17.実践、治癒魔法
そう言うと、男性は工房の入り口から出てきた。その後ろには腕を掴んで止めようとする女性もいた。
僕たちは様子を伺うためゆっくり歩いていたので、出てきた2人とぶつかることはなかったけど、女性が慌てて謝ってきた。
「すみません。大丈夫ですか?」
「えぇ。少しびっくりしましたが、ぶつかりませんでしたし大丈夫ですよ。それより、随分と急がれているようでしたが、どうされたのですか?」
せっかくなので理由が聞けないかと、話しかけてみた。男性は、少し冷静になったのか、不機嫌な顔を崩さず工房の中へと戻って行った。その姿を見てホッとした女性は理由について話してくれた。
「ここでは、武器や防具を作っているんです。しかし、最近鉱山からの採掘量が減って魔鉱石の価格が上がってしまったんです。」
女性はアラナさんというそうだ。アラナさんの話では、鉱物が枯渇したわけでは無く、鉄ゴーレムというゴーレムの上位種が鉱山の奥で見つかり、冒険者ギルドへ討伐依頼を出した。しかし、依頼受けた冒険者たちがことごとく返り討ちにあい依頼を完遂出来ないため、結果として鉄ゴーレムに遭遇しない場所までしか鉱山に入れず、採掘量が減少してしまったらしい。
それで先程の男性、アラナさんのお父さんのローガンさんが自分で採掘しに行くと言い出したそうだ。ローガンさんは元々冒険者だったから出た言葉だけど、何十年も冒険者として活動していない人が鉄ゴーレムなんか討伐出来ないとアラナさんが止めていたとの事。
アラナさんは特に聞いたわけではないが、ローガンさんが鍛治師に転向した理由も教えてくれた。冒険者として依頼を受けた時にこの工房主の娘でアラナさんのお母さんのモニカさんと知り合い、仲良くなったが、モニカさんとの結婚の条件がこの工房を鍛治師として継げることだったため、冒険者としての活動をやめ、この工房で鍛治師として修行する事に。厳しく扱かれたが幸いなことに、ローガンさんに鍛治師としての才能があったので、無事に認められ結婚出来たのだ。素敵でしょ。と目をキラキラさせて話してくれた。
確かに良い話だけど、アラナさんは気持ちが昂り、語る声はとても大きくなっていた。そして、ここは工房の入り口、扉は開いているので、当然中まで筒抜け、先に戻ったローガンさんの不機嫌な顔は一転顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。
「鉄鉱石の話は大変ですね。鉄ゴーレムですか。早く討伐されるといいですね。」
魔法も物理も効きにくい魔物の相手が僕に出来るはずもないため、僕が討伐してきます。とは言わない。異世界ものの物語の定番だけど、何故主人公諸々はあんなに頑張れるのだろう。性格の問題だろうか?
僕たちは話を切り上げると、さらに通りを東に向かって歩く。もう少しで東門が見えて来ると言うあたりで足を止めた。東門のあたりに人だかりが出来ていたからだ。ここからだとよく見えないが、東門から何人もの人たちが街の中央に向かって走っている。僕たちの近くまで来た人たちの格好から走ってきているのは鉱夫をしている人のようだ。その時、鉱夫の1人が立ち止まり、周囲に響き渡るような大声で叫んだ。
「怪我人がたくさんいるんだ。回復の魔法薬を持っている奴はいないかー?回復魔法を使える人はいないかー?いたら東門まで来てくれー」
鉱夫は中央部に向けて移動して、同じように叫んでいく。他の場所でも同じように呼びかけているのか、色々な場所から聞こえてくる。この職人街には該当者がいないのか、工房から顔を覗かせて様子を伺う姿が見えるばかり。とりあえず、様子を見ようと思い、スーと2人で東門へ早足で歩いて行った。
東門周辺は人垣が出来ており中の様子が見えなかったが、周りの様子から、鉱山で事故が起き、たくさんの鉱夫が怪我をしたと言うことらしい。治癒魔法が使えるし、人垣の間に割り込もうとしていると、後ろから「ユウキさん!」と聞き覚えのある声が聞こえた。
振り向くと、女性の手を引いたミーリアちゃんがいた。2人とも家から急いで来たのか、激しく肩で息をしていた。
「ミーリアちゃんどうしたの?」
「鉱山で…事故があったって聞いて…お父さん…今日もいつも通りに仕事に行ってるの。お母さんがすごく心配してて…連れてきたの。ユウキさん、お父さん見かけてない?」
「人垣で状況が見えないんだよ。たくさん怪我した人がいるって聞いたから行ってこようと思っていたところで。どんな怪我をした人がいるか分からないけど一緒に行く?怖かったらここにいて。僕たちがお父さん探してくるから。」
ミーリアちゃんは首を横に振ると、私も探しに行くとお母さんと一緒について来た。僕たちは、治癒魔法を使えます。と人垣の間をかき分けさらに東門に近づく。人垣を抜けると、東門周辺にはたくさんの人が横たえられていた。血の滲んだ服、折れているのか変な角度に曲がった足や腕、痛みを堪えるようなうめき声。そんな中を先行で派遣されたらしい、医師や、治療院の人達が忙しなく動き回っている。
