13.魔物図鑑
魔物図鑑と薬草図鑑はどちらもギルドで借りる事が出来た。ついでに応接室も借りる事ができたので、本を持ち込んで見てみることに。
僕たちはテーブルに向かい合って座り、まずは魔物図鑑を開き、そして、そっと本を閉じた。
うん。ギルドの冊子の薬草説明文とイラスト、冒険者用に編集されていたのかと思っていたけど、あれとほとんど同じだった。日本の図鑑のイメージで見たから、色々と足りていない感が大きかった。
そんな僕の顔を見て、スーは「どうしたの?」と首を傾げていた。そんなスーに僕はなんで説明しようかなぁと考え、結局スーに日本の図鑑との違いについて話した。
「この魔物図鑑なんだけど、イラストや説明文が日本の図鑑に比べて大雑把過ぎて僕は実物に遭っても、鑑定するまで気づかないだろうなぁ。と思ったんだ。日本の図鑑は僕がこっちに来た時に見せてもらった絵のように詳細な絵がついたものなんだよ。」
「ふーん?じゃあ、私が出してあげようか?詳しいのがいいんだよね。」
出してあげようか?ってスーさんや、何を言っているのかな?
よく意味が分からず黙っていた僕の行動を了承ととらえたのか、スーは手からソフトボール大の小さなスライムを作り出した。小さなスライムはテーブルの上でしばらく伸びたり縮んだりしていると思ったら色が黒くなり、そのままオオカミ型の魔物になった。
「ユウキさん、これが黒狼だよ。」
スーは魔物図鑑を開き『黒狼』のイラストを示す。
全くイラストと似ていないが、スーが言うのだからそうなのだろう。僕はなんとなく黒狼になったスライムを鑑定した。
・黒狼(擬態) 群れで狩りを行う為、単体ではあまり行動しない。
鑑定出来てしまった。しかし、(擬態)ってなんだ?スライムの真似る能力だったっけ?いや、しかし、対象が目の前に居ないとダメって聞いたような。しかも、スーから新たなスライムが発生したのはどういうことだろう。色々な疑問が僕の脳裏を駆け巡るが、そんな中、黒狼はテーブルの上を楽しそうにぐるぐると走り回っていた。
「ねぇ、スー。聞いていいかな?スライムの擬態って目の前に対象が居ないと使えないんじゃないの?」
「若いスライムはそうなんだけどね。私はいつからか、今までに捕食した相手なら擬態出来るようになったよ。擬態だから声を出したりは出来ないけども。」
そう言うとソフトボール大のスライムを何匹も作り出した。スライムはそれぞれしばらく伸び縮みを繰り返して茶色、黒色、白色などに色を変えると、異なる魔物になっていった。
「このページにいる魔物だよ。」と図鑑のページを示すとスーは得意げにしていた。
擬態した魔物も思い思いにテーブルの上を駆け回り始めた。僕はその魔物たちを一応、図鑑に照らし合わせると鑑定して行くことにした。その後もスーは次々に擬態魔物を作り出し、しばらくすると、テーブルの上は、魔物でいっぱいになり、ねこカフェのようになってしまった。
「このくらいの大きさの魔物だと可愛く見えるね。そういえば、この魔物は攻撃したりしないんだね。」
テーブルの上の魔物はみんな仲良く走り回るばかり、擬態だと性格までは似ないのかも。見ていると心が和んでくる。
「私の性格が反映されますからね。何もされないと攻撃なんてしませんよ。それよりユウキさんまだまだ出します?すでにこの図鑑の半分くらいはいますけど。」
「あまりたくさんいると僕が覚えきれないから、あとはまたにしようか。」
魔物を見ながら和んでいた僕は魔物を覚えるために図鑑を借りた事を思い出した。出してもらった魔物をランダムに僕のそばに寄せてもらい、鑑定を使わずに名前が言えるかを延々と続けていった。数時間後、僕はやっと今回出してもらった魔物の名前を覚えることに成功した。出していた魔物たちは元々スーがスライムとして出したものということもあり、スーが手をかざすと姿が崩れ、黒い靄となってスーの手に吸い込まれていった。その様子を僕は少し残念な気持ちで眺めていた。
図鑑2冊をカウンターへ返却し、僕は買い忘れていた地図をようやく購入した。そして、ギルドを後にした僕たちは、商人街へ向かった。スーが人の姿しているし、一緒に歩いてみようと思ったからだ。
商人街は店舗区画と露店区画があり、店舗は金額が高めなので、今日は露店区画を歩いている。露店区画とは前にグリールさんに連れて行ってもらった市場がある区画。店舗とは違い何が置かれているか分かりやすく見て回っていて楽しい。
スーは食べ物のにおいのが気になるのかキョロキョロと見回していた。
「スー、どうしたの?」
「人の姿になると色々な音やにおいがするから、なんだか気になってしまって…」
と、少し困った顔をするスー。
確かにお店が密集してるし、人も多いから賑やかだ。
「じゃあ、今日のところは、お昼ご飯だけ買って行こうか。」
近くの露店で、適当に食べ物と飲み物を購入し、露店区画を出ると、ギルドの近くまで戻ってきた。すると、ギルドの外で小さな女の子がローブを着た男性に「すみません。私に魔法の使い方を教えてもらえませんか?」と、声をかけているのを見かけた。当然、男性はすぐに断っていたが。すると、女の子は他のローブを着た人に同じように声をかけ始めた。
