九尾
我が茶を飲んで喉を休めている間、紅剡達は話し合い、今迄あった事と我の話を照らし合わせて情報を整理している最中だった。
あっ、簀巻きにしていた窮鼠達は、逃げる様子はなかったから先程解放したぞ。
数十分経った頃、漸く話が纏まったのか、今いる妖達の代表で紅剡が、前に出て我に結論を自分達がまとめて出た結論を言ってきた。
「要するにだ、サクはただ、婚活とやらをする為だけにここを拠点として住み始めただけで、その挨拶とやらを綴った文を読んだ大蜘蛛の野郎が内容を改竄し、俺達の不安を増長させ支配し、ついでに邪魔な俺を排除しようとした───って事でいいのか?」
「そのようだな。我は訳あって我の素性を知らぬこの町で婚活を始めに来たのだ。
己の伴侶は己の目で決め、尚且つ相手も我を求めてくれる事を前提にして、だ。
断じて脅しなどして贄やら奴隷みたいに、相手の意思を無視して無理やり結ばれようとは思ってはおらん。
───だのに、あの身体がデカいだけの蟲風情が、よくも我の婚活を己の私利私欲の為に利用し汚しおったな...っ!!」
言っている内に怒りに手が震え、思わず持っていた湯呑みをバキャッと割ってしまった。
ついでに妖力も馬鹿みたいに溢れ出てしまい、紅剡以外の妖達がまた「ヒィッ!」と小さく悲鳴を上げ、部屋の隅まで下がり、プルプルと震えさせてしまった。
しまった!直ぐ妖力引っ込めんと、うっかり、うっかり。
「おいおい、サクの怒りも分からんでもないが、あんまりそのデカい妖気出さんでくれ。
こっちには年寄りの爺さんや気の弱い奴がいるんだ。心臓が止まっちまう」
「あら、申し訳ございません。あんまりな事だっだったので、つい溢れちゃいました♪」
「もういいってそのキャラはよ...」
ちょっとげんなりした顔で紅剡が言ってくる。
なんだ?我このキャラ、割と気に入っているのに受けが悪い、むぅ...。
仕方がない、ここは真面目モードになって話を進めるか。
「では、紅剡に問おう。お前は何故再びあった時【負ノ遺産】の瘴気を纏っていた現れた?
無いとは思うが、お前が【負ノ遺産】を匿う或いは隠し持っていた訳ではあるまいな?」
「断じて、俺の全妖生に誓ってそんな事はしてねぇ。
俺は心の底から【負ノ遺産】を憎悪し嫌悪する復讐者だ。
なのに!それの瘴気を取り込まませられた挙句!瘴気に精神が負け暴走し、後少しで回りに被害を出すとこだった...!」
嘘偽りのない紅剡の黒煙のように激しい憤怒の情の熱がこちらにも伝わる。
しかし、部屋の隅からゴクリ、と生唾を飲み込む音が聞こえると、それに気付いた紅剡は一度深呼吸して己を落ち着かせ、話を再開した。
「.....サクと別れた後、例のチンビラ共が大蜘蛛を連れて戻って来た。
あの大蜘蛛、何かヤバいモノを封印した箱を持ってて、それを俺の方に向け開けた。
───その後の記憶は全くない。...ただ、何か絶対に渡してなるものかだの、寄越せだの、そんな嫌な感じの声が俺の中を支配して不快でそれを振り払おうと抗っていたのは覚えている」
「おそらく、その拒絶反応がお前の暴走の一因となったのやも知れんな」
「そうかも知れねぇな。それでもサクの強烈な一撃のおかげで、誰も傷つけること無く【負ノ遺産】の瘴気から逃れられた。心から礼を言う」
「うむ、本当に被害が出なくて良かったぞ。
紅剡の事だ、もし誰かを傷付けていたのなら自責の念で腹でも切ってそうだったからな」
と、深々と我に向かって頭を下げる紅剡の謝礼を、我は受け入れちょっとした冗談を言ったのだが、
「そうだろうな」
「それはならん!我はまだ紅剡の武器達を、造るところも見ていないのだからな!」
冗談が冗談じゃない方で返ってきおったから、我は思わず焦ってしまった。
「っはは!お前って本当に武器馬鹿だなぁ」
