15.魔法薬を作る
ミーリヤちゃんは、家でも真面目に練習しているようで、暴走させる事なく魔法を発動できている。
治癒魔法を使用する様になり、僕たちの前では魔物にしか使用していないし、傷の状態によっては、治せなかったり、後遺症を伴ってしまうこともあるかもしれない。また、根回しもせずに、あまり公にすると問題があると言う事で、他の場所で極力使用しない、家族が困っている場合で、何があっても責任は取れないと説明した上で使用してもらっている。
ミーリヤちゃんのお父さんにも説明し、もし、約束を破るような事があれば、教えるのをやめると言っておいた。しかし、こちらがいくら保護していくように動こうが、本人にその気がなければ守りようがない。あくまでも、本人の目的はお母さんの病を治すことのはず。
そこまで考えていた僕はミーリヤちゃんのお母さんが何の病にかかっているのかを聞き忘れていたことに気づいた。病の内容が分からないとどんな風なイメージを作るのかが分からない。次に来た時に聞いておかないと。
ミーリヤちゃんが自主練習の日、僕はスーと魔法薬を作っている店を訪れた。魔法薬とは、薬草などから効果が高くなるような成分のみを抽出、調合された薬で、錬金術を使用して作っているらしい。グリールさんのツテを使い、実際に作る様子を見せてもらえる事になったのだ。
商人街の外れも外れ、南門に近い場所にその店はあった。店とは言っても、魔法薬の製造だけを行い、販売は商人街にある別店舗である。家の横にはグリールさんの庭に似た雰囲気の森と、畑が広がっていてその外側は店を含めて柵で囲まれていた。
店の前は2メートルほど柵が途切れ代わりに腰の高さくらいの扉が付いていた。扉は左右で長さが異なり、長さの割合は3対1くらい。僕たちは短い方の扉を押し開け中に入った。庭には人力の荷車が数台並べてあった。その間を抜けて、店に入った。
「こんにちは。プリシラさんいらっしゃいますか?」
僕は店の奥に向かい声をかけた。はーい。と声が聞こえ綺麗なピンク色の髪をした綺麗というか、可愛らしいというのがピッタリあう、灰色のローブを着た女性が出てきた。
「グリールが言っていた子だね。私がプリシラよ。よろしく。」
「僕はユウキです。彼女がスー。こちらこそよろしくお願いします。」
プリシラさんは、僕たちに興味があるのか、僕たちの周りをぐるりと一周しつつ、へー。とかふーん。とか言っていた。
「君が、ハルト君と同じ世界から来た子だね。そして、この子が、グリールと一緒にいたスライムちゃんか、やっぱりスライムも人族化出来たんだ。」
プリシラさんは色々と知っているようだ。
「失礼ですが、グリールさんとどういった関係なのでしょうか?」
「ん?何も聞いてないの?パーティの初期メンバーの1人だよ。グリールがここ数年ずっと転移の研究に明け暮れているからみんなに申し訳ないって、パーティ自体は解散しちゃったけどね。私は錬金術師としての仕事があるけど、冒険者一本でやってきたメンバーは暮らしていけないから…とは言っても、グリールが冒険者に戻るのを待っていると思う。何だかんだで他のパーティメンバーもみんなこの街を起点に活動しているよ。」
少しは頼ってくれればいいのに。と、プリシラさんは少し寂しそうに呟いたあと、切り替えるように、作業場に案内するよ。と店の奥に進んでいった。
プリシラさんについていくと、広い空間に1メートル四方の木製のテーブルが等間隔に幾つも並んでおり、どのテーブルの上にも色とりどりの粉末で山盛りになっているお皿、水差し、薬草の束が置かれていて、すり鉢とすりこぎを使ってテーブルの上のものを混ぜていっているようだった。部屋の隅を進み、一番奥にある誰もいないテーブルに案内された。
