八尾
「で?聞かせてもらおうか?何故、我が妖魔で、【負ノ遺産】に汚染された紅剡を時代錯誤も甚だしい贄になどして我の前に差し出すという愚行をしでかした理由を?」
「ヒィィィ...!」
今、我等は【負ノ遺産】の瘴気浄化専用の部屋、浄化作用の強い菊の花が直接畳に咲いている【菊の間】にいた。
紅剡は今我が膝枕をして寝かしている。
ついでに尾をもう一尾出して下は敷き布団、上は掛け布団みたいにしている。
我の尾は浄化の作用もあるからな!
一応、紅剡の体内に内包されていた【負ノ遺産】の邪気はあの時消し飛ばしたが、念には念をということで部屋を含め、この処置をしているのだ。
ついでに捕まえた窮鼠達も【負ノ遺産】の邪気に当てられてたから、簀巻きにしてその辺に転がしながら史上聴取をしておる。
「お、お許しを、お許しをぉぉ.....!」
「「ヒィ」とか「お許しを」以外に話せんのかお前は?あと、我は狐の妖だが、鼠なんぞ喰わんからさっさと話せ」
本当にいい加減、窮鼠のジジィの「ヒィ」と「お許しを」の台詞も聞き飽きたし、何が怖いのかずーっと顔を埋めたままで、こっちを一切見ようともせん。
「あと、オジジ。妖の話を聞く時は相手の目を見て話せと教わらんかったのか?ちゃんと顔上げて我の顔見てしっかり話さんか」
「は、はいぃぃ!あ、あの、あの!ほ、本当に私達めをった、たた食べないと、おお、お約束してい、頂けますかぁ!?」
漸くプルプル全身震わせながらこちらに向けて顔を上げた窮鼠。
なんかもう見ているこっちが、気の毒に思ってしまうくらい、黒いつぶらな瞳からボロボロボロボロ涙を流し我に問うてきた。
〚第三者が見たら朔夜様が、いたいけな窮鼠のお爺さんを虐めている絵に見えますね〛
「我虐めとらんからな!?」
「ヒィッ!?」
楓のボケに思わず激強めでツッコんでしまったら、また窮鼠のジジィが悲鳴を上げた。
せっかく話進まろうとしたのに茶々を入れんな楓!
「コホン。約束してやるから、我の先ほどの問いに答えろ。
ただ、話の内容によっては、お前達を【七曜】に引き渡すかもしれんがな」
「し、【七曜】っ!?」
【七曜】とは簡単に言えば、【負ノ遺産】を専門に取り締まり、殲滅する武装役所だ。
「当たり前だろう。故意か過失かまだ分からんが、お前達は【負ノ遺産】に関わってしまったのだから」
「そ、そんな...!私達はただ町長に言われてやっただけなのに...」
「町長に言われてだと?」
「は、はい...十夜前の事です───」
窮鼠のジジィの話はこうだ。
数夜前、突然町外れの方角から(場所的にここ)強大な妖力を持った妖が来訪し町中騒然とした。
しかもあろうことか、そこに居を構えてしまったのを目撃したと報告があり、今迄普通に暮らしていた町民達は更に混乱と恐怖に見舞われてしまったとのこと。
「..........」
〚.....朔夜様?〛
「ごめんなさい。あの時は新たな出会いと新生活とで浮かれまくってちょっと出てしまっていました」
あの時は先程言った通り、我、ウキウキワクワク気分で引っ越しの荷解き作業をしていたのだが、あまりにも感情が高ぶっていたせいで、楓が隠しきれぬ程の妖力が漏れ出てしまったんだった。
因みに直ぐに楓に怒られて妖力は引っ込めた。
冷や汗をかく我に気付かない窮鼠のジジィは話を続ける。
そこに何が住み着いたのか、すごく気にはなったが物凄く怖くて様子を見に行くことが出来ずただ外に出ず家の中で大人しく過ごすことしか出来ない町民達。
何も出来ぬまま時間だけが過ぎていった。
しかしある夜、町長の大蜘蛛が一通の手紙を持って彼等に言ったのだ。
「あの場に住まうのは強大な力を持った妖魔様だ!
