四尾
「この刀、私に買い取らせてき頂けませんか?」
我今、普通の妖怪アピールしながら、ちゃっかり刀の買取交渉をしているところだ!
目の前にある極上の逸品───それをただ触れただけで我の欲が収まるものか!
「(絶対に!なんとしても!我の、物に、したいっっ!!)」
溢れそうな欲望の気を抑えつつ、たおやかに笑って男を見る我。
我の言葉に最初面食らった男。暫し考える素振りを見せたが、我の顔を湖畔色の瞳で再度真っ直ぐ見たかと思うと、ニヤリと笑って五本の指を我の前に突き出しながら値を提示した。
「───五百万。それでなら売ってやってもいいぞ」
「なっ!?」
何だとっ!?この男!そんな値で我に売る気か!?そんな、そんなっ!
「どうだ?残念だが負ける気はねえぞ?そもそもただの観光客Aの嬢ちゃんが払える額じ「安すぎるわっっ!!!」───へ?」
怒りでワナワナ震え、ギッと男を睨みながら我はズンズンと再度男に詰め寄り今度は胸ぐら掴みながら言ってやった。
「何だその巫山戯た額はっ!?お主鍛冶師なのだろう!?自分の打った武器に対してそんな値しかつけられんのか!!
───この刀は何処からどう見ても【満月】だ!
数千万の値が付く程の特級大業物だぞ!!」
特級大業物【満月】───とは全ての武器の中で最高峰とも言える称号だ。
その称号を持つ武器は一振りで数万もの【負ノ遺産】を浄化し葬る事の出来る威力を持つと言われている。
そして、そんな武器を造れる鍛冶師は五妖にも満たない希少な存在だ。
そんな五妖にも満たない鍛冶師しか造れない、【満月】級の刀をたった五百万で売ろうとするこの男の神経が分からん!...否、この男の先程からの反応と言動、もしかしたら───、
「.....っ巫山戯てんのは、お前の方だろ。俺が打ったこのなまくら刀が【満月】だ?
誰も触れられねぇ刀がか?
武器の価値すらないとレッテルを貼られた俺の造った刀が?
武器の最高峰とも言われる【満月】の称号を持つに相応しい刀だって?
ハッ!たかが自称観光客Aの分際でその刀の価値を語るな!!!」
血を吐くような怒号で叫ぶ男は、まるで迷子になった幼子のように哀れで小さく見えてしまう。
だから我は、真っ直ぐ男を見て、真剣にしかし諭すように心の底から本当の事を言ってやる。
「たかが観光客Aの分際の我だが、この刀に触れられたからこそ本質、価値はお主以上に分かったぞ。
これは紛れもない、本物の【満月】の称号に相応しい刀だと...。
今迄ずっと数多の武器に触れた我が断言しているのだ。
決して巫山戯た物言いをしている訳ではない!」
嘘偽りなく言う我の本気の言葉。
それを正面から受け止めた男から発せられていた怒気が徐々に薄れ消えてゆくのが分かった。
どうやらちゃんと我の言葉が届いたようだな...。
怒気が完全になくなった男は、今度は泣き笑いのような表情を浮かべ、少し掠れた声で我に問う。
「本当に...俺の刀は【満月】の称号に、見合う物か...?」
「何度でも言ってやる。お主の刀は【満月】に見合う素晴らしい特級大業物だとな!」
胸を張って自信満々に答える我を見て、男は漸く肩の力が抜けたのか、
「ハハッ、そうか【満月】かぁ...」
片手で濡羽色の前髪をグッと掴み、皺くちゃな顔だったが、やっと本心からの笑顔を見せた。
「うむ!...時に聞きたいのだが、お主は何故この刀が自分以外に触れられなかった原因を知らないのか?」
「え?」
そう、この刀が創造主以外に触れられなかったのにはちゃんとした理由があるのだ。
これは武器職人業界ではあるあるな話しなんだけどな!
