第一章 起 節三 見知らぬ人
八月三日。
「朝?‥寝てしまっていたのか」
窓から差し込む光で、剛はリビングのソファーの上で目を覚ました。
侑芽!‥。
起き上がり部屋を見て回るが、侑芽の姿は無く、剛の口からため息が漏れる。
侑芽からの着信は無く、電話をかけてもやはり繋がらず、ラインも既読になっていない。
グゥ〜。
突然、腹の虫が鳴り出す。
そういえば、昨夜から何も食ってないかーーとりあえず何か食おう‥。
剛は歩いて行ける近所のハンバーガーショップ『MDナルド』へ行き、モーニングセットを注文した。
これ、警察へ捜索願い出した方がいいのか‥。
食べながらでも頭の中を不安が何度も駆け抜けていく。
結局、食べ物の味も感じないまま、空腹だけを解消した剛はマンションへと帰って行った。
玄関の鍵を開ける。
ドアを開くと玄関に侑芽の靴があった。
侑芽‥よかった‥。
安堵の表情を浮かべた剛が玄関からリビングに向かうと、キッチンの方からは料理をするいつもの音が聞こえ始める。
「侑芽、心配したぞ。どこ‥に‥」
キッチンで料理をしている女の後ろ姿は、ショートヘアの侑芽とはまるで違う、腰近くまであるロングヘアーで、剛の言いかけた言葉が詰まる。
「お帰りなさい、剛」
剛の声に女が振り向く。
振り向いたその顔は侑芽とは似ても似つかない別人の顔だった。
「キミは誰?」
呆然となった剛が女に聞く。
「えっ?何?急に‥私だよ‥えっ?」
「お前、誰だ?侑芽と同じ服を着ているけど、顔も髪の長さも違う。侑芽じゃない」
「剛、何を言ってるの?私は何も変わってない、侑芽だよ」
「ーーそこまで言うなら、ちょっと待て」
剛がリビングから鏡を持ってきて、侑芽を名乗る女に渡す。
「鏡を見てみろ。どこが侑芽なんだ」
怪訝そうな表情で侑芽を名乗る女は鏡を受け取り、顔を見ている。
「本当にどうしちゃったの?いつもの私の顔じゃない、何も変わってないわ」
侑芽を名乗る女はダイニングに置いたバッグを手に取り、中からパスケースや家の鍵を取り出し、それをダイニングテーブルの上に置く。
「学生証に家の鍵よ。そんなに言うなら確認してみたら」
確認するとダイニングテーブルの上に置かれたものは、間違いなく侑芽の学生証であり、この家の鍵だった。
「これは確かに侑芽の物だ。どうしてお前が持っている?侑芽はどこに居るんだ」
「ひどい‥剛。一昨日だって二人で誕生日祝いしたじゃない。眼鏡とお守りと破魔矢をあげたじゃない。私の作ったパエリアもケーキも美味しいって言ってくれたじゃないーーなんで?どうして?」
剛の目が見開く。
どうしてコイツがそんな事まで知っているんだ‥それに仕草も‥侑芽と似ている‥。
頭の中が混乱してきた。
「剛‥後ろを見て‥」
侑芽を名乗る女がリビングの方を指差している。
振り返るとリビングのソファの上に一匹の黒猫が座り、剛達を見ていた。
どうして黒猫なんかがここに?どこかの飼い猫が迷い込んだのか?‥。
「お前の猫か?」
侑芽を名乗る女に向き直り聞く。
「知らないわよ。ウチ猫なんて飼ってないじゃない」
ますます頭が混乱していく剛が黒猫を見直した時だった。
「侑芽を探しているのか」
その黒猫は言葉を喋った。