妖魔様は私の下に一通の文を送られた!内容はこうだ
───我に若い妖の肉を差し出せ。さすれば、それ以外の町民達には手を出さぬ事と安寧の加護を与えると約束しよう。ただし、もし【七曜】や【守護七妖仙】になど告げ口しようものなら、貴様ら全員我の餌になるだろう───と!!」
〚朔夜様、そんな事書いたんですか?〛
「書いとらんわーー!!んな物騒で無責任な約束っ!!」
「ヒィッ!ええ!?」
〚落ち着いて、どうどう、です〛
「我馬ではないぞ。てか、楓お前も我の書いた文の内容知ってるだろうが!」
〚はい、知ってます。ちょっと場を和ませようとツッコんでみた次第ですね〛
「え?え?」
「益々混乱しとるぞ」
〚恐怖心は和らいだようなので成功ですね〛
「あー言えばこー言う」
この件が終わったら、楓と少し話しをしなければならんな...。
「コホン、窮鼠よ。本当にその文にはそんな事が書き記されておったのか?」
「は、はい!町長が読み上げた文を皆に回して見せてこられました。
そこには読み上げた通りの内容が一文一句間違いなく書かれておりました」
「おい、楓。件の元凶はその大蜘蛛だ。今直ぐ潰しに行くぞ」
〚決断早いですよ。確かに間違いなく大蜘蛛が黒でしょう。
しかしその前に、大蜘蛛と【負ノ遺産】との関係性を調べなくては〛
「うぅむ、そうだな。それと何故紅剡にその瘴気が内包され贄に選ばれてしまったのかもな」
「そ、それは「気に入らない俺を始末したかったんだろ」!?」
窮鼠のジジィが何か言いかけたが、そこから割り込みが入った。
声の元は我の膝から。十夜振りに聞く鍛冶師の夜叉───紅剡の声だ。
「気が付いたのか。体の調子はどうだ?」
「...腹はまだ痛えが、それ以外はスッキリしてる」
「うむ、良きかな。我の膝枕と尻尾のおかげだな!(あと脚技)」
「ああ、いい枕と布団だった。ありがとな」
そう言って、紅剡は腹を押さえながらゆっくりと起き上がり、我が掛けていた尻尾をそっと退けて下ろし、隣に座り直す。
「こ、紅剡...」
窮鼠のジジィ達は気不味そうに、しかし何か紅剡に言いたそうに目をウロウロ彷徨わせながら見ていた。
そんな彼等を右手を上げて静止し、軽く首を振る。
「別に恨んじゃいねぇよ。アンタ等も俺と同じ、あのクソ大蜘蛛野郎に脅されてやったのは知ってるからな」
「すまない、紅剡...っ!」
「はぁ...だからいいって」
互いに気不味いのか、空気がどんより重くなってしまったが、今の我にはそこまで関係はない。
我の第一優先は、文の内容の改竄と見合いと思わせて時代遅れの供物差し出しの件について、あと【負ノ遺産】が何故、言っちゃ悪いがこんな辺鄙な町にあるのかを知らなければならん。
「この町の町長、大蜘蛛はどんなやつなんだ?
まぁ、こんな事仕出かすくらいだ、ろくな奴ではないんだろうがな」
「その通りだ。奴がこの町の町長になったのは三百年程前だ。
そこに転がされている窮鼠の爺さんが前町長だったんだが、奴が裏でお偉いさんと取り引きした挙句、爺さんを脅してまんまと町長の座を奪っちまったのさ」
「...面目ない。儂がもっとしっかりしていれば...」
しおしおと申し訳なさそうに、か細く謝罪をする窮鼠のジジィに憐れみの一瞥を向けた。
「ふむ、なるほどな。だから町が物忌みよろしく閑散とした状態になり、代わりにあのようなタチの悪いチンピラ共が練り歩く、治安の悪い町になってしまったのか」
と、我が言ったのだが、そこに窮鼠のジジィがおずおずと、しかし、少しだけ語気を強めに我の言ったことを訂正するように進言した。
「あのっ!町の治安の方は問題なかったのです!
そこにいる紅剡と特に彼の師が【七曜】と、しかも地位の高い方との繋がりがあったから、あの大蜘蛛も町の法にまで深く手が出せなかったのです!
あとは紅剡のような若い妖達が役人と一緒に町を見回ってくれたのもあります!」
「ほぅ、紅剡の師は【七曜】に縁のある者だったのか(もしかしたら、我も会ったことがあるかもしれんな。気を付けてば...)」
我が元【守護八妖仙】とバレると厄介だ。
バレれば結婚への道が更に数百年遠退くかもしれんっ!!
と言うことで、紅剡の師は要注意リストに入れておこう。
「町の連中が外に出なくなったのは、数夜前の妖魔様とやらが来た時からだ。
...ただ、妖魔じゃなかったかもしんねぇが...」
「本っっっ当!すまなかったっ!!!」
皆の視線が我に集中したコンマ一秒で、綺麗な土下座をして謝った我。
我の世界一美しい土下座に、紅剡含め窮鼠達が困惑気味にざわつく気配が伝わった。いや、本当にゴメン!!
「あー...サク、お前本当に何者で何の目的でこんな小さな田舎町に来たんだ?
事と次第によっちゃぁ、俺は、俺達はお前を許すことは出来ない」
言葉の最後に剣呑さを含ませた声に、今度は我がそろそろと顔を上げ、覚悟を決めてここへ来た目的を白状した。
「我がこの町に住み始めた理由はだな、そのぅ...
