十一尾
「大丈夫かサク!?ックッソ!!」
───サクが大蜘蛛に盛大にふっ飛ばされた!
紅剡は朔夜の元へ急いで駆け寄ろうとするも、瘴気の壁が邪魔をして迂闊に近づけない。
何も出来ずに紅剡が立ち往生している間、大蜘蛛がケタケタ笑いながら鉤爪に瘴気を一気に集め、トドメを刺さんとばかりに朔夜が埋もれているであろう、瓦礫目掛け鉤爪を大きく振り下ろした!
「サクーーーーー!!!!」
気が付いてくれと言わんばかりに叫ぶ紅剡の声が廊下に響くが、
ドゴオオオンッッ!!
無情にも瓦礫が破壊される轟音と凄まじい砂煙が巻き起こり、紅剡の視界が遮られ何も見えなくなってしまった。
「チッ!」
紅剡は咄嗟に砂煙を払う為、妖力で風を起こし視界を開けたのだが───
「───サク...その尾は...?」
砂煙が開け、最初に紅剡の目に映っのは、燃える盛る炎の様な緋色の強大な妖気を纏い、それと合わせて揺ら揺らと十四の尾を揺らめかせる朔夜の姿だった───。
✿❀✿ ❀✿❀ ✿❀✿
我、盛大にブチギレた。
内に隠してた妖気を爆発させるかの如く一気に放出。
更にもう一つ隠してたモノも顕現させ本気でブッ殺すモードになってやった。
迫ってくる我のお気に入りの玉簪砕いたっ、忌々しい奴の鉤爪を蹴りだけで粉砕して、ついでにそのままの勢いで腹に強烈な一撃を入れて殺ったわ!!!
「────ブペッ」
腹のど真ん中に蹴りがヒットした大蜘蛛は短い悲鳴を上げ、中庭と思われる場所までぶっ飛んで行った。(視界を妖力でカバーしてるので見えてる)
───アハハハハ!無様に地面に転がっていく姿、何とも愉快で滑稽なモノだな大蜘蛛よ。
邪魔な瓦礫を妖力で退け、我はゆっくりと立ち上がった。
「───サク...その尾は...?」
砂煙を妖術の風で払い視界を確保したのだろう、紅剡の唖然とした声が我の耳に入った。
紅剡が我の尾を見て驚くのも無理はないだろう。
狐の妖は尾の数で強さが分かる。当たり前だが尾が多ければ多い程にな。
数千年前とは違い、今時の狐達の大体は、九尾の尾なんて当たり前にいるぞ、特に【七曜】の殆どは九尾だ。なんなら十尾の奴だっている。
しかしそれ以上となると、グッと少なくなる。
百妖に一妖いるかいないかの世界になってくるのだ。
今この世で尾が十を超え、更に四尾もある狐は我一妖だけ。
全ての狐の妖の中で最強なのは我だけになるな。
だから【守護七妖仙】を数千年もの間やってこれたのだ。
そんな些細なことは紅剡には言わず、我は中庭の方まで吹っ飛んでいった大蜘蛛の方へと脚を進めて行った。
と言うか今の我は怒りのあまり、相手をただの雑魚だというのを忘れ、妖力を全開放している。プラス殺気も付けてだ!
地面に仰向けに倒れ、みっともなくジタバタと藻掻く大蜘蛛の前まで来た我は、軽く跳躍し赤黒い腹の真ん中辺りにトンっと降り立った、そして───
「たかが身体がデカいだけで【負ノ遺産】にまんまと取り憑かれた蟲が、よくも、我の宝を壊してくれたなぁ」
「ア、アバババッッ!!ヤヤヤ、ヤメ─────」
ド厶゛ウウゥゥ!!!
奴が最後まで言う前に、ギチギチと握りしめた拳を丸い土手っ腹に思いっ切り叩き込んでやる。
「プビイイイイーーー!!!」
「これは、お前に虐げられていた町民達の分」
腹パンの衝撃で、鞠の様にバウンドし、大蜘蛛の巨大な身体が宙を舞う。
それに合わせて我も地面を蹴り、大蜘蛛より高く跳んで次は背に蹴りを入れた!
バキィイイイイ!!!
「ボフォエエオオオ!!!」
「これは【負ノ遺産】の瘴気漬けにした挙句、贄にした紅剡の分」
奴が地面に激突する前に、瞬時に移動した我。
もう一度、
ドッッガアアアアンンン!!!