「包帯はないか。無ければ布でもいい、ありったけ集めて来てくれ!」
「魔法薬はもうないか。こっちのやつは普通の薬じゃ無理だ。」
それを聞いた人垣の何人かが、商人街へと走り去っていく。僕も助けに行かないと。と、まずは、ここの責任者を探す。勝手にやってしまっていいのか分からなかったからだ。僕が周囲を伺っていると、服の裾を引っ張られた。
ミーリアちゃんの顔色が悪く、僕の服を掴む手は小さく震えていた。こんな状況を見て気分でも悪くなったのかと思い、しゃがんでミーリアちゃんの顔を見ると、ミーリアちゃんは僕の顔をしっかりと見ると、考えをまとめながらのためか、たどたどしく話しはじめた。
「ユウキさん、私も助けるの手伝いたいです。私が魔法を教えてもらってるのはお母さんの病を治す為で、ここで使っちゃうと約束破る事になるけど…目立つ事したら危ないから他の人に使ったらダメと言われているのも分かっているけど…すぐに集中力切れちゃうからほとんど役に立たないかもしれないけど…それでも、街の人たちがこんなに怪我してるのに見てるだけは出来ません。」
「そうだね。出来ないなら出来る事を考えた方がいいけど、能力があるならキチンと使わないと後悔するよね。でも、ミーリアちゃん、治癒魔法はすごい魔法だけど、助けられないこともあることを覚えておいてね。あと、治癒魔法を使うのに注意することは、怪我を治す時は、ただ塞ぐだけじゃなくて、異物、砂や石なんかが身体に残らない状態を必ずイメージしてね。スー、他に何か注意することはない?」
「いえ、特には。ミーリアさんの魔法の使い方を見る限り問題はないと思います。ただ、6歳の子どもなのですから、無理をしない事ですね。魔力が暴走したら、助かる人も助けられなくなります。」
「ミーリアちゃん、分かったかな?あと、僕たちの側を離れないようにね。」
「はい、分かりました。お母さんはお父さんを探して。私はユウキさんたちと行くから。」
ミーリアちゃんが後半をお母さんに言うと、状況が飲み込めていなかったお母さんも、「あ。うん、わかったわ。」と返事をすると、知り合いの鉱夫を探しに行った。
僕たちは近くにいた医師に話を聞き、経験が無いことを話したが、緊急時と言う事で、そのまま救助活動をする事になった。経験が無い僕たちは、まず軽傷者の治癒に取り掛かる。軽傷者とは言え、骨折や、裂傷を負っている為、今までこんな惨状に遭遇したことの無い僕は近づくのを躊躇ってしまう。そんな中、さっきまで顔色が悪く、震えていたミーリアちゃんは躊躇うことなく、足を骨折しているのかズボンを太ももから切られ、代わりに木材と紐で固定されている鉱夫の元に近づいて、声をかける。
「おじさん、大丈夫?痛いのは足だけ?」
「うっ。分からない。…だけど、石に挟まれたのは、たぶん足だけ…」
「もう少しだけ我慢して、今から治癒魔法をかけるから。」
「…たのむ。」
ミーリアちゃんは、意識のあった男性の言葉に、治癒魔法を発動させる。治癒魔法が発動し、男性の足が白い光に包まれる。数秒すると白い光は消滅し、男性の足は元通りに治っていた。さっきまでの足の痛みが消えたことに気づいた男性は起き上がり、足を手で触るとミーリアちゃんを見た。
「お嬢ちゃんが治してくれたのか?痛みが消えたよ。ありがとう。」
男性の言葉に顔を赤くしたミーリアちゃんは、にこりと笑顔で答えた。
「どういたしまして。でもまだ勉強中だから後で医師の人か、治療院の人に見てもらってね。お大事に。」
そう言うと、立ち上がり僕たちの方を向いて、ちゃんと出来てましたか?と聞いてきたので、鑑定魔法を使いキチンと治っているのを確認して、スーを見る。スーもコクリと頷いたので、問題ないだろう。
「キチンと出来ていたよ。その調子で怪我した人を治していこうか。集中力が切れちゃったらきちんと言うんだよ。無理しないでね。」
その後は、僕とスーもミーリアちゃんを挟むように横に並び、怪我人に治癒魔法をかけていく。1時間ほど軽傷者の治癒を行なっていると、始めに話しかけた医師が急ぎ足でやってくると、
「君たちが治してくれた軽傷者達を確認させてもらった。経験がなくとも、とても優秀な治癒魔法の使い手だ。申し訳ないのだが、こちらに来て重傷者の治癒を手伝ってはくれないだろうか。」
この医師の申し訳ないと言うのは、主にミーリアちゃんに対してだ。重傷者を子どもに見せるのを躊躇っているようだった。僕には判断出来なかったので、酷だとは思ったが、本人の意思を確認することにした。
「ミーリアちゃんはどうしたい?このままスーと一緒に軽傷者の治癒を任せてもいいんだけど。」
ミーリアちゃんは考える事なく、ついて行く。と返事をした。
医師が治癒魔法について優秀だ。と言ってくれたのだ。自分が手伝えるなら手伝いたい。と、僕たちに言い切った。
僕たちは、医師について行き、重傷者が集められている場所に移動した。




