第8.5話: 幕間:廊下の足音
蝋燭の蝋が指に垂れて、エドワードは舌打ちをした。
秋の夜は早く暮れる。書斎から子供部屋の階の廊下を通って寝室に向かう道は、暖炉の火が届かない。石壁が冷気を蓄えて、吐く息がわずかに白い。
今日の書類仕事は終わった。領地の収支報告、来月の社交の日程、母の薬代の請求——日常の処理に疲れた頭が、早く寝台を求めていた。
子供部屋の前を通りかかった時、足が止まった。
音が聞こえた。
昼間のような騒がしさではない。微かな、柔らかい音。手のひらが何かを叩く、小さな、規則的な音。
それに混じって——笑い声。押し殺したような、だが確かに笑っている声。子供の声だ。高い方がエミリアだろう。
あの養育係はまだやっているのか。静かにしろと言ったはずだ。
扉に手をかけようとした。が、止めた。
なぜ止めたのか、エドワード自身にも分からなかった。昼間は躊躇なく扉を開けた。「静かにさせろ」と命じた。養育係を替えると脅した。それは正しい判断だったはずだ。公爵家の子女が手を叩いて騒ぐなど、許されることではない。
だが今、扉の向こうから聞こえるのは「騒ぎ」ではなかった。
何と呼べばいいのか分からない音だった。規則的で、穏やかで、その間に挟まる子供の笑い声は、叫びではなく——何かを楽しんでいる時の、あの音だった。
エドワードは自分の子供が笑う声を知らなかった。
泣き声は知っている。夜中に廊下の向こうから聞こえてきた。乳母が辞める時の報告で聞いた。泣いている、手に負えない、と。だが笑い声は——記憶にない。アンネが生きていた頃は聞いたことがあるだろうか。あったかもしれない。覚えていない。
蝋燭の炎が揺れた。廊下の隙間風だ。
手を扉から離した。
子守係が何をしているかなど、知る必要はない。管理できているかどうか。それだけが重要だ。
あの笑い声が「管理」の範疇に入るのかどうかは——考えないことにした。
靴音が廊下に響く。一歩。二歩。三歩。
四歩目で、わずかに遅くなった。
五歩目は、通常の速さに戻っていた。
そのことに、エドワード自身は気づかなかった。




