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杭と空気の新兵器

 時は平安。

 検非違使庁(けびいしちょう)(現代の警察署と裁判所を併せたようなモノ)の小広間では、空から飛来した異形・詠裏庵(えいりあん)の討伐のため、見習い達数人に対しての講義が早朝より行われていた。

 都の現状、被害状況、詠裏庵の特性など基本的な説明から、検非違使としての心得なども語られる。


 陽は中天を差し、皆の腹が鳴り始めてもまだ会議は続いていた。

 円匙(えんし)(シャベルのこと)による敵への対処法を語り終えると、三善(みよし)公守(きみもり)は大きく息を吐いた。まだ、説明は残っているのだ。


 彼は、傍らに置いた奇妙な道具類に手を持った。

 右手に杭。

 左手には、管の繋がった背負い袋。袋の上部にT字型の握りがあり、管の先端は尖った銛となっている。

 公守は見習いの検非違使を見渡し、口を開いた。


「――さて見習い達、都の警備は新たな局面を迎えた。詠裏庵が潜んでいるのは北の山と判明し、俺達はそこに乗り込む。


 だが、徒手空拳というわけには行かん。

 かといって刀や槍が通じる相手ではない。


 そこで、陰陽寮が用意した杭と気体圧縮機について説明をしよう。

 一定の間隔で埋め込まれている杭は槌で打つ事で大地に亀裂を走らせる。

 亀裂で土地二つに分断すると面積の小さい方が崩落する。


 詠裏庵えいりあんは土の属性に弱いため、この術を持って敵を巻き込む。

 ただし、気をつけなければならないのは、小さい方の土地に我々がいた場合、自身も巻き込まれる危険に充分留意しなければならない。

 そしてこちらの気体圧縮機。これは、先端の銛を相手に突き刺し――」


 そこまで言った所で、勢いよく扉が開いた。


「もう昼だぞ、公守」


 狩衣(かりぎぬ)(現代で言う野外狩猟用の運動着)を着込んだ、十代半ばほどの見目麗しい少女だ。長い黒髪は、後ろで一本に束ねている。

 ざわ……と、突如会議に乱入した少女に検非違使見習い達がざわめく。

 まっすぐにこちらを見つめる女の子に、公守は重い溜息を漏らした。


「……だから女が(みだ)りに顔を晒して出歩くなと言っているだろうが、楓子(かえでこ)。その格好は一体何だ。更に言えば講義中だ」


 一呼吸に三つほどケチを付ける公守の言葉も、少女・藤原(ふじわら)楓子(かえで)には通じない。

 楓子は、座る見習い達を手で指し示した。


「そうは言うが、皆の顔を見ろ。すっかり腹を減らせている。この時間の長話は敵を増やすばかりだぞ。集中力も散漫になる」


 それももっともな意見ではある。

 いくら仕事とはいえ、飯を食う時間は必要だ。



「……一旦中断。みんな、適当に飯食って戻ってこい」


 見習い達がホッとした表情で立ち上がり、部屋を出て行く。

 楓子はと言えば、彼らとは逆に公守に駆け寄ってきた。手には、何やら大きな包みを持っている。


「なかなか様になってたぞ、公守。惚れ直した」


「これが仕事だ」


「まあ、見損なった事などないから、惚れ直すも何もないがな。あと妄りに顔は晒してないぞ。ここまではちゃんと牛車を使ってきた。あれはあまり早くないから好きじゃないんだがな」


「よし。徒歩で来なかったのは褒めてやる」


 藤原楓子。藤原家に連なる貴族の娘であるにも関わらず、ウッカリすると本当に平然と屋敷を抜け出してしまう、お転婆娘であった。

 褒められた楓子が、公守を見上げてきた。


「褒美をくれ。接吻でよい」


「……断る」


「なら、頭を撫でよ」


「……まあ、それぐらいならいいか」


 公守は無骨な手で、楓子の黒い髪を撫でた。


「えへへ。もっと撫でるがよい」


 嬉しそうな表情をしながら、楓子が公守の腰に抱きつく。


「し、しがみつくな、はしたない」


 まさか強引に引きはがす訳にもいかず、公守は慌てる。


「心配いらぬ。人目はない」


「そう言う問題じゃない!」


「妾としては、抱きつくのもよいが抱きつかれもしたいのだが。あ、お昼作ってきた」


 思い出したように楓子が離れ、手に持っていた包みを差し出してきた。


「一応、自前のがあるんだが……」


 後ろにある小さい弁当を、公守は指さした。


「干し飯二つではロクに力も出ないだろ。死なれては困る。ちゃんと食え」


 中身まで見抜かれていた。

 包みを受け取り、公守は頭を下げる。


「……ありがとう、楓子」


「…………」


 反応のなさに公守が顔を上げると、楓子は赤い顔で硬直していた。


「何だ、礼を言ったのに何故固まる」


「い、いや、てっきり『一応礼は言っておく』とか、そんな言葉が返ってくるかと思ったので、驚いた」


 公守はその場に胡座をかき、包みを解いた。木の箱の中には大小いくつもの椀がいくつも入っており、その一つの蓋を開くと、あわびと大根の酒蒸しが入っていた。


「礼ぐらいはちゃんと言う。俺をなんだと思っているんだ」


 公守の隣に、楓子がちょこんと座る。


「妾の良人」


「いつなった」


「いずれなる。あ、ちなみにお勧めは雉の焼き鳥だ。妾が直々に狩って焼いた」


「……お前、本当に貴族か? どこの世界に、野山を駆け回って雉を狩る女貴族がいる。しかも自ら飯を作るとは」


「妾は和琴の稽古より、弓の方がよほど好きだな。何より飯は自分で作らねば愛がない。時に公守……」


 楓子の視線が後ろに向けられる。

 見ないでも分かる。そこにあるのは杭と気体圧縮機だ。


「駄目」


「まだ何も言ってないだろ」


「とにかく駄目」


「使い方を教えろ!」


「遊びじゃないんだ。さすがにそこは譲れん」


「そうか。そうだったな。公守は妾を守るために、その職にあるのだったな」


「正確には、この平安京の民を守るためな」


「妾を守るためならば仕方がない。我慢しよう」


「……人の話を聞けよ、おい」


 さて飯だ、と公守は椀の一つを手に取った。相手をしたままだと「食べさせてやる」とか言い出しかねないのが、楓子という少女なのだ。

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