今度はアッパーを喰らわせ再度宙に浮かせる。
「これはっ我の一番のお気に入りの玉簪を壊しやがった分っっっ!!!」
「アガアアッッ!!!────モ、モウッユルシ」
「───安心しろこれで最期だ」
「おいっサク!!それ以上は───!!」
紅剡が何か言っているような気がしたが、悪いが今目の前で宙に浮いている大蜘蛛に対しての怒りで殆ど耳を貸してやる気はない。
───カチリ
【緋桜ノ夜】を構え軽く鞘を抜き、抜刀の構えを取る。
スローモーションの様にゆっくりとしたスピードで落ちてくる大蜘蛛の巨体が、刃が通る領域まで差し掛かった所で刀を抜いた───
「これが───我の婚活を邪魔し、己が慾で利用し穢された我のもう一つの怒りの分「止めろっ!!」───紅剡!?」
完全に刀を抜く前、紅剡が横からタックルするような勢いで抱きしめてきたのだ。
大蜘蛛の方に集中していた我は咄嗟の事に対応しきれず、そのまま一緒に横へと、スザザァ!と倒れた。
その数秒後、大蜘蛛がスドオオオン!と地面に激突。
その衝撃で気絶したのだったのだが、ソレよりっ!
「紅剡っ、何故邪魔をした?
この痴れ者はお前や町民達を虐げた挙句、法で禁じられている【負ノ遺産】を隠し持ちソレを使用したのだぞ。
そんな大罪を犯した妖、殺しても問題なかろう」
キッと我の上に覆い被さるようにして、抱きしたまま離そうとしない紅剡を睨み上げながら、低い声で問うた。
そう、【負ノ遺産】を故意があろうがなかろうが、所持する事は【月ノ本】、いやこの世全ての法で禁じられている。
法を犯せば國によっては異なるが、この【月ノ本】では、良くて永久封印、最悪の処刑だ。
今回そこの馬鹿は【負ノ遺産】を所持していただけではなく、一般妖に使い、更には己の中に取り込ませ逆に取り憑かれ暴走したのだ。
そこまでやったのだから、この場で我が殺しても問題無いのに...。
しかし、紅剡は我を抱く腕を緩めようとはせず、静かにだが、我を落ち着かせるようにこう言った。
「それをするのも罰するのも、【七曜】や【守護七妖仙】等の仕事だ。お前は唯の一般妖で観光客Aで今絶賛婚活中の小娘狐だろ?」
「───あ」
───そうだった。我は今は唯の妖。
回りの知り合いが結婚していくのを羨みあこがれ、我もと伴侶を求め、【守護七妖仙】を引退して、我を知らぬこの町へ遥々婚活しにやって来た唯の妖狐だ。
紅剡の言葉に漸く我に返り、怒りを鎮めた我は固く握りしめて持っていた【緋桜ノ夜】から手を離したのだった。
ここまで読んで下さりありがとう御座います!
後一話で終わりになります。
最後まで朔夜と紅剡ニ妖の行く末を見守ってくれたら嬉しいです!
それではいつものおまけで終わりにします。
〜覚えて学ぼう【月ノ本】の世界と愉快な仲間達!〜
楓「こんばんは。おまけコーナー進行役の楓です」
作者「こんばんは〜♪作者だよ〜♪」
楓「今回は【負ノ遺産】を所持するものに対してどう罰するかの話をしましょう」
作者「作中にあった通り【月ノ本】では、永久封印か処刑なんだよね?」
楓「そうですね。故意があり、悪用した場合によります。勿論無くても罰せられますが、死刑にはなりません。こっちは五百年〜三千年ちょっと封印されますけど、あと罰金と無償の労働ですかね」
作者「なるほど。あとその場で処刑もしていいなんて描写もあったけど、それはやっぱりその場で使っちゃった時かい?」
楓「そうです。暴走具合によりますけど、手に余ると判断したらその場で処刑もやむ無しです。この場合、緊急のことなので、腕が立つならば、一般妖でも処刑してもいいんですよ。ただし、事情聴取はちゃんとします」
作者「なるほどね。そこはちゃんとしてるんだね」
楓「当たり前ですよ。そういう取り決めが無いと取り返しのつかない事故が発生してしまうのですから」
作者「確かに!と、言う訳で今回はこの辺でお開きにしよう!残るところ後一話!このおまけも最後まで出来るのかは分からないけど、本編はちゃんと書いたからお楽しみにね!」
楓「それではまた、会えたら会いましょう。さようなら」
作者「さよーならー♪」




