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元勇者の嫁6

 またまた戻って来ました灼熱の大地、砂漠。

 アリさんの巣の前だ。

 今度は岩山の上からではなく、大穴のすぐ近くからの放水だ。

 

「放水する量が多いから、そんな遠くからじゃ狙うのが大変でしょ? だから近くから放水しなさい!」と王女に押し切られたからだ。

 確かに今回の放水量は前回とは比べ物にならない位多そうだがそれが理由ではない。

 多分王女は岩山に登るのが面倒だったのが理由だと思う。

 そりゃね。

 妊娠してるのに山登りとか辛いよね。

 

 俺はアリの巣の大穴に向けて手を掲げる。

 

「どりゃー!」


 俺の掛け声と共に凄まじい勢いで放水が始まった。

 今回の放水は前回とは明らかに違った。

 以前の放水がジョウロからの水やりとしたら、今回のはダムの放水だ!

 勢いが全く違った!

 放水量が全く違った!

 この放水量の増加は多分丸一日海水を取り込んだせいだ。

 そのお陰で【アイテムボックス】スキルのスキルレベルが上がったのが原因だと思う。

 俺は放水を続ける。

 

 ちなみにアウ王女はと言うとビーチパラソルの下、ビーチチェアに横になってお昼寝中だ。

 うるさいお小言を聞かされなくて済むので本当に助かる。

 こいつの寝顔を見てると可愛いいんだけどな。

 なんで喋るとあんなウザいんだろ?

 でもまあ、文句言いつつ俺の事を好いてくれてるみたいだし、尽くせる事は尽くしたい。

 魔王を討伐して王妃になれたら少しは大人しくなるかもしれないしな。

 頑張るしか無いわ。

 

 巣穴から大量に流れ込んでくる水。

 その異常事態に気が付いた兵隊アリが何匹も巣穴から出てこようとする。

 だが無駄だ!

 全て俺の放水に押し戻された。

 ざまあ!

 

 放水は四時間程続いて終わった。

 大穴の中に水が入りきらず、辺りを水溜りにしたからだ。

 これだけ放水したら十分だと思う。

 おまけに砂漠の所々から水柱が上がってる。

 他にも入り口が有ったんだな。

 きっと行き場を失った水が別の出入り口から噴き出してるんだろう。

 

「さ、今日は帰りますよ、これだけ水を流し込んだんです。きっと巣穴の中のアリは全部溺れ死んでますわ。明日水が干上がったら中の探索をしましょう」


 俺達は宿に戻る。

 アウ王女はご機嫌だった。

 

「タナオカ様の底力を見せて貰えましたわ! あんな放水を見た事有りません! 並の勇者には出来ない事です! やはりタナオカ様だけが真の勇者ですわ!」

 

 真の勇者か。

 懐かしいな。

 俺もそう呼ばれてた時が有ったんだよな。

 今じゃ完全にはぐれ勇者だ。

 俺は王女と二人で魔王の幹部討伐を始めたんだけど、あいつらはどうしてるんだろ?

 

「クラスメイトの奴らは元気にやってるのかな?」

「ええ。既に彼らはかなりの実力を付けて強くなっています。負けてはダメですよ」

「おう、もちろん負ける気は無いさ」


 勝てる気もしないけどな。

 あいつら俺よりずっと強いし数も多いし。

 いくら規格外の【アイテムボックス】を持ってるとは言え、襲われたら絶対に勝てないわ。

 王女はあいつらと一緒に居た筈だけど、俺につきっきりで大丈夫なんだろうか?

 

「アウ王女はあいつらに付いていなくていいのか? 俺みたいなのと一緒だとあいつらの世話をする奴がいないんじゃないのか?」

「私は召喚勇者育成の任から解かれましたので、もう彼らとは関係有りません」

「クラスメイト達と関係ない? 何が有ったんだよ、一体?」

「私の召喚計画を知って、第一王女のジャンヌ王女が乗り込んできて召喚計画を乗っ取られたのです! たぶん、私に付いていた神官や騎士が裏切って手引きしたのが原因だと思います」

 

 いやいやいや。

 あいつ等はアウ王女を裏切る事なんて事をし無いだろ?

 俺を抹殺して、王女に新しい男をくっ付けて何事もなく召喚計画を進めようとしてた奴らだぞ!

 この召喚計画が失敗したら、出世の道が無くなるとも聞いた。

 それがなんで裏切ったんだろう?

 よく解らん。

 

 でも一つだけ解った事が有るな。

 王女は居場所がなくなって俺の元に来た。

 別に俺の事を好いてる訳では無かったのか。

 はあ……。

 知りたくなかった事実を知ってしまった。

 自分の血を引いた息子だと思って育ててたら、全然知らん浮気相手の男の血を引いていたのを知らされた父親。

 たぶん、俺の今の気分はそんな感じだ。

 

「それで王女としての居場所を無くして、王妃に返り咲ける唯一の希望の元勇者の俺のとこに来たのか」

「違います! 勇者育成の任を解かれ自由の身になったので、愛するタナオカ様の元にやって来たのです! 信じて下さい! お願いです!」

「なるほどね」

 

 王女の言ってる事は辻褄は合っている。

 でも、多分嘘だよな。

 信じられるか、今更!

 他の勇者と結婚して魔王を倒し王妃に成りあがる!

 その計画が第一王女の乱入で破綻したので僅かな可能性の有る俺の元にやって来た。

 そう言う事だ。

 そう言う事だったんだ。

 俺はアウ王女の本性を垣間見て心底失望した。

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