「【下弦ノ月(大業物)】クラスの物からになると武器に意思が宿り、己を扱うに相応しいもの以外は触れさせんのだよ。ああ、勿論創造主は別だぞ。
おそらくこの刀含め、お主の打った武器達の殆どが【下弦ノ月】クラスの物ばかりだったのだろう。
お主に依頼した者達は、武器達に見合わないと判断され、自らを触れさせないようにしていたんだ」
「...マジかよ...」
「マジだ。そもそも、お主師匠がいるとか言ってなかったか?その師匠にその現象について教えられなかったのか?」
今迄ずっと我が疑問に思っていた事を問うてみた。
すると男から返ってきた答えは、
「.....俺の師匠の爺さんは、まだ俺が鍛冶師見習いから卒業して直ぐに、【負ノ遺産】の瘴気に当てられちまって、それからずっと寝たきりになった...」
何とも気の毒な回答だった。我も聞いた話ではあるが、この現象に関しては、見習いを卒業してから話すことになっている習わしがあるとか何とか知り合いの鍛冶師が言っていたな。
「(なんともタイミングの悪い...)なる程な、そう言う理由があったのなら、知らなくてもしょうがないな。
しかし、お主は別として依頼した連中も知らんとは...粗奴ら全員ただの三流武士か、コレクターだな。お主に依頼する価値すら、否、武器を語る資格すらないわ!」
「.....」
何故か我の言葉に男は固まって黙りしてしまった。ん?何か我変な事言ったか??
まぁ、良い!そんな事より!今我にはやるべき事があるのだ!それは───
「刀が触れられぬ現象については解決した!
なので!この刀、お主は幾らで我に売ってくれるのだ!?」
この刀を何が何でも我の物にする事だっ!
「嬢ちゃん...アンタ、空気読めって言われた事ねぇか?」
「よく言われるがどうでもよい!で?売るのか、売らんのか!?」
「お、落ち着け!まだ混乱してる状態で売るか売らないかの判断が直ぐ出来るか!」
「ならば疾く混乱を解除せんか!!」
「無茶言うなっ!!」
そんなこんなで、暫く二妖でギャーギャー言い合っていたが、先に痺れを切らしたのは我であって、
「ええいっ!もう埒が明かん!先程の十倍、五千万!!これでっどうだーーー!!」
「はああああ!?五千万っ!!?」
「とは言ったが、今の我の手元に五千万は無い」
「そ、そりゃそうだろ。五千万なんて大金、唯の一般妖が「だから、前金で半分の二千五百万を支払おう」...へ?」
と言って、我のお気に入りの一つ柄が可愛くて買った、子狐と桜の刺繍が入ったピンク色の小さな巾着袋をスッと男の前に差し出した。
「この中に二千五百万入っている」
「は?え??」
「ほら、受け取るか受け取らんかはっきりしろ。お主は鍛冶師なのだろう?
この刀の行く末は造った本妖が決めろ」
「っ!?」
我の言葉にハッと混乱から脱した男。
ふむ、己が何者かであるかやっと思い出したようだ。
顔つきが変わった。男は一呼吸した後、
「───その刀は、アンタに売ろう。
言っておくが、大金の為じゃねぇ。刀がアンタを選んだからだ。...それと、俺が知らなかったことを教えてくれた礼もある。じゃなかったら、一億出されても売らねぇよ」
と、最後は皮肉めいた笑みを見せて言った男に我は、
「急に言うようになったではないか。先程まで自信なさげな顔をしたり、幼子のようになったり、大金に慌てふためいたりと百面相していたくせにな」
「っるせ!...しょうがねぇだろ。今晩色々あり過ぎたせいで、頭が追いつかなかったんだからな」
「ふふん♪そういう事にしておいてやろう。
では、前金の二千五百万だ。気を付けて受け取れ」
「おいおい、こんな小さな巾着袋の中に本当に二千五百万入っ───うおぉ!?」
半信半疑で男は巾着袋を片手で受け取った───瞬間、男の体が大きく前につんのめり盛大に地面へとダイブした。
「重っ!?って、えっ!?重ぉっ!!?」
取り敢えず、男が巾着袋が予想以上に滅茶苦茶重かったと言いたいのは分かった。
「気を付けて受け取れと言っただろうに...。妖の話をちゃんと聞け」
我は呆れながら、ひょいと持ち上げ男の手から一度巾着袋を離してやった。
「いや!ただの小さい巾着袋がこんなに重たいなんて誰も思わねぇだろっ!ってか、「重いから」って始めの所で言っとけよ!」
「ああ!忘れてた。ごめんごめん」
「お前...」
恨みがましそうに睨みながら男が立ち上がったのを確認した我は、もう一度男に巾着袋を差し出した。
「ほら、今度こそ気を付けて受け取るんだぞ」
「.....」
今度は両手で慎重に構えて受け取った。
「重い.....」
「それはそうだろ。なにせ中には二千五百万の大金が入っているのだからな。
あ、ちゃんとこの場で中身の確認はしておくのだぞ?我と同じキツネの妖の中には、幻術で金を木の葉や石に変えて化かして騙す輩がいるからな。
当然!真っ当に生きて働いていた我はそんなこすい真似などせんがな!」
耳ピーン!胸フンス!尻尾ブンブン!