─────こ、婚活をするためだぁ!!!」
しぃーーーーーん.....
ざわついていた場が、静まった...。
案の定我と楓以外皆ポカン顔になっとる。
「「「「「......は?」」」」」
「結婚活動───即ち!婚活する為だ!!」
大事なことなんで二度言った!恥ずかしい!!
しかしもうこうなったからには、全てぶち撒けてやる!
「我の前の職場の同僚達が近年次々と結婚していってだな、我も羨ましくなってその波に乗りつつ、最愛になってくれる伴侶を求めて職を辞め、我の知らなそうな国を調べ上げた所この町が丁度良かったんで引っ越ししてきたのだ。
ただ、越してきた時ちょっと浮かれて容器をウッカリ垂れ流してしまったようで、それが皆を混乱させた挙句気付かないままで、ここのクソ町長とこの国の長に土産と挨拶とここで暫く婚活するので宜しくね!的な事を書いた文を送って、いざ!婚活へ!!と町へ出てみたら妖っ子一妖いない状態になってた訳で、そんな時に「待て待て待て待て!情報量が多すぎるっ!ちょっと落ち着け!」あ、はい」
早口で経緯を長々と話したがここで我に返った紅剡のストップがかかったので、一旦口を閉ざした。
はぁー恥ずかしくて顔が熱いし、喉がカラカラになってしまった!
それを察したのか、楓がそっと冷たい茶を出してくれた。うむ、本当に良く出来た迷い家だ。
あー...喉が癒されるぅ...。
ここまで読んで下さりありがとう御座います!
今回もおまけを置いて終わりにしたいと思います!
〜覚えて学ぼう【月ノ本】の世界と愉快な仲間達!〜
作者「こんばんは〜♪作者だよ〜♪」
楓「今晩は。おまけのコーナー進行役の楓です」
作者「今回紹介するのは【妖魔】と【七曜】についてだよ!」
楓「まず、【妖魔】とは【負ノ遺産】に完全に乗っ取られた妖の事を指します。
【妖魔】になってしまった妖は、我々にとって最悪の災いとなり、その牙を容赦なく私達に向けます。
その被害は通常の【負ノ遺産】がもたらすモノとかけ離れてとても甚大です。
なにせ奴等は意思を持ち我々を在り方を暴き、支配又は消滅させるのに長けている厄介な存在なのです」
作者「その【妖魔】に対抗できるのがただの妖ではなく、妖仙或いは【守護七妖仙】なんだよ。
彼等は長い歳月を生き、特殊な修行を経て妖仙に昇華した妖だからね!」
楓「はい。朔夜様もその中の一妖であり数多の【妖魔】を屠った【守護七妖仙】なのですよ」
作者「次は【七曜】についてだよ。
この組織は【負ノ遺産】を取り締まる役所であり、各七国に配置されている。
簡単に言うと、【負ノ遺産】を取り締まる専門の警察みたいなものだね」
楓「【七曜】は【負ノ遺産】の起こす事件やそれを所持しているか、潜伏しているかなど調べたり対処したりしていますね。ただ、強大な力を持ったものは全て妖仙か【守護七妖仙】に回りますが」
作者「まぁ、彼等にも対処できる限度があるからね。【守護七妖仙】もいちいち雑魚の相手ばかりもしてられないし」
楓「持ちつ持たれず、です。妖仙と【守護七妖仙】が雑魚も相手してたら身体が持ちませんから」
作者「そうだねぇ。流石に国もそこまでブラックじゃないでしょ」
楓「そうですよ。ブラックだったら今頃朔夜様は、過労で倒れてしまうか、ブチギレて【守護七妖仙】辞めて異界に引き篭もっているでしょうね」
作者「実際もう辞めてるけど、それが結婚したいからの理由で辞めて良かったと思うよ」
楓「私も思います。理由はアレですが、これなら引退された後でも【負ノ遺産】が出てきても対処して頂けますから」
作者「実際、辞めても今【負ノ遺産】が絡んできているからねぇ...、これ、彼女無事に婚活出来んのかな?」
楓「さぁ...?それは朔夜様自身の行動にかかっていますから、私は応援とちょっとしたアドバイスしか出来ません」
作者「だね。まぁ、ちょっとだけ紅剡くんの気が朔夜ちゃんに向いているけど、これに本妖が気づいているのかが肝かもね」
楓「そうですね。この後の展開に期待したいですが、その前に大蜘蛛と【負ノ遺産】をどうにかしませんと」
作者「おっとそうだね。それでは説明も終わったし、おしゃべりもここまでにして今夜はこれで解散にしようか!」
楓「ではまた、次の夜に会えたらお会いしましょう。さようなら」
作者「さよーならー♪」