「魔法薬と言っても混ぜたりするのは普通の調合と変わらないのよ。最後に魔力を流してそれぞれの材料を結合させて効果を増幅させるの。ここにある材料で作れるのは上級回復薬よ。欠損は治せないけど、骨折などまではこの回復薬を一本服用することで治すことが出来るわ。万が一の為にと鉱夫や冒険者にとても人気があるのよ。」
これよ。と、プリシラさんは棚から蓋付きの陶器の瓶を持ってきた。蓋付きとはいえ、見た目にはすぐに蓋が取れてしまいそうな瓶だった。僕の表情で思っている事が伝わったのか、蓋は密閉魔法を使っていて、蓋を捻るという動作をしないと開かなくなっている。と説明してくれた。
「今から作ってみるから見てて。せっかくだからその後、実際に作ってみようね。」
プリシラさんは配合する粉や薬草の名前や効果、そして分量を説明しながらすり鉢に投入していく。全ての材料を入れ終わると、すりこぎで、混ぜていく。他のテーブルと作り方が違う気がしたので尋ねると、1種類ずつ混ぜていってもいいけど、時間がかかるから。と、いい笑顔で言われた。
プリシラさんは次に混ぜ合わせた材料に水を足し、こぼれないように静かに混ぜていく。黒っぽくドロリとした液体がすり鉢の内側にある線まで水量が増えたところで手を止めた。
「次が仕上げ、これから魔力を注いで、材料に含まれている魔力を結合させるの。キチンと結合されると、黒から緑に色が変わるの。こんなふうにね。」
プリシラさんが魔力を注いでいくと言われた通り、黒っぽくてドロリとした液体はメロンソーダのようなサラリとした透明な緑色に変わっていった。出来た液体を2本のロートが合体したような形のロートを使い2本の容器に同時に移していく。普通なら偏って注がれる気がするのに、どちらの容器も溢れる気配はなく、全ての液体が収まった。
蓋をした容器を持ち、ついて来てと言うのでついていくと、部屋の前方に腰の高さほどの奥行きのある作り付けの棚があり、その上部に載っている丸いプレートに容器を載せた。
「このプレートは魔道具で、魔力を流すと上に載せた物に密閉魔法を発動するようになっているんだ。密閉魔法をみんなが使えるとは限らないからね。私も使えないし。あとは魔法をかけた容器は種類毎に箱に入れておいて、商人街の店舗から回収に来てもらうの。」
「錬金術を使える人はみんな上級回復薬を作れるのですか?」
「いやいや、上級回復薬はこの部屋でも数人しか作れないよ。訓練をして、下級回復薬や中級回復薬なら作れるようになるけど、上級回復薬を作るのに必要な魔力量が足りない人が多いのよ。」
「魔力なら空間から集めたら良くないですか?」
僕が疑問に思ってそう言えば、プリシラさんは苦笑いしていた。
「そう出来ればいいんだけどね。何故か体内の魔力を使用しないとキチンと結合してくれないんだよ。」
と、そばのテーブルで混ぜ合わせまで済んでいた液体の入ったすり鉢を取り上げると空間から集めた魔力を注いでいった。しかし、いくら注いでもいつまでたっても色は変わらず黒っぽくてドロリとしたままだった。
「ね、不思議と結合しないんだよ。」
その後、普通に魔力を注いでいくとサラリとした透明な青色の液体に変わっていった。先程と違う色にあれ?と思っていると、プリシラさんはすり鉢を返しながら、このテーブルにあるのは中級回復薬の材料なんだよ。と教えてくれた。
ちなみに、下級回復薬は黄色の液体になるそうだ。
奥のテーブルに戻るとじゃあ、やってみようか。と、プリシラさん。
「えっ。上級回復薬を作るんですか?」
「ええ、せっかく作るんだものどれだけ出来るかみたいのよ。」
僕は教えてもらった順に材料を投入していく。プリシラさんのやり方ではなくて普通に1種類ずつ混ぜては入れるを繰り返す。次に水を足し優しく混ぜ合わせる。最後に魔力を注ぐ。何も考えずに魔力を注いでいいのか分からなかったので、上級回復薬では無理と言われたが、なんとなく周りから魔力を集め、欠損が治るイメージを載せてみた。すると、プリシラさんが作った上級回復薬よりも濃い緑色になった。プリシラさんはあれ?って顔をしていた。