自信満々で我善き狐ぞアピールをしてやったぞ!
「お、おう。それは分かってるての」
そうと言いながら、ゴクリと喉を鳴らし中身の確認をする男を生温い目で見る我。
「───本当に、本物の、金だ...」
「当然だ!我善き狐ぞ?」
「.....こんな大金、飴玉渡すような感覚で渡すって...アンタ本当、一体何者なんだ?」
「(ギクゥッ!)そ、それは先程から言っているじゃありませんか。私は唯のか弱い観光客Aだって!本当ですよ!?」
「えぇ...?」
いかんいかん!つい【満月】の刀を目にしてしまったせいで、設定忘れて素が出てしまいおったー!
フツーの一般妖の振りを通さんとっ!
「だから、もういいよ。猫被らんでも。嬢ちゃんの本性大体バレてっから」
「なっ!?我は狐ぞ?!猫なんて被っておらんわ!」
「いや、ものの喩えで行ったんだが」
「うぅ...我が観光しに来たのは本当の事だ。それと買い物するのもだ。まぁ、観光は町があの状態だった故出来んかったが、思わぬ出会いで良き物が買えたことは僥倖だった...」
そう言いながら、我は刀を軽く頬ずりする。
うーん、良き肌触りだ...。
「お、おう」
褒められ慣れておらんのか、照れるのを隠そうと顔を下に向け頭をガシガシと掻く男に我はフフッと軽く笑ってしまう。
「では、残りの金はまた後日、我が直接お主の店に出向いて払う。店とお主の名を教えてくれ」
「店は【韓鋤】だ。で、俺の名は紅剡。夜叉の妖だ」
「ふむ、【韓鋤】と紅剡、覚えたぞ。
我の名はサクだ。見ての通り、キツネの妖だ。宜しく頼むぞ」
互いに軽い自己紹介をして、次に会う夜取りとついでに紅剡が造った武器を見せてもらう薬草を取り付け(半ば強引に我が押し通した)、今夜はその場で解散となった。
「では、そちらに出向く時は文を飛ばし、お主がOKだったら返答の文が来るでよいな?」
「ああ。...別に俺の方からサクの家に出向いても「ならん。それだとお主の武器が見れんだろうが。しれっと逃げようとするな」チッ!」
全く往生際が悪い。造った物を見せるのが恥ずかしいとか何とかぬかしおって。
我はそんな些細なことなど気にせんのに、職人連中はそこが面倒よな。
「それではまた後夜...っと、ああそうだ、忘れてた」
「今度は何だ?」
「この刀の銘を聞いていなかった。銘は何という?」
「あー...ソイツの銘は───
───【緋桜ノ夜】だ」
「───!緋桜ノ、夜...か」
「おう」
これはなんという偶然か!我の名と同じ銘を持つ刀!
ますます運命を感じずに入られんではないか!
本当に、本当に...今夜はなんと善き夜なのだろうか...!
「ふふ、ふふふ♪」
「何だよ?いきなり笑って。そんなにソイツの銘が可笑しかったのかよ」
「いいや、その逆だ。とても良い銘だったから嬉しくて、な。
嗚呼...本当に形も剣気も銘も全てがいい刀だよ...」
「っ!?〜〜〜バッカ!売れ損じた刀一本に褒めすぎだろっ!!
