今まで通り無視がいいね」
うぜーよ、お前ら!
俺が奴らに近づくとそれを遮る様にクラスのリーダー格の照輝が前に出て俺に話しかけて来た。
「何の用だ? お前は大神殿から逃亡した分際なのによく俺達に会わせる顔が有るな。お前はもう俺達の仲間ではない。とは言っても喉が渇いて死にそうだと言うのならば昔のよしみで俺の小便ぐらいは飲ませてやるぞ! ブハハハ!」
すげームカつく奴だな。
でもまあいいや。
俺の方が絶対に強いし!
負け犬の遠吠えなんて、なに言われてもなんとも思わないわ。
鍵を持ってるだけ聞いて、とっとここの場から去ろう。
こいつは確か野球部か何かに入ってる運動だけが取り柄のバカだ。
下手に出てちょっと揺さぶればすぐに情報を漏らすだろう。
「せっかくの気遣いなんだけど、水は足りてるんだ。ところでここには何しに来たんだ? まさかここの魔王城の鍵でも取りに来たの? それなら昨日俺が取ったからもう無いよ」
「おい、嘘だろ? なんでお前が魔王城の鍵を持ってる?」
こいつ真顔をして焦っている。
こりゃ鍵は持ってないっぽいな。
よかった。
まだ間に合いそうだ。
「あははは、冗談だよ。冗談。そんな怖い顔するなよ。俺が鍵を取れるわけが無いだろ?」
そう冗談めかしておちゃらけて答えても、照輝の目はキツいま俺を睨んでいた。
何かを疑ってるみたいだ。
「なんでお前が砂漠の鍵の事を知ってるんだ?」
「さっき街で京子から聞いたんだ」
「京子と会ったのか?」
「おう、会ったよ。なんでも魔王軍が砂漠のアリの巣を水攻めするらしいから、俺に近づくなって言ってた。でもキミ等の姿が見えたから心配になってやって来たんだ」
「あいつが裏切ったのか! どおりで水攻めされた時に姿が見えないと思ったぜ!」
「じゃあ、みんな無事だったみたいだし、俺は砂漠の岩塩集めに戻るよ」
「全然無事じゃ無いけどな。十人位が水に流されて行方不明だ」
「十人も死んだんだ。大変だったな」
俺の水攻めで十人も死んだのか。
メシウマ過ぎるわ!
脆い奴らだ。
「ふざけるな! まだ死んだとは決まってない!」
俺が死んだと言ったら、何キレてるの?
なに余裕無いんだよ!
笑えるわ!
すると王女が俺のシャツをツンツン引っぱっている。
俺の耳に顔を寄せると俺にだけ聞こえる様に小声で話した。
「あんた、十人も殺しちゃったのよ? どうするの?」
「俺は既に盗賊を二百人位死刑台に送り込んでるんだ。今更十人や二十人増えてもなんとも思わないよ」
「二百人も? あんた思ってたのよりも酷い事してるのね」
「俺の敵や裏切った奴にはな」
だからアウ王女も裏切ったら大変な事になるぞと、遠回しで釘を刺しておく。
鍵がまだ巣の中に有るのを確認出来たし帰るか。
アリの巣は完全に水没しているら今日一日潜れないだろう。
ここにはもう用は無い。
「じゃあ、俺は岩塩集めに戻るよ。岩塩を集めないと今夜の宿代も払えないしね」
俺が帰ろうとすると、照輝に止められた。
「そこまで知ってる奴が無事に帰れると思うか?」
「思えないな」
やはりこう来たか。
俺狩られるのね。
俺は奴らの攻撃を警戒して身構える。
目の前の照輝はもちろんの事、さっきまで俺をバカにして笑ってた奴まで遠巻きで杖や弓を構えて臨戦態勢になっていた。
「こんな岩塩どころか石さえ落ちていない砂だけの砂漠のど真ん中にやって来るのは明らかにおかしい。お前は魔王軍の手先で俺達の様子を探りに来たんだろう?」
「魔王軍の手先か。考えが突飛過ぎて笑えるな」
「どうでもいい。とりあえず死ねや!」
照輝が俺に向かって巨大な両手剣を振り下ろした。
奴は俺を真っ二つにする気だ。
相手が俺を殺す気なら俺も遠慮はしない!
俺は照輝の振り下ろす剣を取り込んだ。
全体重を掛けて振り下ろしていた剣が無くなった照輝はバランスを崩し顔面から転倒!