「馬鹿は余計だ。まぁ、武器が一番好きなのは確かだが、それと同じく好きなのは簪だな」
そう言いながら、我は身につけている蒼月石の玉簪にそっと手を触れた。
それを見る紅剡は意外そうな顔をして、
「簪...が好きなのか?」
「なんだ?その意外だ、と言う顔は?我も女ぞ。
かわいい、綺麗なものに目を向けるのは当たり前のことだろうが」
「あー、まぁそうなんだろうけど、あの時【緋桜ノ夜】を目の前にしたお前あまりにもアレだったからな...」
「?アレって何だ??」
〚紅剡殿、分かります。この方は武器に関しましてはアレですから...〛
訳が分からん中、楓が紅剡に同調するような言葉を浮かべた。
「楓まで何だというのだ?」
〚気にしないでください。それよりも、話が脱線していますよ〛
「...なんか誤魔化された感じはするが、確かに早く話を進めんと後々面倒なことが起こるから、保留にしておこう...。
とりあえず、紅剡は【負ノ遺産】を所持していると思われる大蜘蛛に瘴気を浴びせられ、操られていたと分かった。そこにいる窮鼠達も、脅されて動いた事もな。
その事に関しては我から【七曜】に説明しておこう。紅剡の師と同じで、我も【七曜】に伝はあるからな」
「礼を言う。ありがとう」
「わ、私達からもお礼を申し上げますっ!」
と、紅剡は再度、窮鼠達は身体を我に向け、居住まいを正し深々と頭を下げたのであった。
我はそれを見届け一つ頷いた後、
「よし!聞きたい事も聞けたし、今からちょっと馬鹿蜘蛛潰しに行ってくる。留守は頼んたぞ、楓」
〚はい、いってらっしゃいませ〛
留守を楓に任せて、全ての元凶である大蜘蛛を〆てついでに【負ノ遺産】を葬りに行く為立ち上がった、が、
「いや、ちょっと待て!なに大根買ってくる的なノリで、しかもたった一妖で奴所に乗り込もんうしてんだお前は!?」
すかさず紅剡がツッコミがてら慌てた様子で我の手を掴み止めてきた。
「何故止める?ああ、敵の数が多いのが心配なのか?ふっ、大丈夫だ。あんな雑魚ども我一妖で十分だぞ」
〚寧ろオーバーキルですね〛
「阿呆か!相手は雑魚だろうが【負ノ遺産】を持っているんだぞ!普通...じゃないかもしんねぇが、お前一妖であの瘴気に当てられたらひとたまりもないぞ!」
「(〜〜〜っ!始めて普通の妖扱いされたぁ!しかも滅茶苦茶心配されてるっ!何だ?!このむず痒くも嬉しい気持ち!うぅ〜っ、これが、トキメキというものなのか!?)尚更だ。あんなモノこれ以上野放しにしては、他の者に被害が及ぶのは時間の問題、だから我が葬るのだ。なぁに心配には及ばん。我にはコレがあるからな」
紅剡の言葉に内心狂喜乱舞する我だが、平静を装いつつある物を取り出して見せた。
「!そいつは───」
緋桜色の我をも魅了する美しい剣気を放つ、艶やかな刀───【緋桜ノ夜】。
「これで大蜘蛛諸共、【負ノ遺産】を叩き切ってやるわ(早速試し斬り出来るぞー!あー、早く振るいたいー!)」
格好良く決め台詞を言う我の裏側は、早く試し斬りしたくてウズウズソワソワ状態だ!
それを察知したのはやはり楓。紅剡達に気付かれぬようそっと呆れを含んだ溜息を吐くかのように、小さな家鳴りがしたが、我は優美にスルーした。
「という事だ。お前達は安心して我の帰りを待つがいい」
「は、はい!」
若干、町の希望が見えたのか、窮鼠達は一抹の望みをかけた眼差しで我を見た。声も先程のか弱く細いモノからしっかりした声で応えて。
我は窮鼠達の期待に応えるべく、一番にこの【緋桜ノ夜】を思う存分振るえるのを心待ちにしながら家を後にした。
ここまで読んで下さりありがとうございました!
今回はおまけの『〜覚えて学ぼう【月ノ本】の世界と愉快な仲間達!〜』はお休みにします。
楽しみに見ていくれているかもしれない読者の方々申し訳ありません!




