14.素人が何故か魔法を教える
いつも読んでくださりありがとうございます。
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家に帰ると僕はグリールさんの元に向かう。この世界の常識を知らないから簡単に引き受けてしまったけれど、今日の話をして、魔法を覚えたり、教えたりするのに、お酒やタバコみたいに年齢制限があったり、運転免許のように資格や経験が必要かを確認しておかないといけないと思ったからだ。
「グリールさん、魔法を覚えたり、教えたりするのに何か制限とかありますか?」
「制限、ですか?また、どうしてそのような疑問を持たれたのです?」
僕はミーリヤちゃんの話をグリールさんに伝えた。僕としては教えてあげたいけど、6才の子どもが魔法を覚えたりして大丈夫なのか、僕が教えること自体、問題にならないのか。と、現時点で気になっている事を質問していった。結果としては、子どもが魔法を覚える事も、僕が魔法を教える事も問題はない。ただ、ミーリヤちゃんが覚えたい魔法が問題で、この国には高位の治癒魔法は使い手がほとんどいない。それを6才の子どもが使えるとなれば、聖女だ、神童だと大騒ぎ間違いなしである。それでも、それが貴族の子どもなら家の力で守ることが出来る。しかし、ミーリヤちゃんは、市民街に住む普通の子どもである。後ろ盾がないため、本人の意思とは関係なく、騒動に巻き込まれる可能性があるらしい。魔法が使えるということが、そこまで大事になるとは思っていなかった僕は、どうしようかと考え込む。
そんな僕を見ながらグリールさんは、真面目だね。と、いうと、素質的なものもあるし、使えるようになるとも限らない、たとえ素質があっても、すぐに高位の治癒魔法が使えるようにはならない。だから、あんまり深く考えず基礎くらいからやってみたらいい。家の庭で教えるなら何かあっても、助ける事が出来るから。と言ってくれた。
次の日、「おはようございます。」とミーリヤちゃんがお父さんと一緒にやって来た。迎えに出たのは、僕とスー、それにグリールさんだ。お父さんは、僕たちを見るなり謝ってきた。お父さんがいうには、ミーリヤちゃんから話を聞いて驚いた、こんな子どもの話を聞いてくれる魔法使いなんて普通はいない。もしかしたら騙されているのかもしれないと。しかし、ついて来てみればこの街で有名な魔法使いの家で、疑ってしまい申し訳なく思ったとのことだ。その後、お父さんは仕事に行くため、帰って行った。
庭にミーリヤちゃんを招き入れ、魔法についての勉強を始めることにした。僕がどう教えるのか気になったのかグリールさんも残っていた。
「よろしくお願いします。」とミーリヤちゃんは丁寧にお辞儀をした。
「よろしくね。さて、早速だけどミーリヤちゃんは魔法を使っているところは見たことあるのかな?」
「お父さんが水魔法を使っているところは見たことはあります。」
「水魔法っていう事はこんな魔法かな?」と、僕は手から水の塊を出した。ミーリヤちゃんはコクコクと頷いた。
「じゃあ、魔力についてだけど、魔力には身体の中にあるものと空間にあるものがあるんだ。そして、ミーリヤちゃんが覚えたい魔法は空間にある魔力を使うんだ。だから、これから見えるものでイメージの練習をしてみようか。」
僕は、あらかじめ集めて乾かしていた草の山に火をつけた。やがて、煙がモクモクと上がってきた。
「煙って目に見えるよね。煙は小さくて軽い粉がたくさん飛んで、それがたくさん集まっているから目に見えるんだよ。空間にある魔力って言う粉もこんな感じで、空間にいっぱいあるんだ。小さすぎて目には見えないんだけどね。これから魔力っていう粉が手のひらにたくさん集まって、手のひらの上に水の塊が出来あがるのを想像してみて。」
僕はそう言うと、自分の手のひらに空間から集めた魔力で水の塊を作り出す。僕の話を聞いたグリールさんも空間から集めた魔力で水の塊を作り出し、なるほど。と、なぜか感心していた。
ミーリヤちゃんはしばらく考えていたが、程なく手のひらに小さな水の塊を出すことに成功した。それを見たグリールさんは表情を強ばらせた。
その後、大きさを変えた水の塊を出したり、火の塊を出したりと、何度も反復練習を行っていった。身体の中の魔力を使わないから理論的には、何度でも魔法を発動出来る。だが、魔法を発動するのに集中をするため、幼いミーリヤは30分程度で、集中力がなくなり魔法を発動出来なくなる。集中力が切れると休憩をして、彼女の話を聞いたり、僕が魔法を使う時にイメージする内容なんかを説明したりしている。
お昼を挟んで次は、水のイメージについて練習していく。温度下げて冷たくしていく。逆に温度を上げて温かくする。この世界には通常身体を拭くだけだけど、外気温に関わらず川や井戸を使うから、温かい水や冷たい水が出せたら便利だと思って教えた。そんな僕を見るグリールさんは諦めたような表情をしていた。彼女が練習をしているのを横目に、僕は次のイメージ作りに使うものを用意する。