...ったく、よくもまぁポンポンと小っ恥ずかしい言葉が出てくんな」
「そうか?我は本当の事しか言ってないぞ?
と言うか、我は武器にはそれなりにうるさい方で、滅多に賛辞の言葉を言わんので有名だったのだぞ」
「何処で有名なんだよ?お前の名前なんて聞いたことねぇぞ」
「(ギグギグゥ!!)それではっ!今度ちゃんと残りのお金を持って伺いますので楽しみに待ってくださいましね!」
ヤバいヤバい!これ以上は大きなボロを出しかねん!
ここは戦略撤退だっ!
「あっ!おい!?」
「じゃあまた会いましょうね〜!逃げないでくださいね〜〜〜!!」
光の速さでドロン!と術を発動し新しい我が家へ転移した。
✿❀✿ ❀✿❀ ✿❀✿
「ふぅーーー.....。危なかったぁ〜」
家の門前に転移した我は冷や汗を拭いながら扉を開け、
「ただいま」
〚お帰りなさいませ。朔夜様〛
と、空中に迷い家の楓の出迎えの言葉が光の文字となって空中に現れる。
〚今夜は良い出会いに巡り会えましたか?〛
「ああ!聞いてくれ!
我は今夜運命と言っても過言ではない出会いを果たした!これをみてくれ!!」
ズイッと楓の前(?)に今夜出会った運命【緋桜ノ夜】を出して見せた!
〚それは、刀...ですか?刀の付喪神??〛
「違う。れっきとした刀だ。しかも【満月】の称号を持つに相応しい程の名刀よ!
見よ、この夜色の柄と鞘!そしてっ緋桜色の刃!!剣気もさる事ながら全てが美しく艶やか、見事なものだろう!?
更に更に聞いて驚け?この刀の銘は【緋桜ノ夜】!
我と姓と同じ“緋桜”が入っているのだ!
正に運命の出会いをした夜だったぞ!」
〚はぁ、それは、良かったですね?〛
何だ?楓の奴妙に歯切れの悪い言い方をするな?
まぁいいか。それよりも...
「嗚呼、早くこの刀の切れ味を試してみたい...。
何処かに【負ノ遺産】おらんかなぁ〜」
〚不吉な事言わないで下さい。ところで───〛
楓のツッコミをスルーして、【緋桜ノ夜】の鞘を頬ずりする我に対し、楓も有頂天になっている我にスルー返し&二度目のツッコミをしかも特大のモノを入れてきた。
〚良き異性との出会いはどうだったのです?〛
「─────あ」
完、全、に婚活しに町へ出かけてた事を忘れてたーーー!!
ここまで読んで下さりありがとう御座います!
おまけ
〜覚えて学ぼう【月ノ本】の世界と愉快な仲間達!〜
Kさん「皆さん、こんばんは。K改めまして、迷い家・楓です」
作者「こんばんは〜♪作者だよー」
楓「さて、今回はこの世界の武器のランクについてお話しましょう」
作者「朔夜ちゃんが言っていた【満月】とかの事だね!」
楓「はい。武器のランクは数字で表すとではなく、以下の通り月の満ち欠けで表しています」
【満月】→特級大業物
【後ノ月】→最上大業物
【下弦ノ月】→大業物
【三日月】→業物
【新月】→無銘
楓「と、このようになりますね」
作者「ランク付けの基準はやっぱり【負ノ遺産】を切れ味、込められた気、威力・性能は当たり前なんだけど、一番の要は【負ノ遺産】を葬る性質がどれ程大きいかになるね。
これがなきゃどんないいものでも【新月】になってしまう」
楓「武器もランクが高い程の意思を持ち、使い手を選ぶようになります。紅剡殿の例があった通り、作り手以外の者と己が認めた者以外には触れさせない様になるのです」
作者「要はかなり気難しく面倒くさくなるのさ」
楓「半端者に自分を使われたくないのは当たり前のことですよ。形と命を掛けるに値する者に使われたいのは私たち物にとっては当然のことですからね」
作者「それもそうか」
楓「そうです。それではそろそろ時間ですので、今夜はこの辺で終わりにしましょう」
作者「また会えたら会いましょー!さよーならー♪」
楓「さようなら」




