第三章 転 節一 固有領域 項三 逸れエルフ
「いたたたっ‥かなり落ちたなぁーー何でこんな所にこんなデッカい穴があるわけ」
見上げた侑芽の目には、地上へ繋がる穴から木洩れ陽が見えていた。
参ったな‥これ登れるのかな‥。
侑芽が穴を見上げていると、隣に居た魔犬がスッと立ち上がり歩き出す。
!?‥通路?。
魔犬の進む方には横穴が続いていて、遠く先の方が薄っすら明るくも見える。
どんどん奥へ進んでいく魔犬の後を、侑芽も四つん這いになって追って行く。
横穴の先が曲がっているようで、魔犬の姿が消えて間も無くだった。
「サト!良かった!生きていたんだね」
男の子のような声が横穴の中で響く。
誰かいるわ‥えっ、どうしよう‥。
恐る恐る進み、曲がり角からそっと顔を出すと、そこは四畳半くらいの広間で、魔犬を抱く耳の長い男の子が居た。
見た目なら小学校高学年くらい。
侑芽に気づいた魔犬が近づいてくる。
ばか!こっち来たらバレちゃうじゃない‥。
侑芽が後ろに下がって隠れようとした時だった。
「あれ?お姉さんは誰?」
侑芽に気づいた男の子が声をかけてきた。
げっ‥気づかれた‥。
「ああ、その‥ごめんなさいね。穴に落っこちちゃったみたいで‥あはは」
「サトがお姉さんに懐いているなら、悪い人じゃないねーー大丈夫?怪我してない」
男の子の心配するような声が聞こえる。
「う、うん‥大丈夫みたいよーー私は侑芽。キミは誰なの?ここで何をしているの?」
居直った侑芽が聞く。
「僕はアルマ。魔物から逃げてここに隠れているんだよ。ここは僕の秘密基地なんだ」
「魔物?それじゃ、あの集落の子なの?」
「えっ、お姉さんは村を見てきたの?魔物はどう?まだいた?」
「う、うん。見てはいないけど、それらしい音が聞こえて、みんなして逃げる途中で私だけここに落っこちたの」
「魔物、まだ居るんだ‥僕が村に帰った時は魔物が暴れていて、サトも大怪我していた」
アルマが項垂れながら呟いた。
「サトって、このワンちゃんの名前?」
「そうだよ。村長さんが飼っていた魔犬なんだーーサトの傷、お姉さんが治してくれたの?」
「治した‥まぁ、そう言う事になるのかなーーところでアルマ君って、もしかしてエルフの子なの」
少年が頷く。
「村ってエルフの村って事」
「そうだよーーねえ、お姉さんは村を見てきたんでしょ、誰か村に居た?」
侑芽は静かに首を振ってみせた。
「そうか‥やっぱり北の村に行くしかないか」
意を決したような口調でアルマが言う。
「北にもエルフの村があるの?」
「あるよ。おっきい村がーーみんなそっちへ逃げていればいいなぁ」
その頃、剛とクロは逃げてきた道を戻りながら侑芽を探していた。
「まさか魔物に捕まったとかしてないよな」
「それはないだろう。声を聞いてすぐ逃げたんだ。魔物はこっちに気づいてもいないだろう」
「魔犬もいないしな‥」
「魔犬が侑芽を追っかけたのか、侑芽が魔犬を追っかけたのか、どっちかだな」
変わらず森に人影は無かった。
「ーー!?ーークロ!これ見てくれ」
道の少し外れたところに直径なら一メートルほどの穴を見つけ、剛が声を上げた。
「深そうだな、先が全く見えない‥まさかここに落ちたんじゃ」
穴を覗き込みながら剛が呟く。
「俺が見てこよう。剛は待っていてくれ」
クロは言うと蝙蝠に姿を変え、穴の中へ入っていった。
「探したぞ、ここにいたのか侑芽ーーん?そのエルフの少年は?」
蝙蝠から黒猫に戻ったクロが侑芽に声をかけた。
「クロさん!良かったぁーーこっちの子はアルマ君。あの集落の子だよ」
「生き残りってことか」
侑芽と黒猫の会話をアルマはポカンと見つめていた。
侑芽、クロ、魔犬はアルマの案内で秘密基地の別出口から地上へ出て、剛と合流した。
「はははっーーまさに侑芽の瓢箪から駒ってやつか」
「笑い過ぎよ、剛」
魔犬が剛に向かって唸り声を上げている。
「分かった分かった、悪かったよ。侑芽、こいつを宥めてくれよ」
「どうしよっかなぁ」
侑芽がニヤリ顔で剛を見ながら魔犬を宥めていく。
「ーーあっそうだ、この子の名前はサトって言うそうよ。ねっアルマ君」
「うんーーでもサト、お姉さんに随分と懐いてるみたい。サトはすごい人見知りだから村長と僕くらいにしか懐かなかったのにーーやっぱり命の恩人だからかな」
「そんな事ないと思うわ、きっとアルマ君のこともサトは好きよ」
「それでアルマ君、その北の村っていうのは、ここから近いのかい?」
剛がアルマの前にしゃがみ込む。
「近くはないよ。父さん母さんと行く時はいつも朝出て、夕方着くくらいかな」
「いつもって、アルマ君はよく北の村に行くの?」
「うん。北の村のカイ爺が僕ら子供にいろんな事を教えてくれるんだ」
「へぇ、するとそのカイ爺っていうのは先生だね」
「先生って何?カイ爺は北の村の長老様だよ」
「ああ、ごめんよ。先生っていうのはその‥長老と同じ事だよーーよし、そろそろ行こうかーーアルマ君の両親も元気で居るといいね」
「うん!」
クロが剛に近づく。
「これで次に行く集落も決まったし、そこに長老も居るというなら期待できそうだな」
「そうだな。今から行くとなると着くのは早くて明日の朝か」
二人と二匹はアルマの道案内で北の村を目指して出発した。




