表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無邪気な天使と呼ばれる私ですが、王子様との出会いはお断りです  作者: あめとおと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/10

第3話 天使は社交界デビューを回避したい




 エミリアが前世の記憶を取り戻してから、半年が過ぎた。


 六歳になった彼女は、ある意味で順調に成長していた。


 勉強もする。


 礼儀作法も学ぶ。


 歴史や地理も覚える。


 剣術は嫌なので断固拒否した。


「お嬢様、少しくらいは運動も必要ですよ?」


「いやですわ」


「なぜです?」


「つかれますもの」


「それはそうですが」


「つかれますもの」


 大事なことなので二回言った。


 マリアは苦笑する。


 最近のお嬢様は賢くなった。


 だが時々、妙なところで子供らしい。


 そのギャップが可愛かった。


 もっとも――


 エミリア本人はそんなことを考えている余裕はなかった。


 なぜなら。


(あと一年ありませんわ……)


 王宮お茶会まで、残りわずかだったからである。


◇◇◇


 原作の記憶によれば。


 七歳の春。


 王宮で開かれる子供向けのお茶会。


 そこでヒロインのエミリアは王太子レオナルドと出会う。


 迷子になった王太子。


 偶然出会うヒロイン。


 優しく声をかける。


 王太子が一目惚れ。


 完璧だった。


 実にラノベらしい。


(現実なら護衛は何をしているのですの)


 エミリアは何度考えても納得できなかった。


 王太子である。


 次期国王である。


 そんな子供が迷子になるな。


 護衛は仕事しろ。


 しかし原作はそうなっていた。


 だからこそ危険なのだ。


(迷子の王太子を見つけても近づいてはいけませんわ)


 鉄則である。


(わたくしは見なかったことにします)


 薄情?


 違う。


 平穏のためだ。


 未来の自分を守るためだ。


◇◇◇


 そんなある日のことだった。


「エミリア」


「はい、おかあさま」


 母が珍しく浮き立った様子で声をかけてきた。


「来月、伯爵家の茶会に招待されたの」


 エミリアの笑顔が固まった。


「……ちゃかい」


「ええ」


 嫌な予感。


 ものすごく嫌な予感。


「同年代のお子様もたくさんいらっしゃるそうよ」


「そうですの」


「楽しみね」


 全然楽しくない。


 むしろ危険だ。


 原作を思い返す。


 攻略対象は王太子だけではない。


 公爵令息。


 侯爵令息。


 騎士団長の息子。


 天才魔導師。


 将来有望な人材が山ほどいる。


 そして貴族の茶会とは。


 そういう未来の有力者たちが集まる場所だ。


(罠ですわ)


 間違いない。


(これは罠ですわ!)


 社交界そのものが罠だった。


◇◇◇


 当日。


 エミリアは馬車の中で死んだ目をしていた。


「楽しみねぇ」


 母はご機嫌である。


「……そうですわね」


「お友達ができるかもしれないわ」


「そうですわね」


 魂が入っていない。


 母は少し不思議そうにした。


 昔は外出を楽しみにしていた娘が、最近は妙に慎重だ。


 だが理由は分からない。


 エミリアは窓の外を眺めながら考えていた。


(まず落ち着きましょう)


 攻略対象が必ずいるとは限らない。


 ただの茶会かもしれない。


 そう。


 考えすぎだ。


 きっとそうだ。


 そんな風に自分を安心させていた。


 数十分後。


 伯爵家の屋敷に到着する。


 豪華な庭園。


 立派な噴水。


 大勢の貴族たち。


 そして。


「まあ、あの方がヴァレンティア公爵家のご嫡男ですのね」


 どこかの令嬢の声が聞こえた。


 エミリアの表情が消えた。


(いましたわ)


 攻略対象その一。


 セドリック・ヴァレンティア。


 原作では冷徹な天才。


 後に公爵となる人物。


 そしてヒロインに惹かれる男の一人。


 現在八歳。


 銀髪。


 紫の瞳。


 既に美少年だった。


(帰りたいですわ)


 心からそう思った。


◇◇◇


 幸い。


 セドリックはエミリアに興味を示していなかった。


 少なくとも今は。


 だからエミリアは壁際で気配を消す。


 お菓子を食べる。


 ジュースを飲む。


 気配を消す。


 完璧だった。


(これですわ)


 理想の立ち回り。


 目立たない。


 関わらない。


 平和。


 素晴らしい。


 そう思った時だった。


「痛っ」


 小さな声が聞こえた。


 振り向く。


 庭の隅。


 子供たちから少し離れた場所。


 ひとりの少年が倒れていた。


 見覚えがあった。


 銀髪。


 紫の瞳。


 公爵令息。


(セドリックですわ!?)


 なぜこんなところに。


 見ると足元に石がある。


 転んだらしい。


 少年は立ち上がろうとしていた。


 だが周囲の子供たちは気づいていない。


 気づいていても近寄らない。


 近寄り難い雰囲気があるからだ。


(関わらない方がいいですわよね?)


 心の声。


 そう。


 関わればフラグになる。


 危険だ。


 未来が変わる。


 だから。


 だから――


「……」


 エミリアはため息をついた。


「しょうがありませんわね」


 小さな足で歩き出す。


 そしてセドリックの前でしゃがみ込んだ。


「だいじょうぶですの?」


 少年が顔を上げる。


 驚いたような紫の瞳。


「……平気だ」


「ひざ、すりむいておりますわ」


「この程度」


「いたいものはいたいですわ」


 エミリアはハンカチを差し出した。


「どうぞ」


 セドリックは固まった。


 なぜなら。


 誰も近寄ってこなかったから。


 幼い頃から優秀だった。


 優秀すぎた。


 周囲は遠慮する。


 距離を置く。


 敬う。


 だが目の前の少女は違った。


 普通に話しかけてきた。


 普通に心配している。


 それだけだった。


「……ありがとう」


「どういたしまして」


 エミリアはにっこり笑った。


 それは周囲から天使と呼ばれる笑顔だった。


 そして。


(これでおしまいですわ)


 くるりと踵を返した。


 去る。


 即座に去る。


 長居は危険。


 フラグになる。


 だから撤退だ。


「まって」


 後ろから声がした。


 エミリアの背中が硬直する。


(きましたわ)


 フラグの気配。


 非常に嫌な予感。


 振り向くと。


 セドリックがじっとこちらを見ていた。


「名前を聞いてもいいか」


 終わった。


 エミリアは確信した。


 何かが始まった気がする。


 全然嬉しくない。


 だが無視もできない。


「エミリアですわ」


「エミリア……」


 セドリックはその名前を繰り返した。


 まるで覚えるように。


 しっかりと。


 丁寧に。


 そして。


「僕はセドリックだ」


「しっておりますわ」


「……そうか」


 少しだけ。


 本当に少しだけ。


 彼は笑った。


 原作では滅多に笑わない少年が。


 初めて。


 穏やかな笑みを浮かべた。


 その頃。


 エミリアは心の中で泣いていた。


(平穏が逃げていきますわーーー!)


 努力している。


 本当に努力している。


 だが。


 どうやら運命というものは。


 彼女が思っている以上にしつこいらしかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