俺は照輝の顔を思いっきり蹴り上げてやった。
俺を殺しに来た奴に容赦はしない。
「うぎゃーーーー!!!」
顔を真っ赤に染めた照輝は顔面を押さえてのた打ち回った。
あはは!
こいつは芋虫かよ!
すげーかっこ悪い。
すげーいい気味!
「なにしやがるんだ!」
照輝の叫び声を機に、遠巻きにしていた奴らが一気に襲って来た。
剣と魔法と矢だ!
「すまん、危ないから入っていてくれ」
俺は王女をアイテムボックスに取り込む。
そして俺を攻撃してきた武器も取り込む。
空気を切り裂き飛んで来る矢!
矢を放った後の弓!
唸りをあげて飛んでくる火球!
地響きを上げながら落下してくる雷!
凄まじい重量を誇る氷塊!
切り掛かってくる剣!
その全てを取り込んだ!
「な、何が起こった?」
「何をした?」
俺は答える!
「完全防御だ!」
もちろん嘘だ!
嘘に決まってる!
俺は嘘をさらに続けた。
「他人との接触を嫌う孤独を愛する元ボッチだけが使える完全防御陣形の『完全防御』だ!」
「なんだか、全く凄そうに聞こえない説明だが、物凄いスキルって事だけは伝わって来るな!」
仕方ねーだろ!
いまテキトーに作った設定だ!
パッと考え付いた割にはいい出来だと思うぞ!
俺は常日頃から厨二病に患って暗黒奥義を研究してる様な黒歴史病患者では無いからな!
「だが、俺の技はこれだけではない! 俺の究極奥義『ザ・テリトリー』だ! 俺の半径五百メートル内で俺に敵意を向けた奴は死ぬ! 死神のスキルだ!」
「なんだと?」
大半のクラスメイトが怯えて後ずさりする中一人だけ俺に向かってくる奴がいた。
照輝だ!
照輝は真っ赤に染まった顔を手の平で拭いながら立ち上がる!
そして腰に差した短剣を構えると、俺に襲って来た!
「どうせ出まかせだ!」
はい。
出まかせです。
でもな。
残念だったな!
俺には切り札のアイテムボックスが有る!
アイテムボックスから小石を取り出し、腕と太ももを物凄い勢いで打ち抜いてやった!
腕と太ももはウサギの頭の様に弾け飛んだ!
当然石は目で追える速度では無く、周りで見ていた奴には腕と太ももが突然弾けたようにしか見えて無いはずだ。
「うぐおおおお!」
砂の上を再び転げまわる照輝。
「良かったな、腕と足だけで済んで。本気の殺意を放っていたら今頃お前はここには存在していなかったはずだ」
それを聞いたクラスメイト達は顔面蒼白。
蜘蛛の子を散らすように俺から走り逃げた。
照輝は歯を食いしばりながら俺を睨みつけながら聞く。
「ど、何処でこんな技を覚えた? さっき死神と言っていたが魔王軍か?」
やべー!
そこまで考えてなかったぜ!
格好付けて死神と言ったのはマズかった。
どうする?
どうしよ?
もうこうなったらテキトーに誤魔化すしかない!
テキトーに言うしかねぇ!
俺は即席の設定を言い放つ!
「師匠だ。俺が王城から追放された時、魔獣に襲わとある武道の達人に拾われた。死神と呼ばれた一撃必殺の武道の達人にだ。その達人に弟子入りして覚えたんだ」
「達人に弟子入りしただと? どうりで強過ぎる筈だ!」
「その達人がここの魔王城の鍵を取って来いと言っている。修行の一環でな」
「すまんがここの鍵だけは譲れない! アウ王女の王妃就任を阻止するにはどうしても俺達が魔王を討伐するしか無いんだ。だからここの鍵は譲れない」
アウ王女の王妃就任を阻止する為にお前ら戦ってるのか。
大変だなー。
鍵は譲ってやってもいいんだが、ここの鍵はダメだ!
俺が苦労して水攻めにしたアリの巣のお宝だからな!
俺の物は俺の物!
譲る訳にはいかぬ!
「俺の邪魔をすると言うのならばお前達は敵だ。お前ら全員を根絶やしにしてやる。ヘッポコだった商人の頃の俺と、今の俺は全く違う。よく考えるんだな!」
結局逃げた奴らは俺に恐れ誰一人戻って来なかった。
力でねじ伏せるのって楽しいな!
最高だぜ!
暴力最高!
俺クラスメイト全員より強いんだぜ!
俺は綻ぶ顔を必死に真顔へ抑え込んだ。
読んでくださいましてありがとうございます。