この世界の水と言えば、雨、川、水溜りなど自然の中にあるものばかりをイメージするが、それだと身体に害があったり、見た目に濁っていたりと、飲料水として使用するのはあまりよろしくない。と、僕は思うんだけど、この世界の人には分からないみたい。なので、まずはコップに数種類の水を出していく。昨日、日本でよくある水、純水、硬水、軟水、炭酸水、アルカリ性の水に酸性の水が出せないか実験していたのだ。あまり、よく覚えていなかったけど、それに似た水を出せた。きちんと鑑定をして、人体に害が無いことは確認している。これらを使い、イメージする水にバリエーションをもたせるのだ。頑張れば甘い水なんかも出来そうな気がするから魔法って本当に不思議だ。
ミーリヤちゃんと、グリールさんに今出した水を少しずつ味見してもらう。同じ水だけど、イメージする内容で味が変わる事を説明する。ミーリヤちゃんもグリールさんも炭酸水には驚いていた。しかし、今回は純水を目標にしてイメージしてもらうことにした。不純物を除いた水は栄養も何もないけど、身体に悪いものも全く入らない。僕はカルシウム、マグネシウムなんかを教える知識を持っていないから、教える事が出来ないのだ。下手に教えて、間違って水銀やらひ素やらになっても困るし。
無事、ミーリヤちゃんが純水を出せるようになったところで今日の勉強を終わりにする。明日は家の方で復習をしてもらって1日置きに来てもらって、分からなかったこと、出来なかった事を教えながら少しずつ覚えてもらうことにした。毎日来てもらってもいいけど、自分1人でやってみないと分からない事が見つからないからね。ただし、危ないから水魔法以外は使わないようにしてもらう。見てないところで怪我をしたり、させたりしてはいけないから。
ミーリヤちゃんを家の近くまで送っていき、庭に戻ると僕はグリールさんに聖属性魔法の教え方を相談した。治癒魔法は文字通り治す魔法、健康な身体では、今日やった水魔法のように現象を見る事が出来ない。しかし、初めから怪我人や病人に素人が魔法をかけるわけにもいかない。普通はどうやって教えているのだろう。と、思っていると、グリールさんが答えてくれた。
「普通ならば、教会や、治療院なんかで実際に魔法を使用しながら勉強をしますね。しかし、さすがに6才の子どもを連れて行くわけにはいきませんよ。」
「そうですよね。すると、獣や魔物でしょうか。ですが、わざと怪我をさせるのは心が痛みますね。」
「私が怪我をした魔物や獣を出しましょうか?」
僕たちが話していると、スーが何でもないように提案してきた。僕は昨日の机の上のサファリパークを思い浮かべたが、グリールさんは何のことか分からず、ポカンとした顔をしていた。
「こんな感じです。」と言うと、手のひらからバスケットボール大のスライムを作り出すと、怪我をしたウサギ型の魔物に変化させた。それを見たグリールさんが息を呑んだのがわかった。僕は昨日スーに聞いた擬態の説明をグリールさんにした。グリールさんは次々と出てくる自分の知らない常識に深く考えるのを諦めたようだった。
さて、スーが出してくれた負傷した魔物に僕が治癒魔法をかけると傷はきれいに治り、嬉しそうに跳び回り始めた。僕は傷を治した魔物を見ながら疑問に思っていた事をグリールさんに尋ねた。
「グリールさん、治癒魔法ってどの程度の傷や怪我まで治す事が出来るのですか?」
「私はあまり治癒魔法が得意ではないので切り傷を治す程度ですが、イメージや魔力量次第では手足の欠損は治せるそうですよ。さすがに亡くなった方の蘇生は出来ませんが。」
「では、病や、毒物服用などの身体の内部で起こっている反応についてはどうでしょう?」
「特定の原因が分かっている病や何の毒物を摂取したかがわかれば取り除いたりは出来ると思いますが、原因がわからないものに関しては難しいのではないのでしょうか。すみません、そちらはよくわからないですね。」
「そうですか。あと、最後なのですが、これらの治癒魔法以外に怪我などを治す方法はあるのですか?」
「薬草を煎じて飲んだり、塗り込んだり、魔法薬を使用したりですかね。効果の高い魔法薬は値が張るので、冒険者がいざという時に使用する感じでしょうか。」
グリールさんの話を聞いた僕はお礼を言って、ミーリヤちゃんへの治癒魔法の教え方を考えていく。その結果、やはり実践に勝るものはないという事で、スーに怪我した魔物を出してもらう事にする。その場で出すのはミーリヤちゃんを驚かせてしまうので、ミーリヤちゃんがくる前に土魔法で作った柵の中に入れてもらう事にした。
しかし、スーの能力は凄すぎる。どうして怪我をした状態でも擬態出来るのだろう。僕の呟きを聞いたスーの答えは、曰く、今の私なら逃げられる事なく丸呑み出来るけど、前は一度弱らせてから出ないと捕まえられなかったから。弱らせた状態を見ているなら擬態出来る。だ、そうだ。