「おかしいなぁ、同じ材料を使ったのにどうしてこうなったんだろうね。」
「失敗ですか?」
僕が聞くと、プリシラさんは首を横に振ると、困ったような顔をすると教えてくれた。
「その魔法薬何故か最上級回復薬と同じになってる。」
その後、僕が何度作っても最上級回復薬と同等になってしまう為、周りのテーブルにいた人達は驚愕、プリシラさんはすっかり呆れていた。テーブルの上の材料が尽きたところで作業をやめ、周りのテーブルに目を向けることにした。しばらく観察していると、
「ユウキ君、すごく体内魔力量が多いんだね。上級回復薬でも3回も作れば魔力が回復するまでグッタリなんだよ。」
プリシラさんは僕の全く疲労を感じていない様を見て呟いた。すると、これまで静かに僕たちの様子を見ていたスーがとんでもないことを言い出した。
「ユウキさんは、空間の魔力を使っていて、自身の魔力をほとんど使っていませんから、集中力が続く限り作り続けられますよ。」
「スー、何でそれでキチンと結合してるの?さっきプリシラさんが空間の魔力でやったけど、全く変化しなかったよ?」
プリシラさんも、そうだそうだと頷いていた。スーは逆に不思議な顔をして、話を続ける。
「ユウキさんは無意識でしょうが、空間の魔力を体内をフィルターにして手から放出しているんです。空間の魔力には規則性がない為、色々な魔法の発動に利用出来ますが、こと、錬金術に関しては規則性がない為、大部分の魔力がそのまま空間へ戻ってしまうのです。だから、魔力の制御に慣れていない新人の錬金術師だと、体内の魔力を使用しても、規則性の制御が甘いため、液体に作用する前に空間へと拡散してしまっているのです。あの方達のように。」
スーは、今まさに魔力を注いでいた人達を見ながら言い切った。スーの話を聞いて僕も納得した。周りのテーブルで作業している人達で、すぐに結合し、液体の色が変わる人とそうでない人がいたのだ。始めは、注ぐ魔力の量には個人差があるのかな。と思っていたが、毎回同じではなく、早い時もあった為、何が違うのか気になっていた。
「空間の魔力を使っても、出来るってこと?どうやってやったらいいの?」
プリシラさんは目を輝かせてスーに詰め寄っている。スーは少し考えて、篩と石を作り出した。篩は1センチ角で結構荒い目のものだが、石の方は1センチ未満のものから大きいものは3センチくらいある。テーブルに篩を上下逆さまに置いたあと、石を篩の網目の上にバラバラと載せた。普通に1センチ未満の石は網目を通り抜けて中に、それ以外はそのまま網目の上に載っている。
「こんなふうに空間の魔力には規則性がありません。体内の魔力も空間の魔力ほどではありませんが、大きさも、形も様々です。錬金術とはこの篩のようにある条件下の魔力を必要とします。この場合は1センチ未満の大きさですね。いくら大量の魔力を注いでも、1センチ未満でないものは再び空間に戻ってしまいます。結果、このように必要量の魔力が集まらない為、結合が起きないのです。ユウキさんは空間から集める際に1センチ未満と言うフィルターを設けて魔力を集めている為、集まる魔力の質が良く一度に取り込まれる量が多いので、結果として最上級回復薬と同等になったのだと思います。」
スーはそう言うと、篩を持ち上げ、少量の落ちた石を見せた。説明を聞いたプリシラさんは納得。と頷き、スーに魔力制御の練習方法や、空間から集める方法を詳しく聞いていた。僕に聞かれても自分でも、どうやっているのか、よくわからないからね。
結果、プリシラさんは空間の魔力を使用できる様になったが、僕たちが解放されたのは日が沈んでからだった。
最上級回復薬と同等の魔法薬は数本をもらい、あとは結構な金額で買い取ってくれた。僕は魔力を使っただけなんだけどなぁ。