僕はグリールさんやスーが魔法の使い方を教えてくれたが、普通は12才から入る事ができる学舎で学ぶそうだ。ただ、学費がかかるため裕福な家の子どもでないと通うのは難しい。その他に、教会でも最低限の知識を教えている。無料で教えてもらえるが学習時間は短いし、学舎の3分の1程度の内容で、魔法にいたっては生活魔法の基礎のみだ。
改めて目の前にいる女の子を見てみる。着ている服からして、普通の家の子どもだろう。見た目年齢は6才くらい。当然、学舎や教会では教えてもらう事は出来ない。そんな小さな子どもが何故魔法を覚えようと思っているのだろうか。そんな事を考えながら眺めていると再び断られてガッカリしていた女の子と目が合った。女の子はトトトッと僕たちの前にやって来た。まあ、僕もローブ着てるから目が合うとそうなるよね。目の前までやって来た女の子は先程から繰り返しているお願いを僕にもしてきた。
「すみません。私に魔法の使い方を教えてもらえませんか?」
「僕は教えてもいいと思っているけど、実際に教えるかどうかは、君が魔法の使い方を覚えたい理由と報酬次第かな?教えてもすぐに使えるようにならないと思うし、何日も拘束されてしまうと僕たちが依頼を受けられないからね。」
本当は理由次第では無報酬でもいいんだけど、高位魔法を使える魔法使いって貴重みたいだし、きっとこの世界の方が、個別に教育を受けるという状態は、とてもお金がかかるだろうと思ったからだ。
僕の話を聞いていた女の子は俯いてしまった。6才くらいの子がお金を稼いでいるという事はいくらなんでもないだろう。それにそれだけお金が有れば自分で探さずとも、冒険者ギルドで依頼を出せば済む話だ。しばらく俯いていた女の子は、覚悟を決めた顔つきで僕を見上げた。
「報酬はお金でないといけませんか?」
「かまわないよ。ただし、僕にとって価値があると判断したものになるけどね。まずは、君の名前を教えてもらえるかな?」
「ごめんなさい。私はミーリヤと言います。」
「ミーリヤちゃんね。僕はユウキ。こっちはスー。次は、君がどの魔法の使い方を覚えたいのかと、その理由を教えてもらえるかな?っと、その前に移動しようか…」
ミーリヤはしばらくギルドの前でローブの人物相手に話しかけていたため、今の僕たちは好奇の目に晒されていた。話を聞くのにはあまり適しているとは言い難かった。少し考え、やはり静かな個室がいいので、数時間前までいたギルドの応接室を再び借りることにした。
椅子に座ると、ミーリヤは魔法の使い方を覚えたい理由について話し始めた。
結果的に言えば、僕の予想通り、ミーリヤが覚えたいのは聖属性魔法だった。
ミーリヤの家は市民街で、両親とミーリヤ、それに妹の4人家族。ミーリヤの母親が重い病にかかっているそうだ。父親は東にある鉱山で鉱夫として働いていて、その収入で生活費から母親の薬代までを賄っている。母親の病は聖属性魔法の高位の治癒魔法で治るらしいが、その魔法を使える魔導師は王都にしかおらず、さらに依頼する為には、白金貨が必要になるらしい。鉱夫の給料がいくらか分からないが、それでも白金貨にしようとしたら何十年もかかる事だろう。そこで、魔法はその人の素質もあるが、努力すればある程度使えるようになる。お金を貯めるよりは現実的だろうとミーリヤは考えたようだ。6才とは思えない思考力だ。しかし、文字を覚えていない為、本を読むことも出来ず、冒険者に教えてもらおうとギルドの前でお願いして回っていた。当然結果は惨敗。途方に暮れていたところに現れたのが僕たちだったらしい。
話を聞いた僕は、報酬についての話を聞くことにした。
これまでの内容で魔法自体の使い方は教えようと思ってはいた。しかし、ミーリヤが聖属性魔法の素質があるのかも分からないし、僕が聖属性魔法の高位の治癒魔法が使えるのであれば、わざわざ遠まわりをさせなくても良い気もする。僕が治すと治療費が必要になってしまうか。などと考えてしまう。
「私はお金を持っていません。お母さんの病が良くなったらユウキさん達の為に治癒魔法を使って働きます。冒険者として一生ついて行きます。お願いですから、魔法の使い方を教えてください。」
と、頭を下げて言い切った。
僕にとって価値があるかと言われたらそこまでない。しかし、教えてもいいと考えてしまっているので、了承するしかない。まあ、ついて来られると、僕の秘密が露呈しそうだからそこは訂正しておこう。
「分かっているとは思うけど、教えたとしてもミーリヤちゃんが高位の治癒魔法が使えるようになるかは分からないよ。そして、治癒魔法を使って働いてくれるのはいいんだけど、僕はパーティとしてミーリヤちゃんを連れて行く事はないから。それで良ければ教えてあげるよ。」
僕の言葉を聞いたミーリヤは、教えてもらえるのがよほど嬉しかったのか泣き出してしまった。僕はミーリヤの頭に手を置きポンポンと撫でた。今日は遅くなったので、明日から開始することにして、グリールさんの家までの地図を渡す。ミーリヤの家からそれほど離れてはいないようで、簡単な説明で伝わった。




